【番外編】怪力娘苦労日記ー忍術学園全員出動!の段ー
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「きり丸、夏休みはアルバイト三昧だった気がするんだけど、ちゃんと宿題をやったんでしょうね。先に半助さんもわたしも学園へ行くけど、寄り道したりせずに来るのよ?」
「大丈夫だってば。宿題はばっちりだから!澪さんは学園に土井先生と先に一緒にいってらっしゃい」
ノープロブレムと言わんばかりのきり丸を見て、不安しか感じないのはどうしてか。澪は思わずため息が出そうだった。
忙しくしていたら澪の夏休みは高速で終了した。それは半助も似たような物で、想い人の澪を沢山デートに誘ったり、蛍狩りもしてとかあれやこれやと考えてはいたが、願望の半分も達成できていなかった。
ーー勿論、澪がそんな事を知る由もない。
ちなみに、きり丸は夏休みの宿題の読書感想文を人の物を写して済ませる気満々だったりした。
とはいえ、実は個人毎に異なる宿題のため、その目論見は最初から頓挫しているのだが、夏休みの宿題について説明していた半助の話をまるっと聴き逃していた自業自得である。
「はぁ、全く……もぅ、嫌な予感がするのよねぇ」
「はは、澪さんもか。実はわたしも、朝から何故か胃が少し痛くてね。何かの先触れじゃなければいいんだが」
胃の辺りをさすりつつ、半助が困ったように笑っている。そんな半助に対し朝も早くからすれ違う町の若い女性達が、好機の眼差しを向けていた。
それもそのはずで、半助は澪の仕立てた着物に袖を通していて、それがとても似合っていたからだ。
着物の色は虫襖を基調としており、半助の整った鼻梁と顔立ちを際立たせるデザインとなっている。髪も最近は以前より大分マシになっていた。ちゃんと髪を乾かした後に、二種類の櫛で梳き最低三日に一度は毛先に油をつけるようにしているお陰だ。
澪から髪にまつわる色んな事をレクチャーされた結果、最近、少しづつ成果が出てきていた。
もともと背が高く美形な半助は、澪に恋する事で本人もそれなりに身形を気遣うようになった結果、男ぶりが赤マル急上昇中だったりしたのだが、その原因の澪は特別半助に対してときめいたりはしていない。
半助は利吉の事が好きだという恐ろしい誤解をしつこくしているため、半助に見蕩れる娘達を見て罪作りな男だな、と感想を抱いているだけである。
ーー夏休みが終わっても半助は不憫だった。哀れである。ここまでくると逆に笑えそうだ。勿論、だからって笑ってはいけない。
「それにしても、オーマガトキとタソガレドキの戦ーー長くない?」
「確かに。オーマガトキはタソガレドキにかなり追い込まれていたはず。なのに、未だにオーマガトキが不利なまま不思議と争いを続けてるな。タソガレドキもとっとと戦を終わらせて、欲しい領地を切り取るなりしないと、民が疲弊するばかりだ」
道すがら、現在、学園からもそう遠くはない領地同士で争いをしている話になる。澪がタソガレドキへきり丸のアルバイトのために出かけてから、すぐにオーマガトキとタソガレドキの戦が始まっていたが、一月程経過しても戦がなかなか終わらない。
戦国時代において、多くの領地では兵は領民が兼務する。領民の大半は百姓のため、米の作付けや刈り入れ時に戦はしない。よって、どの時期に戦があるかというのは読みやすいが、それにしても長い。
このなんちゃって戦国時代は知らないが、史実では戦国時代は小氷河期であった。現代よりも同じ季節であっても気温が低かったのである。故に作物の不作により、あちこちで飢饉が起こり、それが乱世に繋がったとも言われている時代だ。
領主達はより多くの領地を、より多くの食料を求めて戦っているが、国内でそんな事をする暇があるなら戦なんか止めて、皆で団結して米作りに精を出せばいいのにーーと思うのは澪が異なる世界とはいえ、平和な遠い未来の世を知るせいか。
「早く終わるといいんだが……うぅ、やっぱり胃がちょっと痛むな。一年は組は全員宿題をちゃんとやってくるんだろうな。きり丸としんベヱが心配だ」
「それは分かる。しんベヱは実家で美味しいものを食べてる内に忘れてそう。きり丸はあんな事言ってたけど、誰かのを写す気だったら宿題忘れ確定よね。今回の夏休みの宿題は個人別メニューなんだし」
「くぅっ……安藤先生にまたイヤミを言われる。しょうもない親父ギャグ付きでっ!」
半助が顔を覆う。学園に到着する前から、心配の種が尽きない事である。
「澪さん、学園に着くまでに一回だけでいいんだ。甘えていい?」
「はぁ、仕方ないわねぇ。休憩がてら少しだけよ」
「やった!」
ぱあっと、半助の顔が輝く。最近、半助に甘えられるのも慣れてきた澪である。
それから。
道中に少しと言わず半助が満足するまで、抱き寄せて頭を撫でてあげた後、二人は無事に学園へ出勤を果たした。
その後で、澪が予想していた通りにしんベヱときり丸は理由までどんぴしゃで二人揃って宿題を忘れていたのだが、それ所ではない恐ろしい事態が進行していたのだった。
ーーそれは、澪が早速にシナと一緒にくのいち教室の授業を手伝い、宿題を回収している最中に起こった。
「失礼っ、澪さんは居ますか?」
何やら慌てた様子で、くのいち教室に吉野がやって来た。困り顔で焦っている。
「どうしたんですか、吉野先生」
「はい、実は緊急事態でして。今、他の先生方にもご協力してもらっているのですが、わたしと一緒に来ては貰えませんか。人手のいる作業をしておりまして」
「わたしは構わないから、いってらっしゃい澪さん」
老女の姿のシナが、淑やかに微笑んで促してくれた。何が起こったのかは知らないが、許可も出た事で吉野について事務室へと向かう。
「一体、何があったんです?」
周囲にあまり知られたくない事かもしれないため、なるべく小さな声で話しかけると、吉野から口早に返答があった。
「小松田くんのやらかしがあったんです。今回の個人別の宿題が書かれたプリントを、配付直前に転けてばら撒いたそうで、それを封筒に戻す時に一部があべこべになってしまい、結果的に学年を超えて忍たま達の宿題が入れ替わってしまいました。しかも、一年は組の山村喜三太くんがまだ学園に来てないんです!」
「……えっ?!」
まさかの事態に澪は目を見張る。
夏休み前は澪も忙しくしており、事務室の手伝いは控えていた。
それがまさか、こんな裏目に出るとは。
「プリントの準備くらい、出来るだろうと思ってたんですがね。小松田くんのへっぽこぶりを侮ったわたしのミスです」
「くのたま達の分はわたしとシナ先生が準備と配布をしたから影響はないのが幸いですね。とはいえ、忍たま達は結構な人数ですもんね。分かりました、お手伝いします」
学年を超えてということは、下級生の宿題が上級生に行き、逆に上級生の仕事が下級生に……という可能性もあるという事だ。
大事にならなければいいが。喜三太がまだ登校していない事実に対して、非常に嫌な予感がする。
澪が吉野と事務室に到着すると、既に教師陣がいて各クラスの生徒が提出してきた宿題を照らし合わせ、個人別にもともと配布していた宿題を消す作業をしていた。
「三年ろ組の神崎左門は農業体験実習……と」
書きつける作業は半助、宿題のリストを読み上げる作業は各自確認が取れた順でやっているようだ。
「澪さんを連れてきました」
「お呼びと聞き参上しました。今からでもお手伝いさせて下さい」
吉野が澪を連れて入室すると、一斉に教師陣と小松田が澪の方を見た。半助の顔が、ぱあっと輝く。ふと見ると、一年は組の喜三太の宿題がまだ埋まってないようだ。おそらくは、そのせいだろう。
「じゃあ、澪さんはこちらにある宿題リストを担当してください。先生方が言う宿題があったら印をお願いします」
「分かりました」
頷いて、任された宿題リストを手に取る。これで少しは捗ればいいのだが。
「では、続きを始めるぞ。四年い組、平滝夜叉丸は、社会科ドリルだな」
「ありました。二年生用の宿題ですね」
木下の言葉に、リストを確認して澪の方で早速見つけたので頷く。それを聞いて、半助が復唱して書き付けていた。元々の割り振り通りの宿題が当たっている者は丸印がされている。
二つ下の学年の宿題だ。上級生に回ったなら、簡単だが問題はない。
ーーそして、それから残り二つまでになった。
「潮江文次郎は、昆虫採集……と」
読み上げられた宿題を、半助が復唱して書きつけている。
果たしてどんな顔をして、このクソ暑い中でギンギンに忍者している文次郎が昆虫採集したのか、というか、どんな虫を採取したのか。アサガオの観察日記が当たってしまっていた中在家長次と共に非常に気になるが、今はそんな事を言っている場合ではないので黙る澪である。
「これで、埋まってないのは喜三太だけです」
「宿題の方の残りは?」
一年は組の教師である半助と伝蔵が、チラリと澪と吉野の方を見た。澪の方は先程の宿題でリストが全て消えたのでもう無い。となると、残るのは吉野の方だ。
吉野がパラリ、とリストを確認しそれからゴクリと生唾を飲むと、ゆっくり半助と伝蔵の方を見た。
ミーン、ミーン、と蝉の声がやけに五月蝿く聞こえる。
そして。
「六年生用のオーマガトキ城主の褌を取れ、です」
「「「まずいでしょ、それ!!」」」
殆どの教員、そして澪が異口同音に叫ぶように言った。何だって城主の褌を取ってくる宿題が入っているのだ。というか、それがよりによって一年は組の喜三太に行くなんてどういう事だ。
「ーー変な宿題」
「君は黙ってなさい!!」
やらかした小松田が言うべきでない言葉に、吉野が大きな声でツッコミした。
一方で宿題の事を聞いた教師陣がザワつく。
「オーマガトキ城は今、タソガレドキ城と戦の真っ最中で旗色が悪い」
「そんな所に喜三太が行ってたら大変ですよ」
「ただちに救出に向かわねばっ」
一年ろ組の実技担当教師、日向墨男の言葉に半助と伝蔵が焦ったような声を出す。その時だ。ポトリ、と半助が書いていた宿題確認の書き付けの紙の上に鳥の子が突如として転がってくる。
直ぐに察した澪は、鼻と口を手で覆った。案の定、直ぐにプシュー!と音を立てて鳥の子から煙幕が吹き出す。
うわぁっ!と、何人かの教師の声がした。お気の毒である。
そして、煙の中から現れたるは、我らが忍術学園学園長そして、忍犬の相棒ヘムヘムである。こうやって、現役時代の技を活かして気配を殺して近付き、ド派手な登場をしては人を驚かせる悪い趣味がある学園長である。
げほっ、がほっ!と、学園長の噎せる声がする。毎回毎回、自分が投げた煙幕で噎せるのは学園長のお約束のような物だ。澪の知る限り、この登場の仕方をする時で噎せなかった事はない。
そして、煙が完全に引くと学園長が大きな声で告げた。
「喜三太救出は、宿題をやって来なかった生徒達による選抜チームに行かせる!!」
ろくでもない。
澪は勿論のこと、半助と伝蔵の顔が引き攣った。
「学園長先生?!」
「突然の思い付きをやってる場合ではないですぞ!」
「そうですよ、学園長。忍たま達の選抜チームだなんて、危ないのでは?」
半助と伝蔵を援護射撃する澪。学園長はプイッと顔を背けた。
「思いつきではなーい!これから、忍術大作戦が始まるのじゃっ。ヘムヘム!!」
「へムゥ!」
学園長からチラリと視線を向けられ、ヘムヘムが宿題をやってこなった生徒のリストを掲げた。
パラリ、とページを捲ると選抜チームの名前がある。見ると、やはりと言うか澪の予想がズバリ当たって一年は組のきり丸としんベヱの名前があった。他には、三年生の神崎左門、四年生の平滝夜叉丸、五年生の不破雷蔵と鉢屋三郎、六年生の善法寺伊作の七名である。
バランスよく上級生と下級生が混じり合っている。成程、悪くない選抜チームである。単なる課外授業ならこれでもいいが、今回はオーマガトキ領に居るかもしれない喜三太を救出する目的があるのに、正直言って心許ない。
「今朝早く、オーマガトキ領にある園田村の乙名が忍術学園のわしを頼って来られた。その事もあるでの。加藤村の馬借を利用されていた故、土井先生と山田先生は、挨拶させるから団蔵を連れてこの後わしの所に来るように。は組の者達もくっついて来て構わん。澪ちゃんはわしの秘書として同席を頼むぞ。山本シナ先生もおるでの。ちなみに選抜チームの監督と引率は、日向先生と厚着先生にするつもりじゃ。では、各々よろしくの!」
「ーー学園長。あの、危険では?もしどうしてもと仰るなら、選抜チームの引率はわたしも行きますが」
おずおずと、澪が申し出る。教員が二人もつくなら大丈夫かとも思ったが、選抜メンバーにはきり丸も居るのだ。というか、方向音痴の左門にダークホースのしんベヱも居る。気になって仕方ない。
「ダメじゃ。澪ちゃんは、わしの秘書なんじゃから、今からわしと一緒においで」
「……はい、分かりました」
にこっ、と笑われると逆らえない。澪は頷いてその場を学園長やヘムヘムと一緒に後にしたのだった。
学園長の発表は程なくして、選抜メンバーに伝えられ学園長命令とあっては逆らえず、急遽、指名のあった二名の教員は、準備に取り掛かった。夏休み明け初日早々に慌ただしい事である。
一方の澪はと言うと、園田村からやって来た乙名ーー手潟潔斎と名乗る老人とシナと共に挨拶をしていた。彼を連れてきたという加藤村の馬借は、団蔵の実家が経営しているため、団蔵を呼んで挨拶をさせるというわけである。
例え相手が子どもであっても、団蔵は跡取り息子だ。このような場を設けるのは、現代日本では考えられない事である。
「いやぁ、お綺麗な娘さんですな。学園長の秘書がこんなに見目麗しいとは」
「ほっほっほ。ですじゃろう?澪と言いましてな。どこに出しても恥ずかしくない自慢の秘書なのですじゃ」
ーーさっきから、学園長の秘書自慢が止まらない。ずっとこれである。いい加減、恥ずかしくなってきた。自慢なら、孫娘のおシゲの話をしてくれと言いたい。
「学園長先生、お待たせしました」
伝蔵と半助が、一年は組の団蔵を連れてきた。他のは組の生徒も、ぞろぞろとくっついて来ている。おそらくは、これから園田村の乙名である手潟の話を聞かせるためだろう事は想像出来るのだが、既に嫌な予感しかしない澪である。
団蔵が丁寧に手をついて挨拶をすると、同じように手潟も挨拶をした。加藤村の馬借の跡取り相手であるため、例え年齢が大きく離れていてもきっちりしている。
「園田村の乙名の手潟潔斎と申します」
その挨拶を皮切りに、途中、一年は組恒例のボケが混じりながらも手潟から忍術学園へやって来た経緯が語られた。
園田村は、オーマガトキ領にあり旗色の悪い今回の戦を見て、オーマガトキではタソガレドキに勝ち目がないと判断した。室町時代において、領主と支配地域の村の関係は領主の手腕に左右される。つまり、村の惣という自治組織が抵抗して不当な要求をする領主に、年貢を盾に抗議するなんて事はままあるのだ。あるいは、繋がりたい領主が近くにいたら、自分達の支配者ではなく、そちらに金品を支払って胡麻をすったりも普通にある。
オーマガトキの領主、大間賀時曲時は領主としての資質に欠ける事もあり、園田村はその支配領域でありながらも抵抗する事もままある惣の一つだ。
そうした事実も手伝って、今回の戦において、手潟は惣の乙名としてタソガレドキに金品を支払う事で、オーマガトキが敗戦した時に備え、タソガレドキに通じて軍勢による乱暴狼藉を禁止する庇いの制札を園田村を守るために手に入れようとした。
制札はまたの名を、禁制、高札等ともいい、手潟がこの制札の入手に動くのは何も珍しい話ではない。金のある村や寺社等が、戦が始まると軍から制札を購入するのはよくある事だ。
もっとも、制札を貰っても襲われる事もある。効果はその軍隊の統率力次第な部分も多いし、制札は軍勢に襲われそうになったら、その都度掲げないといけない。貰っても命懸けで、制札を使う必要がある。
だが、制札があるのとないのとでは断然違う。手段が手に入るのだから。
手潟の話によると、村中の金を集めて金品を支払ったにも関わらずタソガレドキから制札は貰えず、それ所か更なる金品と馬の飼料の大豆まで要求されたという。
村の領主であるオーマガトキに見つかりかねない危険を冒して、制札を手に入れようとしている園田村からすれば弱り目に祟り目だ。
「きり丸が聞いたら血の涙を流しそうな話だな」
手潟から一通りの説明を聞いた兵太夫が、そう感想を零した。澪もこれには同意する。きり丸本人がここに居たら、ドケチ魂故に悶えているだろう。
「困り果てた手潟さんは、学園長先生に相談に来られたの」
老女の姿をしたシナが、上品に話を纏める。すると、おそらくは既に手潟から事情を聞いているために眠気が襲ったのか、鼻提灯を作って眠っていた学園長がハッとした顔で目を覚まし、こう付け加えた。
「ああ、そうそう!黄昏甚兵衛は評判の悪い大名じゃ。制札を餌に次々と要求を出してくるかもしれん。また、この事がオーマガトキ側にバレると厄介な事になる」
それを聞いて、伝蔵が厳しい顔になる。澪や半助も目を細めた。
「戦線はひと月前の激突以来、タソガレドキ軍の圧倒的に優位のまま、不思議な睨み合いを続けておりますな」
そう、伝蔵の言う通りだ。今日、半助と澪がその事で会話していたくらいに、早く戦を終わらせればいいのにーーと思うような。奇妙な戦をしている。
一瞬だけ、学園長室を緊迫した空気が包む。その時だ。
「不思議な睨み合い……?」
ポツリと団蔵が呟く。すると、団蔵と庄左ヱ門以外のは組の生徒が変な顔で互いに睨み合いをした。それを見て、一年は組の教師二人と、思わず澪もズッコケる。
「不思議な睨み合いをするな!!」
半助がツッコミするのと、団蔵がゲラゲラ笑うのは同時だった。ボケが炸裂している。
「とっくに勝負がついとるはずなのに、つかないのが不思議だと言っとるんだ」
「そうですよ。お客様の前でお巫山戯は程々に」
「話が脱線して大変ですなぁ……」
伝蔵と澪がは組の良い子達にそう言うと、手潟からは同情的な発言が出た。恥ずかしいのか、半助も伝蔵も困ったような顔をしている。
「「困ったもんです!」」
「「お前らが言うな!!」」
笑顔で返事をする一年は組と、間髪入れずズッコケるもツッコミを忘れない教師二名。澪は遠い目になりかけた。いつも通り過ぎる。
「おっほん。それでこの戦、どう決着するか両軍の印を取る必要がある」
賑やかな一年は組が脱線するのを軌道修正するように、学園長から一言があった。だが、せっかくの行為は次の瞬間におじゃんになる。
「はい、印を取るってなんですか?」
「教えたはずだっ!」
元気に質問する乱太郎を見た半助の顔が、半泣きになっている。何時ものツッコミに応えるように、すかさず庄左ヱ門が兵力、兵站、戦術等を詳しく調べる事だと説明すると、半助が僅かに涙を滲ませては組の良心もとい、学級委員長を褒めていた。
その発言を聞いた乱太郎が、ハッとした顔になる。
「あ!だったら……」
そして何やら一年は組で円陣を組んで話し合う。ごにょごにょごにょ……よくよく聞くと、ぼく達でうんたらかんたら、等と聞こえる。澪の顔が引き攣りそうになるのと、子ども達が一斉に声を発するのはほぼ同時だった。
「ぼく達が、印を取りに行ってきまーす!」
まるでお使いへ行く明るいテンション。半助と伝蔵が思い切り仰け反った。
そして。
「うむ、許可する!」
ずべしゃあ!と同じタイミングで、畳の上に倒れる一年は組の教師二名。倒れたりする事こそなかったが、澪は深いため息を吐いた。
「そう、仰ると思いました」
「行きたがると思った……」
「許可すると思った……」
澪の言葉に続けて伝蔵と半助が倒れながらも呻くように言う。
わーい、と喜ぶ子ども達。一方で学園長!と叫ぶ二人の教師。一気に騒がしくなる室内の中、またも鼻ちょうちんを作って寝こける学園長にシナがあらまぁ、と言う顔をしていたのだった。
