小学生編
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私の朝は早い。まず朝の4時におじいちゃんに叩き起されて、1時間ランニングをさせられる。その後腹筋背筋スクワットその他諸々の後に、素振りそしてぶつかり稽古。それが終わったら7時まで座禅させられる。うっかり居眠りしようものなら肩を竹刀で引っぱたかれる。これがまあ〜〜痛い!寝るなって方が無理だろ。前世でインドアだった私にとってこの生活は拷問以外の何物でもなかった。おばあちゃんと朝ごはん作りたいなあ〜って少しでも稽古の時間を削ろうと試みたが、男が料理なんかするなと一蹴されてしまった。いや男も料理するよ。そんで7時から朝ごはん。おばあちゃんの料理が美味しいことだけが救いだった。私からしたら何でも美味しく食べていたのだが、気に入らないとおじいちゃんは平気でちゃぶ台をひっくり返す。おい誰かこの老害を何とかしてくれ。頑固一徹ってレベルじゃねーぞ。
とまあ早朝から剣道、学校から帰ってからも剣道、週末はほぼ剣道。娯楽なんかゼロかという今にも逃げ出したくなるような生活を送っていた。好きならいいよ、でも私は別にやりたいわけじゃない。どう抗っても逃げられない状況に、詰んだなあと溜息を落とした。
「もしかして神様は私に剣心になれって言いたいのかな…」
「…誰だよ、剣心」
横からダルそうなツッコミが飛んでくる。前にもこんなやり取りしたな。半間君は私と並んで走っている。現在体育の授業中だ。もうすぐ持久走大会があるので、校庭のトラックを何周もしていた。スローすぎてあくびがでるぜ!
「…いや、道場継げって言われてるし、薫ちゃんの方かもしれない」
「だから誰だよ」
「でもお前は男だって刷り込まれてるんだよなあ〜。転校してきた初日の私のサッラサラの黒髪ストレートロング覚えてる?半間君も見惚れたでしょ?」
「忘れた」
「せっかく手入れしてたのにさあ〜、酷くない?髪に指通しても引っかかることもないし、天使の輪も出来てたからね。何の説明もなく突然バツっ!って切られたんだよ。しかも盆栽用のハサミで!」
「また伸ばせばいーじゃん」
「ワオ、さっぱりしてて好印象です!」
でも伸ばせられないんだよなあ〜!伸びたらすぐおばあちゃんに切られるから。
それにしても、とゼェゼェと息を切らしている同級生達に目をくれる。それと比べて半間君は涼しい顔をしていた。足長いのもあるけど、体力オバケか?
「半間君すごいね。私は早朝ランニング毎日してるからいけるけど、全然余裕そうじゃん」
「いやだりぃからそろそろサボる」
「なに!?」
まさかの発言に破顔する。いやでも確かに珍しく頑張ってるなと思ってはいた。体育の授業なんか適当な理由つけてサボったりしているし。いくらダルいからって小学生でそんな調子じゃこの先まともな大人になれないぞ!と余計なお節介精神が働いた私のおふざけスイッチは容赦なく押された。
「お前は本当にそれでいいのか…?」
「…あ?」
「持久走大会の練習だとか言って授業時間いっぱい走らされる苦痛!それでもその先にある目標(休憩時間)の為に俺達今まで頑張ってきたじゃねえかよ!お前はここまできた道のりを、そんな簡単に諦めていいのか…?」
「……ダリィ」
「またそんなこと言って!もっと熱くなれよ!通知表が怖くないのか!?私はハッキリ言って怖い!結果次第ではおじいちゃんに締め上げられるからね!」
「オマエの救えねぇ家庭事情なんか知らねーよ」
半間君はそう吐き捨てるように言い残すと、体調不良だと先生に告げてあっさり離脱していった。先生半間君に甘くない?私がこの前本当に気持ち悪くて保健室行かせてくれって言ったら、熱もないし大丈夫だよ!って何の根拠もないこと言って休ませてくれなかったよね。思ったんだけど、この世は私に厳しくないか?人生ハードモードなんだけど。
━━━━━━
祖父母の家に引き取られて一年が経った。私は朝から逆鱗に触れてしまった。誰のってそりゃおじいちゃんしかいない。今日はとくに眠くてぼけーっとしているのが気に食わなかったらしい。突然拳が迫ってきて、気付いたらふっ飛んでた。殴られただけでも結構飛ぶもんだなあ、なんて呑気に考えながらも全身を打ち付ける痛みをただ堪えていれば、意識が戻った時には庭に放置されてた。朝っぱらから悲惨過ぎ〜。
頭には包帯が巻かれ、殴られた左頬を覆い隠すように貼られた湿布。これで普通に登校したんだけど、先生に何も言われなかった。まじで教育体制どうなってんの?先生私のこと化け物か何かと勘違いしてんのか?まあ大方おばあちゃんが先に学校に連絡したんだろう。怪我の理由は確実に嘘まみれだろうけど。
「ヒデー顔」
第一声の半間君の言葉に、一瞬息が詰まり何も言えなくなるが、すぐにへらりと情けなく笑った。でしょ、と返すとそれに対して半間君は私と比べてその大きな手を眼前へと伸ばしてきた。何だと身構える暇もなく私の左頬の湿布はぺらりと剥がされた。朝貼ったばかりなので出来ればそういうのは止めて欲しい。粘着力落ちる。
「カワイソーになぁ、真っ青じゃん」
見れて満足かと見上げれば、半間君はその言葉とは裏腹に、にやにやしてた。その顔は可哀想って微塵も思ってないだろ。にやにやしたまま湿布を貼り直した手で、そのまま私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「……え、」
「ん?どしたぁ」
「半間君何か拾い食いした?」
「してねーけど」
「えっと…私の勘違いじゃなければ慰めてます?」
「一応?」
うそ…だろ…。あんなに私に対して興味がなかったあの半間君が、私を慰めている…?予想外の行動に呆然としてしまうが、半間君は変わらず楽しそうだ。
「だってオマエ泣きそうな顔してんだもん」
「まじ?顔に出てた?」
「うん。身体中アザだらけでもいつもへらへらしてアホ面なのにさぁ……、ばはっ♡優しくすれば今なら泣くんじゃねーかなって思って♡」
「それ聞いて泣きそうだよ」
お前小学生のくせに感性歪みすぎだろ。人に興味がない半間君が人を思いやれるようになったんだと、こっちは少しジーンときてたんだぞ。泣かなかったことにより彼のドツボにハマる展開にならなくて良かったと安堵する。だって腹立つじゃん?それに泣いた瞬間に爆笑されでもしてみろ、トラウマ確定だよ。だからにやにやしてたんだな、と妙に納得してしまった。
「そんなに辛いならさ、壊すしかないんじゃねーの?」
「…ん?」
落とされた問い掛けに咄嗟に見上げると、さっきの楽しそうな顔は何だったんだってくらい半間君は無表情だった。
「壊すって何を?」
「しらばっくれんなよ。分かってんだろ?」
「……半間君の発想は本当に物騒だね」
彼の言いたいことは分かった。自分を害するのならば黙らせればいい。どんな手段であれ、あの頑固一徹ジジィを黙らせるには生半可なことは通用しない。きっとそれを半間君も理解した上で、私に提案しているのだろう。
「私を少年院に入れたいの?そんなに半間君に嫌われてるとは思わなかったなぁ」
「でも今よりはイイだろ?」
「無理だよ。前に言ったじゃん、私は普通に幸せになりたいって。所詮子供は養われてる立場。大人の力がないと生活できない。つまり養われてる子供に権利なんてないんだよ。ましてや私みたいな元孤児はね。働いて自立出来ればいいけど、私はまだ小さいからさ、それは無理じゃん?少年院に入ったら就職不利になるかもしれないし(知らんけど)、働ける歳になるまで耐えるしかない。でもぶっちゃけそろそろしんどいので施設に帰りたいです!!」
これならイザナ君に嫌がらせされる毎日の方が100倍楽しかったです!そう続けざまに言うも、反応は返ってこなかった。てっきりいつもの流れで誰だよって言われるのかなって思ったんだけど。というか少年院なんてガラの悪い子ばっかりいるだろうから、怖いので無理。パシリにされる未来しか見えん。
「…話長くてダリィー。ごちゃごちゃ考えてるといつかハゲんぞ」
「珍しく熱くなってしまいました」
「先のこと考えるより今が大事だろぉ?オマエこのままだとマジで殺されるぞ」
「やめて。当たり所が悪かったら本当に死にそう」
「誰も助けてくれねーなら、ジブンで何とかするしかないじゃん」
「いや!一つだけ解決策がある!」
「あ?」
突然声を張り上げた私に半間君はうるさそうに顔を顰めた。
「私がおじいちゃんより強くなればいいんだ!」
「………反抗しないで耐えるんじゃなかったの?」
「あの人は私を強くしようとしてるから、そうなれば問題ないんでしょ?つまり実力で黙らせればいいんだよ!漫画の主人公とかでもそういうのあるじゃん。いつか認めさせてやる…!みたいな展開になって、認められた結果仲が良好になるやつ!いやーおじいちゃんは私にとっての比古清十郎だったんだなあ。どうせなら外見も同じにして欲しかった」
「…まー頑張って」
いつもの調子を取り戻した私に半間君は心底つまらなさそうな声音で呟くように言うと、最後にまた私の頭をぽんぽんと優しく叩いて明らかに校舎じゃない方向へと歩いて行ってしまった。え?どこ行くん?昼休みもう終わるんだけど。校庭で楽しそうに遊んでいた子供達が切り上げていくのを見て、私も戻るかぁと椅子代わりにしていた半分地面に埋め込まれたタイヤから立ち上がる。ふと半間君が歩いて行った方へ顔を向ければ、そこにはもう気怠そうな背中は見えなかった。
とまあ早朝から剣道、学校から帰ってからも剣道、週末はほぼ剣道。娯楽なんかゼロかという今にも逃げ出したくなるような生活を送っていた。好きならいいよ、でも私は別にやりたいわけじゃない。どう抗っても逃げられない状況に、詰んだなあと溜息を落とした。
「もしかして神様は私に剣心になれって言いたいのかな…」
「…誰だよ、剣心」
横からダルそうなツッコミが飛んでくる。前にもこんなやり取りしたな。半間君は私と並んで走っている。現在体育の授業中だ。もうすぐ持久走大会があるので、校庭のトラックを何周もしていた。スローすぎてあくびがでるぜ!
「…いや、道場継げって言われてるし、薫ちゃんの方かもしれない」
「だから誰だよ」
「でもお前は男だって刷り込まれてるんだよなあ〜。転校してきた初日の私のサッラサラの黒髪ストレートロング覚えてる?半間君も見惚れたでしょ?」
「忘れた」
「せっかく手入れしてたのにさあ〜、酷くない?髪に指通しても引っかかることもないし、天使の輪も出来てたからね。何の説明もなく突然バツっ!って切られたんだよ。しかも盆栽用のハサミで!」
「また伸ばせばいーじゃん」
「ワオ、さっぱりしてて好印象です!」
でも伸ばせられないんだよなあ〜!伸びたらすぐおばあちゃんに切られるから。
それにしても、とゼェゼェと息を切らしている同級生達に目をくれる。それと比べて半間君は涼しい顔をしていた。足長いのもあるけど、体力オバケか?
「半間君すごいね。私は早朝ランニング毎日してるからいけるけど、全然余裕そうじゃん」
「いやだりぃからそろそろサボる」
「なに!?」
まさかの発言に破顔する。いやでも確かに珍しく頑張ってるなと思ってはいた。体育の授業なんか適当な理由つけてサボったりしているし。いくらダルいからって小学生でそんな調子じゃこの先まともな大人になれないぞ!と余計なお節介精神が働いた私のおふざけスイッチは容赦なく押された。
「お前は本当にそれでいいのか…?」
「…あ?」
「持久走大会の練習だとか言って授業時間いっぱい走らされる苦痛!それでもその先にある目標(休憩時間)の為に俺達今まで頑張ってきたじゃねえかよ!お前はここまできた道のりを、そんな簡単に諦めていいのか…?」
「……ダリィ」
「またそんなこと言って!もっと熱くなれよ!通知表が怖くないのか!?私はハッキリ言って怖い!結果次第ではおじいちゃんに締め上げられるからね!」
「オマエの救えねぇ家庭事情なんか知らねーよ」
半間君はそう吐き捨てるように言い残すと、体調不良だと先生に告げてあっさり離脱していった。先生半間君に甘くない?私がこの前本当に気持ち悪くて保健室行かせてくれって言ったら、熱もないし大丈夫だよ!って何の根拠もないこと言って休ませてくれなかったよね。思ったんだけど、この世は私に厳しくないか?人生ハードモードなんだけど。
━━━━━━
祖父母の家に引き取られて一年が経った。私は朝から逆鱗に触れてしまった。誰のってそりゃおじいちゃんしかいない。今日はとくに眠くてぼけーっとしているのが気に食わなかったらしい。突然拳が迫ってきて、気付いたらふっ飛んでた。殴られただけでも結構飛ぶもんだなあ、なんて呑気に考えながらも全身を打ち付ける痛みをただ堪えていれば、意識が戻った時には庭に放置されてた。朝っぱらから悲惨過ぎ〜。
頭には包帯が巻かれ、殴られた左頬を覆い隠すように貼られた湿布。これで普通に登校したんだけど、先生に何も言われなかった。まじで教育体制どうなってんの?先生私のこと化け物か何かと勘違いしてんのか?まあ大方おばあちゃんが先に学校に連絡したんだろう。怪我の理由は確実に嘘まみれだろうけど。
「ヒデー顔」
第一声の半間君の言葉に、一瞬息が詰まり何も言えなくなるが、すぐにへらりと情けなく笑った。でしょ、と返すとそれに対して半間君は私と比べてその大きな手を眼前へと伸ばしてきた。何だと身構える暇もなく私の左頬の湿布はぺらりと剥がされた。朝貼ったばかりなので出来ればそういうのは止めて欲しい。粘着力落ちる。
「カワイソーになぁ、真っ青じゃん」
見れて満足かと見上げれば、半間君はその言葉とは裏腹に、にやにやしてた。その顔は可哀想って微塵も思ってないだろ。にやにやしたまま湿布を貼り直した手で、そのまま私の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「……え、」
「ん?どしたぁ」
「半間君何か拾い食いした?」
「してねーけど」
「えっと…私の勘違いじゃなければ慰めてます?」
「一応?」
うそ…だろ…。あんなに私に対して興味がなかったあの半間君が、私を慰めている…?予想外の行動に呆然としてしまうが、半間君は変わらず楽しそうだ。
「だってオマエ泣きそうな顔してんだもん」
「まじ?顔に出てた?」
「うん。身体中アザだらけでもいつもへらへらしてアホ面なのにさぁ……、ばはっ♡優しくすれば今なら泣くんじゃねーかなって思って♡」
「それ聞いて泣きそうだよ」
お前小学生のくせに感性歪みすぎだろ。人に興味がない半間君が人を思いやれるようになったんだと、こっちは少しジーンときてたんだぞ。泣かなかったことにより彼のドツボにハマる展開にならなくて良かったと安堵する。だって腹立つじゃん?それに泣いた瞬間に爆笑されでもしてみろ、トラウマ確定だよ。だからにやにやしてたんだな、と妙に納得してしまった。
「そんなに辛いならさ、壊すしかないんじゃねーの?」
「…ん?」
落とされた問い掛けに咄嗟に見上げると、さっきの楽しそうな顔は何だったんだってくらい半間君は無表情だった。
「壊すって何を?」
「しらばっくれんなよ。分かってんだろ?」
「……半間君の発想は本当に物騒だね」
彼の言いたいことは分かった。自分を害するのならば黙らせればいい。どんな手段であれ、あの頑固一徹ジジィを黙らせるには生半可なことは通用しない。きっとそれを半間君も理解した上で、私に提案しているのだろう。
「私を少年院に入れたいの?そんなに半間君に嫌われてるとは思わなかったなぁ」
「でも今よりはイイだろ?」
「無理だよ。前に言ったじゃん、私は普通に幸せになりたいって。所詮子供は養われてる立場。大人の力がないと生活できない。つまり養われてる子供に権利なんてないんだよ。ましてや私みたいな元孤児はね。働いて自立出来ればいいけど、私はまだ小さいからさ、それは無理じゃん?少年院に入ったら就職不利になるかもしれないし(知らんけど)、働ける歳になるまで耐えるしかない。でもぶっちゃけそろそろしんどいので施設に帰りたいです!!」
これならイザナ君に嫌がらせされる毎日の方が100倍楽しかったです!そう続けざまに言うも、反応は返ってこなかった。てっきりいつもの流れで誰だよって言われるのかなって思ったんだけど。というか少年院なんてガラの悪い子ばっかりいるだろうから、怖いので無理。パシリにされる未来しか見えん。
「…話長くてダリィー。ごちゃごちゃ考えてるといつかハゲんぞ」
「珍しく熱くなってしまいました」
「先のこと考えるより今が大事だろぉ?オマエこのままだとマジで殺されるぞ」
「やめて。当たり所が悪かったら本当に死にそう」
「誰も助けてくれねーなら、ジブンで何とかするしかないじゃん」
「いや!一つだけ解決策がある!」
「あ?」
突然声を張り上げた私に半間君はうるさそうに顔を顰めた。
「私がおじいちゃんより強くなればいいんだ!」
「………反抗しないで耐えるんじゃなかったの?」
「あの人は私を強くしようとしてるから、そうなれば問題ないんでしょ?つまり実力で黙らせればいいんだよ!漫画の主人公とかでもそういうのあるじゃん。いつか認めさせてやる…!みたいな展開になって、認められた結果仲が良好になるやつ!いやーおじいちゃんは私にとっての比古清十郎だったんだなあ。どうせなら外見も同じにして欲しかった」
「…まー頑張って」
いつもの調子を取り戻した私に半間君は心底つまらなさそうな声音で呟くように言うと、最後にまた私の頭をぽんぽんと優しく叩いて明らかに校舎じゃない方向へと歩いて行ってしまった。え?どこ行くん?昼休みもう終わるんだけど。校庭で楽しそうに遊んでいた子供達が切り上げていくのを見て、私も戻るかぁと椅子代わりにしていた半分地面に埋め込まれたタイヤから立ち上がる。ふと半間君が歩いて行った方へ顔を向ければ、そこにはもう気怠そうな背中は見えなかった。