不運はつきもの。
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重たい音を立てて、扉が閉まった。
数日分の報告を終えたはずなのに、胸の奥に溜まったものは一向に軽くならない。
廊下に出たカイトは、正義の羽織を揺らしながら、ゆっくりと自室へ向かって歩き出した。
視線は自然と落ちる。
足取りも、いつもより重い。
「あれ? カイト?」
聞き慣れた、少し間の抜けた声。
顔を上げると、そこにはロシナンテが立っていた。
書類を抱えたまま、こちらを覗き込んでいる。
「……ロシナンテさん。お疲れ様です。」
いつも通り声をかけた、つもりだった。
けれど、ロシナンテは一瞬きょとんとしたあと、眉を下げる。
「……元気、ねぇな。」
「いえ、そんなことは——」
「あるだろ。」
間髪入れずに言われ、言葉に詰まる。
「よし、決まりだ。来い。」
「え?」
腕を掴まれ、そのまま方向転換させられた。
「ちょ、ロシナンテさん?」
「いいからいいから。」
半ば強引に連れて行かれたのは、ロシナンテの私室だった。
中に入るなり、彼は慣れた手つきで湯を沸かし始める。
「座れ。紅茶淹れる。」
有無を言える雰囲気でもなく、促されるままソファに腰を下ろす。
一時すると、良い香りとともにカップが差し出された。
「飲め。」
「あ、ありがとうございます…。」
反対側にロシナンテも座り、口をつける。
あ、この光景は…とカイトが思った瞬間、舌を出して悶絶し始める。
「あち!!……っくそ、またやった……。」
苦笑しながらも、同じように紅茶を啜る。
しばらく、湯気だけが二人の間を漂った。
「……なぁ。」
少し時間が経ってから、ロシナンテが口を開く。
「あんまり気落とすなよ。目標、捕獲できたんだろ?」
カイトは、カップを持つ手を止めた。
あの任務のことはロシナンテの耳にも入っていた。
いや、気にかけてはいたので、自然と結果が入るように仕向けていた。
「任務自体は成功、完了してる。切り替えてかねぇと、次の任務でやらかすぞ~。」
軽い口調。
だからこそ、胸の奥がちくりと痛んだ。
「……。」
ロシナンテは、ちらりとこちらを見る。
思わず、口をついて出た。
「……すみません、心配お掛けしてしまって…。」
「んなこと昔からだろ。気にしてねぇよ。」
カイトはゆっくりと言葉を続ける。
「今回の任務で……自分の甘さが出ました。」
視線を落としたまま。
「部下が、俺が潜入すると知って……。嫌な予感がしたらしくて、ヒナに内緒で連絡をしていたそうです。」
カップの縁を、指でなぞる。
「……ヒナだけならともかく、大将のクザンさんまで来てくださって。」
苦く笑う。
「その上、ドフラミンゴに、完全に手のひらで踊らされました。」
目標は捕獲できた。
けれど、当初の予定は崩れ、想定外ばかりが残った。
「……結局、狂わせたのは俺です。」
言い終えた瞬間。
ロシナンテが、あっさり言った。
「でもよ、被害は最小限。目標に関しても、アイツが内情知ってたおかげで、背後関係まで掴めたんだろ?」
“アイツ”――ドフラミンゴ。
「目標潰した責任でご丁寧に教えてくれたんだしよ。カイトの任務じゃなかったら絶対教えてくんなかったぜ。」
「……まあ……。」
カイトは、曖昧に頷く。
するとロシナンテは、少しだけ表情を曇らせた。
「……身内が、酷いことしてすまない。」
「え?」
「……アイツのことだ。」
はっとして、カイトは勢いよく顔を上げた。
「す、すみません!」
ドフラミンゴとロシナンテは絶縁状態。
なのに謝らせてしまったことに対し慌てて冷や汗をかく。
ロシナンテは、へへっと笑う。
「大丈夫大丈夫。逆にすまねぇな、謝らせて。」
軽く肩をすくめる。
「まぁ、何が言いたいかって言ったら、周りに迷惑かけてもいいじゃねぇかって話。迷惑かけてない人間なんて、いないんだから。」
紅茶を持ったまま、続ける。
「その分、お前が返してけばいいさ。」
その言葉に、胸の奥がすっと軽くなるのを感じた。
「……まあ、俺が言っても説得力ねぇんだけどな! ははは!」
そう言った瞬間。
「わっ——!」
持っていたカップから数滴紅茶が零れ、ズボンに染みが広がる。
「やべぇ!! またセンゴクさんに叱られる……!!」
ばたばたと騒ぐロシナンテに、カイトは思わず——
「……ふふ。」
小さく、笑った。
「ありがとうございます。やっぱり、ロシナンテさんといると……元気、もらえます。」
そう言って微笑むと。
「……っ。」
きゅんっと心臓が鳴り、ワラッタカオ、カワイイ~~!と脳内で叫び、分かりやすく顔を赤くした。
その拍子に、また少し紅茶が零れる。
「ぎゃあ!!」
次の瞬間、カイトは立ち上がり、向かいの席から隣へ移動した。
「ちょ、カイト!?」
持っていたハンカチで、濡れたズボンをごしごしと拭き始める。
「動かないでください、少しでも染みこませないようにしますから。」
「ち、近……っ。」
完全にカチコチに固まるロシナンテ。
「ロシナンテさん、一旦カップ置いてください!」
「は、はい!!」
慌てて従うその様子に、部屋の空気は、少しだけ和らいでいた。
