不運はつきもの。
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――それは、報告書にすれば数行で終わる出来事だった。
人質は少女一名。
犯人は複数。
制圧はほぼ完了。
最後に残った二人の男が、少女を盾に立てこもった。
カイトは迷わなかった。
代わりに自分が前に出た。
少女を庇い、背中を向けた。
――その判断が、どんな結果を招くか分かったうえで。
暴行、強姦。
抵抗できない状況。
制服を理由に、正義を理由に、すべてを押し付けられた。
だが最終的に犯人は捕らえられ、事件は鎮圧された。
人質は無事。
任務は成功。
カイトは、病院に運ばれた。
*
「おい、カイトの病室はどこだ!! イマイ・カイト少将だ!」
病院の出入れ口に、怒鳴り声が響く。
ナースも病人たちも何事かと目を向ける。
「落ち着きなさい、スモーカー君!」
「お二方、ここは病院ですよ…! もう少し声を抑えてください…。」
ヒナが腕を掴み、たしぎが必死に制止する。
「ひっ! …さ、307号室です!」
それを聞いた瞬間、スモーカーは踵を返した。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
たしぎの声を置き去りにして、病室の前へ。
――ガチャッ。
「おい!」
「スモーカーさんノックくらいしてくださ…。」
遅れて叫ぶたしぎ。
だが、扉の向こうにいた人物を見て、三人とも言葉を失った。
ベッドに起き上がり、
包帯だらけの体で、
切られたリンゴをフォークで口に運んでいるカイト。
もう片方の手には新聞らしきものを。
きょとん、と目を瞬かせる。
「……あれ?」
状況を理解するまで、少し間があった。
「……スモーカー? ヒナとたしぎも…。」
「……。」
いつもより明らかに切迫した表情に、カイトは言葉を探す。
「よ、よぉ。こんな島まできてくれたのかお前たち…はは…。」
それだけ。
一瞬、空気が緩む。
――が。
顔。
首。
腕。
覗く包帯と、隠しきれない傷跡。
三人は、再び息を呑んだ。
「……お怪我は、大丈夫ですか!?」
「痛みは残ってる?」
ヒナとたしぎは、それしか聞けなかった。
カイトは、いつも通りの調子を作る。
「ああ、まあ。見た目ほどじゃねえよ。大げさなんだよあいつら、お前たちにまで連絡しやがって。」
「いやいやいや、誰でもこれは心配しますよ…。」
苦笑するたしぎ。
スモーカーは黙ったまま、カイトを見ていた。
逃がさない視線。
「……そうだ。」
カイトが、ふと思い出したように言う。
「人質の女性が1人いたと思うんだが…。」
「無事よ。かすり傷ひとつないそうよ。その日のうちに自宅へ帰ったわ。」
ヒナの答えに、カイトはほっと息を吐く。
「……そうか。なら、良かった。」
その瞬間。
スモーカーの肩が、わずかに揺れた。
ヒナはそれを見逃さない。
サイドテーブルにある花瓶を手に取る。
「……水、替えてくるわ。たしぎ、付いてきなさい。」
「えっ? あぁ、はい…。」
事情を察しきれていないたしぎを連れて、二人は病室を出た。
――扉が閉まる。
二人きり。
沈黙。
「……なに笑ってんだ。」
低い声。
カイトは、少し驚いた顔をする。
「笑ってるか?」
「無理してる。」
即答だった。
「だって、無事に助かったんだろ、それでいいじゃねえか。」
スモーカーの視線が、鋭くなる。
「……そりゃあっちはいいかもしれねぇがよ。」
怒鳴り声ではない。
だが、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。
「海軍だからって理由で、全部背負うのが当たり前みたいな顔しやがって。」
ベッドの縁に腰を下ろす。
「……ふざけんな。」
煙の匂いが、微かに揺れる。
「俺はな…お前が、こんな目に遭って平気なわけねえ。」
少し、言葉を探す間。
「……強がらなくていい。俺の前でくらいは、な。」
視線が合う。
「苦しいなら、苦しいって言え。……俺は、聞く」
カイトは、唇を噛んだ。
思い出したくない感覚が、胸の奥に広がる。
怖かったこと。
悔しかったこと。
自分を犠牲にするのが当然だと思ってしまったこと。
しばらく、何も言えなかった。
そして――
「……ありがとな。」
小さな声。
それだけだったが、我慢強く頼ることが苦手なカイトの言葉は、スモーカーには十分だった。
ただ、視線を伏せる。
その手が、わずかに震えていた。
怒りだ。
抑え込んでいるそれが、はっきりと分かる。
――あいつら。
暴行した男たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
捕まったから終わり?
法に裁かれるから、それで済む?
ふざけるな。
カイトが、そこに横たわっている理由は。
その包帯一つ一つの意味は。
そして、汚らしい手でカイトを汚したことに、はらわたが煮え返りそうなほどの感情が生まれる。
煙草に手を伸ばしそうになって、止める。
ここは病室だ。
代わりに、拳を強く握りしめた。
「……俺が。」
低く、押し殺した声。
「俺は、いつまでも忘れねえ。」
誰に向けた言葉でもない。
誓いのような、呪いのような。
その呟きはカイトの耳に入ることはなかった。
人質は少女一名。
犯人は複数。
制圧はほぼ完了。
最後に残った二人の男が、少女を盾に立てこもった。
カイトは迷わなかった。
代わりに自分が前に出た。
少女を庇い、背中を向けた。
――その判断が、どんな結果を招くか分かったうえで。
暴行、強姦。
抵抗できない状況。
制服を理由に、正義を理由に、すべてを押し付けられた。
だが最終的に犯人は捕らえられ、事件は鎮圧された。
人質は無事。
任務は成功。
カイトは、病院に運ばれた。
*
「おい、カイトの病室はどこだ!! イマイ・カイト少将だ!」
病院の出入れ口に、怒鳴り声が響く。
ナースも病人たちも何事かと目を向ける。
「落ち着きなさい、スモーカー君!」
「お二方、ここは病院ですよ…! もう少し声を抑えてください…。」
ヒナが腕を掴み、たしぎが必死に制止する。
「ひっ! …さ、307号室です!」
それを聞いた瞬間、スモーカーは踵を返した。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
たしぎの声を置き去りにして、病室の前へ。
――ガチャッ。
「おい!」
「スモーカーさんノックくらいしてくださ…。」
遅れて叫ぶたしぎ。
だが、扉の向こうにいた人物を見て、三人とも言葉を失った。
ベッドに起き上がり、
包帯だらけの体で、
切られたリンゴをフォークで口に運んでいるカイト。
もう片方の手には新聞らしきものを。
きょとん、と目を瞬かせる。
「……あれ?」
状況を理解するまで、少し間があった。
「……スモーカー? ヒナとたしぎも…。」
「……。」
いつもより明らかに切迫した表情に、カイトは言葉を探す。
「よ、よぉ。こんな島まできてくれたのかお前たち…はは…。」
それだけ。
一瞬、空気が緩む。
――が。
顔。
首。
腕。
覗く包帯と、隠しきれない傷跡。
三人は、再び息を呑んだ。
「……お怪我は、大丈夫ですか!?」
「痛みは残ってる?」
ヒナとたしぎは、それしか聞けなかった。
カイトは、いつも通りの調子を作る。
「ああ、まあ。見た目ほどじゃねえよ。大げさなんだよあいつら、お前たちにまで連絡しやがって。」
「いやいやいや、誰でもこれは心配しますよ…。」
苦笑するたしぎ。
スモーカーは黙ったまま、カイトを見ていた。
逃がさない視線。
「……そうだ。」
カイトが、ふと思い出したように言う。
「人質の女性が1人いたと思うんだが…。」
「無事よ。かすり傷ひとつないそうよ。その日のうちに自宅へ帰ったわ。」
ヒナの答えに、カイトはほっと息を吐く。
「……そうか。なら、良かった。」
その瞬間。
スモーカーの肩が、わずかに揺れた。
ヒナはそれを見逃さない。
サイドテーブルにある花瓶を手に取る。
「……水、替えてくるわ。たしぎ、付いてきなさい。」
「えっ? あぁ、はい…。」
事情を察しきれていないたしぎを連れて、二人は病室を出た。
――扉が閉まる。
二人きり。
沈黙。
「……なに笑ってんだ。」
低い声。
カイトは、少し驚いた顔をする。
「笑ってるか?」
「無理してる。」
即答だった。
「だって、無事に助かったんだろ、それでいいじゃねえか。」
スモーカーの視線が、鋭くなる。
「……そりゃあっちはいいかもしれねぇがよ。」
怒鳴り声ではない。
だが、抑えきれない苛立ちが滲んでいた。
「海軍だからって理由で、全部背負うのが当たり前みたいな顔しやがって。」
ベッドの縁に腰を下ろす。
「……ふざけんな。」
煙の匂いが、微かに揺れる。
「俺はな…お前が、こんな目に遭って平気なわけねえ。」
少し、言葉を探す間。
「……強がらなくていい。俺の前でくらいは、な。」
視線が合う。
「苦しいなら、苦しいって言え。……俺は、聞く」
カイトは、唇を噛んだ。
思い出したくない感覚が、胸の奥に広がる。
怖かったこと。
悔しかったこと。
自分を犠牲にするのが当然だと思ってしまったこと。
しばらく、何も言えなかった。
そして――
「……ありがとな。」
小さな声。
それだけだったが、我慢強く頼ることが苦手なカイトの言葉は、スモーカーには十分だった。
ただ、視線を伏せる。
その手が、わずかに震えていた。
怒りだ。
抑え込んでいるそれが、はっきりと分かる。
――あいつら。
暴行した男たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
捕まったから終わり?
法に裁かれるから、それで済む?
ふざけるな。
カイトが、そこに横たわっている理由は。
その包帯一つ一つの意味は。
そして、汚らしい手でカイトを汚したことに、はらわたが煮え返りそうなほどの感情が生まれる。
煙草に手を伸ばしそうになって、止める。
ここは病室だ。
代わりに、拳を強く握りしめた。
「……俺が。」
低く、押し殺した声。
「俺は、いつまでも忘れねえ。」
誰に向けた言葉でもない。
誓いのような、呪いのような。
その呟きはカイトの耳に入ることはなかった。
