小学生編
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給食を食べている最中、担任の先生が少し青白い顔をして私を呼んだ。急いでいるみたいだったから食べることを中断して、先生についていく。案内された職員室で一言告げられた。「おじいちゃんが亡くなった」と。
嘘だろと思った。一瞬呼吸をすることを忘れてしまうが、それに気付いてくれるはずもなく、先生は淡々と続ける。交通事故だったらしい。いつも出掛けないくせによくもまあタイミングの悪い、と思った。おじいちゃんの信号無視だったらしい。世間知らずにも程があるだろ。それじゃあそれだけだからと先生は話を終えた。え?こういう時って病院で立ち会わせるもんじゃないの?説明を求めると、おばあちゃんの意思らしい。なんなんだ、どうせ恨んでるだろうからわざわざ来なくていいってことなのか。あまりにも寂しい対応に身体の内から冷えていく感覚がしたが、このまま留まっていても仕方がないので先生に一礼してから扉へと向かう。
職員室から出ると、半間君がいた。どうやら私を待っていたらしい。最近休み時間中でも近くにいるなぁ、とふと浮かぶが、正直心中穏やかじゃないのでそんなことはどうでもよかった。
「どーだったぁ」
「おじいちゃんが…、亡くなった」
「……ハ?」
珍しく半間君が目を真ん丸とさせた。貴重な表情だけど、それに構っていられるほど今の私には余裕がなかった。頭の中ではおじいちゃんから暴力を振るわれるシーンが次から次へと浮かんできていて。とてもじゃないが亡くなったことを信じられないでいると、それを咎めるように身体に出来た痣が酷く痛んだ。
半間君は少し腰を折り屈んで顔を近付けてきたかと思えば、じっと私を見つめる。その行為に動揺を隠しきれなくて、何を言われるんだろうと心臓が震えた。
「良かったなぁ♡」
「………は?」
にこっという効果音がぴったりなくらいの笑顔に今度は私が唖然としてしまう。吃驚して何を言ってるんだと聞くことも出来ないでいると、「だってよぉ…、」と半間君はにやにやしながら言葉を紡いだ。
「痛い思いはもちろん、やりたくねーこと強制されないで済むし、髪だってこれからは伸ばせるじゃん」
「そ、そうだけど…」
「目障りだったんだろ?」
まるで見透かすように半間君の瞳が私を射抜く。いや確かにしんどかったけど、死んで欲しいとかそこまでは思ってない。本当に心からそう思ってる。それでも半間君のその目は私に否定することを許さない威圧感があった。屈んでいることが疲れたのか半間君は姿勢を戻した。離れていく顔にホッと安堵する。
「……半間君ちょっと変わったよね」
「そーかぁ?」
「前は人に対して興味なかったじゃん」
「今ンとこオマエだけだぜ?」
「えっ」
それはどうして、と顔に出ていたのか、彼は私の顔を見るなり「ばはっ♡」と笑った。少なくとも出会ったばかりの頃はそんなハートが付くような話し方はしていなかった。何もかもがつまらなさそうな顔をしていたのに、いつからだったか彼はたまに猟奇的な目を向けるようになった。そんな彼と比べて私は圧倒的に精神年齢が高いはずなのに、普通にチキっていた。脳内に颯爽と登場してきたイザナ君がダッサと私を罵倒する。そういえば彼は元気だろうか。
「気が向いたら教えてやるよ」
「うーん…、知りたくないかも…」
だって単純じゃないロクでもない好意が向いてそうな気がするんだもの。絶対純粋に好きです!とかいうラブじゃないよ。面白そうな標的としか見られてない気がする。干渉されていない感じで一緒にいて気が楽だった半間君がちょっと苦手になった。
半間君とのちょっとした会話で亡くなったおじいちゃんのことをほんの少しの間でも忘れていたのだから、自分は薄情者だと気付いた時に今になって半間君から言われた言葉が胸を容赦なく抉っていった。こいつ本当に小学生か?
━━━━━━━━
おじいちゃんが亡くなって2週間が経つ。おばあちゃんは何も言わなかったが、剣道のことを続けないと何だか申し訳ない気持ちになった。今までの生活が忙しなかったので落ち着かないっていうのもあって、一応おじいちゃんが亡くなってからも練習は続けていた。ただ朝4時はいくらなんでも早いので、朝5時からにした。座禅を削った。私に座禅は必要ない。寝てしまう。おじいちゃんが亡くなった後のおばあちゃんはめちゃくちゃ優しかった。そりゃそうなんだよな。おじいちゃんに逆らえないから私を庇わなかっただけで他に言うことなかったもん。ご飯は美味しいし。ただ師範であるおじいちゃんが亡くなったので門下生はまあ辞めていった。それは仕方ない。だけどこれからどうやって生活していくのかなあ、と呑気に考えているが、子供の立場である自分がそんなこと気にするのは余計なお世話だろうか。
現在半間君と下校していた。お互いに友達がいないねって言ったら彼は怒るだろうか。放課後は稽古ということがあって遊ぶ時間のない私に付き合いが悪いと友達は出来なかった。正直今時の女の子の遊びについていける気もしなかったので、その面ではありがたかったのだが。これからは時間が出来たし、友達が欲しいなって思ったけど今更感もあるよなあ。うーんと唸っていると、「新生活はどお?」という質問を投げかけられた。
「おばあちゃんすごい優しいよ。髪もこれからは伸ばしていいって」
「ふーん」
「大丈夫かなー?黒髪ロングの私が復活したら半間君魅了されちゃうんじゃない?」
「へー」
「まじかよ、全然ツッコんでくれないじゃん」
しかも話題振っといて興味ないじゃん、と続けても半間君はつまらなさそうな顔をしてこっちを見向きもしなかった。この子のやる気スイッチがマジで分からん。黙って帰るのも居心地が悪いので、またマシンガントークお見舞いしてやろうかなと思っていると、ふと消防車とパトカーのサイレンがやけに喧しいことに気付いた。
「火事かな?」
「だと思うけど。つーかさ方角的にオレらの家の近所じゃね?」
「えっ本当に?」
黒煙が上がっていることに今更気付いた。呑気にも程があるのだが、確かに方角的に私達の家の方だ。なんとなく嫌な予感がして「ちょっと走ろう!」と半間君の手を取って走る。強引だったかなとも思ったが、素直に彼はついてきてくれた。
走れば走るほど距離がどんどん近付いてきて、やっぱり自分達の近所だということが嫌でも分かった。いやでもそんなまさかな。自宅なわけがない。しかし嫌な予感は的中する。
見慣れた古民家が見慣れない姿になっていた。消防車とパトカーが家の前を占拠する中、私の視界は炎に包まれた自宅しか映らなかった。
「う、うそ……!」
「危ねーからじっとしてろ」
たまらず飛び込もうとすると、お腹を半間君の腕で制止させられる。私の勢いが良かったのもあるが中々に力強くて「ぐぇ、」と緊張感のない声が漏れる。振り切っていけそうもないので私は燃え盛る自分の家をただただ見ることしか出来なかった。警察の人が住人と連絡がつかないぞ!と焦った声を上げているのが聞こえて、頭が真っ白になった。おばあちゃんは基本的に家から出ない。買い物は生協で済ませちゃってるし、家が広いのでほぼ掃除や家事で手一杯だったからだ。最悪の現実を受け入れられなくて、呆然とすることしか出来なかった。
「あーあ、これじゃ助からないんじゃねー?」
「あ……」
「やっと目障りなジジィが消えて、これからシアワセになれたかもしれないのに」
目の前の惨状に目を離せないでいると、ぐいっと顎を掴まれて顔を強制的に上を向かされる。半間君とカチリと目が合う。色素の薄いその瞳には怯えきった私の顔が映っていて。そう気付いた時には、その目は満足そうに細められた。
「カワイソーになぁ♡」
その時の半間君の顔は今までで1番輝いていた。酷く恍惚としていて、だらしなく開いた口から白い八重歯が覗いていた。堪らなく高揚した様子にただただドン引きしてしまう。こいつ人でなしかよ。
その後のことはよく覚えていない。
私を引き取ってくれる候補は誰もいなかった。あんなに跡継ぎを重んじる家だったのに親戚はいなかったらしい。そんなことあります?だから自分の娘が捨てた孫をわざわざ施設まで引取りに来たのかな。確かに親戚がいないんじゃ実質跡継ぎ候補は私しかいなかっただろうね。
一体私の2年間なんだったんだろう、と未だに消えない腕の痣を見つめる。ただ一つ言えることは天涯孤独になったってことだ。やっぱり私の人生はハードモードだ。
嘘だろと思った。一瞬呼吸をすることを忘れてしまうが、それに気付いてくれるはずもなく、先生は淡々と続ける。交通事故だったらしい。いつも出掛けないくせによくもまあタイミングの悪い、と思った。おじいちゃんの信号無視だったらしい。世間知らずにも程があるだろ。それじゃあそれだけだからと先生は話を終えた。え?こういう時って病院で立ち会わせるもんじゃないの?説明を求めると、おばあちゃんの意思らしい。なんなんだ、どうせ恨んでるだろうからわざわざ来なくていいってことなのか。あまりにも寂しい対応に身体の内から冷えていく感覚がしたが、このまま留まっていても仕方がないので先生に一礼してから扉へと向かう。
職員室から出ると、半間君がいた。どうやら私を待っていたらしい。最近休み時間中でも近くにいるなぁ、とふと浮かぶが、正直心中穏やかじゃないのでそんなことはどうでもよかった。
「どーだったぁ」
「おじいちゃんが…、亡くなった」
「……ハ?」
珍しく半間君が目を真ん丸とさせた。貴重な表情だけど、それに構っていられるほど今の私には余裕がなかった。頭の中ではおじいちゃんから暴力を振るわれるシーンが次から次へと浮かんできていて。とてもじゃないが亡くなったことを信じられないでいると、それを咎めるように身体に出来た痣が酷く痛んだ。
半間君は少し腰を折り屈んで顔を近付けてきたかと思えば、じっと私を見つめる。その行為に動揺を隠しきれなくて、何を言われるんだろうと心臓が震えた。
「良かったなぁ♡」
「………は?」
にこっという効果音がぴったりなくらいの笑顔に今度は私が唖然としてしまう。吃驚して何を言ってるんだと聞くことも出来ないでいると、「だってよぉ…、」と半間君はにやにやしながら言葉を紡いだ。
「痛い思いはもちろん、やりたくねーこと強制されないで済むし、髪だってこれからは伸ばせるじゃん」
「そ、そうだけど…」
「目障りだったんだろ?」
まるで見透かすように半間君の瞳が私を射抜く。いや確かにしんどかったけど、死んで欲しいとかそこまでは思ってない。本当に心からそう思ってる。それでも半間君のその目は私に否定することを許さない威圧感があった。屈んでいることが疲れたのか半間君は姿勢を戻した。離れていく顔にホッと安堵する。
「……半間君ちょっと変わったよね」
「そーかぁ?」
「前は人に対して興味なかったじゃん」
「今ンとこオマエだけだぜ?」
「えっ」
それはどうして、と顔に出ていたのか、彼は私の顔を見るなり「ばはっ♡」と笑った。少なくとも出会ったばかりの頃はそんなハートが付くような話し方はしていなかった。何もかもがつまらなさそうな顔をしていたのに、いつからだったか彼はたまに猟奇的な目を向けるようになった。そんな彼と比べて私は圧倒的に精神年齢が高いはずなのに、普通にチキっていた。脳内に颯爽と登場してきたイザナ君がダッサと私を罵倒する。そういえば彼は元気だろうか。
「気が向いたら教えてやるよ」
「うーん…、知りたくないかも…」
だって単純じゃないロクでもない好意が向いてそうな気がするんだもの。絶対純粋に好きです!とかいうラブじゃないよ。面白そうな標的としか見られてない気がする。干渉されていない感じで一緒にいて気が楽だった半間君がちょっと苦手になった。
半間君とのちょっとした会話で亡くなったおじいちゃんのことをほんの少しの間でも忘れていたのだから、自分は薄情者だと気付いた時に今になって半間君から言われた言葉が胸を容赦なく抉っていった。こいつ本当に小学生か?
━━━━━━━━
おじいちゃんが亡くなって2週間が経つ。おばあちゃんは何も言わなかったが、剣道のことを続けないと何だか申し訳ない気持ちになった。今までの生活が忙しなかったので落ち着かないっていうのもあって、一応おじいちゃんが亡くなってからも練習は続けていた。ただ朝4時はいくらなんでも早いので、朝5時からにした。座禅を削った。私に座禅は必要ない。寝てしまう。おじいちゃんが亡くなった後のおばあちゃんはめちゃくちゃ優しかった。そりゃそうなんだよな。おじいちゃんに逆らえないから私を庇わなかっただけで他に言うことなかったもん。ご飯は美味しいし。ただ師範であるおじいちゃんが亡くなったので門下生はまあ辞めていった。それは仕方ない。だけどこれからどうやって生活していくのかなあ、と呑気に考えているが、子供の立場である自分がそんなこと気にするのは余計なお世話だろうか。
現在半間君と下校していた。お互いに友達がいないねって言ったら彼は怒るだろうか。放課後は稽古ということがあって遊ぶ時間のない私に付き合いが悪いと友達は出来なかった。正直今時の女の子の遊びについていける気もしなかったので、その面ではありがたかったのだが。これからは時間が出来たし、友達が欲しいなって思ったけど今更感もあるよなあ。うーんと唸っていると、「新生活はどお?」という質問を投げかけられた。
「おばあちゃんすごい優しいよ。髪もこれからは伸ばしていいって」
「ふーん」
「大丈夫かなー?黒髪ロングの私が復活したら半間君魅了されちゃうんじゃない?」
「へー」
「まじかよ、全然ツッコんでくれないじゃん」
しかも話題振っといて興味ないじゃん、と続けても半間君はつまらなさそうな顔をしてこっちを見向きもしなかった。この子のやる気スイッチがマジで分からん。黙って帰るのも居心地が悪いので、またマシンガントークお見舞いしてやろうかなと思っていると、ふと消防車とパトカーのサイレンがやけに喧しいことに気付いた。
「火事かな?」
「だと思うけど。つーかさ方角的にオレらの家の近所じゃね?」
「えっ本当に?」
黒煙が上がっていることに今更気付いた。呑気にも程があるのだが、確かに方角的に私達の家の方だ。なんとなく嫌な予感がして「ちょっと走ろう!」と半間君の手を取って走る。強引だったかなとも思ったが、素直に彼はついてきてくれた。
走れば走るほど距離がどんどん近付いてきて、やっぱり自分達の近所だということが嫌でも分かった。いやでもそんなまさかな。自宅なわけがない。しかし嫌な予感は的中する。
見慣れた古民家が見慣れない姿になっていた。消防車とパトカーが家の前を占拠する中、私の視界は炎に包まれた自宅しか映らなかった。
「う、うそ……!」
「危ねーからじっとしてろ」
たまらず飛び込もうとすると、お腹を半間君の腕で制止させられる。私の勢いが良かったのもあるが中々に力強くて「ぐぇ、」と緊張感のない声が漏れる。振り切っていけそうもないので私は燃え盛る自分の家をただただ見ることしか出来なかった。警察の人が住人と連絡がつかないぞ!と焦った声を上げているのが聞こえて、頭が真っ白になった。おばあちゃんは基本的に家から出ない。買い物は生協で済ませちゃってるし、家が広いのでほぼ掃除や家事で手一杯だったからだ。最悪の現実を受け入れられなくて、呆然とすることしか出来なかった。
「あーあ、これじゃ助からないんじゃねー?」
「あ……」
「やっと目障りなジジィが消えて、これからシアワセになれたかもしれないのに」
目の前の惨状に目を離せないでいると、ぐいっと顎を掴まれて顔を強制的に上を向かされる。半間君とカチリと目が合う。色素の薄いその瞳には怯えきった私の顔が映っていて。そう気付いた時には、その目は満足そうに細められた。
「カワイソーになぁ♡」
その時の半間君の顔は今までで1番輝いていた。酷く恍惚としていて、だらしなく開いた口から白い八重歯が覗いていた。堪らなく高揚した様子にただただドン引きしてしまう。こいつ人でなしかよ。
その後のことはよく覚えていない。
私を引き取ってくれる候補は誰もいなかった。あんなに跡継ぎを重んじる家だったのに親戚はいなかったらしい。そんなことあります?だから自分の娘が捨てた孫をわざわざ施設まで引取りに来たのかな。確かに親戚がいないんじゃ実質跡継ぎ候補は私しかいなかっただろうね。
一体私の2年間なんだったんだろう、と未だに消えない腕の痣を見つめる。ただ一つ言えることは天涯孤独になったってことだ。やっぱり私の人生はハードモードだ。