中学生編
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中学3年生になった。今年から受験生である。高校どうしよ。とくに夢があるわけではないので、家から近いところにする予定ではある。転校生であることに物珍しい目で見られていたが、新しい学校にもある程度馴染めてきた。こちとら転校なんて何回もしてるので慣れている。特別変なところがなければ、同級生の興味なんてすぐに薄れた。
さて帰ろうと歩いていると、校門が騒がしいことに気付いた。何かあったのかなと目を向けると、そこには見慣れた姿があって私は思わず呆気を取られた。
「ま、マイキー君…」
そうそこには特攻服に身を包んだマイキー君が立っていた。なんだこの中学校に彼女でもいるのかと思っていると、私に気付いたマイキー君と目が合う。すると彼は嬉しそうに顔を綻ばせて、私を手招きした。え〜私〜?周りにいた学生達からの奇異な者を見る視線が痛かったので、居心地の悪さを感じた私は彼に駆け足で近寄る。
「ちょ、何してんの」
「暇だからオマエに遊んでもらおうと思って。てか何でヒソヒソ話してんの?いつも通りデケェ声で話せば?」
「私には私の事情があるんだよ」
何の悪びれもしないマイキー君に呆れたような返す。私は至って普通な女子中学生を演じていたんだ。マイキー君みたいな悪い意味で目立つ子と知り合いだってバレたら、明日から周りからの私の見る目が変わってしまう。
「ふーん?とにかく乗れよ。どっか遊び行こうぜ」
「う、うーん…」
当然のように愛機に跨る彼に後ろに乗れと顎でも指示される。校門の前でバイクに乗ったらそれこそ噂の的じゃん。煮え切らない態度でいると、空から真一郎さんの声が降ってきた。あの人の呪縛に囚われている私は、渋々ほんっとうに渋々彼の後ろに乗った。赤いヘルメットを渡されたのでそれを被る。マイキー君がバイクを発進させて加速していく中で、ふと校門へと目をやる。いくつか見知った同級生の顔があったので、もし仮に先生にチクられたらシラを切り続けようと深く誓った。
着いた先は抗争の場でした。何人か見慣れた顔が知らない暴走族のチームと喧嘩している。やってきた私達に「おせぇぞ!マイキー!」という怒号がどっかからか飛んできた。多分ドラケン君かもしれない。
「マイキー君…、」
「なに?」
「どっか遊びに行くとは聞いてたけど、何でこんな所連れてきた?」
いや本当に何で?目の前は血生臭い喧嘩の場だ。暇って言ったじゃん。でも怒られてたから絶対予定すっぽかして、こっち来たじゃん。暇じゃねーじゃん。だから目立つ特攻服且つバイクで来てたのかと嫌でも納得してしまっていると、マイキー君は悪戯が成功した子供のように笑いかけてきた。
「ハナにオレのカッコイイとこ見て欲しくて」
「ええ…?」
「そこで見てろ。すぐカタつけてくるから」
そう言って彼は喧嘩の場へゆったり歩んで行った。溢れ出る強者感、えっぐ。互角だった抗争はマイキー君がその場に加わってから、その流れは圧倒的に東卍が有利になった。言葉通りの行いに、思わず目を見張る。彼から出る足技は鮮やかだった。
相手の暴走族が皆伸されたところで、マイキー君が私の所へ爛々と駆け寄ってきた。総長なら総長らしく皆にお疲れ様でしたくらい言ってやれ。
「どうだった?オレ、カッコよかった?」
「格好良かったけど、本当に格好良い男は女の子を抗争の場に連れて来ないかな…」
「マジか、じゃあ二度と連れて来ないようにする」
「いやめっちゃ素直に反省するじゃん」
そう反応されると、もうこっちは悪態つけない。真一郎さんの(私からしたら)遺言に従っていれば、マイキー君はすごい私に懐いた。彼は私のことを亡きお兄ちゃんと重ねて、姉のようだと思っているのかもしれない。しょんぼりとしている彼の後ろで、わなわなと震えながら立ち上がる暴走族の1人が視界に映った。
「っマイキー!危ない!」
誰かの叫びが聞こえたところで、マイキー君は咄嗟に後ろを振り返ろうとするが、私は彼を庇うようにして移動すると、襲ってきた暴走族の1人を回し蹴りした。軽く吹っ飛んで行った男を見て安堵するが、すぐに制服のスカートだったことに気付いて慌てて裾を直してから、唖然としている東卍の子たちへと視線を移す。
「…見た?」
そう問いかければ、皆ぶんぶんと首を横に振った。良かった、一応ペチパンツ履いてるけど、見られたら恥ずかしいので安堵する。後ろにいるマイキー君へと向き直れば、彼はむくれた顔をしていた。
「守ってくれなくてもオレは大丈夫だった」
「ごめんて」
「じゃあこの後ファミレス付き合ってくれるよな?」
「えっ…」
(身長差の関係で)上目遣いで伺うように見られて、しまったと頭が痛くなった。
「東卍のメンバーと行ってきなよ。勝ったんだし、打ち上げで丁度いいじゃん」
「じゃあケンチンも連れてく」
「勝手にオレを巻き込むんじゃねぇ」
ドラケン君がこっちにやって来た。彼ならきっと助け舟を出してくれるだろうと、内心ホッとする。頼むぜ、ドラケン君!と熱い視線を送ると、何故か彼はバツが悪そうに私から顔を逸らした。
「悪ぃけどオレ、この後用事あんだわ」
「なん…だと…」
「てか何?イヤなの、オレといんの」
「顔怖いから睨まないでくれ」
ドラケン君が三ツ谷君や林田君やらに予定を聞いてくれている横で、マイキー君に不服そうに睨まれる。さてどうしようかと悩んでいると、遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。誰かの「やべぇ!サツだ!」の声を皮切りに、皆逃げようとバイクに跨ったり、走って逃亡していったりする。慣れているのか早すぎるその対応に呆然としてしまっていると、手首を掴まれた。
「ボーッとしてんなよ。早く逃げるぞ」
マイキー君に手首を引かれ彼のバイクまで連れてこられる。焦っているのかヘルメットを軽く投げられたので、キャッチしてそれを被ると、すでにバイクに跨っている彼の後ろに乗った。いつも腰に誘導されるので軽く手を添える。しかしぐいっと手を引き寄せられてしまい、マイキー君に密着する形になってしまった。
「飛ばすからちゃんと掴まってろ」
でもこんな抱きしめるような体勢にならなくてもと言おうとしたと同時に、物凄い排気音を轟かせてバイクは加速した。今まで後ろに乗せてもらったことはあるが、ここまで速いのは初めてで身が縮こまる。「速い!速いって!!」そう悲鳴に近い声を上げながら、マイキー君にぎゅっと掴まる。そんな私の怯えきった様子が面白いのか、運転するマイキー君は可笑しそうに笑っていた。
「ほら、」
公園のベンチに座り俯いていると、首元に温かいものがあてられる。見上げたらマイキー君がココアを差し出してくれていた。近くの自販機で買ってきてくれたらしい。ありがとう、とお礼を言って受け取る。春になったとはいえ、夜はまだ冷えるので温かい飲み物にしてくれたのはありがたかった。ペットボトルのキャップを開けて飲んでいると、マイキー君は隣に座ってきた。
「…落ち着いた?」
「心境としては真っ白に燃え尽きたね」
「は?」
「燃え尽きたぜ…真っ白にな…」
多分さっきまでの私のベンチの座り方なんて、ほとんどジョーだったと思う。声音を変えて言ってみても伝わってないのか、マイキー君は何言ってんだコイツみたいな顔をしていた。ごめん言いたいだけなんだ。
「まさか酔うなんてな」
「正直生きた心地がしなかったね」
「声もカサカサじゃん」
「そりゃあんだけ叫べばね」
遠い目でさっきまでの記憶を辿る。まじで死ぬかと思った。だってちょっとヘマしたらバイクなんて身体を護りようがないから即死じゃん。普通のスピードなら怪我で済むかもしれないよ。でもえっぐいスピードだったので、終始生きた心地がしませんでした。延々と絶叫マシン乗せられてる感じ。1番許せなかったのは人が死にそうになってるのに、マイキー君が爆笑してたことですかね。まあ飲み物買ってきてくれたし許してやろうという気持ちになってしまうのだから、私は彼に相当甘いんだと思う。
「楽しかったからまたやろうな」
「は?ふざけろ」
「オレにそんな口聞くのオマエくらいだよ」
そこでふとマイキー君へと顔を向ける。初めて会った時よりも幾分か伸びたその髪が風でそよそよと揺れていた。
「嫌だった?」
きみが嫌ならやめるよ、と告げながら真っ黒い瞳を見つめる。私はあの人に任されているから、彼の嫌なことはしたくなかった。私の態度が暴走族の総長としての面子を潰してしまうのなら私はそれに従う。前よりもメンバーは増え続けているし、それも致し方ないだろう。ただそうなるとコミュ力ゼロだからかなり接しにくくなるけどね。
「…ずっと思ってたんだけどさ」
「うん?」
「何でオマエはオレに良くしてくれんの?」
そう問い掛けてきたマイキー君の顔は何を考えているか全く分からないほど、その表情に色がなかった。
「オマエのが年上なのに話し方なんてオレに許可とる必要ねーじゃん」
「いや人が嫌がることしたくないでしょ。気にしすぎだって」
「兄貴の為なんじゃねぇの?」
真一郎さんのことが出てきて、言葉が詰まる。すぐに反論すれば良かったのだが、図星だったのですぐに反応が出来なかった。
「さっきのことだけじゃねーよ。オレのワガママ聞いてくれんのも、全部兄貴の為だろ?」
「お、落ち着きなよ」
「兄貴に任されたからオレの言うこと聞くんだよな?だったら抱かせろってオレが言えばオマエはそれに従うのか?」
もう完全にそうだと思い込んでしまったマイキー君は一気に捲し立てた。彼はもしかして私と真一郎さんの会話を聞いていたのだろうか。いつも笑ったり拗ねてむくれたりしてるマイキー君はそこにはいなくて、私を責めているのに悲しそうに顔が歪められていた。
「もうオマエとは会わない」
「!」
「…いくら楽しくても全部オレの独り善がりなら、そんなの虚しいだけだろ」
「マイキー君!」
やばい暴走してる、と焦ってマイキー君の後頭部に手を添えて、自分の方へ引き寄せた。離れないようにきつく抱きしめる。彼は抵抗しなかった。
「確かに私は真一郎さんにきみを任されたよ。でもマイキー君の独り善がりじゃない。私の気持ちを勝手に量らないで」
「………」
「きみのワガママに振り回されたりもするけど、私がそれを楽しくなかったなんていつ言った?」
「!」
「一線を超えたりとかそういうんじゃなくて、私には私の出来る常識の範囲内でマイキー君に応えたいとは思ってるよ。だってきみは私の弟のようなものじゃないか」
そこでようやく彼の髪を一撫でしてから力を緩めて解放した。
「だから会わないなんて寂しいこと言うなよ」
マイキー君の両手を自分の両手で包み込むようにして、彼の様子を伺う。私の言いたいことは言った。これで拒否られたらもうどうしようもない。この子もまだ中二になったばかりだ。兄を半年ほど前に亡くして、本来なら情緒も安定しないだろう。それなのに皆の前で虚勢を張って笑顔でいるのだから、人に頼れない不器用な子なんだと思う。
「……今日楽しかったか?」
「えっ、ああ…うん。死にそうだったけど…」
マイキー君は俯きながら私に確認してきた。私が迷いながらも頷くと、彼は俯いていた顔を上げた。その顔は悪戯っ子の笑顔だった。
「じゃあ帰りも同じくらい飛ばしていい?」
「…そうか、お前は私に死ねと言うんだな」
「ははっ、そんなわけねーじゃん。てかハナずっと声カサカサでおもしれ〜」
「誰のせいだと思ってんだよ」
確かにカッコつけて諭してる間ずっと声カサカサだった。スナックのママの酒やけ声と類似している。マイキー君笑ってるけど、納得してくれただろうか。無理して笑っていないだろうか。帰るかと愛機へと歩いていく彼を追いかけようと、いつの間にかに落ちてしまっていたペットボトルを拾い上げてから、私は自分より小さい背中を追った。
さて帰ろうと歩いていると、校門が騒がしいことに気付いた。何かあったのかなと目を向けると、そこには見慣れた姿があって私は思わず呆気を取られた。
「ま、マイキー君…」
そうそこには特攻服に身を包んだマイキー君が立っていた。なんだこの中学校に彼女でもいるのかと思っていると、私に気付いたマイキー君と目が合う。すると彼は嬉しそうに顔を綻ばせて、私を手招きした。え〜私〜?周りにいた学生達からの奇異な者を見る視線が痛かったので、居心地の悪さを感じた私は彼に駆け足で近寄る。
「ちょ、何してんの」
「暇だからオマエに遊んでもらおうと思って。てか何でヒソヒソ話してんの?いつも通りデケェ声で話せば?」
「私には私の事情があるんだよ」
何の悪びれもしないマイキー君に呆れたような返す。私は至って普通な女子中学生を演じていたんだ。マイキー君みたいな悪い意味で目立つ子と知り合いだってバレたら、明日から周りからの私の見る目が変わってしまう。
「ふーん?とにかく乗れよ。どっか遊び行こうぜ」
「う、うーん…」
当然のように愛機に跨る彼に後ろに乗れと顎でも指示される。校門の前でバイクに乗ったらそれこそ噂の的じゃん。煮え切らない態度でいると、空から真一郎さんの声が降ってきた。あの人の呪縛に囚われている私は、渋々ほんっとうに渋々彼の後ろに乗った。赤いヘルメットを渡されたのでそれを被る。マイキー君がバイクを発進させて加速していく中で、ふと校門へと目をやる。いくつか見知った同級生の顔があったので、もし仮に先生にチクられたらシラを切り続けようと深く誓った。
着いた先は抗争の場でした。何人か見慣れた顔が知らない暴走族のチームと喧嘩している。やってきた私達に「おせぇぞ!マイキー!」という怒号がどっかからか飛んできた。多分ドラケン君かもしれない。
「マイキー君…、」
「なに?」
「どっか遊びに行くとは聞いてたけど、何でこんな所連れてきた?」
いや本当に何で?目の前は血生臭い喧嘩の場だ。暇って言ったじゃん。でも怒られてたから絶対予定すっぽかして、こっち来たじゃん。暇じゃねーじゃん。だから目立つ特攻服且つバイクで来てたのかと嫌でも納得してしまっていると、マイキー君は悪戯が成功した子供のように笑いかけてきた。
「ハナにオレのカッコイイとこ見て欲しくて」
「ええ…?」
「そこで見てろ。すぐカタつけてくるから」
そう言って彼は喧嘩の場へゆったり歩んで行った。溢れ出る強者感、えっぐ。互角だった抗争はマイキー君がその場に加わってから、その流れは圧倒的に東卍が有利になった。言葉通りの行いに、思わず目を見張る。彼から出る足技は鮮やかだった。
相手の暴走族が皆伸されたところで、マイキー君が私の所へ爛々と駆け寄ってきた。総長なら総長らしく皆にお疲れ様でしたくらい言ってやれ。
「どうだった?オレ、カッコよかった?」
「格好良かったけど、本当に格好良い男は女の子を抗争の場に連れて来ないかな…」
「マジか、じゃあ二度と連れて来ないようにする」
「いやめっちゃ素直に反省するじゃん」
そう反応されると、もうこっちは悪態つけない。真一郎さんの(私からしたら)遺言に従っていれば、マイキー君はすごい私に懐いた。彼は私のことを亡きお兄ちゃんと重ねて、姉のようだと思っているのかもしれない。しょんぼりとしている彼の後ろで、わなわなと震えながら立ち上がる暴走族の1人が視界に映った。
「っマイキー!危ない!」
誰かの叫びが聞こえたところで、マイキー君は咄嗟に後ろを振り返ろうとするが、私は彼を庇うようにして移動すると、襲ってきた暴走族の1人を回し蹴りした。軽く吹っ飛んで行った男を見て安堵するが、すぐに制服のスカートだったことに気付いて慌てて裾を直してから、唖然としている東卍の子たちへと視線を移す。
「…見た?」
そう問いかければ、皆ぶんぶんと首を横に振った。良かった、一応ペチパンツ履いてるけど、見られたら恥ずかしいので安堵する。後ろにいるマイキー君へと向き直れば、彼はむくれた顔をしていた。
「守ってくれなくてもオレは大丈夫だった」
「ごめんて」
「じゃあこの後ファミレス付き合ってくれるよな?」
「えっ…」
(身長差の関係で)上目遣いで伺うように見られて、しまったと頭が痛くなった。
「東卍のメンバーと行ってきなよ。勝ったんだし、打ち上げで丁度いいじゃん」
「じゃあケンチンも連れてく」
「勝手にオレを巻き込むんじゃねぇ」
ドラケン君がこっちにやって来た。彼ならきっと助け舟を出してくれるだろうと、内心ホッとする。頼むぜ、ドラケン君!と熱い視線を送ると、何故か彼はバツが悪そうに私から顔を逸らした。
「悪ぃけどオレ、この後用事あんだわ」
「なん…だと…」
「てか何?イヤなの、オレといんの」
「顔怖いから睨まないでくれ」
ドラケン君が三ツ谷君や林田君やらに予定を聞いてくれている横で、マイキー君に不服そうに睨まれる。さてどうしようかと悩んでいると、遠くでパトカーのサイレンが聞こえた。誰かの「やべぇ!サツだ!」の声を皮切りに、皆逃げようとバイクに跨ったり、走って逃亡していったりする。慣れているのか早すぎるその対応に呆然としてしまっていると、手首を掴まれた。
「ボーッとしてんなよ。早く逃げるぞ」
マイキー君に手首を引かれ彼のバイクまで連れてこられる。焦っているのかヘルメットを軽く投げられたので、キャッチしてそれを被ると、すでにバイクに跨っている彼の後ろに乗った。いつも腰に誘導されるので軽く手を添える。しかしぐいっと手を引き寄せられてしまい、マイキー君に密着する形になってしまった。
「飛ばすからちゃんと掴まってろ」
でもこんな抱きしめるような体勢にならなくてもと言おうとしたと同時に、物凄い排気音を轟かせてバイクは加速した。今まで後ろに乗せてもらったことはあるが、ここまで速いのは初めてで身が縮こまる。「速い!速いって!!」そう悲鳴に近い声を上げながら、マイキー君にぎゅっと掴まる。そんな私の怯えきった様子が面白いのか、運転するマイキー君は可笑しそうに笑っていた。
「ほら、」
公園のベンチに座り俯いていると、首元に温かいものがあてられる。見上げたらマイキー君がココアを差し出してくれていた。近くの自販機で買ってきてくれたらしい。ありがとう、とお礼を言って受け取る。春になったとはいえ、夜はまだ冷えるので温かい飲み物にしてくれたのはありがたかった。ペットボトルのキャップを開けて飲んでいると、マイキー君は隣に座ってきた。
「…落ち着いた?」
「心境としては真っ白に燃え尽きたね」
「は?」
「燃え尽きたぜ…真っ白にな…」
多分さっきまでの私のベンチの座り方なんて、ほとんどジョーだったと思う。声音を変えて言ってみても伝わってないのか、マイキー君は何言ってんだコイツみたいな顔をしていた。ごめん言いたいだけなんだ。
「まさか酔うなんてな」
「正直生きた心地がしなかったね」
「声もカサカサじゃん」
「そりゃあんだけ叫べばね」
遠い目でさっきまでの記憶を辿る。まじで死ぬかと思った。だってちょっとヘマしたらバイクなんて身体を護りようがないから即死じゃん。普通のスピードなら怪我で済むかもしれないよ。でもえっぐいスピードだったので、終始生きた心地がしませんでした。延々と絶叫マシン乗せられてる感じ。1番許せなかったのは人が死にそうになってるのに、マイキー君が爆笑してたことですかね。まあ飲み物買ってきてくれたし許してやろうという気持ちになってしまうのだから、私は彼に相当甘いんだと思う。
「楽しかったからまたやろうな」
「は?ふざけろ」
「オレにそんな口聞くのオマエくらいだよ」
そこでふとマイキー君へと顔を向ける。初めて会った時よりも幾分か伸びたその髪が風でそよそよと揺れていた。
「嫌だった?」
きみが嫌ならやめるよ、と告げながら真っ黒い瞳を見つめる。私はあの人に任されているから、彼の嫌なことはしたくなかった。私の態度が暴走族の総長としての面子を潰してしまうのなら私はそれに従う。前よりもメンバーは増え続けているし、それも致し方ないだろう。ただそうなるとコミュ力ゼロだからかなり接しにくくなるけどね。
「…ずっと思ってたんだけどさ」
「うん?」
「何でオマエはオレに良くしてくれんの?」
そう問い掛けてきたマイキー君の顔は何を考えているか全く分からないほど、その表情に色がなかった。
「オマエのが年上なのに話し方なんてオレに許可とる必要ねーじゃん」
「いや人が嫌がることしたくないでしょ。気にしすぎだって」
「兄貴の為なんじゃねぇの?」
真一郎さんのことが出てきて、言葉が詰まる。すぐに反論すれば良かったのだが、図星だったのですぐに反応が出来なかった。
「さっきのことだけじゃねーよ。オレのワガママ聞いてくれんのも、全部兄貴の為だろ?」
「お、落ち着きなよ」
「兄貴に任されたからオレの言うこと聞くんだよな?だったら抱かせろってオレが言えばオマエはそれに従うのか?」
もう完全にそうだと思い込んでしまったマイキー君は一気に捲し立てた。彼はもしかして私と真一郎さんの会話を聞いていたのだろうか。いつも笑ったり拗ねてむくれたりしてるマイキー君はそこにはいなくて、私を責めているのに悲しそうに顔が歪められていた。
「もうオマエとは会わない」
「!」
「…いくら楽しくても全部オレの独り善がりなら、そんなの虚しいだけだろ」
「マイキー君!」
やばい暴走してる、と焦ってマイキー君の後頭部に手を添えて、自分の方へ引き寄せた。離れないようにきつく抱きしめる。彼は抵抗しなかった。
「確かに私は真一郎さんにきみを任されたよ。でもマイキー君の独り善がりじゃない。私の気持ちを勝手に量らないで」
「………」
「きみのワガママに振り回されたりもするけど、私がそれを楽しくなかったなんていつ言った?」
「!」
「一線を超えたりとかそういうんじゃなくて、私には私の出来る常識の範囲内でマイキー君に応えたいとは思ってるよ。だってきみは私の弟のようなものじゃないか」
そこでようやく彼の髪を一撫でしてから力を緩めて解放した。
「だから会わないなんて寂しいこと言うなよ」
マイキー君の両手を自分の両手で包み込むようにして、彼の様子を伺う。私の言いたいことは言った。これで拒否られたらもうどうしようもない。この子もまだ中二になったばかりだ。兄を半年ほど前に亡くして、本来なら情緒も安定しないだろう。それなのに皆の前で虚勢を張って笑顔でいるのだから、人に頼れない不器用な子なんだと思う。
「……今日楽しかったか?」
「えっ、ああ…うん。死にそうだったけど…」
マイキー君は俯きながら私に確認してきた。私が迷いながらも頷くと、彼は俯いていた顔を上げた。その顔は悪戯っ子の笑顔だった。
「じゃあ帰りも同じくらい飛ばしていい?」
「…そうか、お前は私に死ねと言うんだな」
「ははっ、そんなわけねーじゃん。てかハナずっと声カサカサでおもしれ〜」
「誰のせいだと思ってんだよ」
確かにカッコつけて諭してる間ずっと声カサカサだった。スナックのママの酒やけ声と類似している。マイキー君笑ってるけど、納得してくれただろうか。無理して笑っていないだろうか。帰るかと愛機へと歩いていく彼を追いかけようと、いつの間にかに落ちてしまっていたペットボトルを拾い上げてから、私は自分より小さい背中を追った。