中学生編
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「どうしても保護者の方は参加できないか?」
移動教室で騒がしい中呼び止められたと思ったら、終わったはずの嫌な話を蒸し返され無意識に顔を顰める。担任の先生が言っているのは以前配られた進路相談も兼ねた三者面談のお知らせのことだった。希望日時の提出を求められ、私は保護者抜きで自分だけ参加することを伝えた。叔父さんに相談したところで、どうでもいいと一蹴されることなんて分かりきっていたからだ。嫌がる空気を察してか、気まずそうに私を伺う目は泳いでいて視線は交わらない。
「ごめんなさい。何度言われても面談は私だけで行います」
頭を下げて答えるが、何も言われないので顔を上げると、どう接していいのか分からないのか先生はオロオロしていた。申し訳ないけど無理なものは無理だ。時間もないので失礼します、ともう一度先生に軽く一礼して私はその場を後にした。
━━━━━━
『もうすぐ着く』そのメールを受信して、寝転がっていたベッドから起き上がる。家から近くの公園を待ち合わせ場所にしていたので行かなければ。
自室から出るとリビングで叔父さんがくしゃくしゃになった紙を見ていた。何だろうと思うも、すぐにそれの正体に気付いてぎょっとする。それはゴミ箱に捨てたはずの三者面談のお知らせだった。くしゃくしゃに丸めたことが記憶に新しいそのプリントを叔父さんはおそらくわざわざ押し広げたのだろう。どうしてそんな面倒なことをしたのか意図が読めないでいると、叔父さんは私と顔を合わせるなり罰の悪そうな顔をする。
「…それ、先生には断っといたから」
「……そうか」
気まずい空気が流れるので、とりあえず説明した。すると叔父さんはプリントをテーブルの上に置くと、折り曲げた人差し指で眼鏡を押し上げた。レンズが照明の光で反射してどんな顔をしているか分からないが「懸命な判断だ」と放たれた言葉はいつも通り冷えた声だった。
もういいや、さっさと行こう。なんでわざわざゴミ箱から拾って見ていたのかなんてこの際どうでもいい。気にしたところで何の意味もない。
「…ちょっと出掛けてくる。帰る時間はいつも通りメールするから」
叔父さんの横を通り過ぎて玄関へと向かう為にドアノブに手を掛けたところで「花子、」と呼ばれる。振り返らずに、そのまま言葉を待つ。
「お前が何しようと勝手だが、面倒事だけは起こしてくれるなよ」
私が暴走族の子達と連んでいるのを知ってか知らずか牽制の言葉を投げ掛けられた。ここに住まわせてもらって半年ほど経つが、その間に耳にタコが出来るんじゃないかってくらい同じことを言われ続けてきた。そんなこと分かってる。しくじったら、後がないってことくらい。
公園へやってくれば、すでにドラケン君はいた。愛機に跨った彼はやって来た私に気付くと、「よぉ」と軽く片手を上げた。待たせてしまったと小走りで彼の元へと寄る。
「待たせてごめん」
「んな待ってねーよ。マイキー達もう着いてるから、さっさと行くか」
「どこ行くんだっけ?」
「ゲーセン」
聞きながら渡されたヘルメットを被り、ドラケン君の後ろに乗る。そういえばそうだった。マイキー君とドラケン君とエマちゃんと私でゲーセン行く約束してたんだった。兄妹の2人はすでに現地に行ってるらしい。
彼の肩へと手を置くと、それを合図にバイクが走り出す。流れる景色へ目をやっていると、ふとあることに気付く。
「ドラケン君と一緒に行ったらエマちゃんにヤキモチ妬かれるんじゃ…」
「は?何でだよ、別に大丈夫だろ」
「いやー、妬かれるでしょ。…なんなら賭ける?」
「いーよ。なに賭ける?」
「人数分アイスね!あのたっかいやつ」
もし手土産に持って行ったらキングと崇め奉られる1つ300円くらいする例のアイスのことだ。学生には中々の痛手だろう。さすがにドラケン君も自信失くすだろ。しかし彼は「乗った」と快く承諾する。そんな強気だと逆にこっちが自信失くすんですけど。
「見てみて、マイキー!あのぬいぐるみすっごい可愛いんだけど!」
「え〜、オレあの隣にあるお菓子食いてぇ」
ゲーセンに着くとクレーンゲームを見ながら、腕を組んでイチャついてる兄妹がいた。アイツら仲良いな。遠くから観察していると、すぐマイキー君にバレた。続いてエマちゃんもこちらに気付くと「おーい!」と手を振ってきた。その顔は全く邪気のない満面の笑みだった。
「な?妬かねーだろ」
「…………」
横に並んでいるドラケン君は何も言わない私に「アイスごっそさん」と悪戯に笑う。待ってくれ、もしかしたら隠してるだけかもしれない。まだ諦めきれない私は、マイキー君の手を引きながらこちらにやって来たエマちゃんに耳元でひそひそと恐る恐る問い掛ける。
「…つかぬ事をお聞きしますが、エマちゃんヤキモチ妬いたりとかしないの?」
「え?誰に?…もしかしてハナちゃんに?」
こくこくと頷けば、エマちゃんは可笑しそうに笑った。
「ないない。だってハナちゃん誰のことも意識してないじゃん」
「………」
「そんなつもりないの分かってるし」
「っ分かんないじゃん!もしかしたらドラケン君のこともマイキー君のことも意識してるかもしれないじゃん!」
「じゃあ今のウチとマイキー見て、どお?ちょっとでもイヤ?」
「いや別に。……あっ!すごくモヤモヤします!」
「ほらね」
終わった。慌てて取り繕っても遅かった。見事にエマちゃんによって証明されて絶望した私の横で「ハナがたっけぇアイス奢ってくれるってよ」とドラケン君が2人に言うから、それを聞いた仲良し兄妹は目を輝かせる。この勝負、おわたで工藤。つーか私はドラケン君の愛機以下か。
最近漫画の新刊が立て続けに発売してそれを買った後の私の財布は全く頼りないものになっていた。…アイスは買えるけど今月はひもじい生活になるなぁ、と自業自得でしかない私を置いて奥へと進む3人は楽しそうに笑い合っている。美男美女しかいねぇ。
「あのさ、皆でプリクラ撮らない?」
私が3人に追い付いたところで、エマちゃんがそう提案するとマイキー君とドラケン君はあからさまに嫌そうな顔をした。お前らはいいだろ、顔良いんだから。私なんかさっき美男美女しかいねぇって思ったばかりだぞ。この面子でプリクラとか私からしたら罰ゲームでしかない。男2人の芳しくない反応に味方を増やすべくエマちゃんは私の腕にするりと手を添えてきた。
「ハナちゃんも撮りたいよね?」
「……チャリで来たポーズで撮るか」
チョロい私は首を縦に振っていた。仕方ないだろ、美人には弱いんだ。しかしOKを下した私の言っている意味が分からないのか、3人に微妙な顔をされた。想像したら絵面がちょっと面白いしポーズ教えてやるから撮ろうぜ。
「オマエら2人で撮ってこいよ」
「えー!それじゃ4人で来た意味ないじゃん!」
溜息混じりに言ったドラケン君にエマちゃんは抗議するもほんのり頬は赤い。あ、これ私達を口実にしてドラケン君と撮りたいんじゃん。くそ可愛いな。微笑ましいなぁとニヨニヨしていると、今度はエマちゃんはドラケン君からマイキー君へ顔を向けた。
「マイキーもハナちゃんと撮りたいでしょ?」
「え?」
そこでちらりとマイキー君が私を見る。恋する乙女の為に一肌脱ごうぜ、という合図のウインクをしたら思いっきり顔をそらされた。見るに堪えないってか。
「……どーしてもエマとハナが撮りたいって言うならいいけど」
「…ハ?まじかよ、マイキー」
「ウン」
「ほら〜総長が言ってるのにドラケン君は断っていいの?」
「うっせ」
「いだ!」
ドラケン君からデコピンをくらってしまった。手加減してるんだろうけど元々の力が強いので普通に痛い。まあイザナ君からくらってきた暴力と比べれば全然マシだが。3対1になってしまったので断れないと判断したドラケン君が渋々首を縦に振ったところで、エマちゃんは顔を嬉しそうに綻ばせた。まじで可愛いのでこの2人を一生遠目から見てたい。
プリ機に入って行った2人に続いてカーテンを通ろうとするマイキー君の腕を引いた。振り返って何かを言おうとする彼に、しー!っと人差し指を口元へ持っていく。伝わったのか押し黙るマイキー君に微笑みかけて「行くよ」とそのまま彼の腕を引いてその場から離れた。
ガコン、と景品が落ちる。取り出し口からお菓子を取りマイキー君に差し出せば「スゲー!」と興奮気味に目を輝かせていた。
2人からさり気なく離れた後、そういえばこの兄妹お菓子とぬいぐるみを欲しがってたなと思い出し、大人しくついてきてくれたことのお礼ということでクレームゲームをやってみたらすぐ取れた。お菓子とぬいぐるみを抱えたマイキー君はさながら子供のようだ。…いや、子供か。ほんの少しの照れ隠しでへらへらしていると、マイキー君は変わらずキラキラした目を向けてくる。
「こんなすっげぇの初めて見た!コレで取れたことオレ今まで1度もねぇもん!」
「まぁ平凡の私にもこれくらいの特技はあっていいでしょ」
「……平凡?オマエが?」
両手に戦利品を抱えたマイキー君は驚いたように目をぱちぱちをしたかと思いきや、すぐに可笑しそうに吹き出した。
「ははっ、ハナみてぇに変なヤツが平凡とか何のジョーダンだよ」
「は〜?私はフツーですけど?」
「どこが」
「どこがって全体的に」
「じゃあ皆に聞いてみようか?絶対オレ側につくから」
「いや総長のきみが聞いたらそりゃ皆そっち側につくでしょ。確実にこっちは不利じゃん」
「…別にそれは関係ないだろ」
「関係あるよ。きみは知らないだろうけど、ちょっと否定したらみーんな『あ?マイキーが間違ってるっていうのか?』ってすぐ喧嘩腰になるからね」
「オレが間違ってないからじゃね?」
「さすが唯我独尊男。ブレねぇや」
ここまで省みないと逆に賞賛してしまうよ。店員さんなら袋を貰って景品をその中に入れると身軽になったマイキー君は「んなことどーでもいいから早く次のやつ取ろーぜ!」と私の手を引く。自分の食べたいお菓子が景品のクレームゲームに連れて行かれるんだろうなと思っていると、ばったりとドラケン君&エマちゃんと鉢合わせた。視線がばちりと交わったと同時に頬をぷくっと膨らませたエマちゃんがツカツカとこちらへと歩み寄ってくる。
「えっ、ちょ」
「マイキー、ちょっとハナちゃん借りるから!」
繋がれていた手を引っ剥がすとエマちゃんはそのまま私の腕を引いた。ぽかんとしているマイキー君とドラケン君に見送られながら、何が何だか分からないまま私は彼女にどこかへ連れて行かれる。
ある程度2人から距離が取られたところでエマちゃんは漸く止まると、くるりと振り返った。その顔は兄であるマイキー君とそっくりなふくれっ面で。何か怒らせるようなことをしただろうかとドキドキしてしまう。
「ハナちゃんともプリクラ撮りたかった!」
「えっ」
何を言われるのか身構えていたが、予想の斜め上の言葉を放たれて情けない声が出る。「えっ…じゃないよ!」と彼女はぷりぷり怒ったままだ。気を回したつもりだったけど、余計なお世話だったらしい。
「ごめんね。お腹痛くなっちゃって、マイキー君に付き添っててもらってたんだ」
「…ふーん?」
「声掛ければよかったよね。ごめん」
「ソレ嘘でしょ」
「うっ」
「ケンちゃんと2人で撮らせようとしてくれたのバレバレだから」
ついた嘘も魂胆もあっさりと見破られ、言葉が詰まる。参ったなぁ、どう切り抜けようか考えていると、さっきまでのふくれっ面はどこへやらエマちゃんのその顔は仕方なさそうな緩い微笑みへと変わる。手に温もりを感じて一瞥すれば、右手を彼女の両手に包まれていた。
「…エマちゃん?」
「…ウチ、ハナちゃんのそういうとこ好き」
「えっ?」
「さり気なーく行動して優しさをひけらかさない?とこ」
急に褒められて吃驚してしまう。彼女の真っ直ぐな言葉に目を見開かせる私をよそに、「さっきさ、ウチにヤキモチ妬かないの?って聞いたでしょ」そう続けたエマちゃんは柔らかい笑顔のままだ。
「自分より人の幸せを第一に考えてくれる…、そんなハナちゃんだからケンちゃんの後ろ乗っててもヤキモチ妬けないんだよ」
それは買い被りすぎだ。私はそんな大層な人間じゃない。ただエマちゃんに喜んで欲しくて勝手にやっただけだ。否定したい気持ちは山々だったのだが、そんなことないよと言われるのが目に見えていたので言葉を飲み込む。それでもムズムズと気恥ずかしいこの空気を変えたくて「…いいの撮れた?」と聞けば、エマちゃんは予想に反して顔を青くした。そしてポケットから取り出された撮ってきたプリクラを差し出される。それを手に取ると、いつもより少しだけ照れ臭そうなドラケン君と顔を真っ赤にしてカチコチになったエマちゃんがその中にいた。
「…ふっ、」
「あー!変な顔だからって笑ったでしょ!しょうがないじゃん!いつもより距離近いんだもん!」
だから一緒に撮りたいって言ったのに!と半泣きのエマちゃんにぽかぽかと叩かれる。緊張してぎこちない笑顔を浮かべているのが可愛くてついって言っても、多分信じてくれないよなぁ。
されるがままの私と半泣きのエマちゃんを見て修羅場だと勘違いした2人が止めに来るまで、心がほっこりとするそのプリクラをずっと眺めていた。
移動教室で騒がしい中呼び止められたと思ったら、終わったはずの嫌な話を蒸し返され無意識に顔を顰める。担任の先生が言っているのは以前配られた進路相談も兼ねた三者面談のお知らせのことだった。希望日時の提出を求められ、私は保護者抜きで自分だけ参加することを伝えた。叔父さんに相談したところで、どうでもいいと一蹴されることなんて分かりきっていたからだ。嫌がる空気を察してか、気まずそうに私を伺う目は泳いでいて視線は交わらない。
「ごめんなさい。何度言われても面談は私だけで行います」
頭を下げて答えるが、何も言われないので顔を上げると、どう接していいのか分からないのか先生はオロオロしていた。申し訳ないけど無理なものは無理だ。時間もないので失礼します、ともう一度先生に軽く一礼して私はその場を後にした。
━━━━━━
『もうすぐ着く』そのメールを受信して、寝転がっていたベッドから起き上がる。家から近くの公園を待ち合わせ場所にしていたので行かなければ。
自室から出るとリビングで叔父さんがくしゃくしゃになった紙を見ていた。何だろうと思うも、すぐにそれの正体に気付いてぎょっとする。それはゴミ箱に捨てたはずの三者面談のお知らせだった。くしゃくしゃに丸めたことが記憶に新しいそのプリントを叔父さんはおそらくわざわざ押し広げたのだろう。どうしてそんな面倒なことをしたのか意図が読めないでいると、叔父さんは私と顔を合わせるなり罰の悪そうな顔をする。
「…それ、先生には断っといたから」
「……そうか」
気まずい空気が流れるので、とりあえず説明した。すると叔父さんはプリントをテーブルの上に置くと、折り曲げた人差し指で眼鏡を押し上げた。レンズが照明の光で反射してどんな顔をしているか分からないが「懸命な判断だ」と放たれた言葉はいつも通り冷えた声だった。
もういいや、さっさと行こう。なんでわざわざゴミ箱から拾って見ていたのかなんてこの際どうでもいい。気にしたところで何の意味もない。
「…ちょっと出掛けてくる。帰る時間はいつも通りメールするから」
叔父さんの横を通り過ぎて玄関へと向かう為にドアノブに手を掛けたところで「花子、」と呼ばれる。振り返らずに、そのまま言葉を待つ。
「お前が何しようと勝手だが、面倒事だけは起こしてくれるなよ」
私が暴走族の子達と連んでいるのを知ってか知らずか牽制の言葉を投げ掛けられた。ここに住まわせてもらって半年ほど経つが、その間に耳にタコが出来るんじゃないかってくらい同じことを言われ続けてきた。そんなこと分かってる。しくじったら、後がないってことくらい。
公園へやってくれば、すでにドラケン君はいた。愛機に跨った彼はやって来た私に気付くと、「よぉ」と軽く片手を上げた。待たせてしまったと小走りで彼の元へと寄る。
「待たせてごめん」
「んな待ってねーよ。マイキー達もう着いてるから、さっさと行くか」
「どこ行くんだっけ?」
「ゲーセン」
聞きながら渡されたヘルメットを被り、ドラケン君の後ろに乗る。そういえばそうだった。マイキー君とドラケン君とエマちゃんと私でゲーセン行く約束してたんだった。兄妹の2人はすでに現地に行ってるらしい。
彼の肩へと手を置くと、それを合図にバイクが走り出す。流れる景色へ目をやっていると、ふとあることに気付く。
「ドラケン君と一緒に行ったらエマちゃんにヤキモチ妬かれるんじゃ…」
「は?何でだよ、別に大丈夫だろ」
「いやー、妬かれるでしょ。…なんなら賭ける?」
「いーよ。なに賭ける?」
「人数分アイスね!あのたっかいやつ」
もし手土産に持って行ったらキングと崇め奉られる1つ300円くらいする例のアイスのことだ。学生には中々の痛手だろう。さすがにドラケン君も自信失くすだろ。しかし彼は「乗った」と快く承諾する。そんな強気だと逆にこっちが自信失くすんですけど。
「見てみて、マイキー!あのぬいぐるみすっごい可愛いんだけど!」
「え〜、オレあの隣にあるお菓子食いてぇ」
ゲーセンに着くとクレーンゲームを見ながら、腕を組んでイチャついてる兄妹がいた。アイツら仲良いな。遠くから観察していると、すぐマイキー君にバレた。続いてエマちゃんもこちらに気付くと「おーい!」と手を振ってきた。その顔は全く邪気のない満面の笑みだった。
「な?妬かねーだろ」
「…………」
横に並んでいるドラケン君は何も言わない私に「アイスごっそさん」と悪戯に笑う。待ってくれ、もしかしたら隠してるだけかもしれない。まだ諦めきれない私は、マイキー君の手を引きながらこちらにやって来たエマちゃんに耳元でひそひそと恐る恐る問い掛ける。
「…つかぬ事をお聞きしますが、エマちゃんヤキモチ妬いたりとかしないの?」
「え?誰に?…もしかしてハナちゃんに?」
こくこくと頷けば、エマちゃんは可笑しそうに笑った。
「ないない。だってハナちゃん誰のことも意識してないじゃん」
「………」
「そんなつもりないの分かってるし」
「っ分かんないじゃん!もしかしたらドラケン君のこともマイキー君のことも意識してるかもしれないじゃん!」
「じゃあ今のウチとマイキー見て、どお?ちょっとでもイヤ?」
「いや別に。……あっ!すごくモヤモヤします!」
「ほらね」
終わった。慌てて取り繕っても遅かった。見事にエマちゃんによって証明されて絶望した私の横で「ハナがたっけぇアイス奢ってくれるってよ」とドラケン君が2人に言うから、それを聞いた仲良し兄妹は目を輝かせる。この勝負、おわたで工藤。つーか私はドラケン君の愛機以下か。
最近漫画の新刊が立て続けに発売してそれを買った後の私の財布は全く頼りないものになっていた。…アイスは買えるけど今月はひもじい生活になるなぁ、と自業自得でしかない私を置いて奥へと進む3人は楽しそうに笑い合っている。美男美女しかいねぇ。
「あのさ、皆でプリクラ撮らない?」
私が3人に追い付いたところで、エマちゃんがそう提案するとマイキー君とドラケン君はあからさまに嫌そうな顔をした。お前らはいいだろ、顔良いんだから。私なんかさっき美男美女しかいねぇって思ったばかりだぞ。この面子でプリクラとか私からしたら罰ゲームでしかない。男2人の芳しくない反応に味方を増やすべくエマちゃんは私の腕にするりと手を添えてきた。
「ハナちゃんも撮りたいよね?」
「……チャリで来たポーズで撮るか」
チョロい私は首を縦に振っていた。仕方ないだろ、美人には弱いんだ。しかしOKを下した私の言っている意味が分からないのか、3人に微妙な顔をされた。想像したら絵面がちょっと面白いしポーズ教えてやるから撮ろうぜ。
「オマエら2人で撮ってこいよ」
「えー!それじゃ4人で来た意味ないじゃん!」
溜息混じりに言ったドラケン君にエマちゃんは抗議するもほんのり頬は赤い。あ、これ私達を口実にしてドラケン君と撮りたいんじゃん。くそ可愛いな。微笑ましいなぁとニヨニヨしていると、今度はエマちゃんはドラケン君からマイキー君へ顔を向けた。
「マイキーもハナちゃんと撮りたいでしょ?」
「え?」
そこでちらりとマイキー君が私を見る。恋する乙女の為に一肌脱ごうぜ、という合図のウインクをしたら思いっきり顔をそらされた。見るに堪えないってか。
「……どーしてもエマとハナが撮りたいって言うならいいけど」
「…ハ?まじかよ、マイキー」
「ウン」
「ほら〜総長が言ってるのにドラケン君は断っていいの?」
「うっせ」
「いだ!」
ドラケン君からデコピンをくらってしまった。手加減してるんだろうけど元々の力が強いので普通に痛い。まあイザナ君からくらってきた暴力と比べれば全然マシだが。3対1になってしまったので断れないと判断したドラケン君が渋々首を縦に振ったところで、エマちゃんは顔を嬉しそうに綻ばせた。まじで可愛いのでこの2人を一生遠目から見てたい。
プリ機に入って行った2人に続いてカーテンを通ろうとするマイキー君の腕を引いた。振り返って何かを言おうとする彼に、しー!っと人差し指を口元へ持っていく。伝わったのか押し黙るマイキー君に微笑みかけて「行くよ」とそのまま彼の腕を引いてその場から離れた。
ガコン、と景品が落ちる。取り出し口からお菓子を取りマイキー君に差し出せば「スゲー!」と興奮気味に目を輝かせていた。
2人からさり気なく離れた後、そういえばこの兄妹お菓子とぬいぐるみを欲しがってたなと思い出し、大人しくついてきてくれたことのお礼ということでクレームゲームをやってみたらすぐ取れた。お菓子とぬいぐるみを抱えたマイキー君はさながら子供のようだ。…いや、子供か。ほんの少しの照れ隠しでへらへらしていると、マイキー君は変わらずキラキラした目を向けてくる。
「こんなすっげぇの初めて見た!コレで取れたことオレ今まで1度もねぇもん!」
「まぁ平凡の私にもこれくらいの特技はあっていいでしょ」
「……平凡?オマエが?」
両手に戦利品を抱えたマイキー君は驚いたように目をぱちぱちをしたかと思いきや、すぐに可笑しそうに吹き出した。
「ははっ、ハナみてぇに変なヤツが平凡とか何のジョーダンだよ」
「は〜?私はフツーですけど?」
「どこが」
「どこがって全体的に」
「じゃあ皆に聞いてみようか?絶対オレ側につくから」
「いや総長のきみが聞いたらそりゃ皆そっち側につくでしょ。確実にこっちは不利じゃん」
「…別にそれは関係ないだろ」
「関係あるよ。きみは知らないだろうけど、ちょっと否定したらみーんな『あ?マイキーが間違ってるっていうのか?』ってすぐ喧嘩腰になるからね」
「オレが間違ってないからじゃね?」
「さすが唯我独尊男。ブレねぇや」
ここまで省みないと逆に賞賛してしまうよ。店員さんなら袋を貰って景品をその中に入れると身軽になったマイキー君は「んなことどーでもいいから早く次のやつ取ろーぜ!」と私の手を引く。自分の食べたいお菓子が景品のクレームゲームに連れて行かれるんだろうなと思っていると、ばったりとドラケン君&エマちゃんと鉢合わせた。視線がばちりと交わったと同時に頬をぷくっと膨らませたエマちゃんがツカツカとこちらへと歩み寄ってくる。
「えっ、ちょ」
「マイキー、ちょっとハナちゃん借りるから!」
繋がれていた手を引っ剥がすとエマちゃんはそのまま私の腕を引いた。ぽかんとしているマイキー君とドラケン君に見送られながら、何が何だか分からないまま私は彼女にどこかへ連れて行かれる。
ある程度2人から距離が取られたところでエマちゃんは漸く止まると、くるりと振り返った。その顔は兄であるマイキー君とそっくりなふくれっ面で。何か怒らせるようなことをしただろうかとドキドキしてしまう。
「ハナちゃんともプリクラ撮りたかった!」
「えっ」
何を言われるのか身構えていたが、予想の斜め上の言葉を放たれて情けない声が出る。「えっ…じゃないよ!」と彼女はぷりぷり怒ったままだ。気を回したつもりだったけど、余計なお世話だったらしい。
「ごめんね。お腹痛くなっちゃって、マイキー君に付き添っててもらってたんだ」
「…ふーん?」
「声掛ければよかったよね。ごめん」
「ソレ嘘でしょ」
「うっ」
「ケンちゃんと2人で撮らせようとしてくれたのバレバレだから」
ついた嘘も魂胆もあっさりと見破られ、言葉が詰まる。参ったなぁ、どう切り抜けようか考えていると、さっきまでのふくれっ面はどこへやらエマちゃんのその顔は仕方なさそうな緩い微笑みへと変わる。手に温もりを感じて一瞥すれば、右手を彼女の両手に包まれていた。
「…エマちゃん?」
「…ウチ、ハナちゃんのそういうとこ好き」
「えっ?」
「さり気なーく行動して優しさをひけらかさない?とこ」
急に褒められて吃驚してしまう。彼女の真っ直ぐな言葉に目を見開かせる私をよそに、「さっきさ、ウチにヤキモチ妬かないの?って聞いたでしょ」そう続けたエマちゃんは柔らかい笑顔のままだ。
「自分より人の幸せを第一に考えてくれる…、そんなハナちゃんだからケンちゃんの後ろ乗っててもヤキモチ妬けないんだよ」
それは買い被りすぎだ。私はそんな大層な人間じゃない。ただエマちゃんに喜んで欲しくて勝手にやっただけだ。否定したい気持ちは山々だったのだが、そんなことないよと言われるのが目に見えていたので言葉を飲み込む。それでもムズムズと気恥ずかしいこの空気を変えたくて「…いいの撮れた?」と聞けば、エマちゃんは予想に反して顔を青くした。そしてポケットから取り出された撮ってきたプリクラを差し出される。それを手に取ると、いつもより少しだけ照れ臭そうなドラケン君と顔を真っ赤にしてカチコチになったエマちゃんがその中にいた。
「…ふっ、」
「あー!変な顔だからって笑ったでしょ!しょうがないじゃん!いつもより距離近いんだもん!」
だから一緒に撮りたいって言ったのに!と半泣きのエマちゃんにぽかぽかと叩かれる。緊張してぎこちない笑顔を浮かべているのが可愛くてついって言っても、多分信じてくれないよなぁ。
されるがままの私と半泣きのエマちゃんを見て修羅場だと勘違いした2人が止めに来るまで、心がほっこりとするそのプリクラをずっと眺めていた。