中学生編
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「タロー、早くこっち来いよ」
にこにこと上機嫌なマイキー君に呼ばれる。一瞬誰だよ、と思うがすぐに自分のことだったと気付いて彼に駆け寄った。太郎。それが、今の私の名前だ。何言ってるかよく分からないと思うだろうが、こんなことになっているのは少し事情がある。それは遡ること4日前のことだ。
悩みに悩んだ私はドラケン君をファミレスに呼び出した。待ちながらハンバーグランチを平らげた私は今度はパフェを食べていると、息を切らしたドラケン君がやってきた。どうしてそんな慌てて来たんだろう。そういえば「ドラケン君…、私もうダメかもしれない…」そんなことを呼び出す時電話で言ってしまったような気がする。やべ怒られると咄嗟に身構えていると、彼は私とパフェを交互に見た後思いっきり溜息を吐いて「脅かすんじゃねぇよ」と仕返しと言わんばかりに私の頭をぐっしゃぐしゃに撫でた。すげぇや鳥の巣だ。
ドラケン君は向かいの席に座ると頬杖をつきながら呆れたような面持ちで「…で?何かあったの?」と問いかけてきた。
「来てくれてありがとう…。実は今すごく悩んでいてね」
「悩んでるヤツは呑気にパフェなんか食わねぇだろ」
それはとんだ偏見だ。悩んでいてもお腹は減る。しかし彼が本当に心配して飛んできてくれたのは明白だったので、屁理屈こねるのは止めた。
「実はマイキー君の誕生日プレゼントに何を送ったらいいか全く思いつかなくてさ、どうしたらいいと思う?」
「…ああ?別にハナが選んだモンならマイキーは何でも喜ぶだろ」
「甘い、甘過ぎるわよ!まさにこのパフェの生クリームのように!」
「何言ってんだオマエ」
打ち明けた悩みに対して月並みの言葉が返ってきて堪らず咎めたが何故かドン引きされた。ドラケン君は分かっていないのだ。中学生の男の子が欲しがる物なんて生憎私には分からない。三日三晩考えたが、観光地でよく売ってる剣のキーホルダーしか案が出てこなかった。
「思い付かないならマイキーに直接聞けば?」
「ふっ、…私がそれをやっていないとでも?」
「あー…」
なんとなく察してくれたらしい。私がマイキー君に聞いた上でドラケン君に相談しているというこの状況は、直接聞いて何の参考にもならなかったということだ。ちなみに彼の答えは『毎日オレに会いに来てよ』だった。完全に常識範囲外だったので丁重にお断りさせていただいた。冗談を言っているようには見えなかったのだが彼は私が受験生だってことを分かっているのだろうか。まあ受験生じゃなくても普通に無理なんだけど。
「あーもー思い付かないしケーキだけで済ませちゃおっかな」
食べ終わったパフェをテーブルの端に置いて、もう疲れたと机に突っ伏す。事の発端はエマちゃんから『もうすぐマイキーの誕生日だからお祝いしてあげてね!』と連絡がきたからだ。我ながら薄情なことだが正直彼の誕生日なんてすっかり忘れていたしあの電話がなければ多分何もしなかった。当日に思い出せばおめでとうくらいは言ったかもしれないけど。エマちゃんから一方的に取り付けられた約束を反故できる筈もなく、こうしてドラケン君まで巻き込んでしまっているわけだが。
「まぁそれでもアイツは喜ぶだろ。なんならサプライズでも仕掛けて渡せばいいんじゃね?」
机に突っ伏す私を慰めようとドラケン君の心地よい優しい声が降ってくる。サプライズねぇ〜…ん?サプライズ…?
「それだ!!」
とある計画を閃いて勢いよく顔を上げると、ドラケン君はちょっとだけ吃驚したのか少しだけ肩を震わせた。あ、ごめんと咄嗟に謝ればいいよと言わんばかりに首を縦に振った後に彼は頬杖をつきながら「それで、」とまた良からぬことを考えているんじゃないかと不安そうな目で私を見た。
「何か思いついたんだろ」
「よくぞ聞いてくれました!私!変装します!!」
「…ハ?」
何を言ってるんだと眉を顰めたドラケン君に構わず説明した計画はこれだ。
まずは変装した姿でマイキー君と知り合いになる→何日かその姿で彼と会い、なんとか友達くらいにまで親しくなる→そして誕生日当日ケーキと共に実は私でしたと正体を明かす→わー!ビックリ!!→やったね!!サプライズ大成功!!
説明を終えるとドラケン君は先程より一層不安そうな顔をしていた。しかし私はそれを気にしていられるほど興奮していて余裕などなかった。正直、プレゼントに悩みすぎていて解放された喜びでハイになっていたのかもしれない。
「………」
「そうなったらさすがのマイキー君も吃驚するだろうし、誕生日プレゼントの存在を誤魔化せるでしょ!」
「まあ…うん。オマエがいいならいいんじゃね」
「そこで頼みがあるんだけど私のことマイキー君に紹介してくれない?何も接点なしから知り合いになるのキツいし」
「別にいーけど…」
「ありがとう!よし、そうと決まればさっそくド〇キ行かなきゃ」
「夕方マイキーと会うけど紹介すんのそん時でいい?」
「お願いします!」
今の時間はお昼回ったばかり。夕方となるとそこそこ時間はないが急ピッチでやればなんとか間に合うだろう。
ドラケン君と一旦解散をした後、私は変装道具を買いに行き、自宅で着替えた。ウィッグの取り付け方にだいぶ手間取り予想した通り時間はなかったが、なんとかギリギリ間に合いました。最後に鏡でチェックしたが私って分からないはず!多分!!
急いで待ち合わせ場所に向かうと既にドラケン君は待っていたので、私は彼の後ろに回り肩をぽんっと軽く叩いた。
「やっ!待たせてごめんね」
「…………」
「え?無視?」
振り返ったドラケン君は私を見てぽかーんとしていた。中々レアな表情だったので写真におさめたいけど撮ったら怒られるかな。
「…ハナだよな?」
「うん」
「いや、男じゃん」
そう、私は男装をしていた。茶髪のウィッグにカラコンまで入れて、服はよく分かんなかったから白のワイシャツに黒いズボンの学生服にした。元々ない胸も潰して、あとウレタンマスクつけた。流石にマスクなしで私ってバレないレベルの化粧とか出来ない。
「どうせやるなら性別変えた方がバレにくくなるかなって。どうよ?私って分かんない?」
「正直どこのチャラ男かと思った」
「チャラ男て。まぁ私元々が清純派女子だからね!それも相まって余計分からなかったかな!」
「………」
「すみません、嘘です」
調子に乗ったことを言えばドラケン君に冷めた目を向けられたので即座に謝ると「見慣れないヤツからハナの声がしてキモチワリィ…」と今度は苦い顔をされた。どうやら変装大成功のようだ。マイキー君は家で待っているそうなので向かうべくドラケン君と肩を並べて歩く。
「つーか声はどうすんの?そのままだとすぐバレんぞ」
「頑張って低い声出すしかない」
「大丈夫かよ」
「知ってる?テレビ情報なんだけどさ、顎しゃくれば低い声出るらしいよ。さすがにキツイからやらないけど」
「へー、じゃあしゃくれたまんま変なツラでいけばマスク取ってもオマエだってバレないんじゃね?」
「おい」
ふざけるドラケン君を軽くぺしっと叩く。しゃくっとけばバレないって言ってること銀さんと同じなんよ。そういやあのキャバクラ回は面白かったな、と思い出していると佐野家の立派なお宅が見えてきて、予めドラケン君が何時くらいに着く旨を伝えていたのかマイキー君は家の前で待っていた。私達に気付いた彼とばちりと目が合う。いつもだったらすぐ笑顔を向けてくれるのにその顔は無表情なので私だと気付いていないっぽい。良かった〜。
「誰ソイツ、ケンチンの知り合い?」
「おー、最近ダチになった」
「ふーん」
マイキー君の真っ黒な瞳が私を捉える。突き刺すかのような痛い視線に耐えられなくて「うっす…」しか言えなかった。オマエそんなんで大丈夫かよ、と言いたげなドラケン君からの視線まで痛かったが、生憎メンタルの弱い私は目を泳がせることしか出来ない。
「名前は?」
「…………あっ」
やっべー変装のことで頭がいっぱいで名前を聞かれるなんて全く考慮していなかった。冷静に考えれば分かりそうなものだが、今更後悔したところで遅い。呆れ顔のドラケン君に気付かないふりをして、何か覚えやすい良い名前はないものかと考える。うーんマジでどうしよ。考えていて答える様子のない私にマイキー君は眉を寄せながら不満気な顔をしていた。やばい時間がない。
「なあ、名前聞いてんだけど」
「えー…っとですね……」
「オレには言えねぇの?」
「すみません!太郎っていいます!」
「ぶはっ!」
ドラケン君が勢いよく吹き出した。すぐに口を手で押さえて笑い堪える彼の肩はピクピクと震えている。いい名前だろ、何がおかしいんだ。今度は私が視線を送るが、ドラケン君は顔を逸らして未だに手で口を覆っている。そこまで笑うことないだろ。
私達のやり取りを見て仲が良いと判断したのか分からないが、マイキー君はニコッという効果音がぴったりの笑顔を向けてきた。
「じゃあオレともダチな。これから銭湯行くんだけど、タローも一緒に行こうぜ」
「ファッ!?」
なんという予想外の展開だ。自分にとってどうでもいい人とは話さない彼がすんなり受け入れてくれただけでも驚きなのに、それ以上のモンをぶっ込まれたぞ。
ここで素直について行ったら痴女扱いされ通報されてしまう。そうなったら今度こそ叔父さんに呆れられてしまうだろう。このルートだけは何としても回避せねば。どう断ろうかと足りない頭をフル回転させていると、まずいと思ってくれたのかドラケン君が私達の間に割って入ってきた。
「悪ィな、コイツは行けねぇんだよ」
「なんで?」
「あー……、確かオマエ銭湯恐怖症だって言ってたよな…?」
「えっ」
ありがたいことにフォローに入ってくれたのだが、普段クールなドラケン君からは有り得ない苦し紛れの嘘が出てきた。なんだよ銭湯恐怖症って。マイキー君の顔見てみろよ、すっごい微妙な顔してるぞ。しかしせっかく善意で助け舟を出してくれた彼を嘘つき呼ばわりさせるわけにはいかない。乗るしかない、このビッグウェーブに。
「そうなんすよね〜実は5歳の頃に銭湯で走って遊んでたら盛大に転けて思いっきり背中と頭を強打しちゃってそれから怖くて行ってないんすよね〜」
「それなら別に走らなきゃよくね?」
「っえ、と……あ!!あと風呂上がりの牛乳が気管に入って死にかけたことあります!」
「牛乳飲まなきゃいいじゃん」
「その……知らない人がいるお風呂とかちょっと苦手なんで…」
「オレらがいるんだし周りなんか気にしなくていーだろ」
「…………」
あ、これ完全に詰みました。なんとかひねり出した弱いエピソードをあっさりと論破され心が折れる。こんなことなら事前にしっかり打ち合わせしておけばよかった。もうどうしていいか分かんないし素直に無理って断ろう。付き合いが悪いと嫌われたら嫌われたで太郎は封印してまた誕プレ考え直せばいいし。しんどいけど。
「誘ってくれた佐野君には悪いけど…」
「マイキー」
「…え?」
「マイキーでいいよ」
「いやそれはちょっと」
「は?」
「マイキーが呼べって言うんだからそう呼んどけよ」
「えぇ…」
それもお断りしたいんですけど…。マイキー君の機嫌が悪くなるからとドラケン君までそっち側についてしまった。私は器用な人間ではないので彼をマイキー君と呼んだら変装しているのにいつも通りに接してボロが出てしまう気がする。だからそれだけは避けたかったのだが、これも断ったらさすがに怒られるかな。
「まだ知り合ったばかりだし、佐野君がいいんですけど…」
「ダメ。いーから早く呼べって」
「…今ですか?」
「うん」
早くしろよと言いたげな2人からの視線が痛い。そんな目向けられるとまるで私が駄々っ子のようじゃないか。仕方ないと溜息を1つ吐く。
「………ま、マイキー君」
「!」
観念して呼べば何故か当の本人は吃驚したように目を丸くしていた。え?なんで?
「やっぱりオマエ……」
「な、なんか呼び方変でした?」
「…いや、やっぱりオマエ銭湯来なくていーよ。でもそのあとの集会には来て」
「お!マジでございますか!じゃあ時間まで銭湯の外で待ってます!」
まさかの銭湯来なくていい発言に、助かったと安堵してテンションが上がる。せっかく変装道具買ってきたのに初日どころか数分でお釈迦になるとこだったからね。
気にせずゆっくり入ってもらって大丈夫なんで!と見送る私に対してマイキー君は顔だけ振り返ってニコリと微笑むとドラケン君と肩を並べて暖簾をくぐっていった。「ケンチン、あのさぁ……」「あー…、もう分かっちまったんだな…」という2人の会話が途切れ途切れ耳に入る。小さくてよく聞こえなかったけど何の話だろう。
にこにこと上機嫌なマイキー君に呼ばれる。一瞬誰だよ、と思うがすぐに自分のことだったと気付いて彼に駆け寄った。太郎。それが、今の私の名前だ。何言ってるかよく分からないと思うだろうが、こんなことになっているのは少し事情がある。それは遡ること4日前のことだ。
悩みに悩んだ私はドラケン君をファミレスに呼び出した。待ちながらハンバーグランチを平らげた私は今度はパフェを食べていると、息を切らしたドラケン君がやってきた。どうしてそんな慌てて来たんだろう。そういえば「ドラケン君…、私もうダメかもしれない…」そんなことを呼び出す時電話で言ってしまったような気がする。やべ怒られると咄嗟に身構えていると、彼は私とパフェを交互に見た後思いっきり溜息を吐いて「脅かすんじゃねぇよ」と仕返しと言わんばかりに私の頭をぐっしゃぐしゃに撫でた。すげぇや鳥の巣だ。
ドラケン君は向かいの席に座ると頬杖をつきながら呆れたような面持ちで「…で?何かあったの?」と問いかけてきた。
「来てくれてありがとう…。実は今すごく悩んでいてね」
「悩んでるヤツは呑気にパフェなんか食わねぇだろ」
それはとんだ偏見だ。悩んでいてもお腹は減る。しかし彼が本当に心配して飛んできてくれたのは明白だったので、屁理屈こねるのは止めた。
「実はマイキー君の誕生日プレゼントに何を送ったらいいか全く思いつかなくてさ、どうしたらいいと思う?」
「…ああ?別にハナが選んだモンならマイキーは何でも喜ぶだろ」
「甘い、甘過ぎるわよ!まさにこのパフェの生クリームのように!」
「何言ってんだオマエ」
打ち明けた悩みに対して月並みの言葉が返ってきて堪らず咎めたが何故かドン引きされた。ドラケン君は分かっていないのだ。中学生の男の子が欲しがる物なんて生憎私には分からない。三日三晩考えたが、観光地でよく売ってる剣のキーホルダーしか案が出てこなかった。
「思い付かないならマイキーに直接聞けば?」
「ふっ、…私がそれをやっていないとでも?」
「あー…」
なんとなく察してくれたらしい。私がマイキー君に聞いた上でドラケン君に相談しているというこの状況は、直接聞いて何の参考にもならなかったということだ。ちなみに彼の答えは『毎日オレに会いに来てよ』だった。完全に常識範囲外だったので丁重にお断りさせていただいた。冗談を言っているようには見えなかったのだが彼は私が受験生だってことを分かっているのだろうか。まあ受験生じゃなくても普通に無理なんだけど。
「あーもー思い付かないしケーキだけで済ませちゃおっかな」
食べ終わったパフェをテーブルの端に置いて、もう疲れたと机に突っ伏す。事の発端はエマちゃんから『もうすぐマイキーの誕生日だからお祝いしてあげてね!』と連絡がきたからだ。我ながら薄情なことだが正直彼の誕生日なんてすっかり忘れていたしあの電話がなければ多分何もしなかった。当日に思い出せばおめでとうくらいは言ったかもしれないけど。エマちゃんから一方的に取り付けられた約束を反故できる筈もなく、こうしてドラケン君まで巻き込んでしまっているわけだが。
「まぁそれでもアイツは喜ぶだろ。なんならサプライズでも仕掛けて渡せばいいんじゃね?」
机に突っ伏す私を慰めようとドラケン君の心地よい優しい声が降ってくる。サプライズねぇ〜…ん?サプライズ…?
「それだ!!」
とある計画を閃いて勢いよく顔を上げると、ドラケン君はちょっとだけ吃驚したのか少しだけ肩を震わせた。あ、ごめんと咄嗟に謝ればいいよと言わんばかりに首を縦に振った後に彼は頬杖をつきながら「それで、」とまた良からぬことを考えているんじゃないかと不安そうな目で私を見た。
「何か思いついたんだろ」
「よくぞ聞いてくれました!私!変装します!!」
「…ハ?」
何を言ってるんだと眉を顰めたドラケン君に構わず説明した計画はこれだ。
まずは変装した姿でマイキー君と知り合いになる→何日かその姿で彼と会い、なんとか友達くらいにまで親しくなる→そして誕生日当日ケーキと共に実は私でしたと正体を明かす→わー!ビックリ!!→やったね!!サプライズ大成功!!
説明を終えるとドラケン君は先程より一層不安そうな顔をしていた。しかし私はそれを気にしていられるほど興奮していて余裕などなかった。正直、プレゼントに悩みすぎていて解放された喜びでハイになっていたのかもしれない。
「………」
「そうなったらさすがのマイキー君も吃驚するだろうし、誕生日プレゼントの存在を誤魔化せるでしょ!」
「まあ…うん。オマエがいいならいいんじゃね」
「そこで頼みがあるんだけど私のことマイキー君に紹介してくれない?何も接点なしから知り合いになるのキツいし」
「別にいーけど…」
「ありがとう!よし、そうと決まればさっそくド〇キ行かなきゃ」
「夕方マイキーと会うけど紹介すんのそん時でいい?」
「お願いします!」
今の時間はお昼回ったばかり。夕方となるとそこそこ時間はないが急ピッチでやればなんとか間に合うだろう。
ドラケン君と一旦解散をした後、私は変装道具を買いに行き、自宅で着替えた。ウィッグの取り付け方にだいぶ手間取り予想した通り時間はなかったが、なんとかギリギリ間に合いました。最後に鏡でチェックしたが私って分からないはず!多分!!
急いで待ち合わせ場所に向かうと既にドラケン君は待っていたので、私は彼の後ろに回り肩をぽんっと軽く叩いた。
「やっ!待たせてごめんね」
「…………」
「え?無視?」
振り返ったドラケン君は私を見てぽかーんとしていた。中々レアな表情だったので写真におさめたいけど撮ったら怒られるかな。
「…ハナだよな?」
「うん」
「いや、男じゃん」
そう、私は男装をしていた。茶髪のウィッグにカラコンまで入れて、服はよく分かんなかったから白のワイシャツに黒いズボンの学生服にした。元々ない胸も潰して、あとウレタンマスクつけた。流石にマスクなしで私ってバレないレベルの化粧とか出来ない。
「どうせやるなら性別変えた方がバレにくくなるかなって。どうよ?私って分かんない?」
「正直どこのチャラ男かと思った」
「チャラ男て。まぁ私元々が清純派女子だからね!それも相まって余計分からなかったかな!」
「………」
「すみません、嘘です」
調子に乗ったことを言えばドラケン君に冷めた目を向けられたので即座に謝ると「見慣れないヤツからハナの声がしてキモチワリィ…」と今度は苦い顔をされた。どうやら変装大成功のようだ。マイキー君は家で待っているそうなので向かうべくドラケン君と肩を並べて歩く。
「つーか声はどうすんの?そのままだとすぐバレんぞ」
「頑張って低い声出すしかない」
「大丈夫かよ」
「知ってる?テレビ情報なんだけどさ、顎しゃくれば低い声出るらしいよ。さすがにキツイからやらないけど」
「へー、じゃあしゃくれたまんま変なツラでいけばマスク取ってもオマエだってバレないんじゃね?」
「おい」
ふざけるドラケン君を軽くぺしっと叩く。しゃくっとけばバレないって言ってること銀さんと同じなんよ。そういやあのキャバクラ回は面白かったな、と思い出していると佐野家の立派なお宅が見えてきて、予めドラケン君が何時くらいに着く旨を伝えていたのかマイキー君は家の前で待っていた。私達に気付いた彼とばちりと目が合う。いつもだったらすぐ笑顔を向けてくれるのにその顔は無表情なので私だと気付いていないっぽい。良かった〜。
「誰ソイツ、ケンチンの知り合い?」
「おー、最近ダチになった」
「ふーん」
マイキー君の真っ黒な瞳が私を捉える。突き刺すかのような痛い視線に耐えられなくて「うっす…」しか言えなかった。オマエそんなんで大丈夫かよ、と言いたげなドラケン君からの視線まで痛かったが、生憎メンタルの弱い私は目を泳がせることしか出来ない。
「名前は?」
「…………あっ」
やっべー変装のことで頭がいっぱいで名前を聞かれるなんて全く考慮していなかった。冷静に考えれば分かりそうなものだが、今更後悔したところで遅い。呆れ顔のドラケン君に気付かないふりをして、何か覚えやすい良い名前はないものかと考える。うーんマジでどうしよ。考えていて答える様子のない私にマイキー君は眉を寄せながら不満気な顔をしていた。やばい時間がない。
「なあ、名前聞いてんだけど」
「えー…っとですね……」
「オレには言えねぇの?」
「すみません!太郎っていいます!」
「ぶはっ!」
ドラケン君が勢いよく吹き出した。すぐに口を手で押さえて笑い堪える彼の肩はピクピクと震えている。いい名前だろ、何がおかしいんだ。今度は私が視線を送るが、ドラケン君は顔を逸らして未だに手で口を覆っている。そこまで笑うことないだろ。
私達のやり取りを見て仲が良いと判断したのか分からないが、マイキー君はニコッという効果音がぴったりの笑顔を向けてきた。
「じゃあオレともダチな。これから銭湯行くんだけど、タローも一緒に行こうぜ」
「ファッ!?」
なんという予想外の展開だ。自分にとってどうでもいい人とは話さない彼がすんなり受け入れてくれただけでも驚きなのに、それ以上のモンをぶっ込まれたぞ。
ここで素直について行ったら痴女扱いされ通報されてしまう。そうなったら今度こそ叔父さんに呆れられてしまうだろう。このルートだけは何としても回避せねば。どう断ろうかと足りない頭をフル回転させていると、まずいと思ってくれたのかドラケン君が私達の間に割って入ってきた。
「悪ィな、コイツは行けねぇんだよ」
「なんで?」
「あー……、確かオマエ銭湯恐怖症だって言ってたよな…?」
「えっ」
ありがたいことにフォローに入ってくれたのだが、普段クールなドラケン君からは有り得ない苦し紛れの嘘が出てきた。なんだよ銭湯恐怖症って。マイキー君の顔見てみろよ、すっごい微妙な顔してるぞ。しかしせっかく善意で助け舟を出してくれた彼を嘘つき呼ばわりさせるわけにはいかない。乗るしかない、このビッグウェーブに。
「そうなんすよね〜実は5歳の頃に銭湯で走って遊んでたら盛大に転けて思いっきり背中と頭を強打しちゃってそれから怖くて行ってないんすよね〜」
「それなら別に走らなきゃよくね?」
「っえ、と……あ!!あと風呂上がりの牛乳が気管に入って死にかけたことあります!」
「牛乳飲まなきゃいいじゃん」
「その……知らない人がいるお風呂とかちょっと苦手なんで…」
「オレらがいるんだし周りなんか気にしなくていーだろ」
「…………」
あ、これ完全に詰みました。なんとかひねり出した弱いエピソードをあっさりと論破され心が折れる。こんなことなら事前にしっかり打ち合わせしておけばよかった。もうどうしていいか分かんないし素直に無理って断ろう。付き合いが悪いと嫌われたら嫌われたで太郎は封印してまた誕プレ考え直せばいいし。しんどいけど。
「誘ってくれた佐野君には悪いけど…」
「マイキー」
「…え?」
「マイキーでいいよ」
「いやそれはちょっと」
「は?」
「マイキーが呼べって言うんだからそう呼んどけよ」
「えぇ…」
それもお断りしたいんですけど…。マイキー君の機嫌が悪くなるからとドラケン君までそっち側についてしまった。私は器用な人間ではないので彼をマイキー君と呼んだら変装しているのにいつも通りに接してボロが出てしまう気がする。だからそれだけは避けたかったのだが、これも断ったらさすがに怒られるかな。
「まだ知り合ったばかりだし、佐野君がいいんですけど…」
「ダメ。いーから早く呼べって」
「…今ですか?」
「うん」
早くしろよと言いたげな2人からの視線が痛い。そんな目向けられるとまるで私が駄々っ子のようじゃないか。仕方ないと溜息を1つ吐く。
「………ま、マイキー君」
「!」
観念して呼べば何故か当の本人は吃驚したように目を丸くしていた。え?なんで?
「やっぱりオマエ……」
「な、なんか呼び方変でした?」
「…いや、やっぱりオマエ銭湯来なくていーよ。でもそのあとの集会には来て」
「お!マジでございますか!じゃあ時間まで銭湯の外で待ってます!」
まさかの銭湯来なくていい発言に、助かったと安堵してテンションが上がる。せっかく変装道具買ってきたのに初日どころか数分でお釈迦になるとこだったからね。
気にせずゆっくり入ってもらって大丈夫なんで!と見送る私に対してマイキー君は顔だけ振り返ってニコリと微笑むとドラケン君と肩を並べて暖簾をくぐっていった。「ケンチン、あのさぁ……」「あー…、もう分かっちまったんだな…」という2人の会話が途切れ途切れ耳に入る。小さくてよく聞こえなかったけど何の話だろう。
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