中学生編
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学校が終わり、ドラマの再放送を観たかったのでいつもより早めに歩く。間に合うだろうけどお菓子をつまみながら観たいので、途中でコンビニ寄ることを考えたら時間に余裕を持っておいた方がいいだろう。ふと周囲が騒がしいことに気付く。不思議に思いながらも校門を出てすぐに特攻服を着た男4人がいた。こっわ。
「おいそこの女!」
誰のことだろう、可哀想に。こんな嬉しくないお出迎えされるなんて心底同情する。心の中で合掌して、無関係な私は横を通り過ぎようとした。…が、目の前を阻まれる。
「何逃げようとしてんだコラ」
特攻服の4人の男に見下ろされる。なんてこった。気の所為だと思いたいが、圧のかかった視線は間違いなく私を捉えている。全く顔も知らないんだけど何の用だろう。
「テメェだろ、東卍の総長の女は」
「は?」
あれ?東卍の総長ってマイキー君だったよね。勘違いされるようなことあっただろうか。遊びに行く時バイクの後ろ乗ってるの目撃されたとかかな。もしくは本当にここの中学校に彼女がいて、人違いされたとか。とにかく違うもんは違うので訂正させていただく。
「違いますよ」
「あ?」
「私はマイキー君の彼女じゃないです」
「しらばっくれてんじゃねー!ネタは上がってんだ!」
そんな容疑者追い詰める警察みたいなこと言われても。ちょっと面白いからやめて欲しい。暴走族ならもっと他に言い方あったろ。それにしても、と辺りを見回す。
「……場所変えません?」
生憎とここは校門を出てすぐだ。登下校している学生も周りにいる。こんな場所で騒ぎを起こすのは気が引けた。
「ああ!?テメェに選ぶ権利なんかねーんだよ!」
「…まあ、いいじゃねぇか。ここにいたら先公がサツにチクるかもしれねぇ。そっちのが手間だろ?」
気が済むとこまでついてってやるよ、と仲間を制した後に私に顔を向けて先頭の男は言った。話が通じて何よりです。
とりあえず帰路とは逆方向の道へと足を進める。特攻服の男4人を連れて歩くという全く嬉しくないパーティが出来上がってしまった。私が勇者だとしたらお前ら荒くれ者だよ。RPGにそんな職業ないからせめて盗賊になってこい、中々強いから。というか勇者は言い過ぎた。私は遊び人が1番合ってたわ。
さて、これからどうしようと頭を悩ませる。「おい、そろそろこの辺でいーだろ」と後ろから痺れを切らした声まで飛んできた。ちょっと待ってろ今考えてるから。そういえば、と乾君のことを思い出す。
「ちなみにお兄さん達、黒龍の所属だったりします?」
「黒龍…?」
振り返って聞けば、ドッと沸く笑いの渦。中にはゲタゲタと腹を抱えて笑う者までいて、何がそんなに可笑しいんだろうと無意識に眉が寄る。先頭にいた男がヒーヒー言いながら涙を拭い、再度私へ顔を向けた。
「残党はまだいるみてぇだが、あんな壊滅したチームと一緒にすんじゃねーよ!」
「えっ」
黒龍って壊滅したの?いやでもこの前乾君と会った時特攻服着てたけどなぁ…、もしかして残党の内の1人ってことか?暴走族のチームとか興味ないから全く分からん。
「あーでもついこの間新しく十代目を迎えたらしいぜ」
「どーせまた潰れんだろ。俺らの敵じゃねぇ!」
何か凄い盛り上がっている。帰ってもバレないんじゃね?と思いゆっくり後退ると、すぐに「おい逃げんじゃねぇ!」と手が迫ってきたので、とりあえず横に避ける。
「あ?避けてんじゃねぇ」
「お兄さん危ないですよ」
「うるせぇ!ナマ言ってんじゃねぇぞ!」
怒号と共に今度は拳が迫ってくる。また横に周りながらその伸びてきた手首を掴んで男の背中まで腕を捻り上げた。いてぇ!と悲痛な声を漏らす男に、構わず私は近くの地面を指差す。
「見て下さい、あそこにカマキリがいるでしょう。私がこうして止めていなきゃお兄さん踏んでましたよ」
えんがちょ切る羽目にならなくてよかったですね、と振り返って連れの男3人に笑いかける。3人はたじろぎ、表情には動揺が見えた。「んだ…この女…」という独り言が漏れている。おー、変な女だろ。関わっちゃまずいってドン引きして帰ってくれないかな。
「っナメてんじゃねぇぞゴルァ!」
しかし腐っても不良だったらしく、やられっぱなしは癪なのか、3人がかりで拳を振り上げながら加勢してきた。嫌な方に転び、無意識に小さく舌打ちを漏らす。私は捻り上げていた男の手首を離すと、そのまま男達とは逆方向へ駆け出した。
「逃げてんじゃねぇ!」
「人質にすんだから大人しくついてきやがれ!」
「これからドラマの再放送があるんで早く家に帰らなきゃなんです!勘弁してくださーい!」
「ああ!?知らねーよ!」
案の定後ろから追い掛けてくる男達に何とか許しを乞うも、どうやらダメらしい。特攻服を着た男4人と女子中学生の追いかけっこを目の当たりにした行き交う人達に何やらかしたんだろう…、という目を向けられる。やめろ、私は何もしていない。ローファーで走りづらいが、距離は縮まっていないようなので頑張れば逃げ切れるかもしれない。希望の光が見えたところで、曲がり角を曲がる。
「!?」
曲がり角を曲がったところで、目の前に人が。そこそこ本気で走っていたので咄嗟に急ブレーキをかけるが避けることも出来ずにぶつかってしまい、衝撃を感じた後に尻もちをつく。
いってぇー、と顔を歪めていると、目の前に手を差し出された。その手から伝って見上げていくと、その人物は普通に顔見知りだった。
「三ツ谷君…、」
「大丈夫か?」
「ご、ごめん。ちょっと急いでて…。あ!やべ!」
差し出された手を取りそのまま引き上げてもらったところで、後ろから近付いていた複数の足音が止まるから、嫌な予感がして慌てて振り返る。そこには息を切らした男4人がいて「手間取らせやがって…」と私を睨み上げた。やっべー、追い付かれちゃった。参ったなと思っていると、三ツ谷君が庇うように私の前へと来て、顔だけこちらへ軽く振り向いた。
「知り合い?」
「…そう見える?」
「ははっ、まあ違ぇよな」
分かってて冗談混じりに聞いてきた彼は人の良い笑顔を向けてきた。男4人は三ツ谷君を見るなり、分かりやすく動揺し出す。
「と、東卍の三ツ谷だ…」
「このアマ助け呼びやがったな!」
「いや、呼んでないですけど…」
逆にいつ呼べたよ?私達さっきまで追いかけっこしてたよね?しかしそんなことお構いなしなのか彼らの顔は怒りの色でいっぱいだ。三ツ谷君から「ごめん、これ預かってて」と後ろ手に大きすぎない紙袋を渡される。手芸用品を扱っているここから近くのお店のロゴが入った紙袋だった。
「オマエら確かこの前喧嘩したチームだったよな。打ち負かしたハズだけど、またやられてぇの?」
「実はマイキー君の彼女だって勘違いされてて、人質にされそうだったんだよね」
「っ余計なこと言うんじゃねぇ!」
「へぇ、マイキーがこのこと知ったらタダじゃ済まねぇと思うけど」
「!?」
空気がピリつく。相手は1人だしやれんじゃね?と4人の内の誰かの囁くような声がした。やる気になるな、今逃げれば間に合ったかもしれないのに。私の心中など知らず一触即発の空気の中で、三ツ谷君は強者らしく余裕の笑みを浮かべた。
「…けど、安心しろ。これからオマエらはオレが伸すから」
正直、終わったなと相手方4人に同情した。南無阿弥陀仏と手を合わせる。パンピーの私に手首捻られてる時点で実力なんてたかが知れてる彼らと比べて、三ツ谷君は強い。三ツ谷君の言葉を皮切りに、戦いの火蓋は切られた。
「これに懲りたら二度とこの子に手ぇ出すなよー」
三ツ谷君の前にはボッコボコにされた4人が「はい…」「すみませんでした…」と次々に謝罪の言葉を虫の鳴くような声で告げていく。その言葉を聞いて三ツ谷君は頷くと、私の方へ振り返った。
「コイツらもこう言ってるし、もう大丈夫だとは思うんだけど…」
「うん、助けてくれてありがとう。あのまま捕まってたらボコられる未来しか見えなかったし、三ツ谷君と会えて良かったよ」
「…いや途中で人質にしようとしてそっち行ったヤツ、ハナさんフツーに回し蹴りしてたろ」
「それは私が遠くに逃げてればいいのに、近くにいて喧嘩の邪魔になっちゃったから」
「そうじゃなくて、やり合えばホントは余裕だったろ?」
はて、何の話だ。彼は私を買い被り過ぎじゃないだろうか。小首を傾げると「…ま、目付けられたくねーもんな」と自己完結された。そうだよ、面倒事は御免なんだよ。いつの間にか逃げて行く4人の後ろ姿へ目をやると、走りながら振り返った1人と目が合うなり小さく悲鳴を漏らされた。何でだ、鬼と遭遇したかのような顔されたぞ。
「それ持っててくれてありがとな」
「ああ、三ツ谷君手芸するの?」
渡された紙袋を指差されたので返す。なんとなく東卍のオカンみたいな立ち位置だと思ってはいたが、手芸までやるとなると私の中でオカンは確定してしまうぞ。
「言ってなかったっけ?創設メンバーの特攻服、オレの手作り」
「まじ!?」
紛うことなきオカンだったわ。吃驚している私に「ちなみに手芸部」と更に爆弾を落としていく三ツ谷君。おいおい、不良で手芸部なんてギャップの暴力にも程がある。
「三ツ谷君、モテるでしょ?」
「んなことねーよ。同じ部活の女の子にも全然意識されてねぇし」
「ふーん?」
「その顔は信じてないだろ」
「うん」
即答すれば三ツ谷君は苦笑した。こればかりは現場を目の当たりにしていないが断言出来た。三ツ谷君が気付いていないだけだ。女子ってのはギャップに弱いんだぞ。
「ハナさん、ボタン取れかけてる」
「あ、ホントだ」
三ツ谷君に指差された制服のジャケットのボタンは確かに取れかかっていた。朝着た時は何ともなかったので、もしかしたらさっきのイザコザの所為かもしれない。
「よかったら直そうか?」
「え!?いいの?面倒くさくない?」
「これくらい全然いーよ。ここだとなんだし、ファミレスでも寄る?」
「あ!!!」
提案されたところで、とある重要なことを思い出す。突然デカい声を上げた私に、三ツ谷君は吃驚したのか肩を震わせた。
「ご、ごめん。もうすぐ観たいドラマの再放送がやるんだよね。申し訳ないんだけど、私の家でもいい?」
「別にいいけど…、逆にいいの?」
「ん?私はそっちのが有難いけど」
「…いや、オレはそんなつもりはないけど男上げても大丈夫なのか?」
「!」
「三ツ谷君…、やっぱりきみモテるでしょ?」
「だからそんなことねーって」
「嘘つくなよ。私には分かってるんだからな!」
「えぇ…」
私の勢いに三ツ谷君はドン引きしていた。申し訳ないが、こればかりは譲れなかった。こんなに気遣いができて、強くて、顔が良くて、ギャップがえぐい。好かれない要素がないんだよ。
とにかく時間が迫っていたので彼には私の家に来てもらった。ドラマの再放送に釘付けになっている私の横に座りながらボタンを取り付けてくれていた三ツ谷君はオカンどころか聖母なのかもしれない。終いにはこの前の休日に暇潰しで作った下手くそなクッキーを「美味いよ。ハナさんお菓子作り上手だな」なんて褒めながら食べてくれた。マジでモテないって嘘だろ。
「おいそこの女!」
誰のことだろう、可哀想に。こんな嬉しくないお出迎えされるなんて心底同情する。心の中で合掌して、無関係な私は横を通り過ぎようとした。…が、目の前を阻まれる。
「何逃げようとしてんだコラ」
特攻服の4人の男に見下ろされる。なんてこった。気の所為だと思いたいが、圧のかかった視線は間違いなく私を捉えている。全く顔も知らないんだけど何の用だろう。
「テメェだろ、東卍の総長の女は」
「は?」
あれ?東卍の総長ってマイキー君だったよね。勘違いされるようなことあっただろうか。遊びに行く時バイクの後ろ乗ってるの目撃されたとかかな。もしくは本当にここの中学校に彼女がいて、人違いされたとか。とにかく違うもんは違うので訂正させていただく。
「違いますよ」
「あ?」
「私はマイキー君の彼女じゃないです」
「しらばっくれてんじゃねー!ネタは上がってんだ!」
そんな容疑者追い詰める警察みたいなこと言われても。ちょっと面白いからやめて欲しい。暴走族ならもっと他に言い方あったろ。それにしても、と辺りを見回す。
「……場所変えません?」
生憎とここは校門を出てすぐだ。登下校している学生も周りにいる。こんな場所で騒ぎを起こすのは気が引けた。
「ああ!?テメェに選ぶ権利なんかねーんだよ!」
「…まあ、いいじゃねぇか。ここにいたら先公がサツにチクるかもしれねぇ。そっちのが手間だろ?」
気が済むとこまでついてってやるよ、と仲間を制した後に私に顔を向けて先頭の男は言った。話が通じて何よりです。
とりあえず帰路とは逆方向の道へと足を進める。特攻服の男4人を連れて歩くという全く嬉しくないパーティが出来上がってしまった。私が勇者だとしたらお前ら荒くれ者だよ。RPGにそんな職業ないからせめて盗賊になってこい、中々強いから。というか勇者は言い過ぎた。私は遊び人が1番合ってたわ。
さて、これからどうしようと頭を悩ませる。「おい、そろそろこの辺でいーだろ」と後ろから痺れを切らした声まで飛んできた。ちょっと待ってろ今考えてるから。そういえば、と乾君のことを思い出す。
「ちなみにお兄さん達、黒龍の所属だったりします?」
「黒龍…?」
振り返って聞けば、ドッと沸く笑いの渦。中にはゲタゲタと腹を抱えて笑う者までいて、何がそんなに可笑しいんだろうと無意識に眉が寄る。先頭にいた男がヒーヒー言いながら涙を拭い、再度私へ顔を向けた。
「残党はまだいるみてぇだが、あんな壊滅したチームと一緒にすんじゃねーよ!」
「えっ」
黒龍って壊滅したの?いやでもこの前乾君と会った時特攻服着てたけどなぁ…、もしかして残党の内の1人ってことか?暴走族のチームとか興味ないから全く分からん。
「あーでもついこの間新しく十代目を迎えたらしいぜ」
「どーせまた潰れんだろ。俺らの敵じゃねぇ!」
何か凄い盛り上がっている。帰ってもバレないんじゃね?と思いゆっくり後退ると、すぐに「おい逃げんじゃねぇ!」と手が迫ってきたので、とりあえず横に避ける。
「あ?避けてんじゃねぇ」
「お兄さん危ないですよ」
「うるせぇ!ナマ言ってんじゃねぇぞ!」
怒号と共に今度は拳が迫ってくる。また横に周りながらその伸びてきた手首を掴んで男の背中まで腕を捻り上げた。いてぇ!と悲痛な声を漏らす男に、構わず私は近くの地面を指差す。
「見て下さい、あそこにカマキリがいるでしょう。私がこうして止めていなきゃお兄さん踏んでましたよ」
えんがちょ切る羽目にならなくてよかったですね、と振り返って連れの男3人に笑いかける。3人はたじろぎ、表情には動揺が見えた。「んだ…この女…」という独り言が漏れている。おー、変な女だろ。関わっちゃまずいってドン引きして帰ってくれないかな。
「っナメてんじゃねぇぞゴルァ!」
しかし腐っても不良だったらしく、やられっぱなしは癪なのか、3人がかりで拳を振り上げながら加勢してきた。嫌な方に転び、無意識に小さく舌打ちを漏らす。私は捻り上げていた男の手首を離すと、そのまま男達とは逆方向へ駆け出した。
「逃げてんじゃねぇ!」
「人質にすんだから大人しくついてきやがれ!」
「これからドラマの再放送があるんで早く家に帰らなきゃなんです!勘弁してくださーい!」
「ああ!?知らねーよ!」
案の定後ろから追い掛けてくる男達に何とか許しを乞うも、どうやらダメらしい。特攻服を着た男4人と女子中学生の追いかけっこを目の当たりにした行き交う人達に何やらかしたんだろう…、という目を向けられる。やめろ、私は何もしていない。ローファーで走りづらいが、距離は縮まっていないようなので頑張れば逃げ切れるかもしれない。希望の光が見えたところで、曲がり角を曲がる。
「!?」
曲がり角を曲がったところで、目の前に人が。そこそこ本気で走っていたので咄嗟に急ブレーキをかけるが避けることも出来ずにぶつかってしまい、衝撃を感じた後に尻もちをつく。
いってぇー、と顔を歪めていると、目の前に手を差し出された。その手から伝って見上げていくと、その人物は普通に顔見知りだった。
「三ツ谷君…、」
「大丈夫か?」
「ご、ごめん。ちょっと急いでて…。あ!やべ!」
差し出された手を取りそのまま引き上げてもらったところで、後ろから近付いていた複数の足音が止まるから、嫌な予感がして慌てて振り返る。そこには息を切らした男4人がいて「手間取らせやがって…」と私を睨み上げた。やっべー、追い付かれちゃった。参ったなと思っていると、三ツ谷君が庇うように私の前へと来て、顔だけこちらへ軽く振り向いた。
「知り合い?」
「…そう見える?」
「ははっ、まあ違ぇよな」
分かってて冗談混じりに聞いてきた彼は人の良い笑顔を向けてきた。男4人は三ツ谷君を見るなり、分かりやすく動揺し出す。
「と、東卍の三ツ谷だ…」
「このアマ助け呼びやがったな!」
「いや、呼んでないですけど…」
逆にいつ呼べたよ?私達さっきまで追いかけっこしてたよね?しかしそんなことお構いなしなのか彼らの顔は怒りの色でいっぱいだ。三ツ谷君から「ごめん、これ預かってて」と後ろ手に大きすぎない紙袋を渡される。手芸用品を扱っているここから近くのお店のロゴが入った紙袋だった。
「オマエら確かこの前喧嘩したチームだったよな。打ち負かしたハズだけど、またやられてぇの?」
「実はマイキー君の彼女だって勘違いされてて、人質にされそうだったんだよね」
「っ余計なこと言うんじゃねぇ!」
「へぇ、マイキーがこのこと知ったらタダじゃ済まねぇと思うけど」
「!?」
空気がピリつく。相手は1人だしやれんじゃね?と4人の内の誰かの囁くような声がした。やる気になるな、今逃げれば間に合ったかもしれないのに。私の心中など知らず一触即発の空気の中で、三ツ谷君は強者らしく余裕の笑みを浮かべた。
「…けど、安心しろ。これからオマエらはオレが伸すから」
正直、終わったなと相手方4人に同情した。南無阿弥陀仏と手を合わせる。パンピーの私に手首捻られてる時点で実力なんてたかが知れてる彼らと比べて、三ツ谷君は強い。三ツ谷君の言葉を皮切りに、戦いの火蓋は切られた。
「これに懲りたら二度とこの子に手ぇ出すなよー」
三ツ谷君の前にはボッコボコにされた4人が「はい…」「すみませんでした…」と次々に謝罪の言葉を虫の鳴くような声で告げていく。その言葉を聞いて三ツ谷君は頷くと、私の方へ振り返った。
「コイツらもこう言ってるし、もう大丈夫だとは思うんだけど…」
「うん、助けてくれてありがとう。あのまま捕まってたらボコられる未来しか見えなかったし、三ツ谷君と会えて良かったよ」
「…いや途中で人質にしようとしてそっち行ったヤツ、ハナさんフツーに回し蹴りしてたろ」
「それは私が遠くに逃げてればいいのに、近くにいて喧嘩の邪魔になっちゃったから」
「そうじゃなくて、やり合えばホントは余裕だったろ?」
はて、何の話だ。彼は私を買い被り過ぎじゃないだろうか。小首を傾げると「…ま、目付けられたくねーもんな」と自己完結された。そうだよ、面倒事は御免なんだよ。いつの間にか逃げて行く4人の後ろ姿へ目をやると、走りながら振り返った1人と目が合うなり小さく悲鳴を漏らされた。何でだ、鬼と遭遇したかのような顔されたぞ。
「それ持っててくれてありがとな」
「ああ、三ツ谷君手芸するの?」
渡された紙袋を指差されたので返す。なんとなく東卍のオカンみたいな立ち位置だと思ってはいたが、手芸までやるとなると私の中でオカンは確定してしまうぞ。
「言ってなかったっけ?創設メンバーの特攻服、オレの手作り」
「まじ!?」
紛うことなきオカンだったわ。吃驚している私に「ちなみに手芸部」と更に爆弾を落としていく三ツ谷君。おいおい、不良で手芸部なんてギャップの暴力にも程がある。
「三ツ谷君、モテるでしょ?」
「んなことねーよ。同じ部活の女の子にも全然意識されてねぇし」
「ふーん?」
「その顔は信じてないだろ」
「うん」
即答すれば三ツ谷君は苦笑した。こればかりは現場を目の当たりにしていないが断言出来た。三ツ谷君が気付いていないだけだ。女子ってのはギャップに弱いんだぞ。
「ハナさん、ボタン取れかけてる」
「あ、ホントだ」
三ツ谷君に指差された制服のジャケットのボタンは確かに取れかかっていた。朝着た時は何ともなかったので、もしかしたらさっきのイザコザの所為かもしれない。
「よかったら直そうか?」
「え!?いいの?面倒くさくない?」
「これくらい全然いーよ。ここだとなんだし、ファミレスでも寄る?」
「あ!!!」
提案されたところで、とある重要なことを思い出す。突然デカい声を上げた私に、三ツ谷君は吃驚したのか肩を震わせた。
「ご、ごめん。もうすぐ観たいドラマの再放送がやるんだよね。申し訳ないんだけど、私の家でもいい?」
「別にいいけど…、逆にいいの?」
「ん?私はそっちのが有難いけど」
「…いや、オレはそんなつもりはないけど男上げても大丈夫なのか?」
「!」
「三ツ谷君…、やっぱりきみモテるでしょ?」
「だからそんなことねーって」
「嘘つくなよ。私には分かってるんだからな!」
「えぇ…」
私の勢いに三ツ谷君はドン引きしていた。申し訳ないが、こればかりは譲れなかった。こんなに気遣いができて、強くて、顔が良くて、ギャップがえぐい。好かれない要素がないんだよ。
とにかく時間が迫っていたので彼には私の家に来てもらった。ドラマの再放送に釘付けになっている私の横に座りながらボタンを取り付けてくれていた三ツ谷君はオカンどころか聖母なのかもしれない。終いにはこの前の休日に暇潰しで作った下手くそなクッキーを「美味いよ。ハナさんお菓子作り上手だな」なんて褒めながら食べてくれた。マジでモテないって嘘だろ。