中学生編
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退院した時にはもう季節は冬になっていた。どうやら叔父さんの家は新宿にあるらしいので、今通っている中学校も変わるらしい。両親の家を取り壊して土地に出すというので、必要なものを整理してこいとの指示で私は久しぶりに家に帰ってきていた。
服とか教材とか色々ダンボールに詰めていく。ある程度纏まったのでどれくらい時間が経ったのか確認する為に、新しい携帯へと手を伸ばした。夕方16時。あと1時間もすれば終わるし、終わったら新しい家に帰ろう。携帯の画面を見つめる。前の携帯は事故で壊れてしまったらしい。偶然会えればいいのだが、中々そんな奇跡は起きない。イザナ君は大丈夫だろうか。
そういえば家に帰ってきたのだから、折角だし真一郎さんのお店にでも顔を出そうかな。なんて思っていると、不意にインターホンが鳴った。もしかしたらご近所さんかもしれない。挨拶しておくか、と玄関まで降りて、ガチャりと扉を開けた。
「っハナ!」
「ど、ドラケン君…」
そこにいたのはドラケン君だった。うわ半年ぶり、なんて呑気に思っていると、彼は私の両肩を掴んで揺らしてきた。痛い痛い。
「オマエが事故ったって近所の人に聞いたんだよ!入院した病院は分からねぇし、電話も繋がらねぇし、もう大丈夫なのか!?」
いつもクールなドラケン君が珍しく焦っていた。たまたま私がいる時にインターホンが鳴ったのもおかしいので、もしかしたら彼は時間を割いて今まで来てくれていたのかもしれない。
「心配してくれてありがとう。もう完治したよ。連絡もつかなくてごめん。携帯、事故で壊れちゃってさ」
「…そうか、それなら良かった」
彼は心底安心したように息をつくと、私の肩から手を下ろした。
「良かったら、上がってく?お茶出すよ」
「いいのか?」
「うん、積もる話もあるしさ。叔父さんには報告さえしておけば怒られないから」
そもそもあの人は私に興味無い。面倒事さえ起こさなければ、それでいいのだ。私の口から叔父さんという言葉が出て、何かを察したドラケン君は1度目を伏せると「…じゃあお言葉に甘えて」と靴を脱いで家に上がった。
「珈琲と紅茶と玄米茶と煎茶どれがいい?」
「すげーあんな。悩むから任せるわ」
「おっけー。じゃあ玄米茶ね」
何故なら私が好きだからね。やかんで沸いたお湯を玄米茶のパックを入れたマグカップに入れる。2人分用意すると、ソファーに座るドラケン君の机の前に1つ置いた。ありがとな、とお礼を言われ、いいよと返しながら私は彼の向かい側のソファーに腰を下ろした。さて、何から話そうかな。
「いやーお父さんがお盆休み中に沖縄旅行行ったんだけどさ、脇見運転してたトラックが突っ込んできて…」
「………」
「それで私だけ生き残っちゃった。ああ、悲しそうな顔しないで!もう吹っ切れてるからさ」
「…両親亡くなってそんなすぐ吹っ切れるワケねぇだろ」
「笑いたくねぇ時は無理に笑わなくていい。少なくともオレの前では」
彼はそう言ってマグカップに口付けた。この子カッコよすぎんか?
「ドラケン君にエマちゃんがいなければなあ〜、嫁に貰って欲しかったわ」
「は?オレのことそんな風に見たことねーだろ」
「まーそうなんだけどさ、そう思っちゃうくらいには素敵だよって話」
そうだ、優しい両親は居なくなってしまったけど、私にはまだ友達がいる。
「そういえば真一郎さんやマイキー君は元気?実は片付け終わったら、真一郎さんのお店に顔出そうと思ってたんだよね」
「……そっか、オマエは知らないんだよな」
「…え?」
なんとなく世間話として投げ掛けた問い掛けに予想した反応は返ってこず、ドラケン君は悲しそうに微笑んだ。突然のしんみりとした空気に困惑してしまう。何があったんだとドキドキしながら身構えていると、ドラケン君ゆっくりとマグカップを置いた。
「真一郎君は亡くなった」
「……………は?」
全く予想もしない言葉に、頭が真っ白になった。冗談でしょ、と思うがドラケン君はそんな洒落にならない嘘はつかない。じゃあ真実だ。それでも理解が追いつかなくて、声が震える。
「ど、どうして…?」
「オレらのダチに一虎っていうヤツがいたんだけど、ソイツが真一郎君を殺した」
ドラケン君が説明してくれた話はこうだ。マイキー君の誕生日プレゼントに一虎君って子はバブをプレゼントしたかったらしい。それでバイク屋を経営していた真一郎さんの店で盗みを働こうとしたところ、鉢合わせて後ろから鈍器でぶん殴っちゃった、と。私はまず思った。お前ら友達なら友達のお兄さんの経営してる店くらい知っておけと。そもそも盗みでもらった誕プレなんか喜ばねぇだろと思うのだが、私が今更そう思ったところで無意味だろう。
「そっか…、真一郎さん亡くなったんだ」
あの人はイザナ君と同じ施設だっただけの私にも本当に優しく接してくれた。真一郎さんの人のいい笑顔が好きだった。下らない話をするのも好きだった。頭を撫でてくれる手が温かくて好きだった。蘇ってくる思い出に、目頭が熱くなるもなんとか堪える。
「お墓参り行きたいんだけど、付き合ってくれる?」
「……おう」
無理に笑顔を作ってお願いすれば、ドラケン君はどこか不服そうな顔をしつつも頷いてくれた。「じゃあ今から行くか」と立ち上がる。えっ今?と展開の急さに吃驚するけど、このまま帰っても落ち着かないだろうから彼の提案は逆に良かったのかもしれない。
途中でお花買ったりお線香買ったりしながら、ドラケン君の愛機で目的の場所に連れてきてもらった。にわかには信じ難かったけど、墓前を目の前にしたら、事実なんだとすとんと落ちた気がした。私の持ってきたお花入るかなってくらい既にお花が添えられていたので、彼は多くの人から愛されていたんだろう。何とかお花を添えて、お線香に火をつけてから線香皿に入れて、手を合わせる。
マンジローのこと頼むな
ふと真一郎さんから最後に言われた言葉を思い出した。あの時何故だか断れなくて頷いたけど、私じゃ無理だよ。誰もあなたの変わりなんて荷が重すぎて出来ないよ。
それでも今まで良くしてくれていた真一郎さんの頼みを、無下にすることなんて出来ないんだよなあ。やれることはやるよ。でも私馬鹿だからさ、期待はしないでね。
「じゃあ寒いからもう行くよ。真一郎さん、また来るからね」
わざわざ買ってきたパイン味の飴をポケットから取り出すと、墓前に添えようとして、やめた。カラスくるかも…、と妙に現実的な考えになってしまったからだ。仕方ないと小包を開けて、自らの口の中に放り込む。やっぱりどうしても好きになれない味が口内に広がった。
「ありがとう、ドラケン君。行こうか?」
「…もういいのか?」
「寒いし、真一郎さんにはまた来るって約束したから。あ、飴舐める?」
後ろで見守ってくれていたドラケン君に飴を差し出すと、彼は受け取ってくれた。帰ろうと肩を並べて歩き、ふと後ろ髪を引かれお墓へと振り返る。気が抜けたのか急に寂しさが襲ってきた。あ、やべと思った時には既に遅く涙が頬を伝う。何とか引っ込めようと目頭をおさえていると、頭にぽんと優しく手を置かれた。見なくてもドラケン君だと言うことは分かったので、待たせてしまったことが悪くて「ごめん」と咄嗟に謝る。しかし何も言わずにドラケン君は慰めるように私の頭を撫でるから、真一郎さんが撫でてくれたことを思い出し、余計に涙が止まらなくなる。
「…ドラケン君、きみは本当にいい男だね」
「褒めたって何も出ねぇぞ」
ぶっきらぼうにそう言うドラケン君に笑ってしまう。私はもう十分過ぎるほど貰っていることに、彼は気付いているのだろうか。
服とか教材とか色々ダンボールに詰めていく。ある程度纏まったのでどれくらい時間が経ったのか確認する為に、新しい携帯へと手を伸ばした。夕方16時。あと1時間もすれば終わるし、終わったら新しい家に帰ろう。携帯の画面を見つめる。前の携帯は事故で壊れてしまったらしい。偶然会えればいいのだが、中々そんな奇跡は起きない。イザナ君は大丈夫だろうか。
そういえば家に帰ってきたのだから、折角だし真一郎さんのお店にでも顔を出そうかな。なんて思っていると、不意にインターホンが鳴った。もしかしたらご近所さんかもしれない。挨拶しておくか、と玄関まで降りて、ガチャりと扉を開けた。
「っハナ!」
「ど、ドラケン君…」
そこにいたのはドラケン君だった。うわ半年ぶり、なんて呑気に思っていると、彼は私の両肩を掴んで揺らしてきた。痛い痛い。
「オマエが事故ったって近所の人に聞いたんだよ!入院した病院は分からねぇし、電話も繋がらねぇし、もう大丈夫なのか!?」
いつもクールなドラケン君が珍しく焦っていた。たまたま私がいる時にインターホンが鳴ったのもおかしいので、もしかしたら彼は時間を割いて今まで来てくれていたのかもしれない。
「心配してくれてありがとう。もう完治したよ。連絡もつかなくてごめん。携帯、事故で壊れちゃってさ」
「…そうか、それなら良かった」
彼は心底安心したように息をつくと、私の肩から手を下ろした。
「良かったら、上がってく?お茶出すよ」
「いいのか?」
「うん、積もる話もあるしさ。叔父さんには報告さえしておけば怒られないから」
そもそもあの人は私に興味無い。面倒事さえ起こさなければ、それでいいのだ。私の口から叔父さんという言葉が出て、何かを察したドラケン君は1度目を伏せると「…じゃあお言葉に甘えて」と靴を脱いで家に上がった。
「珈琲と紅茶と玄米茶と煎茶どれがいい?」
「すげーあんな。悩むから任せるわ」
「おっけー。じゃあ玄米茶ね」
何故なら私が好きだからね。やかんで沸いたお湯を玄米茶のパックを入れたマグカップに入れる。2人分用意すると、ソファーに座るドラケン君の机の前に1つ置いた。ありがとな、とお礼を言われ、いいよと返しながら私は彼の向かい側のソファーに腰を下ろした。さて、何から話そうかな。
「いやーお父さんがお盆休み中に沖縄旅行行ったんだけどさ、脇見運転してたトラックが突っ込んできて…」
「………」
「それで私だけ生き残っちゃった。ああ、悲しそうな顔しないで!もう吹っ切れてるからさ」
「…両親亡くなってそんなすぐ吹っ切れるワケねぇだろ」
「笑いたくねぇ時は無理に笑わなくていい。少なくともオレの前では」
彼はそう言ってマグカップに口付けた。この子カッコよすぎんか?
「ドラケン君にエマちゃんがいなければなあ〜、嫁に貰って欲しかったわ」
「は?オレのことそんな風に見たことねーだろ」
「まーそうなんだけどさ、そう思っちゃうくらいには素敵だよって話」
そうだ、優しい両親は居なくなってしまったけど、私にはまだ友達がいる。
「そういえば真一郎さんやマイキー君は元気?実は片付け終わったら、真一郎さんのお店に顔出そうと思ってたんだよね」
「……そっか、オマエは知らないんだよな」
「…え?」
なんとなく世間話として投げ掛けた問い掛けに予想した反応は返ってこず、ドラケン君は悲しそうに微笑んだ。突然のしんみりとした空気に困惑してしまう。何があったんだとドキドキしながら身構えていると、ドラケン君ゆっくりとマグカップを置いた。
「真一郎君は亡くなった」
「……………は?」
全く予想もしない言葉に、頭が真っ白になった。冗談でしょ、と思うがドラケン君はそんな洒落にならない嘘はつかない。じゃあ真実だ。それでも理解が追いつかなくて、声が震える。
「ど、どうして…?」
「オレらのダチに一虎っていうヤツがいたんだけど、ソイツが真一郎君を殺した」
ドラケン君が説明してくれた話はこうだ。マイキー君の誕生日プレゼントに一虎君って子はバブをプレゼントしたかったらしい。それでバイク屋を経営していた真一郎さんの店で盗みを働こうとしたところ、鉢合わせて後ろから鈍器でぶん殴っちゃった、と。私はまず思った。お前ら友達なら友達のお兄さんの経営してる店くらい知っておけと。そもそも盗みでもらった誕プレなんか喜ばねぇだろと思うのだが、私が今更そう思ったところで無意味だろう。
「そっか…、真一郎さん亡くなったんだ」
あの人はイザナ君と同じ施設だっただけの私にも本当に優しく接してくれた。真一郎さんの人のいい笑顔が好きだった。下らない話をするのも好きだった。頭を撫でてくれる手が温かくて好きだった。蘇ってくる思い出に、目頭が熱くなるもなんとか堪える。
「お墓参り行きたいんだけど、付き合ってくれる?」
「……おう」
無理に笑顔を作ってお願いすれば、ドラケン君はどこか不服そうな顔をしつつも頷いてくれた。「じゃあ今から行くか」と立ち上がる。えっ今?と展開の急さに吃驚するけど、このまま帰っても落ち着かないだろうから彼の提案は逆に良かったのかもしれない。
途中でお花買ったりお線香買ったりしながら、ドラケン君の愛機で目的の場所に連れてきてもらった。にわかには信じ難かったけど、墓前を目の前にしたら、事実なんだとすとんと落ちた気がした。私の持ってきたお花入るかなってくらい既にお花が添えられていたので、彼は多くの人から愛されていたんだろう。何とかお花を添えて、お線香に火をつけてから線香皿に入れて、手を合わせる。
マンジローのこと頼むな
ふと真一郎さんから最後に言われた言葉を思い出した。あの時何故だか断れなくて頷いたけど、私じゃ無理だよ。誰もあなたの変わりなんて荷が重すぎて出来ないよ。
それでも今まで良くしてくれていた真一郎さんの頼みを、無下にすることなんて出来ないんだよなあ。やれることはやるよ。でも私馬鹿だからさ、期待はしないでね。
「じゃあ寒いからもう行くよ。真一郎さん、また来るからね」
わざわざ買ってきたパイン味の飴をポケットから取り出すと、墓前に添えようとして、やめた。カラスくるかも…、と妙に現実的な考えになってしまったからだ。仕方ないと小包を開けて、自らの口の中に放り込む。やっぱりどうしても好きになれない味が口内に広がった。
「ありがとう、ドラケン君。行こうか?」
「…もういいのか?」
「寒いし、真一郎さんにはまた来るって約束したから。あ、飴舐める?」
後ろで見守ってくれていたドラケン君に飴を差し出すと、彼は受け取ってくれた。帰ろうと肩を並べて歩き、ふと後ろ髪を引かれお墓へと振り返る。気が抜けたのか急に寂しさが襲ってきた。あ、やべと思った時には既に遅く涙が頬を伝う。何とか引っ込めようと目頭をおさえていると、頭にぽんと優しく手を置かれた。見なくてもドラケン君だと言うことは分かったので、待たせてしまったことが悪くて「ごめん」と咄嗟に謝る。しかし何も言わずにドラケン君は慰めるように私の頭を撫でるから、真一郎さんが撫でてくれたことを思い出し、余計に涙が止まらなくなる。
「…ドラケン君、きみは本当にいい男だね」
「褒めたって何も出ねぇぞ」
ぶっきらぼうにそう言うドラケン君に笑ってしまう。私はもう十分過ぎるほど貰っていることに、彼は気付いているのだろうか。