【番外編】怪力娘苦労日記ー忍術学園全員出動!の段ー
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「ーーで、わたしはどうすればよろしいですか?」
寝こけている学園長は置いておいて、澪はとりあえず一年は組の教師二人に声をかけた。学園長が寝ている時点で、澪はここから好きにしていいという事だと解釈していた。
シナもそれは同じなのか、特に何を言うでもなく手潟にお茶を注いでいた。
わいわい喜ぶ子ども達は、呼ばれるまで教室で待機とさせた。
その後、澪は学園長室を一旦出て、一年は組の教師二人に声を掛ける。
澪としてはついて行きたいが、その判断は二人に任せる事にした。澪が強いとは言っても、プロ忍ではないためだ。
不要と思われたら仕方ないので、留守番をするつもりであった。
「では、付いてきてもらえるか澪くん」
仕事のため、割り切って考えていた澪であるが、直ぐに許可が出た。戦中の領地に行って印を取るという忍務であるが、途中で相手の忍者に見つからないとも限らない。
幾ら伝蔵と半助がプロ忍と言えども、一年は組のチビッ子忍者を連れて行くのに少しばかり不安を感じるのだろう。
応援が来てくれるというなら、それが忍者でこそないが戦闘においては下手な忍びより強い澪なら、願ったり叶ったりであるのかもしれなかった。
澪の申し出に伝蔵は直ぐに頷いた。
半助はあからさまに顔に出してこそいないが、想い人の澪の言葉に仕事的な意味でも私的な意味でも嬉しかったりしたのだが、澪は当然の如く半助の何処か嬉しそうな様子に全く気付いてはいなかった。
「両軍から印を取るのであれば、オーマガトキとタソガレドキの担当に別れる必要がある。そうなると、選抜チームが既にオーマガトキに行っている以上、そちらは人数を減らす事になるな……さて、子ども達をどう分けるか」
「では、わたしはタソガレドキの方の引率を手伝いましょうか。きり丸から頼まれたアルバイトで、タソガレドキへは夏休み前に行った事があるので」
「そういえば、そうだったね。あの後、直ぐに戦が始まっていたか」
伝蔵の言葉を聞いて、澪が申し出ると半助も頷く。全く知らない土地よりは、タソガレドキの方が引率の助けをしやすいと思っての事だ。伝蔵も、ふむ、と腕を組んだ。
「では、澪くんはわたしと共にタソガレドキへ。土井先生はオーマガトキへ行き、選抜チームと合流してくれ。印は喜三太救出のために、向こうも取るはず。オーマガトキに行かせる子ども等は、安全な場所で待機させればよいだろう」
「ふむ。そういうことなら、山田先生の方は庄左ヱ門がいたら良さそうですね」
どちらがどの領地に行くか決まった所で、それからは直ぐに班分けが自動的に決まった。
結果、オーマガトキへは乱太郎、団蔵、金吾を半助が引率し、タソガレドキへは庄左ヱ門、伊助、三治郎、兵太夫、虎若を伝蔵と澪が引率する事となった。
出発前には、事前に忍術学園にある各領地の地図を調べ、選抜チームも含めて情報交換のために集合する場所を決めておく。
場所はオーマガトキとタソガレドキの境にある、廃棄されたと古い建物に決まった。野盗の類が根城にしている可能性も捨てきれないが、戦の最中にそんな場所で寛ぐ者はまずいないため、可能性があると言っても低い。それに地図に記されたメモによると、つい最近も無人である事が確認された旨、記載があった。
忍務に必要になる事もあるため、こうした各領地の細かな地図や建物の情報は、学園に集められている。その地図は上級生に実習がてら書き取らせた物だったり、教師等が赴いて作成した物だったりと様々ある。
今回の集合場所の情報もそうして入手された物から、選んだ結果であった。
それから、澪は身支度をして出掛ける事になった。動きやすさ重視の男装である。伝蔵や半助も持っていくと言うので忍び装束の着替えの他に、篭手等の装備品に般若面や女物の着物も持っていく事にした。流石に学園長から貰った大振りの武器はお留守番であるが、それでも結構な荷物である。
澪の怪力にかかれば楽勝だが。
「澪さんが、ぼくらの班と一緒なんて嬉しいです!」
いざ、出発となり班分けが発表されると、タソガレドキチームは大喜びであった。庄左ヱ門がニコニコ笑顔で言うものだから、澪も嬉しくなって笑う。
「ちぇー、こっちは土井先生だけかぁ」
「人数も何か少ないし面白くなーい」
「澪さんが居ないとかつまんなーい」
「悪かったな、引率がわたしだけで……!」
オーマガトキチームの乱太郎達が文句を垂れると、半助が拗ねていた。
「こらこら、途中までは一緒なんですから文句を言わない。土井先生に失礼ですよ。それに、印を取れば合流しますから、ね?」
「じゃあ、途中で別れるまでぼくらと手を繋いで行こう」
オーマガトキチームを宥めると、金吾がお強請りしてきた。可愛らしいお願いに、表情筋がだらしなくなりそうである。一年生の可愛いが尊い。忍術学園に来てから、そう思わない日はない。
「いいですよ、じゃあそうしましょうか」
「やった。じゃあ、オレはこっち」
「あ!わたしも手を繋ぎたかったのにっ……」
「乱太郎くんは交代で繋ぎましょうか」
右に金吾、左に団蔵、控えに乱太郎。文句なしに可愛い。ニヨニヨしないように表情筋に力を入れる。
「澪さんは、人気だなぁ」
「仕方あるまい。年上のおねーさんはいつの時代でも男子に人気だ」
澪を囲む子ども達を見た半助の感想を聞き、伝蔵が何やら訳知り顔で頷くのだった。
それから一行は忍術学園を出立した。街道を歩く人達を見ながら歩き、途中、涼を取るために心太を食べたり、山道を歩いたりしながら進む。
当然、一年は組の子ども達は引率する大人の苦労を知らずに楽しそうにしている。印を取りに行くというのではなく、これではピクニックだ。
「では、わたし達はタソガレドキ領へ向かう。土井先生、乱太郎達を頼んだぞ」
「了解です、山田先生。澪さんも、気をつけて行ってくるんだよ」
「土井先生も、お気をつけて」
分かれ道は待ち合わせ場所でもある建物の前だった。そこで、互いが互いの安否を願う。オーマガトキとタソガレドキなら、劣勢のオーマガトキの方が物騒な可能性がある。それもあって、オーマガトキチームの方は安全な場所で子ども達を待機させる予定なのだし、まぁ、大丈夫だろう。
それから、澪達は暫く歩いてタソガレドキの領地についた。途中、弁当の握り飯を食べたとはいえ、たどり着いたタソガレドキの領地で、休憩と打ち合わせも兼ねて全員で茶屋に入った。
領地は、戦中というにも関わらず賑やかだ。圧倒的にタソガレドキが優位というのも大きいのだろう。皆で団子を食べながらも、タソガレドキの領地が賑わっているのを肌で感じる。
「お客さん達、黄昏八幡宮饅頭もあるが食べんかね?期間限定販売だよ!」
「黄昏八幡宮饅頭?」
団子を食べていたら、店主から聞いた事のないお饅頭を勧められた。伝蔵が不思議そうな顔をすると、「これだよ」と店主から皿に乗った商品を見せられる。
小ぶりの饅頭に、黄昏八幡宮と焼印が押してある。美味しそうではあるが……。
「では、そちらを一人一つずつ追加でください」
「まいどー。いやぁ、それにしても兄ちゃん偉い男前やなぁ」
「はは、どうも……。あ、これお代です」
小銭を主人に渡して饅頭を追加で貰う。
男装姿の澪は、人目を引く美少年だ。店内にいる客が老若男女問わず、笠を外した澪を惚れ惚れとする眼差しで見ていた。澪は代金を支払いつつも、饅頭について尋ねた。八幡宮は勝運祈願の社だ。その事と何か関係があるのか。
「ご主人、この饅頭は一体……?前にこちらに来た時、こんな品は目にした覚えがないのですが」
演技をするのは下手だが、少年ぽく見えるよう気持ち声を低くして普通に話すくらいなら何とかなる。澪が尋ねると、店の主人が笑顔で教えてくれた。
「お殿様が戦の直前に八幡宮に随分な冥加金をお納めになったんだよ。何でも、八幡大菩薩の化身に勝運を授けられたんだとか。もともと、わたしらのお殿様がオーマガトキに負けるとは思えない話だけれどね。この饅頭は、そのご利益にあやかろうって話でね。戦が終わるまでの間、売り出してるのさ。皆さんにも、八幡大菩薩の御加護がありますように」
オーマガトキ領地にある園田村の乙名の依頼で、調査に来たと知れば澪達に八幡大菩薩の加護がーーとは、言えないだろう。そう思いつつ、口にした饅頭は黒糖がきいていて滋味深い味わいだった。
澪の奢りというのもあり、饅頭を皆が美味そうにペロリと平らげる。
「ーー各々、店を出たら授業の内容を思い出しながら行動するように。わたしも独自で動く。澪くんは庄左ヱ門と、伊助は虎若と、三治郎は兵太夫と二人一組になるように。日没までには、手筈通り例の場所へ集合だ」
伝蔵が他の客に聞こえない程の小さな声で、子ども達へ語りかける。境界の場所にある建物の位置は把握済みのため、子ども達は心得たように頷いた。
なお、この班分けはタソガレドキ領につくまでの道中に子ども達が勝った人が澪と組むということで、真剣且つ公正にジャンケンで決めた物になる。勝った庄左ヱ門は飛び上がって喜んでいて、大変可愛らしかった。
そんな訳で、いざ出陣である。
庄左ヱ門からのリクエストもあり、澪は女子の着物へと人気の無い場所で大急ぎで着替えた。大きな木の後ろに隠れての着替えだったとはいえ、中々スリリングであった。
「ーーこれでいいですか。庄左ヱ門くん」
「わぁっ、似合いますね澪さん」
市女笠がないため手拭いを頭に巻いた町娘の姿の澪は、男装姿の時と変わらず人目を引く容姿である。はっきり言って、目立つことを良しとしない忍者の活動には、不向きであった。
「では、これから聞き込みを開始します。ぼくと澪さんは姉弟の設定です。最近、戦で村が焼かれたのでタソガレドキにやって来て、仕事を探している……という感じです。澪さんが演技が苦手なのは承知してますから、適当にぼくに話を合わせてくれたらいいです。何か言われて困る事があったら、顔を袖で隠して俯いて震えていて下さい」
「はぁ、こんな感じですか?」
試しに顔を隠してわざと小さく震えてみる。澪のその様子は傍から見ると、可憐な乙女が怯えている図である。思わず、男なら守ってあげたくなるようなーー実際は一ミリも守られる必要のない怪力娘のくせに、なかなかにあざとい仕上がりであった。
澪は庄左ヱ門の付き添い兼サポートだ。タソガレドキの城下町の西側を澪と庄左ヱ門が、中央を伊助と虎若が、東側を三治郎、兵太夫が担当して聞き込みを行う予定である。
なお、町での調査が終われば澪は再び男装して、庄左ヱ門と共にタソガレドキ軍の陣へ向かう予定だ。
そして、いざ聞きこみ調査開始となった。
「すみませーん」
「おぅ、どうした坊主」
にこにこと人好きのする笑顔を浮かべ、庄左ヱ門が声をかけたのは野菜売りの男だった。
「実はぼく達、戦で村が焼かれて逃げてきたんですが、仕事を探してるんです。できれば住みたいとも考えてまして。最近の様子とか教えてもらうことはできますか?」
「様子ねえ……」
男は品を片付けて帰る所だったらしく、庄左ヱ門の質問に鬱陶しそうに眉を寄せた。そしてその視線が澪の方を向く。整った美貌の娘を前に、男ははっとして目を見開いた。
「姉さんが、戦の時に酷い目にあって……」
チラ、と庄左ヱ門に目配せされて澪は、サッと顔を隠した。戦の時にうら若い娘が酷い目にあった、と言えば後は勝手に相手が解釈してくれる。
「そりゃあ、可哀想に……!!」
途端に、男の様子が一変した。
「うちの殿様は、他所では評判悪ぃけんども、ここは暮らしやすい。ええ所やぞ」
「本当ですか。タソガレドキがオーマガトキと長い事、戦をしてるんで心配してたんです」
「そうかぁ……」
男はチラチラと澪の方へ時々、気遣わし気な視線を向けながらも、庄左ヱ門の質問にあれこれ答えてくれた。
男と別れた後も、庄左ヱ門と澪は町の先々でタソガレドキ領について尋ねたり、あるいは町の様子を観察した。
「タソガレドキ領はやっぱり賑やかだね、姉さん。戦の最中だからか。それにしても、何だかのんびりしてると言うか」
「そうですね……じゃなくて、そうね庄左ヱ門」
休憩しつつ、聞きこみ調査の結果を互いに話し合う。誰が聞いてるかも分からないため、庄左ヱ門に普通に話しかけるようにする。そんな澪を見た、庄左ヱ門はクスッと小さく笑った。
「この戦はタソガレドキが絶対有利。オーマガトキ領の村々が挙って金品を貢いでるのがその証拠。さすがは、八幡大菩薩より勝運授かりし、お殿様……だったかしら」
「もう先勝ムード漂ってるよね。町の景気は上向いてる感じだし、陣中まで商売に出かけてる人も多そうだ。そろそろ、陣の方へ行こうか姉さん」
「了解」
疑問があるとすれば、勝ち戦ならとっとと終わらせればいいのに……という事だ。
オーマガトキ城に迫っておきながら、あと一押しという所で止まっている。それ以上は踏み込まないようにしているのか、責め潰す様子がない。それが奇妙と言えば奇妙である。
澪はまたも、陣に行くために木の後ろに隠れて大急ぎで男装姿に変わった。今度、伝蔵かシナに早業の変装の極意を聞こうかどうか真剣に悩んだ。
なお、今度は庄左ヱ門と兄弟設定である。姉になったり兄になったりと忙しい。
タソガレドキ軍の陣へは、さして怪しまれずに着くことができた。それというのも、様々な物売りがひっきりなしに行き来しているからだ。
中には、芸を披露する者までいて、戦が長引くと、陣中での暇潰しのために娯楽に興じる事はままあるにせよ、流石にこれは度が過ぎてやいやしないかと思った。
オーマガトキから金品が運ばれてくるため、懐が潤っているのかもしれない。
そして、陣中でも例の饅頭が売られていた。
「黄昏八幡宮饅頭はいかがですかー?」
饅頭売りがメガホンを持って陣の周辺で声を発すれば、兵達を筆頭に饅頭を買っていく。食べたら貴方も八幡大菩薩の勝運があるかもしれません!と言われれば、戦の最中というのもあって縁起担ぎをしているのか、饅頭はそれなりに売れているようだった。
「おい、そこのお前達。何をしている?」
庄左ヱ門と澪が二人で陣の様子を見物していると、見張りの兵に声をかけられた。色んな人間が行き来しているとはいえ、一応は出入りの者のチェックをしているのだろう。
「あっ、ぼくら仕事を探してまして。ここなら、色んな商売をされてる方が行き来してますので、雇っては貰えないかと」
「はぁ……、ここは陣だぞ。商いに関しては許可しているが、仕事探しなら町でやれ。行った行った」
庄左ヱ門や澪のような手合いが他にも居るのだろう。兵士が鬱陶しそうにするので、仕方なく移動して場所を変えようとした時である。
「お二人さん、それならわたしと一緒にあちらで饅頭を売るのを手伝ってくれないか?」
庄左ヱ門と澪に声がけがあった。見ると、メガホンを持って饅頭を売っていた男がいた。メガホンで叫んでいた時は、ちょっとダミ声だったのに今は爽やかないい声をしている。
それは、物凄く聞き覚えのある声だ。
庄左ヱ門と澪は二人して、笠の下に隠れていた饅頭売りの顔を見て、目を見張った。
「やぁ、元気そうで何より」
「利吉さん!」
「利吉くん、どうしてここに……」
大きな声を出さないように注意しつつ、庄左ヱ門と二人で仲良く驚いた。まさか、利吉がフリーの売れっ子忍者から饅頭売りに転職したわけでもなし。
どう考えても、饅頭売りに化けて陣を調べていたとしか思えない。
「はは、饅頭を仕入れたはいいが、思った以上に押し付けられてね。人手が欲しかったんだ。だから、手伝ってくれると助かるんだけど。二人とも、ここにまだ居たいだろう?」
「分かった。そういう事なら、手伝う」
「じゃ、向こう側に行こうか。伝助くんと庄左ヱ門が居るってことは、学園が動いてるって事だよね。何かあったのかい?」
移動しながら、利吉に小声で尋ねられた澪は少し悩んだものの、庄左ヱ門の方が利吉を信頼してヒソヒソ声で耳元で経緯を洗いざらい話してしまった。
園田村の乙名が学園に訪れた所から、今に至る経緯の全てを把握した利吉は、成程……と頷く。
「そういう事なら、わたしも一緒に行動しようかな。実は、わたしはご覧の通り仕事中でね。君達と一緒にいる方が色々とやりやすそうだ。父上も居るみたいだし」
「本当ですか!わぁ、嬉しいです!!」
売れっ子フリーの忍者はちびっ子忍者の憧れである。庄左ヱ門の顔が喜色満面になった。
「それに、伝助くんもいるし!」
「……何でそんなキラキラした目で見てくるのかなぁ」
何を期待しているんだか。
大体、今している調査に関しては、演技が苦手な澪に出る幕なんて殆ど無いに等しい。むしろ、庄左ヱ門の足を引っ張らないように頑張っている位である。
相変わらずの利吉に、澪は乾いた笑いが出そうになった。
「さぁ、わたし達で饅頭を売り切るよ!」
「……で、あと何個残ってるの?」
「六十かな」
澪の質問に、てへっと可愛く笑う利吉。爽やか美男子だから、絵にはなる。
だが、残り六十個もの饅頭を売り切れるか疑問である。売れ残りを自分達で食べるにしても、限度がある。
「日没までに待ち合わせ場所に行かないと行けないんですけど、間に合いますかね……」
「大丈夫、いざとなったら、わたしが庄左ヱ門を背負って走るからっ!!」
ひょっとして、饅頭を売り捌くのにこれ幸いと、澪達を巻き込みたかっただけでは?とも思えたり。とはいえ、引き受けた以上は協力せねばなるまい。
澪達は利吉と一緒に、頑張って何とか饅頭を売り歩きつつ、陣の様子を調べるのだった。
寝こけている学園長は置いておいて、澪はとりあえず一年は組の教師二人に声をかけた。学園長が寝ている時点で、澪はここから好きにしていいという事だと解釈していた。
シナもそれは同じなのか、特に何を言うでもなく手潟にお茶を注いでいた。
わいわい喜ぶ子ども達は、呼ばれるまで教室で待機とさせた。
その後、澪は学園長室を一旦出て、一年は組の教師二人に声を掛ける。
澪としてはついて行きたいが、その判断は二人に任せる事にした。澪が強いとは言っても、プロ忍ではないためだ。
不要と思われたら仕方ないので、留守番をするつもりであった。
「では、付いてきてもらえるか澪くん」
仕事のため、割り切って考えていた澪であるが、直ぐに許可が出た。戦中の領地に行って印を取るという忍務であるが、途中で相手の忍者に見つからないとも限らない。
幾ら伝蔵と半助がプロ忍と言えども、一年は組のチビッ子忍者を連れて行くのに少しばかり不安を感じるのだろう。
応援が来てくれるというなら、それが忍者でこそないが戦闘においては下手な忍びより強い澪なら、願ったり叶ったりであるのかもしれなかった。
澪の申し出に伝蔵は直ぐに頷いた。
半助はあからさまに顔に出してこそいないが、想い人の澪の言葉に仕事的な意味でも私的な意味でも嬉しかったりしたのだが、澪は当然の如く半助の何処か嬉しそうな様子に全く気付いてはいなかった。
「両軍から印を取るのであれば、オーマガトキとタソガレドキの担当に別れる必要がある。そうなると、選抜チームが既にオーマガトキに行っている以上、そちらは人数を減らす事になるな……さて、子ども達をどう分けるか」
「では、わたしはタソガレドキの方の引率を手伝いましょうか。きり丸から頼まれたアルバイトで、タソガレドキへは夏休み前に行った事があるので」
「そういえば、そうだったね。あの後、直ぐに戦が始まっていたか」
伝蔵の言葉を聞いて、澪が申し出ると半助も頷く。全く知らない土地よりは、タソガレドキの方が引率の助けをしやすいと思っての事だ。伝蔵も、ふむ、と腕を組んだ。
「では、澪くんはわたしと共にタソガレドキへ。土井先生はオーマガトキへ行き、選抜チームと合流してくれ。印は喜三太救出のために、向こうも取るはず。オーマガトキに行かせる子ども等は、安全な場所で待機させればよいだろう」
「ふむ。そういうことなら、山田先生の方は庄左ヱ門がいたら良さそうですね」
どちらがどの領地に行くか決まった所で、それからは直ぐに班分けが自動的に決まった。
結果、オーマガトキへは乱太郎、団蔵、金吾を半助が引率し、タソガレドキへは庄左ヱ門、伊助、三治郎、兵太夫、虎若を伝蔵と澪が引率する事となった。
出発前には、事前に忍術学園にある各領地の地図を調べ、選抜チームも含めて情報交換のために集合する場所を決めておく。
場所はオーマガトキとタソガレドキの境にある、廃棄されたと古い建物に決まった。野盗の類が根城にしている可能性も捨てきれないが、戦の最中にそんな場所で寛ぐ者はまずいないため、可能性があると言っても低い。それに地図に記されたメモによると、つい最近も無人である事が確認された旨、記載があった。
忍務に必要になる事もあるため、こうした各領地の細かな地図や建物の情報は、学園に集められている。その地図は上級生に実習がてら書き取らせた物だったり、教師等が赴いて作成した物だったりと様々ある。
今回の集合場所の情報もそうして入手された物から、選んだ結果であった。
それから、澪は身支度をして出掛ける事になった。動きやすさ重視の男装である。伝蔵や半助も持っていくと言うので忍び装束の着替えの他に、篭手等の装備品に般若面や女物の着物も持っていく事にした。流石に学園長から貰った大振りの武器はお留守番であるが、それでも結構な荷物である。
澪の怪力にかかれば楽勝だが。
「澪さんが、ぼくらの班と一緒なんて嬉しいです!」
いざ、出発となり班分けが発表されると、タソガレドキチームは大喜びであった。庄左ヱ門がニコニコ笑顔で言うものだから、澪も嬉しくなって笑う。
「ちぇー、こっちは土井先生だけかぁ」
「人数も何か少ないし面白くなーい」
「澪さんが居ないとかつまんなーい」
「悪かったな、引率がわたしだけで……!」
オーマガトキチームの乱太郎達が文句を垂れると、半助が拗ねていた。
「こらこら、途中までは一緒なんですから文句を言わない。土井先生に失礼ですよ。それに、印を取れば合流しますから、ね?」
「じゃあ、途中で別れるまでぼくらと手を繋いで行こう」
オーマガトキチームを宥めると、金吾がお強請りしてきた。可愛らしいお願いに、表情筋がだらしなくなりそうである。一年生の可愛いが尊い。忍術学園に来てから、そう思わない日はない。
「いいですよ、じゃあそうしましょうか」
「やった。じゃあ、オレはこっち」
「あ!わたしも手を繋ぎたかったのにっ……」
「乱太郎くんは交代で繋ぎましょうか」
右に金吾、左に団蔵、控えに乱太郎。文句なしに可愛い。ニヨニヨしないように表情筋に力を入れる。
「澪さんは、人気だなぁ」
「仕方あるまい。年上のおねーさんはいつの時代でも男子に人気だ」
澪を囲む子ども達を見た半助の感想を聞き、伝蔵が何やら訳知り顔で頷くのだった。
それから一行は忍術学園を出立した。街道を歩く人達を見ながら歩き、途中、涼を取るために心太を食べたり、山道を歩いたりしながら進む。
当然、一年は組の子ども達は引率する大人の苦労を知らずに楽しそうにしている。印を取りに行くというのではなく、これではピクニックだ。
「では、わたし達はタソガレドキ領へ向かう。土井先生、乱太郎達を頼んだぞ」
「了解です、山田先生。澪さんも、気をつけて行ってくるんだよ」
「土井先生も、お気をつけて」
分かれ道は待ち合わせ場所でもある建物の前だった。そこで、互いが互いの安否を願う。オーマガトキとタソガレドキなら、劣勢のオーマガトキの方が物騒な可能性がある。それもあって、オーマガトキチームの方は安全な場所で子ども達を待機させる予定なのだし、まぁ、大丈夫だろう。
それから、澪達は暫く歩いてタソガレドキの領地についた。途中、弁当の握り飯を食べたとはいえ、たどり着いたタソガレドキの領地で、休憩と打ち合わせも兼ねて全員で茶屋に入った。
領地は、戦中というにも関わらず賑やかだ。圧倒的にタソガレドキが優位というのも大きいのだろう。皆で団子を食べながらも、タソガレドキの領地が賑わっているのを肌で感じる。
「お客さん達、黄昏八幡宮饅頭もあるが食べんかね?期間限定販売だよ!」
「黄昏八幡宮饅頭?」
団子を食べていたら、店主から聞いた事のないお饅頭を勧められた。伝蔵が不思議そうな顔をすると、「これだよ」と店主から皿に乗った商品を見せられる。
小ぶりの饅頭に、黄昏八幡宮と焼印が押してある。美味しそうではあるが……。
「では、そちらを一人一つずつ追加でください」
「まいどー。いやぁ、それにしても兄ちゃん偉い男前やなぁ」
「はは、どうも……。あ、これお代です」
小銭を主人に渡して饅頭を追加で貰う。
男装姿の澪は、人目を引く美少年だ。店内にいる客が老若男女問わず、笠を外した澪を惚れ惚れとする眼差しで見ていた。澪は代金を支払いつつも、饅頭について尋ねた。八幡宮は勝運祈願の社だ。その事と何か関係があるのか。
「ご主人、この饅頭は一体……?前にこちらに来た時、こんな品は目にした覚えがないのですが」
演技をするのは下手だが、少年ぽく見えるよう気持ち声を低くして普通に話すくらいなら何とかなる。澪が尋ねると、店の主人が笑顔で教えてくれた。
「お殿様が戦の直前に八幡宮に随分な冥加金をお納めになったんだよ。何でも、八幡大菩薩の化身に勝運を授けられたんだとか。もともと、わたしらのお殿様がオーマガトキに負けるとは思えない話だけれどね。この饅頭は、そのご利益にあやかろうって話でね。戦が終わるまでの間、売り出してるのさ。皆さんにも、八幡大菩薩の御加護がありますように」
オーマガトキ領地にある園田村の乙名の依頼で、調査に来たと知れば澪達に八幡大菩薩の加護がーーとは、言えないだろう。そう思いつつ、口にした饅頭は黒糖がきいていて滋味深い味わいだった。
澪の奢りというのもあり、饅頭を皆が美味そうにペロリと平らげる。
「ーー各々、店を出たら授業の内容を思い出しながら行動するように。わたしも独自で動く。澪くんは庄左ヱ門と、伊助は虎若と、三治郎は兵太夫と二人一組になるように。日没までには、手筈通り例の場所へ集合だ」
伝蔵が他の客に聞こえない程の小さな声で、子ども達へ語りかける。境界の場所にある建物の位置は把握済みのため、子ども達は心得たように頷いた。
なお、この班分けはタソガレドキ領につくまでの道中に子ども達が勝った人が澪と組むということで、真剣且つ公正にジャンケンで決めた物になる。勝った庄左ヱ門は飛び上がって喜んでいて、大変可愛らしかった。
そんな訳で、いざ出陣である。
庄左ヱ門からのリクエストもあり、澪は女子の着物へと人気の無い場所で大急ぎで着替えた。大きな木の後ろに隠れての着替えだったとはいえ、中々スリリングであった。
「ーーこれでいいですか。庄左ヱ門くん」
「わぁっ、似合いますね澪さん」
市女笠がないため手拭いを頭に巻いた町娘の姿の澪は、男装姿の時と変わらず人目を引く容姿である。はっきり言って、目立つことを良しとしない忍者の活動には、不向きであった。
「では、これから聞き込みを開始します。ぼくと澪さんは姉弟の設定です。最近、戦で村が焼かれたのでタソガレドキにやって来て、仕事を探している……という感じです。澪さんが演技が苦手なのは承知してますから、適当にぼくに話を合わせてくれたらいいです。何か言われて困る事があったら、顔を袖で隠して俯いて震えていて下さい」
「はぁ、こんな感じですか?」
試しに顔を隠してわざと小さく震えてみる。澪のその様子は傍から見ると、可憐な乙女が怯えている図である。思わず、男なら守ってあげたくなるようなーー実際は一ミリも守られる必要のない怪力娘のくせに、なかなかにあざとい仕上がりであった。
澪は庄左ヱ門の付き添い兼サポートだ。タソガレドキの城下町の西側を澪と庄左ヱ門が、中央を伊助と虎若が、東側を三治郎、兵太夫が担当して聞き込みを行う予定である。
なお、町での調査が終われば澪は再び男装して、庄左ヱ門と共にタソガレドキ軍の陣へ向かう予定だ。
そして、いざ聞きこみ調査開始となった。
「すみませーん」
「おぅ、どうした坊主」
にこにこと人好きのする笑顔を浮かべ、庄左ヱ門が声をかけたのは野菜売りの男だった。
「実はぼく達、戦で村が焼かれて逃げてきたんですが、仕事を探してるんです。できれば住みたいとも考えてまして。最近の様子とか教えてもらうことはできますか?」
「様子ねえ……」
男は品を片付けて帰る所だったらしく、庄左ヱ門の質問に鬱陶しそうに眉を寄せた。そしてその視線が澪の方を向く。整った美貌の娘を前に、男ははっとして目を見開いた。
「姉さんが、戦の時に酷い目にあって……」
チラ、と庄左ヱ門に目配せされて澪は、サッと顔を隠した。戦の時にうら若い娘が酷い目にあった、と言えば後は勝手に相手が解釈してくれる。
「そりゃあ、可哀想に……!!」
途端に、男の様子が一変した。
「うちの殿様は、他所では評判悪ぃけんども、ここは暮らしやすい。ええ所やぞ」
「本当ですか。タソガレドキがオーマガトキと長い事、戦をしてるんで心配してたんです」
「そうかぁ……」
男はチラチラと澪の方へ時々、気遣わし気な視線を向けながらも、庄左ヱ門の質問にあれこれ答えてくれた。
男と別れた後も、庄左ヱ門と澪は町の先々でタソガレドキ領について尋ねたり、あるいは町の様子を観察した。
「タソガレドキ領はやっぱり賑やかだね、姉さん。戦の最中だからか。それにしても、何だかのんびりしてると言うか」
「そうですね……じゃなくて、そうね庄左ヱ門」
休憩しつつ、聞きこみ調査の結果を互いに話し合う。誰が聞いてるかも分からないため、庄左ヱ門に普通に話しかけるようにする。そんな澪を見た、庄左ヱ門はクスッと小さく笑った。
「この戦はタソガレドキが絶対有利。オーマガトキ領の村々が挙って金品を貢いでるのがその証拠。さすがは、八幡大菩薩より勝運授かりし、お殿様……だったかしら」
「もう先勝ムード漂ってるよね。町の景気は上向いてる感じだし、陣中まで商売に出かけてる人も多そうだ。そろそろ、陣の方へ行こうか姉さん」
「了解」
疑問があるとすれば、勝ち戦ならとっとと終わらせればいいのに……という事だ。
オーマガトキ城に迫っておきながら、あと一押しという所で止まっている。それ以上は踏み込まないようにしているのか、責め潰す様子がない。それが奇妙と言えば奇妙である。
澪はまたも、陣に行くために木の後ろに隠れて大急ぎで男装姿に変わった。今度、伝蔵かシナに早業の変装の極意を聞こうかどうか真剣に悩んだ。
なお、今度は庄左ヱ門と兄弟設定である。姉になったり兄になったりと忙しい。
タソガレドキ軍の陣へは、さして怪しまれずに着くことができた。それというのも、様々な物売りがひっきりなしに行き来しているからだ。
中には、芸を披露する者までいて、戦が長引くと、陣中での暇潰しのために娯楽に興じる事はままあるにせよ、流石にこれは度が過ぎてやいやしないかと思った。
オーマガトキから金品が運ばれてくるため、懐が潤っているのかもしれない。
そして、陣中でも例の饅頭が売られていた。
「黄昏八幡宮饅頭はいかがですかー?」
饅頭売りがメガホンを持って陣の周辺で声を発すれば、兵達を筆頭に饅頭を買っていく。食べたら貴方も八幡大菩薩の勝運があるかもしれません!と言われれば、戦の最中というのもあって縁起担ぎをしているのか、饅頭はそれなりに売れているようだった。
「おい、そこのお前達。何をしている?」
庄左ヱ門と澪が二人で陣の様子を見物していると、見張りの兵に声をかけられた。色んな人間が行き来しているとはいえ、一応は出入りの者のチェックをしているのだろう。
「あっ、ぼくら仕事を探してまして。ここなら、色んな商売をされてる方が行き来してますので、雇っては貰えないかと」
「はぁ……、ここは陣だぞ。商いに関しては許可しているが、仕事探しなら町でやれ。行った行った」
庄左ヱ門や澪のような手合いが他にも居るのだろう。兵士が鬱陶しそうにするので、仕方なく移動して場所を変えようとした時である。
「お二人さん、それならわたしと一緒にあちらで饅頭を売るのを手伝ってくれないか?」
庄左ヱ門と澪に声がけがあった。見ると、メガホンを持って饅頭を売っていた男がいた。メガホンで叫んでいた時は、ちょっとダミ声だったのに今は爽やかないい声をしている。
それは、物凄く聞き覚えのある声だ。
庄左ヱ門と澪は二人して、笠の下に隠れていた饅頭売りの顔を見て、目を見張った。
「やぁ、元気そうで何より」
「利吉さん!」
「利吉くん、どうしてここに……」
大きな声を出さないように注意しつつ、庄左ヱ門と二人で仲良く驚いた。まさか、利吉がフリーの売れっ子忍者から饅頭売りに転職したわけでもなし。
どう考えても、饅頭売りに化けて陣を調べていたとしか思えない。
「はは、饅頭を仕入れたはいいが、思った以上に押し付けられてね。人手が欲しかったんだ。だから、手伝ってくれると助かるんだけど。二人とも、ここにまだ居たいだろう?」
「分かった。そういう事なら、手伝う」
「じゃ、向こう側に行こうか。伝助くんと庄左ヱ門が居るってことは、学園が動いてるって事だよね。何かあったのかい?」
移動しながら、利吉に小声で尋ねられた澪は少し悩んだものの、庄左ヱ門の方が利吉を信頼してヒソヒソ声で耳元で経緯を洗いざらい話してしまった。
園田村の乙名が学園に訪れた所から、今に至る経緯の全てを把握した利吉は、成程……と頷く。
「そういう事なら、わたしも一緒に行動しようかな。実は、わたしはご覧の通り仕事中でね。君達と一緒にいる方が色々とやりやすそうだ。父上も居るみたいだし」
「本当ですか!わぁ、嬉しいです!!」
売れっ子フリーの忍者はちびっ子忍者の憧れである。庄左ヱ門の顔が喜色満面になった。
「それに、伝助くんもいるし!」
「……何でそんなキラキラした目で見てくるのかなぁ」
何を期待しているんだか。
大体、今している調査に関しては、演技が苦手な澪に出る幕なんて殆ど無いに等しい。むしろ、庄左ヱ門の足を引っ張らないように頑張っている位である。
相変わらずの利吉に、澪は乾いた笑いが出そうになった。
「さぁ、わたし達で饅頭を売り切るよ!」
「……で、あと何個残ってるの?」
「六十かな」
澪の質問に、てへっと可愛く笑う利吉。爽やか美男子だから、絵にはなる。
だが、残り六十個もの饅頭を売り切れるか疑問である。売れ残りを自分達で食べるにしても、限度がある。
「日没までに待ち合わせ場所に行かないと行けないんですけど、間に合いますかね……」
「大丈夫、いざとなったら、わたしが庄左ヱ門を背負って走るからっ!!」
ひょっとして、饅頭を売り捌くのにこれ幸いと、澪達を巻き込みたかっただけでは?とも思えたり。とはいえ、引き受けた以上は協力せねばなるまい。
澪達は利吉と一緒に、頑張って何とか饅頭を売り歩きつつ、陣の様子を調べるのだった。
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