小学生編
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寒空の下、家の門の前で道路に体育座りをしている私は少しでも熱が逃げないように冷えきった己の身体を抱いていた。1時間前のことを思い出しては無意識に白い息を吐く。怒号と共に髪の毛を引っ掴まれて、外へ投げ出された。玄関どころか門の前だよ、凄くない?警察通ったらチクったろと企みつつ、あまりにも寒くて膝を抱えて俯いた。
「………なにしてんの」
上から声が降ってきて、咄嗟に顔を上げる。そこにはコートにマフラーなど防寒着に身を包んだ半間君がいて、私を見下ろしていた。コンビニ帰りなのか、片手にレジ袋を引っ提げている。じっと私を見下ろすその顔は怪訝の色を孕んでいた。やばい、怪しまれている。誤魔化すようにへらへら笑って「えっと、天体観測かな」と答えれば、眉を顰められた。絶対嘘だってバレてる。半間君は溜息を1つ落とすと、私の隣に座ってきた。
「じゃーオレもしよ」
「え!?」
まさかの発言に素っ頓狂な声を上げてしまう。すると隣で私と同じように体育座りをした半間君が自分の膝に頬をくっ付けて私の顔を覗き込むようにして見てきた。
「なに?邪魔?」
「…邪魔ではないけど…、地べたに座ると服汚れちゃうよ」
「オマエだって座ってんじゃん」
「私はいいんだよ、締め出されたんだから…………あっ」
やべ口が滑った。慌てて口をおさえるも、時すでに遅し。したり顔になった半間君は「へえ?」と続きを促してくる。なかったことにしたくて顔をそらすも、隣からビシビシと視線を感じる。無言の圧力に耐えられなくて、誤魔化すことは出来ないと観念した。
「口答えしたら、締め出されちゃった」
「ふーん…」
「美味しくないっておばあちゃんが作ってくれたご飯ひっくり返すからさ、我慢できなかったんだよね。勿体ないって言ったらこのザマ」
「…………」
事の顛末を説明すれば、彼は無言になってしまった。静まる場に、やっぱ言わなきゃよかったと後悔する。こんな話すれば困らせることなんて目に見えていた。…いやでもあの半間君だぞ?人に気を使ってどう声を掛ければいいか、なんて悩むか?めちゃくちゃ失礼なことを考えていると、突然首にマフラーを巻かれた。意表を突かれて呆然としてしまっていると、半間君が今度はコートを脱ぎ出すからハッと我に返り慌ててそれを止める。
「ちょ、何やってんの」
「んー?」
「コートいらないからね!本当に気にしないで!半間君が風邪ひいちゃったら責任取れないよ」
「いーから」
手、離して?次いで紡いだ彼は私の目をすごく見てくる。譲る気はない、と目で言われているのはすぐに分かった。渋々折れて制止する為に掴んだ半間君の腕を離す。すると満足したように目を細めて彼は微笑んだ。半間君のコートを肩に掛けられる。うーん、あったかい。
「…ありがとう」
お礼を言うが返事は来ず、その代わりに手を取られた。両手を半間君の両手に包まれる。うーん、あったかい。
「手ぇ冷てーなぁ」
「半間君の手はあったかいね」
「カワイソーなハナちゃんにいいもんやるよ」
「…いいもん?」
「そ♡」
半間君は機嫌が良さそうな声で相槌を打つと、持っていたレジ袋をがさがさと漁る。そこから取り出したものを、私の手の上に置いた。あったかい肉まんだった。「もらっていいの?」と肉まんから半間君へと顔を向ければ、彼は既に自分の分の肉まんを齧っていた。返事も来ないし渡したということはくれるということだし何より美味しそうなので、ありがたく頂戴します。いただきます、と小さく告げてから袋を開けて肉まんを食べた。美味しい。あっという間に食べ終えてから、ふと疑問が湧く。
「ていうか食べて良かったの?2つあったってことは1つは誰かのだったんじゃない?」
「2個ともオレの。1個じゃ足んねーからさ」
「さすが男の子。あと足らないのに食べちゃってごめん」
「オレがやったんだし、ダリィからいちいち謝んな」
「いいもんくれてありがとうございました!」
「ん、後で倍にして返してもらうからいーよ」
「分かった。後でお小遣いはたいて肉まん2個買ってくるわ」
「そーいうコトじゃねぇよ」
じゃあ一体どういうことだ。
娯楽の時間も与えられずお小遣いをもらうなんて以ての外のビンボー小学生の私はどうやって肉まんを買おうか悩んでいたのに一蹴されてしまった。
半間君は再びレジ袋を漁ると、今度はそこからミルクティーが顔を出した。彼がミルクティーを買った事実に、意外さとほんの少しの可愛らしさを感じてしまう。横目で盗み見ていると、何故かそれを手に置かれた。じんわりと広がるあたたかさを感じつつ、半間君の分じゃないかと彼の顔を見れば、「ノド乾いたろ?」と聞く前に答えられてしまった。嘘だろ、今日の半間君めちゃくちゃ優しいじゃん。戸惑っていると彼は私の顔を見るなり吹き出した。
「オマエ、顔に出過ぎ」
「至れり尽くせりで逆に怖いんだけど…。後で何か要求されそう…」
「しつれーだなぁ。素直に受け取れよ」
「いやまぁ飲むんですけど」
「おー、黙って飲め」
半間君はキツい言い方をしつつ、肉まんを包んでいた紙のゴミを回収していく。それをレジ袋に入れるのを見て、慌てて手を差し出して「せめて捨てとくよ」と言えば、変なものを見るような目をされた。え?何で?
「口うるせージジィに見られたらどーすんの?買い食いしたってもっとヒデー目に合うだろ」
「!!は、半間君…!きみって奴はなんて優しいんだ!」
「あ?んだよ今更…、前に言ったろ?オレはやさしーって」
「何か拾い食いした?」
「あんまチョーシ乗んなよ♡」
言葉のわりに半間君は楽しそうに笑った。だからといってこれ以上ふざけるとどうなるか分からないので口を噤む。
ありがたくミルクティーを頂戴すると、冷えた身体にすごく沁みた。そういえば肉まんは2つあったけど、飲み物はこれしかないことに気付く。
「ごめん。口付けちゃったけど、飲む?」
ペットボトルを差し出せば、半間君は驚いたのか目を見開いた。珍しくてまじまじ見てしまうと、すぐにそれは消えにやにやし出した。うーん、残念。
「…あは、オマエこーいうの意識しねぇんだな」
「え?気にしてるよ、謝ったじゃん」
「オマエほんとに勘が鈍いなぁ。…それとも、ワザとやってんの?」
にやにやと含みのある聞き方をされ、なんとなく目をそらす。半間君の言っている意味は勿論理解していた。…していたけど、小学生の男の子と間接キスしたから何だって話だ。向こうが気持ち悪がらないなら、正直それで終わり。それに対してソワソワしたり、ましてやラブが生まれようもない。生まれたらショタコンになったと見なしてくれてOKです。半間君ショタ要素皆無だけど。
何も言わない私に「…ま、いーわ」と呟いた半間君はペットボトルを受け取ると、飲まずに自分の頬に当てて暖をとり始めた。
「さみー…」
「だよね!返させていただきます!」
立ち上がって半間君と向き合うように前に立ち、コートを脱いで彼の肩に掛けた。じいっと見上げてくる視線を感じつつマフラーも返そうとしていると、不意に腕を掴まれ引き寄せられた。
「………え?」
気付いたら彼の膝の間にすっぽりと自分がおさまっていた。後ろからぎゅっと抱きしめられる。抗議しようにもこれじゃあ振り向けない。肩に彼の顎がささる。ぐりぐりすんな、痛いって。
「…えっと、何してんの?」
「これならあったけーだろ」
「いや、そうだけど…」
彼の言うとおり確かにあたたかかったので、それ以上何も言えなくなる。上手いこと丸め込まれているような気がするが、友達でこんな距離感アリなのだろうか。腑に落ちないでいると、彼は彼で私の手をニギニギして遊んでいる。ませてんなぁ、なんて思いながら私よりも大きな手にされるがままだった。
「手、小せぇな」
「半間君が大きいんだよ」
「やけに大人なしーじゃん。抵抗しねぇの?」
「色々くれたし、くっついてるとあったかいから。…今日ありがとね、半間君が親切にしてくれたから助かったよ」
危うく凍え死ぬとこだったからなぁ、なんて冗談めかして笑う。しかし半間君からの反応はない。私を抱き締めていた腕が緩んでいたので、すっかり黙ってしまった彼へと上半身を少し捩って振り返ると、思いの外顔がそばにあって、近い距離で色素の薄い目と視線が交わった。
「……オマエさ、」
「ん?」
「オレがただの親切で、こんなことしてるってホンキで思ってんの?」
いつにない真剣な表情だからか、普段なら顔が近いと絶対にそらすのに目が離せない。彼から放たれた言葉を頭の中で反芻し、彼がしてくれたことを思い返す。親切じゃなかったら、なんだと言うんだ。
ガラリ、と音が鳴る。咄嗟にそちらへ顔を向ければ、家の門を開けたおばあちゃんが私達を見ていた。一瞬驚いていたが、すぐにその顔は綻んだ。
「あら、ご近所の修二君じゃない。花子ちゃんと仲良くしてくれてたの?」
「…ドーモ」
するりと腕が離れていく。おっ社交的な半間君を見れるぞ!後でおちょくってやろうと、おばあちゃんから半間君へと視線をうつす。
「!」
うつした瞬間、ゾッと血の気が引いた。目で人を殺せるんじゃないかと言うくらい、彼の目はギラついていたから。おいおい、小学生が出すオーラじゃねぇぞ。殺気立つ空気を肌で感じて、私は慌てて立ち上がり庇うようにおばあちゃんの前に行く。
「お、おじいちゃんは?」
「もう寝たから迎えに来たのよ。寒かったでしょう?お風呂沸いてるから入りましょうね」
「あ…、うん。ありがとう、おばあちゃん」
「それじゃあ修二君、気を付けて帰ってね。…花子ちゃん早くいらっしゃい」
おばあちゃんは半間君に笑いかけると、すぐに家の方へ戻っていく。おばあちゃんが呼ぶから短く返事をして、半間君へと向き直る。座ったままの彼が私を見上げていた。すっかり殺気立ったオーラは消えていて、さっきまでの空気が嘘のようだった。気のせいだと思いたいが、中々に脳裏に焼き付いている。
「さっきの半間君、だいぶ怖かったよ。おばあちゃん殺されるんじゃないかと思った」
「クソみてぇなヤツ見たら、誰でもそーなるだろ」
「そんな奴でも私の保護者なんだよ。生かしてもらってるんだから従わなきゃ」
「…………」
「花子ちゃん!!」
「はーい!」
おばあちゃんに催促されて慌てて返事をするも、私を呼んだその声は若干ヒスが入っていて、やべぇなと焦る。
「ごめん、行かなきゃ。色々してくれたのに何もしてあげられなくてごめんね」
「……… ハナ、」
家の門に足を通そうとすると、後ろから手を引かれた。いつの間に立ち上がっていた半間君の胸板に頭がぶつかる。どうしたんだ、と見上げれば彼の顔が降ってきて……、額にキスを落とされた。
「———は???」
「ばはっおもしれー顔♡仕方ねーからこれでチャラにしてやるよ」
柔らかい感触がした額へ無意識に手を伸ばす。予想外の行動に呆けてしまっていると、そんな私を見て半間君は悪戯が成功した子供のような顔をしていた。
呆然とする私に満足そうに口角を上げた彼は踵を返すと、ひらひらと手を振って帰路へついていく。…私も戻らなきゃ。今度こそ家の門へと足を通しながら、コートのポケットに手を突っ込んで帰っていく後ろ姿を最後に一瞥した。こんなことでチャラヘッチャラにするなんて、かつて読んだ少女漫画の鬼宿しか私は知らない。……イマドキの小学生ってこんなにませてんの?
「………なにしてんの」
上から声が降ってきて、咄嗟に顔を上げる。そこにはコートにマフラーなど防寒着に身を包んだ半間君がいて、私を見下ろしていた。コンビニ帰りなのか、片手にレジ袋を引っ提げている。じっと私を見下ろすその顔は怪訝の色を孕んでいた。やばい、怪しまれている。誤魔化すようにへらへら笑って「えっと、天体観測かな」と答えれば、眉を顰められた。絶対嘘だってバレてる。半間君は溜息を1つ落とすと、私の隣に座ってきた。
「じゃーオレもしよ」
「え!?」
まさかの発言に素っ頓狂な声を上げてしまう。すると隣で私と同じように体育座りをした半間君が自分の膝に頬をくっ付けて私の顔を覗き込むようにして見てきた。
「なに?邪魔?」
「…邪魔ではないけど…、地べたに座ると服汚れちゃうよ」
「オマエだって座ってんじゃん」
「私はいいんだよ、締め出されたんだから…………あっ」
やべ口が滑った。慌てて口をおさえるも、時すでに遅し。したり顔になった半間君は「へえ?」と続きを促してくる。なかったことにしたくて顔をそらすも、隣からビシビシと視線を感じる。無言の圧力に耐えられなくて、誤魔化すことは出来ないと観念した。
「口答えしたら、締め出されちゃった」
「ふーん…」
「美味しくないっておばあちゃんが作ってくれたご飯ひっくり返すからさ、我慢できなかったんだよね。勿体ないって言ったらこのザマ」
「…………」
事の顛末を説明すれば、彼は無言になってしまった。静まる場に、やっぱ言わなきゃよかったと後悔する。こんな話すれば困らせることなんて目に見えていた。…いやでもあの半間君だぞ?人に気を使ってどう声を掛ければいいか、なんて悩むか?めちゃくちゃ失礼なことを考えていると、突然首にマフラーを巻かれた。意表を突かれて呆然としてしまっていると、半間君が今度はコートを脱ぎ出すからハッと我に返り慌ててそれを止める。
「ちょ、何やってんの」
「んー?」
「コートいらないからね!本当に気にしないで!半間君が風邪ひいちゃったら責任取れないよ」
「いーから」
手、離して?次いで紡いだ彼は私の目をすごく見てくる。譲る気はない、と目で言われているのはすぐに分かった。渋々折れて制止する為に掴んだ半間君の腕を離す。すると満足したように目を細めて彼は微笑んだ。半間君のコートを肩に掛けられる。うーん、あったかい。
「…ありがとう」
お礼を言うが返事は来ず、その代わりに手を取られた。両手を半間君の両手に包まれる。うーん、あったかい。
「手ぇ冷てーなぁ」
「半間君の手はあったかいね」
「カワイソーなハナちゃんにいいもんやるよ」
「…いいもん?」
「そ♡」
半間君は機嫌が良さそうな声で相槌を打つと、持っていたレジ袋をがさがさと漁る。そこから取り出したものを、私の手の上に置いた。あったかい肉まんだった。「もらっていいの?」と肉まんから半間君へと顔を向ければ、彼は既に自分の分の肉まんを齧っていた。返事も来ないし渡したということはくれるということだし何より美味しそうなので、ありがたく頂戴します。いただきます、と小さく告げてから袋を開けて肉まんを食べた。美味しい。あっという間に食べ終えてから、ふと疑問が湧く。
「ていうか食べて良かったの?2つあったってことは1つは誰かのだったんじゃない?」
「2個ともオレの。1個じゃ足んねーからさ」
「さすが男の子。あと足らないのに食べちゃってごめん」
「オレがやったんだし、ダリィからいちいち謝んな」
「いいもんくれてありがとうございました!」
「ん、後で倍にして返してもらうからいーよ」
「分かった。後でお小遣いはたいて肉まん2個買ってくるわ」
「そーいうコトじゃねぇよ」
じゃあ一体どういうことだ。
娯楽の時間も与えられずお小遣いをもらうなんて以ての外のビンボー小学生の私はどうやって肉まんを買おうか悩んでいたのに一蹴されてしまった。
半間君は再びレジ袋を漁ると、今度はそこからミルクティーが顔を出した。彼がミルクティーを買った事実に、意外さとほんの少しの可愛らしさを感じてしまう。横目で盗み見ていると、何故かそれを手に置かれた。じんわりと広がるあたたかさを感じつつ、半間君の分じゃないかと彼の顔を見れば、「ノド乾いたろ?」と聞く前に答えられてしまった。嘘だろ、今日の半間君めちゃくちゃ優しいじゃん。戸惑っていると彼は私の顔を見るなり吹き出した。
「オマエ、顔に出過ぎ」
「至れり尽くせりで逆に怖いんだけど…。後で何か要求されそう…」
「しつれーだなぁ。素直に受け取れよ」
「いやまぁ飲むんですけど」
「おー、黙って飲め」
半間君はキツい言い方をしつつ、肉まんを包んでいた紙のゴミを回収していく。それをレジ袋に入れるのを見て、慌てて手を差し出して「せめて捨てとくよ」と言えば、変なものを見るような目をされた。え?何で?
「口うるせージジィに見られたらどーすんの?買い食いしたってもっとヒデー目に合うだろ」
「!!は、半間君…!きみって奴はなんて優しいんだ!」
「あ?んだよ今更…、前に言ったろ?オレはやさしーって」
「何か拾い食いした?」
「あんまチョーシ乗んなよ♡」
言葉のわりに半間君は楽しそうに笑った。だからといってこれ以上ふざけるとどうなるか分からないので口を噤む。
ありがたくミルクティーを頂戴すると、冷えた身体にすごく沁みた。そういえば肉まんは2つあったけど、飲み物はこれしかないことに気付く。
「ごめん。口付けちゃったけど、飲む?」
ペットボトルを差し出せば、半間君は驚いたのか目を見開いた。珍しくてまじまじ見てしまうと、すぐにそれは消えにやにやし出した。うーん、残念。
「…あは、オマエこーいうの意識しねぇんだな」
「え?気にしてるよ、謝ったじゃん」
「オマエほんとに勘が鈍いなぁ。…それとも、ワザとやってんの?」
にやにやと含みのある聞き方をされ、なんとなく目をそらす。半間君の言っている意味は勿論理解していた。…していたけど、小学生の男の子と間接キスしたから何だって話だ。向こうが気持ち悪がらないなら、正直それで終わり。それに対してソワソワしたり、ましてやラブが生まれようもない。生まれたらショタコンになったと見なしてくれてOKです。半間君ショタ要素皆無だけど。
何も言わない私に「…ま、いーわ」と呟いた半間君はペットボトルを受け取ると、飲まずに自分の頬に当てて暖をとり始めた。
「さみー…」
「だよね!返させていただきます!」
立ち上がって半間君と向き合うように前に立ち、コートを脱いで彼の肩に掛けた。じいっと見上げてくる視線を感じつつマフラーも返そうとしていると、不意に腕を掴まれ引き寄せられた。
「………え?」
気付いたら彼の膝の間にすっぽりと自分がおさまっていた。後ろからぎゅっと抱きしめられる。抗議しようにもこれじゃあ振り向けない。肩に彼の顎がささる。ぐりぐりすんな、痛いって。
「…えっと、何してんの?」
「これならあったけーだろ」
「いや、そうだけど…」
彼の言うとおり確かにあたたかかったので、それ以上何も言えなくなる。上手いこと丸め込まれているような気がするが、友達でこんな距離感アリなのだろうか。腑に落ちないでいると、彼は彼で私の手をニギニギして遊んでいる。ませてんなぁ、なんて思いながら私よりも大きな手にされるがままだった。
「手、小せぇな」
「半間君が大きいんだよ」
「やけに大人なしーじゃん。抵抗しねぇの?」
「色々くれたし、くっついてるとあったかいから。…今日ありがとね、半間君が親切にしてくれたから助かったよ」
危うく凍え死ぬとこだったからなぁ、なんて冗談めかして笑う。しかし半間君からの反応はない。私を抱き締めていた腕が緩んでいたので、すっかり黙ってしまった彼へと上半身を少し捩って振り返ると、思いの外顔がそばにあって、近い距離で色素の薄い目と視線が交わった。
「……オマエさ、」
「ん?」
「オレがただの親切で、こんなことしてるってホンキで思ってんの?」
いつにない真剣な表情だからか、普段なら顔が近いと絶対にそらすのに目が離せない。彼から放たれた言葉を頭の中で反芻し、彼がしてくれたことを思い返す。親切じゃなかったら、なんだと言うんだ。
ガラリ、と音が鳴る。咄嗟にそちらへ顔を向ければ、家の門を開けたおばあちゃんが私達を見ていた。一瞬驚いていたが、すぐにその顔は綻んだ。
「あら、ご近所の修二君じゃない。花子ちゃんと仲良くしてくれてたの?」
「…ドーモ」
するりと腕が離れていく。おっ社交的な半間君を見れるぞ!後でおちょくってやろうと、おばあちゃんから半間君へと視線をうつす。
「!」
うつした瞬間、ゾッと血の気が引いた。目で人を殺せるんじゃないかと言うくらい、彼の目はギラついていたから。おいおい、小学生が出すオーラじゃねぇぞ。殺気立つ空気を肌で感じて、私は慌てて立ち上がり庇うようにおばあちゃんの前に行く。
「お、おじいちゃんは?」
「もう寝たから迎えに来たのよ。寒かったでしょう?お風呂沸いてるから入りましょうね」
「あ…、うん。ありがとう、おばあちゃん」
「それじゃあ修二君、気を付けて帰ってね。…花子ちゃん早くいらっしゃい」
おばあちゃんは半間君に笑いかけると、すぐに家の方へ戻っていく。おばあちゃんが呼ぶから短く返事をして、半間君へと向き直る。座ったままの彼が私を見上げていた。すっかり殺気立ったオーラは消えていて、さっきまでの空気が嘘のようだった。気のせいだと思いたいが、中々に脳裏に焼き付いている。
「さっきの半間君、だいぶ怖かったよ。おばあちゃん殺されるんじゃないかと思った」
「クソみてぇなヤツ見たら、誰でもそーなるだろ」
「そんな奴でも私の保護者なんだよ。生かしてもらってるんだから従わなきゃ」
「…………」
「花子ちゃん!!」
「はーい!」
おばあちゃんに催促されて慌てて返事をするも、私を呼んだその声は若干ヒスが入っていて、やべぇなと焦る。
「ごめん、行かなきゃ。色々してくれたのに何もしてあげられなくてごめんね」
「……… ハナ、」
家の門に足を通そうとすると、後ろから手を引かれた。いつの間に立ち上がっていた半間君の胸板に頭がぶつかる。どうしたんだ、と見上げれば彼の顔が降ってきて……、額にキスを落とされた。
「———は???」
「ばはっおもしれー顔♡仕方ねーからこれでチャラにしてやるよ」
柔らかい感触がした額へ無意識に手を伸ばす。予想外の行動に呆けてしまっていると、そんな私を見て半間君は悪戯が成功した子供のような顔をしていた。
呆然とする私に満足そうに口角を上げた彼は踵を返すと、ひらひらと手を振って帰路へついていく。…私も戻らなきゃ。今度こそ家の門へと足を通しながら、コートのポケットに手を突っ込んで帰っていく後ろ姿を最後に一瞥した。こんなことでチャラヘッチャラにするなんて、かつて読んだ少女漫画の鬼宿しか私は知らない。……イマドキの小学生ってこんなにませてんの?