中学生編
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「鶴蝶君、作文ってどうしてなくならないんだろうね」
「…は?」
花子は死んだような顔をして問いかけてきた。いつも唐突に変なことを言う子だと思ってはいたが、今度は一体どうしたんだと様子を伺うと、花子の目の前には白紙の原稿用紙が広がっていた。ああ苦戦してるんだな、と鶴蝶は察する。
「感想文なんて何々がどうのこうので読んでいて面白かったです、で終わりだろ…。なんだよ原稿用紙5枚って…、そんな書くことないよ…。元々本読むことなんか好きじゃないのにこんなこと書かされたら余計嫌になるよ…」
どうやら読書感想文の宿題らしい。よくよく見たら真っ白な原稿用紙以外に何冊か本が散らばっている。花子は今度は頭を抱えた。見ていて面白いって言ったら怒るだろうか、と鶴蝶は密かに思うが、彼女があまりにも絶望しているのでやめておいた。
「そんな無理してやらなくてもいいんじゃねぇの?」
「私は今生では優等生でありたい…、そう誓ったんです…」
「けどハナ、この前ドラマの再放送見たいからって仮病使って学校休んでたよな」
「おーっと痛いとこ突いてくるね?」
痛いところを指摘してやると、花子はそう言って悪戯に笑った。鶴蝶は彼女の笑顔が好きだった。へらへらとした作り笑いをよく浮かべるが、たまにする屈託のない笑顔は心をほっこりさせるような安心感を得られるから。なんとなく花子が読んでいた本へと手を伸ばしていると、彼女は微笑みながら言葉を紡いだ。
「あのさー鶴蝶君、驚かないで聞いてね?」
「ん?」
「私また施設から出ていくかもしれない」
ドサッと鶴蝶の手から本が滑り落ちる。それを拾い上げた花子の顔は変わらず微笑んだままだった。
「な、なんで…?」
「実は前からありがたいことに私を養子にしたいって言ってくれてるご夫婦が来ててね。前回失敗したからどんな人か探る為によく話をしてみたんだけど、2人とも優しそうだったよ」
「…イザナのこと待たないのか?」
咄嗟に出た言葉はそれだった。花子の言っていることはその件を受け入れるということだろう。きっともうそろそろ出所してくるであろうイザナを花子も心待ちにしていると思っていたから、鶴蝶にはそれが理解出来なかった。彼から漏れ出た言葉に花子は一瞬目を見張るも、すぐにさっきまでの微笑に戻る。
「引き取りたいって言ってくれたご夫婦の間には子供が出来なかったんだって」
「………」
「私の過去を聞いて同情して抱き締めてくれたんだ。少しでもあのご夫婦のプラスになるのなら家族になってもいいかなって思ったんだよ。まー正直保護者がいた方がこの先、生きていくことを考えると私にもプラスになるかなって!お互いwin-winの関係じゃん」
「イザナ君には待っててあげられなくて申し訳ないけど、きっと彼なら許してくれるって思うんだ」
第一あの子が少年院に入ることをしでかすってことも私は知らなかったしお互い様だよね、と情けなく笑う花子。もうそこまで言われて鶴蝶は何も言えなかった。腹を決めている彼女にもう何を言ったところで無駄だと思ったから。
「そ、か…。せっかく仲良くなれたのに寂しくなるな…」
「鶴蝶君…、ありがとう!そう言ってくれて嬉しいよ」
「それでいつここを離れるんだ?」
「ん?来月かな?」
「は!?」
ガタン!と椅子から立ち上がる。驚きでぱくぱくと口を開閉させた鶴蝶だったが、すぐにその顔は悲しげに歪んだ。
「ど、どうしてそんな急に…」
「報告するのが遅くなってごめんね…。まだ確定してないこと言うのも思わせぶりになっちゃうかなってどうしても言えなかったんだ…」
「……前から思ってたけどハナって水くさいよな。オレだけじゃないイザナにだってそうだ。オレ達仲間のはずなのに、いっつも一線引いてるっていうか…」
「ご、ごめん…」
「相談してくれてもよかったんじゃねぇの?」
もっと頼れよ、と次いで紡がれた言葉に花子は目を見開かせる。しかしすぐにいつものへらりとした情けない笑顔を作った。ああそんな作り笑いが見たいんじゃない、と鶴蝶が思っているなんて花子が知る由もない。
「傷付けてごめん。それとそう思ってくれてありがとう。イザナ君と鶴蝶君が頼りないってわけじゃないよ。私さこれもう性分なんだ。染み付いてるから多分直せないと思う」
染み付いている。彼女の今までの生い立ちはなんとなくイザナから聞いていたから、その過程もあるんだろう。けどどこか遠くを見つめるその目が酷く大人びていた。
「…分かった。どうしても抱えきれなくなったらオレでもイザナでもいいから話してくれよな」
「本当にありがとう!鶴蝶君は優しいね」
そう笑った彼女はもういない。時間というのは本当にあっという間で、新しい両親に手を引かれながら花子は施設を去っていった。その日は彼女の新しい門出を祝うかのように空は青く澄み渡っていた。
━━━━━━━━
ピピピ…!
控えめに鳴る目覚まし時計を手探りで止める。眠い目をこすりながら身体を起こし、ジャージに着替える。鏡を見ながら髪は一つに結って、身支度が終われば自室を出た。洗面所で顔を洗い、さていつも通り行ってくるかと玄関へ向かおうと足を進めるが、リビングに光が漏れているのに気付き、私は少しだけドアを開けて顔を覗かせた。そこには朝ご飯の準備をする新しい母親がいて。私と目が合えばにこりと微笑んだ。
「おはよう。毎朝頑張ってるわね」
「おはよう〜。なんかもう癖になっちゃってるから…。1時間したら帰ってくる」
「気を付けてね」
手を振られたので軽く振り返せばそのままドアを閉めた。玄関でスニーカーを履き、家を出る。
私は前の習慣が抜けなくて、未だに早朝ランニングを続けていた。どうしてもやらないと落ち着かないのだ。頭の中で亡くなったおじいちゃんの怒号が飛んでくるので、完全に躾されたんだと思う。今ではもう見慣れたランニングコース。私はまた東京に戻ってきた。ちなみについこの間中二になりました。時の流れは早いね。
さてもうそろそろ帰ろうかな、と帰路へ走っていると今では見慣れた後ろ姿が見えた。とても最近中学に上がったとは思えない高身長の子に私は声を掛ける。
「ドラケン君、おはよう!」
挨拶すればその子は止まって、ゆるりと私の方へ振り返ってきた。龍の刺青が顔を出す。小5で入れたらしい。とんでもねえや。
「おー。オマエ今日も頑張ってんなぁ」
「ドラケン君こそ朝早いよね」
「マイキー迎えに行かねーといけねぇからな」
「あー、噂のマイキー君ね」
彼は友達のマイキー君を毎朝迎えに行ってるらしい。面倒見がいいにも程がある。初めて聞いた時、よく漫画とかで見る主人公の幼馴染の女の子枠か?って本気で思った。本人に言ったら小突かれそうなので言わないけど。
「中学はどう?楽しい?」
「ああ、つるんでる連中とこの前ツーリングしたのは楽しかったな」
「いや学生生活を聞いているんですが!」
分かってんだろ、とツッコめばドラケン君は悪戯っぽく笑った。年上をからかうな。
「てかツーリングて、バイク乗ってるの?」
「オレの愛機」
ガラケーをかこかこ操作したかと思えば、画面を見せてくれた。バイクの写真である。その前に邪魔するように幼い男の子と女の子がいた。可愛い子と知り合いじゃねーの。
「左がマイキーで右がエマな」
「えっ!?これマイキー君!?」
吃驚してバイクよりもまじまじと男の子を見てしまう。えっマイキー君って同い年って言ってたよね?ドラケン君が中学生離れした体格をしていたので、てっきりマイキー君も同じような感じだと思ってた。彼は年相応じゃん。
「なんか安心したよ…」
「お、おう…?」
「ところで隣の女の子誰?めちゃくちゃ可愛いじゃん!」
「エマはマイキーの妹だ」
「あー、確かにどことなく似てるかも?」
へー、と何となくドラケン君に視線を移すと、彼は写真は優しい目で見つめていた。おっと、これはもしかして…?堪らずニマニマしてしまっていると、生暖かい目で見られていることに気付いたドラケン君に「なに勘ぐってんだよ」とデコピンされた。軽くしたつもりだろうけど普通に痛い。ふと腕時計に目をやる。あ、やべ。
「そろそろ帰らないと!」
「あー、もうこんな時間か」
「それじゃドラケン君、またね!」
「おう、またな。気を付けて帰れよ」
ニカッと笑って手を振るドラケン君に手を振り返しながら家に向かって走ると、「前向いて走れ!前!」と叱られてしまった。お別れの挨拶といい、私はもしかして彼に年下扱いされてるんじゃないかと気付いてしまったので、今度会った時は年上らしく振る舞おうと決意した。多分無意味だろうけど。
「…は?」
花子は死んだような顔をして問いかけてきた。いつも唐突に変なことを言う子だと思ってはいたが、今度は一体どうしたんだと様子を伺うと、花子の目の前には白紙の原稿用紙が広がっていた。ああ苦戦してるんだな、と鶴蝶は察する。
「感想文なんて何々がどうのこうので読んでいて面白かったです、で終わりだろ…。なんだよ原稿用紙5枚って…、そんな書くことないよ…。元々本読むことなんか好きじゃないのにこんなこと書かされたら余計嫌になるよ…」
どうやら読書感想文の宿題らしい。よくよく見たら真っ白な原稿用紙以外に何冊か本が散らばっている。花子は今度は頭を抱えた。見ていて面白いって言ったら怒るだろうか、と鶴蝶は密かに思うが、彼女があまりにも絶望しているのでやめておいた。
「そんな無理してやらなくてもいいんじゃねぇの?」
「私は今生では優等生でありたい…、そう誓ったんです…」
「けどハナ、この前ドラマの再放送見たいからって仮病使って学校休んでたよな」
「おーっと痛いとこ突いてくるね?」
痛いところを指摘してやると、花子はそう言って悪戯に笑った。鶴蝶は彼女の笑顔が好きだった。へらへらとした作り笑いをよく浮かべるが、たまにする屈託のない笑顔は心をほっこりさせるような安心感を得られるから。なんとなく花子が読んでいた本へと手を伸ばしていると、彼女は微笑みながら言葉を紡いだ。
「あのさー鶴蝶君、驚かないで聞いてね?」
「ん?」
「私また施設から出ていくかもしれない」
ドサッと鶴蝶の手から本が滑り落ちる。それを拾い上げた花子の顔は変わらず微笑んだままだった。
「な、なんで…?」
「実は前からありがたいことに私を養子にしたいって言ってくれてるご夫婦が来ててね。前回失敗したからどんな人か探る為によく話をしてみたんだけど、2人とも優しそうだったよ」
「…イザナのこと待たないのか?」
咄嗟に出た言葉はそれだった。花子の言っていることはその件を受け入れるということだろう。きっともうそろそろ出所してくるであろうイザナを花子も心待ちにしていると思っていたから、鶴蝶にはそれが理解出来なかった。彼から漏れ出た言葉に花子は一瞬目を見張るも、すぐにさっきまでの微笑に戻る。
「引き取りたいって言ってくれたご夫婦の間には子供が出来なかったんだって」
「………」
「私の過去を聞いて同情して抱き締めてくれたんだ。少しでもあのご夫婦のプラスになるのなら家族になってもいいかなって思ったんだよ。まー正直保護者がいた方がこの先、生きていくことを考えると私にもプラスになるかなって!お互いwin-winの関係じゃん」
「イザナ君には待っててあげられなくて申し訳ないけど、きっと彼なら許してくれるって思うんだ」
第一あの子が少年院に入ることをしでかすってことも私は知らなかったしお互い様だよね、と情けなく笑う花子。もうそこまで言われて鶴蝶は何も言えなかった。腹を決めている彼女にもう何を言ったところで無駄だと思ったから。
「そ、か…。せっかく仲良くなれたのに寂しくなるな…」
「鶴蝶君…、ありがとう!そう言ってくれて嬉しいよ」
「それでいつここを離れるんだ?」
「ん?来月かな?」
「は!?」
ガタン!と椅子から立ち上がる。驚きでぱくぱくと口を開閉させた鶴蝶だったが、すぐにその顔は悲しげに歪んだ。
「ど、どうしてそんな急に…」
「報告するのが遅くなってごめんね…。まだ確定してないこと言うのも思わせぶりになっちゃうかなってどうしても言えなかったんだ…」
「……前から思ってたけどハナって水くさいよな。オレだけじゃないイザナにだってそうだ。オレ達仲間のはずなのに、いっつも一線引いてるっていうか…」
「ご、ごめん…」
「相談してくれてもよかったんじゃねぇの?」
もっと頼れよ、と次いで紡がれた言葉に花子は目を見開かせる。しかしすぐにいつものへらりとした情けない笑顔を作った。ああそんな作り笑いが見たいんじゃない、と鶴蝶が思っているなんて花子が知る由もない。
「傷付けてごめん。それとそう思ってくれてありがとう。イザナ君と鶴蝶君が頼りないってわけじゃないよ。私さこれもう性分なんだ。染み付いてるから多分直せないと思う」
染み付いている。彼女の今までの生い立ちはなんとなくイザナから聞いていたから、その過程もあるんだろう。けどどこか遠くを見つめるその目が酷く大人びていた。
「…分かった。どうしても抱えきれなくなったらオレでもイザナでもいいから話してくれよな」
「本当にありがとう!鶴蝶君は優しいね」
そう笑った彼女はもういない。時間というのは本当にあっという間で、新しい両親に手を引かれながら花子は施設を去っていった。その日は彼女の新しい門出を祝うかのように空は青く澄み渡っていた。
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ピピピ…!
控えめに鳴る目覚まし時計を手探りで止める。眠い目をこすりながら身体を起こし、ジャージに着替える。鏡を見ながら髪は一つに結って、身支度が終われば自室を出た。洗面所で顔を洗い、さていつも通り行ってくるかと玄関へ向かおうと足を進めるが、リビングに光が漏れているのに気付き、私は少しだけドアを開けて顔を覗かせた。そこには朝ご飯の準備をする新しい母親がいて。私と目が合えばにこりと微笑んだ。
「おはよう。毎朝頑張ってるわね」
「おはよう〜。なんかもう癖になっちゃってるから…。1時間したら帰ってくる」
「気を付けてね」
手を振られたので軽く振り返せばそのままドアを閉めた。玄関でスニーカーを履き、家を出る。
私は前の習慣が抜けなくて、未だに早朝ランニングを続けていた。どうしてもやらないと落ち着かないのだ。頭の中で亡くなったおじいちゃんの怒号が飛んでくるので、完全に躾されたんだと思う。今ではもう見慣れたランニングコース。私はまた東京に戻ってきた。ちなみについこの間中二になりました。時の流れは早いね。
さてもうそろそろ帰ろうかな、と帰路へ走っていると今では見慣れた後ろ姿が見えた。とても最近中学に上がったとは思えない高身長の子に私は声を掛ける。
「ドラケン君、おはよう!」
挨拶すればその子は止まって、ゆるりと私の方へ振り返ってきた。龍の刺青が顔を出す。小5で入れたらしい。とんでもねえや。
「おー。オマエ今日も頑張ってんなぁ」
「ドラケン君こそ朝早いよね」
「マイキー迎えに行かねーといけねぇからな」
「あー、噂のマイキー君ね」
彼は友達のマイキー君を毎朝迎えに行ってるらしい。面倒見がいいにも程がある。初めて聞いた時、よく漫画とかで見る主人公の幼馴染の女の子枠か?って本気で思った。本人に言ったら小突かれそうなので言わないけど。
「中学はどう?楽しい?」
「ああ、つるんでる連中とこの前ツーリングしたのは楽しかったな」
「いや学生生活を聞いているんですが!」
分かってんだろ、とツッコめばドラケン君は悪戯っぽく笑った。年上をからかうな。
「てかツーリングて、バイク乗ってるの?」
「オレの愛機」
ガラケーをかこかこ操作したかと思えば、画面を見せてくれた。バイクの写真である。その前に邪魔するように幼い男の子と女の子がいた。可愛い子と知り合いじゃねーの。
「左がマイキーで右がエマな」
「えっ!?これマイキー君!?」
吃驚してバイクよりもまじまじと男の子を見てしまう。えっマイキー君って同い年って言ってたよね?ドラケン君が中学生離れした体格をしていたので、てっきりマイキー君も同じような感じだと思ってた。彼は年相応じゃん。
「なんか安心したよ…」
「お、おう…?」
「ところで隣の女の子誰?めちゃくちゃ可愛いじゃん!」
「エマはマイキーの妹だ」
「あー、確かにどことなく似てるかも?」
へー、と何となくドラケン君に視線を移すと、彼は写真は優しい目で見つめていた。おっと、これはもしかして…?堪らずニマニマしてしまっていると、生暖かい目で見られていることに気付いたドラケン君に「なに勘ぐってんだよ」とデコピンされた。軽くしたつもりだろうけど普通に痛い。ふと腕時計に目をやる。あ、やべ。
「そろそろ帰らないと!」
「あー、もうこんな時間か」
「それじゃドラケン君、またね!」
「おう、またな。気を付けて帰れよ」
ニカッと笑って手を振るドラケン君に手を振り返しながら家に向かって走ると、「前向いて走れ!前!」と叱られてしまった。お別れの挨拶といい、私はもしかして彼に年下扱いされてるんじゃないかと気付いてしまったので、今度会った時は年上らしく振る舞おうと決意した。多分無意味だろうけど。
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