小学生編
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イザナ、捕まったってよ。
おいおいまじかよ。聞いた話はこうだ。イザナ君が集団からリンチを受ける→入院するほどの大怪我を追う→退院後に集団を1人ずつ再起不能にし、リーダーを自殺するまで追い込む→少年院入所………らしい。入院して何回かお見舞いには行ったけど、彼は死んだような目をしてた。ずっとそうしてやろうと企んでいたのだろう。私は馬鹿だからそんなことも察せずに、たい焼きは頭からかそれとも尻尾から食べるかなんてどうでもいい話をイザナ君に振っていた。包帯まみれの彼に案の定呆れられたけど、それでもたまに笑っていたから元気付けられたかなって安心しきっていた。
ベンチに座っていれば高確率で隣に座りにきてくれた彼はもうここにはいない。まあ出所すれば戻ってくるんだろうけど。空いているスペースを見て、ふと彼との記憶を思い出し無性に寂しくなった。
「よし、手紙を書こう!」
思い立ったら即行動!ビンゴ大会の景品で貰ったお手紙セットと筆記用具を部屋から回収して図書室へと駆け込んだ。別に部屋で書いてもいいんだけど、イザナ君が以前そうしていたからなんとなく図書室で書こうと思った。椅子に座りボールペン片手に便箋へと向かう。んー、なんて書こう。
拝啓 イザナ君お元気ですか?私は元気です。イザナ君ってば急にいなくなってしまったので、話を聞いた時はびっくりしました。病院から退院してきた日を覚えていますか?その日の晩御飯がハンバーグだったのでソースは和風おろしかデミグラスソースか喧嘩になりましたね。私はどうしても和風おろしの方が好きなのですが、デミグラスソースも悪くないんじゃないかなって今では思ってます。だからイザナ君も和風おろしの良さを認めてください。それと少年院での生活はどうですか?私と鶴蝶君がいなくて寂しくて泣いていませんか?他の子達にいじめられていませんか?私はむしろイザナ君は他の子達をいじめているんじゃないかと心配しています。凶暴な子達を纏めあげてトップとして君臨しているイザナ君がこの前夢に出てきました。イザナ君に殴られている子の顔面はボコボコの血塗れでとても怖かったです。正夢になるわけないと思ってはいるのですが中々にリアルだったので、どうか人を思いやる気持ちを持ってくれると私は嬉しいです。暇だったらまた手紙書きます。出所したら一緒に和風おろしハンバーグでも食べましょう。
よし書けた〜!改めて自分で見直すけどほとんどハンバーグのソースのことについて書いてた。すげーどうでもいい内容だと分かってはいたが、イザナ君はきっと喜んでくれるだろう。嘲笑を浮かべて手紙を破り捨てるイザナ君が一瞬浮かぶが、手紙は気持ちだもんな。破かれてもいいや、ハンバーグのことばっかだし。
職員さんにイザナ君へ送ってくださいとお願いしに行くと、見慣れない男の人が職員さんと話していた。2人は私に気付くとこちらへと顔を向けた。
「花子ちゃん、どうしたの?」
「イザナ君に手紙書いたので送って欲しくて」
「…イザナに?」
職員さんでもなく男の人が私の言葉にぴくりと反応した。男の人と目が合う。真っ黒な瞳が私を見下ろしていた。彼は「あっ」と何かを思い出したのか小さく声を漏らすと、ニカッと人のいい笑顔を向けてきた。
「オマエがハナか。イザナからよく話は聞いてるよ」
「えっ」
イザナ君が私の話を?
鶴蝶君の時といい、なんだかんだあの子は可愛いな。
「…具体的にはどんなこと言ってました?」
「食い意地のはってるへらへらしたヤツだって」
「もういいです」
期待した私が馬鹿だった。そうだよね、イザナ君が素直に私を褒めるわけがない。なんだよ食い意地がはってるへらへらしたヤツって!何も間違ってねーわ!でも言いふらすことなくない?むくれていると男の人は吹き出した。人の顔見て笑うなよ。私が気を悪くしたと思ったのか男の人はしゃがんで目線を合わせると、頭を優しく撫でてきた。コミュ力高いな。
「でもアイツ楽しそうな顔して話してたぞ。オマエのことがよっぽど好きなんだな」
「ええ〜。話題の人が真一郎さんじゃあるまいし〜」
「えっ!オレの名前知ってんのか!?」
吃驚したように飛び上がる。この人天然入ってんのかな。イザナ君の話を振ってくる時点で、この男の人が真一郎さんだってことは察していた。普通この流れからしてイザナ君も私に真一郎さんの話をしたんだと気付くと思うんだけどなあ。
「そうだ!花子ちゃん手紙渡したいなら、佐野さんに渡してもらえばいいんじゃない?これからイザナ君に会いに行くって言っていたよ」
「先生本当に?佐野真一郎さん渡してくれますか?」
「いいけどフルネームはやめろ」
茶化していることが分かったのか、仕返しと言わんばかりに頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。それでも優しい手付きなので、イザナ君が彼に懐いている理由が分かった気がした。
「つーかハナも来るか?アイツに会いてぇだろ」
「えっ私も?」
提案されてぽかんとしてしまう。そんな私の顔を見て真一郎さんはにこりと微笑んできた。私も会いに行く…。そこでふと真一郎さんの話をしていたイザナ君の顔が頭に浮かんだ。いや〜行けねえよ。だって私部外者じゃん。しかもやらないよ発言もされたし、2人で会いに行ったら嫉妬に狂ったイザナ君に出所後に殺されそう。想像して血の気が引いていくのを感じつつも、私は顔の前で手をぶんぶんと振り首も横に振った。私はまだ死にたくない。
「いやっ手紙さえ渡してくれればそれでいいので!せっかくの兄弟の時間邪魔できません」
「なんだよ遠慮しなくていいんだぞ?イザナだって喜ぶだろうし」
「真一郎さんは私を殺す気ですか!?」
「えっ」
切羽詰まった私に真一郎さんは目をぱちくりとさせた。いや察してください、本当に。それに私がいたらイザナ君は真一郎さんに甘えられないでしょ。私はそれが堪らなく嫌だった。いいんだ私はなんとなくの友達程度で。わざわざ少年院に会いに行く関係値はいいです。きっとあっちも求めてない。小首を傾げる真一郎さんに私は書いた手紙を押し付ける。
「というわけでお手数かけますが、これよろしくお願いします」
「おう!これからもアイツと仲良くしてやってくれよな」
真一郎さんは手紙を受け取ると、最後に私の頭をぽんぽんと軽く叩いてから立ち上がった。施設の人に手を引かれながら門まで真一郎さんを見送る。バイクに跨る真一郎さんに手を振られる。乗り物に詳しくないので、大きなバイクだなあと思いつつ、私は彼に手を振り返した。彼はまた人のいい笑顔を浮かべて、バイクを走らせて行った。後ろ姿はすぐに小さくなっていった。
━━━━━━━
「よぉハナ」
名前を呼ばれて咄嗟に振り返る。そこには真一郎さんがいた。門の前に立っている彼に歩み寄る。いつぶりだっけ?2ヶ月くらい?
「元気そうだな」
「真一郎さんもね」
「本当はもっと早く来たかったんだが、遅くなって悪かったな」
「?」
何で謝られたんだろう?そもそもイザナ君はここにいないのに、何で来たの?口ぶりからして私に会いに来たんだろうけど、意図が全く想像出来なかった。小首を傾げる私に真一郎さんはニカッと笑って頭を撫でてくる。この人初対面の時といいめっちゃ頭撫でてくるな。子供の扱い上手いなと感心してしまう。
「アイツ手紙貰って喜んでたぞ。ハナらしいって笑ってた」
「あーそういや手紙書いたね。わざわざ報告に来なくても良かったのに」
「そういうワケにもいかねぇだろ」
さも当然のように言う真一郎さん。子供相手にも義理堅い対応に素直に好感を持てた。よし還元してやろう。パーカーのポケットに手を突っ込み目当ての物を探り当てると、真一郎さんに差し出した。
「そんな優しい真一郎さんにはこれをあげよう」
「飴?いいのか、もらって」
「手間賃です。好きじゃないパイン味だし」
「ははっ!ちゃっかりしてんなー、オマエ」
ありがとな、と小包を開けて口の中に飴を放り込む真一郎さん。苦手な味処理ったのに笑顔である。イザナ君以外に兄弟いそ〜。めっちゃ面倒見いいもん。もう現役じゃないっぽいけど不良でもいい人もいるもんだなぁ、と私の不良のイメージを塗り替えていく。…いやでもこの人が例外なんじゃないか?
「イザナがさ、オマエのこと心配してたんだよ。まだ小せぇガキなのにいっぱい苦労してきたって」
「え?」
突然振られた話題が耳を疑う内容だったので吃驚してしまう。イザナ君が私を心配?そんなわけあるか、と思ったところで、ふと彼から以前言われたことを思い出した。オマエも国民にしてやる。あの時イザナ君は私を慰めてくれていた。もしかしたら私が引き取られて何があったのか知っていたのかもしれない。職員さんの話を聞いちゃったのかなあ。
「もっと本人に分かりやすく言えばいいのにね」
「だよなー。でもアイツ器用じゃねぇもんなぁ。難しいだろ」
「…イザナ君のこと、よろしくお願いしますね」
「おう!」
すぐに返ってきた返事に思わず笑みを浮かべる。すると真一郎さんは一瞬驚いた顔をするも、すぐに笑みを返された。
「オマエ笑うと可愛いな」
「お〜!初めて言われました!」
「周り見る目ねーなぁ。告られたこととかないのか?」
「告られたことはないですけど、前の小学校でとんでもない子に目付けられてました…」
半間君との思い出を真一郎さんに語る。そう彼は最初は気怠そうでいつもつまらなさそうな顔をしていた。家が近所なのもあって登下校を一緒にしていたけど、それだけじゃなく半間君といるのはすごい気が楽だった。しかし猟奇的な部分が所々見え隠れするようになり、最終的に人が天涯孤独になったのを目の当たりにして、とってもイイ笑顔をしていた。過去一だった。人の不幸を本人の目の前で喜ぶな。最後に半間君に私の事嫌いなの?って聞いたら「むしろ好き♡」って答えられた。どういうことだってばよ。
話し終えて真一郎さんの方へ顔を向けると、真一郎さんはあからさまにドン引きしていた。そんな反応になりますよね。
「それは…こう言っちゃ不謹慎かもしれねぇけど、ソイツから離れられてよかったな…」
「それが唯一の救いでしたねー。悪い意味で将来有望だったので早々に撤退できてよかったのかもしれないです」
「……オレじゃ頼りねぇかもしれねーけど、また来たら色々話してくれよ」
「え…」
私を心配している目だった。そんな瞳に見つめられつつ、彼の言葉を頭の中で反芻する。え?また来んの?
「いやいや気使わなくていいですよ。真一郎さんだって暇じゃないでしょ。心配してくれてるのは嬉しいですけど、私こう見えても打たれ強いんですよ?だから大丈夫です」
「いーんだよ、ドライブがてらだ。後で弟にも会わせてやりてぇしな」
「え?イザナ君のこと?」
「いや、弟がもう1人と妹がいるんだ。そん時は仲良くしてやってくれるか?」
じっとまた黒い瞳が私を見つめる。優しい声音に思わず頷きそうになる首を頑張って踏みとどめた。あぶねー。
「うーーーん、お断りします!」
「……そうか」
「その代わりにお願いします。私に割こうとしている時間をイザナ君に当ててくれませんか?」
「…オマエ、良い奴だな」
ぐしゃぐしゃと髪をかき回される。「わかった!」と次いで了承の言葉を貰い、ほっと安堵する。だってイザナ君が少年院に入ってるのに、部外者の私が真一郎さん&弟妹とよろしくやってるのはアウトでしょ。私がイザナ君の立場だったらキレてる。
その後私と真一郎さんは目玉焼きはどの調味料が1番合うか議論になった。食い意地がはっているにも程がある。
おいおいまじかよ。聞いた話はこうだ。イザナ君が集団からリンチを受ける→入院するほどの大怪我を追う→退院後に集団を1人ずつ再起不能にし、リーダーを自殺するまで追い込む→少年院入所………らしい。入院して何回かお見舞いには行ったけど、彼は死んだような目をしてた。ずっとそうしてやろうと企んでいたのだろう。私は馬鹿だからそんなことも察せずに、たい焼きは頭からかそれとも尻尾から食べるかなんてどうでもいい話をイザナ君に振っていた。包帯まみれの彼に案の定呆れられたけど、それでもたまに笑っていたから元気付けられたかなって安心しきっていた。
ベンチに座っていれば高確率で隣に座りにきてくれた彼はもうここにはいない。まあ出所すれば戻ってくるんだろうけど。空いているスペースを見て、ふと彼との記憶を思い出し無性に寂しくなった。
「よし、手紙を書こう!」
思い立ったら即行動!ビンゴ大会の景品で貰ったお手紙セットと筆記用具を部屋から回収して図書室へと駆け込んだ。別に部屋で書いてもいいんだけど、イザナ君が以前そうしていたからなんとなく図書室で書こうと思った。椅子に座りボールペン片手に便箋へと向かう。んー、なんて書こう。
拝啓 イザナ君お元気ですか?私は元気です。イザナ君ってば急にいなくなってしまったので、話を聞いた時はびっくりしました。病院から退院してきた日を覚えていますか?その日の晩御飯がハンバーグだったのでソースは和風おろしかデミグラスソースか喧嘩になりましたね。私はどうしても和風おろしの方が好きなのですが、デミグラスソースも悪くないんじゃないかなって今では思ってます。だからイザナ君も和風おろしの良さを認めてください。それと少年院での生活はどうですか?私と鶴蝶君がいなくて寂しくて泣いていませんか?他の子達にいじめられていませんか?私はむしろイザナ君は他の子達をいじめているんじゃないかと心配しています。凶暴な子達を纏めあげてトップとして君臨しているイザナ君がこの前夢に出てきました。イザナ君に殴られている子の顔面はボコボコの血塗れでとても怖かったです。正夢になるわけないと思ってはいるのですが中々にリアルだったので、どうか人を思いやる気持ちを持ってくれると私は嬉しいです。暇だったらまた手紙書きます。出所したら一緒に和風おろしハンバーグでも食べましょう。
よし書けた〜!改めて自分で見直すけどほとんどハンバーグのソースのことについて書いてた。すげーどうでもいい内容だと分かってはいたが、イザナ君はきっと喜んでくれるだろう。嘲笑を浮かべて手紙を破り捨てるイザナ君が一瞬浮かぶが、手紙は気持ちだもんな。破かれてもいいや、ハンバーグのことばっかだし。
職員さんにイザナ君へ送ってくださいとお願いしに行くと、見慣れない男の人が職員さんと話していた。2人は私に気付くとこちらへと顔を向けた。
「花子ちゃん、どうしたの?」
「イザナ君に手紙書いたので送って欲しくて」
「…イザナに?」
職員さんでもなく男の人が私の言葉にぴくりと反応した。男の人と目が合う。真っ黒な瞳が私を見下ろしていた。彼は「あっ」と何かを思い出したのか小さく声を漏らすと、ニカッと人のいい笑顔を向けてきた。
「オマエがハナか。イザナからよく話は聞いてるよ」
「えっ」
イザナ君が私の話を?
鶴蝶君の時といい、なんだかんだあの子は可愛いな。
「…具体的にはどんなこと言ってました?」
「食い意地のはってるへらへらしたヤツだって」
「もういいです」
期待した私が馬鹿だった。そうだよね、イザナ君が素直に私を褒めるわけがない。なんだよ食い意地がはってるへらへらしたヤツって!何も間違ってねーわ!でも言いふらすことなくない?むくれていると男の人は吹き出した。人の顔見て笑うなよ。私が気を悪くしたと思ったのか男の人はしゃがんで目線を合わせると、頭を優しく撫でてきた。コミュ力高いな。
「でもアイツ楽しそうな顔して話してたぞ。オマエのことがよっぽど好きなんだな」
「ええ〜。話題の人が真一郎さんじゃあるまいし〜」
「えっ!オレの名前知ってんのか!?」
吃驚したように飛び上がる。この人天然入ってんのかな。イザナ君の話を振ってくる時点で、この男の人が真一郎さんだってことは察していた。普通この流れからしてイザナ君も私に真一郎さんの話をしたんだと気付くと思うんだけどなあ。
「そうだ!花子ちゃん手紙渡したいなら、佐野さんに渡してもらえばいいんじゃない?これからイザナ君に会いに行くって言っていたよ」
「先生本当に?佐野真一郎さん渡してくれますか?」
「いいけどフルネームはやめろ」
茶化していることが分かったのか、仕返しと言わんばかりに頭をぐしゃぐしゃに撫でられる。それでも優しい手付きなので、イザナ君が彼に懐いている理由が分かった気がした。
「つーかハナも来るか?アイツに会いてぇだろ」
「えっ私も?」
提案されてぽかんとしてしまう。そんな私の顔を見て真一郎さんはにこりと微笑んできた。私も会いに行く…。そこでふと真一郎さんの話をしていたイザナ君の顔が頭に浮かんだ。いや〜行けねえよ。だって私部外者じゃん。しかもやらないよ発言もされたし、2人で会いに行ったら嫉妬に狂ったイザナ君に出所後に殺されそう。想像して血の気が引いていくのを感じつつも、私は顔の前で手をぶんぶんと振り首も横に振った。私はまだ死にたくない。
「いやっ手紙さえ渡してくれればそれでいいので!せっかくの兄弟の時間邪魔できません」
「なんだよ遠慮しなくていいんだぞ?イザナだって喜ぶだろうし」
「真一郎さんは私を殺す気ですか!?」
「えっ」
切羽詰まった私に真一郎さんは目をぱちくりとさせた。いや察してください、本当に。それに私がいたらイザナ君は真一郎さんに甘えられないでしょ。私はそれが堪らなく嫌だった。いいんだ私はなんとなくの友達程度で。わざわざ少年院に会いに行く関係値はいいです。きっとあっちも求めてない。小首を傾げる真一郎さんに私は書いた手紙を押し付ける。
「というわけでお手数かけますが、これよろしくお願いします」
「おう!これからもアイツと仲良くしてやってくれよな」
真一郎さんは手紙を受け取ると、最後に私の頭をぽんぽんと軽く叩いてから立ち上がった。施設の人に手を引かれながら門まで真一郎さんを見送る。バイクに跨る真一郎さんに手を振られる。乗り物に詳しくないので、大きなバイクだなあと思いつつ、私は彼に手を振り返した。彼はまた人のいい笑顔を浮かべて、バイクを走らせて行った。後ろ姿はすぐに小さくなっていった。
━━━━━━━
「よぉハナ」
名前を呼ばれて咄嗟に振り返る。そこには真一郎さんがいた。門の前に立っている彼に歩み寄る。いつぶりだっけ?2ヶ月くらい?
「元気そうだな」
「真一郎さんもね」
「本当はもっと早く来たかったんだが、遅くなって悪かったな」
「?」
何で謝られたんだろう?そもそもイザナ君はここにいないのに、何で来たの?口ぶりからして私に会いに来たんだろうけど、意図が全く想像出来なかった。小首を傾げる私に真一郎さんはニカッと笑って頭を撫でてくる。この人初対面の時といいめっちゃ頭撫でてくるな。子供の扱い上手いなと感心してしまう。
「アイツ手紙貰って喜んでたぞ。ハナらしいって笑ってた」
「あーそういや手紙書いたね。わざわざ報告に来なくても良かったのに」
「そういうワケにもいかねぇだろ」
さも当然のように言う真一郎さん。子供相手にも義理堅い対応に素直に好感を持てた。よし還元してやろう。パーカーのポケットに手を突っ込み目当ての物を探り当てると、真一郎さんに差し出した。
「そんな優しい真一郎さんにはこれをあげよう」
「飴?いいのか、もらって」
「手間賃です。好きじゃないパイン味だし」
「ははっ!ちゃっかりしてんなー、オマエ」
ありがとな、と小包を開けて口の中に飴を放り込む真一郎さん。苦手な味処理ったのに笑顔である。イザナ君以外に兄弟いそ〜。めっちゃ面倒見いいもん。もう現役じゃないっぽいけど不良でもいい人もいるもんだなぁ、と私の不良のイメージを塗り替えていく。…いやでもこの人が例外なんじゃないか?
「イザナがさ、オマエのこと心配してたんだよ。まだ小せぇガキなのにいっぱい苦労してきたって」
「え?」
突然振られた話題が耳を疑う内容だったので吃驚してしまう。イザナ君が私を心配?そんなわけあるか、と思ったところで、ふと彼から以前言われたことを思い出した。オマエも国民にしてやる。あの時イザナ君は私を慰めてくれていた。もしかしたら私が引き取られて何があったのか知っていたのかもしれない。職員さんの話を聞いちゃったのかなあ。
「もっと本人に分かりやすく言えばいいのにね」
「だよなー。でもアイツ器用じゃねぇもんなぁ。難しいだろ」
「…イザナ君のこと、よろしくお願いしますね」
「おう!」
すぐに返ってきた返事に思わず笑みを浮かべる。すると真一郎さんは一瞬驚いた顔をするも、すぐに笑みを返された。
「オマエ笑うと可愛いな」
「お〜!初めて言われました!」
「周り見る目ねーなぁ。告られたこととかないのか?」
「告られたことはないですけど、前の小学校でとんでもない子に目付けられてました…」
半間君との思い出を真一郎さんに語る。そう彼は最初は気怠そうでいつもつまらなさそうな顔をしていた。家が近所なのもあって登下校を一緒にしていたけど、それだけじゃなく半間君といるのはすごい気が楽だった。しかし猟奇的な部分が所々見え隠れするようになり、最終的に人が天涯孤独になったのを目の当たりにして、とってもイイ笑顔をしていた。過去一だった。人の不幸を本人の目の前で喜ぶな。最後に半間君に私の事嫌いなの?って聞いたら「むしろ好き♡」って答えられた。どういうことだってばよ。
話し終えて真一郎さんの方へ顔を向けると、真一郎さんはあからさまにドン引きしていた。そんな反応になりますよね。
「それは…こう言っちゃ不謹慎かもしれねぇけど、ソイツから離れられてよかったな…」
「それが唯一の救いでしたねー。悪い意味で将来有望だったので早々に撤退できてよかったのかもしれないです」
「……オレじゃ頼りねぇかもしれねーけど、また来たら色々話してくれよ」
「え…」
私を心配している目だった。そんな瞳に見つめられつつ、彼の言葉を頭の中で反芻する。え?また来んの?
「いやいや気使わなくていいですよ。真一郎さんだって暇じゃないでしょ。心配してくれてるのは嬉しいですけど、私こう見えても打たれ強いんですよ?だから大丈夫です」
「いーんだよ、ドライブがてらだ。後で弟にも会わせてやりてぇしな」
「え?イザナ君のこと?」
「いや、弟がもう1人と妹がいるんだ。そん時は仲良くしてやってくれるか?」
じっとまた黒い瞳が私を見つめる。優しい声音に思わず頷きそうになる首を頑張って踏みとどめた。あぶねー。
「うーーーん、お断りします!」
「……そうか」
「その代わりにお願いします。私に割こうとしている時間をイザナ君に当ててくれませんか?」
「…オマエ、良い奴だな」
ぐしゃぐしゃと髪をかき回される。「わかった!」と次いで了承の言葉を貰い、ほっと安堵する。だってイザナ君が少年院に入ってるのに、部外者の私が真一郎さん&弟妹とよろしくやってるのはアウトでしょ。私がイザナ君の立場だったらキレてる。
その後私と真一郎さんは目玉焼きはどの調味料が1番合うか議論になった。食い意地がはっているにも程がある。