怪力娘苦労日記ー短編集ー
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「……やっちまったな」
「……ああ、やってしまったな」
ちゃぽん、ぴちょん、と水音がする浴室にて。二人の少年は互いに同じ反省の気持ちを分かちあっていた。
忍術学園の浴室にて。
入口を正面とし向かって右のやや老けた顔の少年は潮江文次郎、左にいる目鼻立ちの整った少年は食満留三郎といい、忍術学園の最上級生であり、犬猿の仲と皆が知る少年達である。
にもかかわらず、彼らが肩を並べて仲良く喧嘩もせず入浴しているという、すわ、外の天気は雨か霰かという事態になったのは、遡ること少し前の出来事のせいである。
二人はいつも通り、口論しながらどちらが先に風呂に入るか揉めていた。今にして思えば、それはしょうもない理由で喧嘩をしていた。何故、そんな事になったか二人とも分からないのだから、根っからの犬猿の仲らしいといえばらしい。
これまで、二人の喧嘩が原因で忍務に失敗したり、あまりの仲の悪さに他の六年生達が仲を取り持とうとして、やはり失敗して匙を投げたといった事もあったのだが、今回の特大級のやらかしは、他の六年生達から知られれば非難轟々であろう事は明らかだ。
それどころか、他の忍たまやくのたまに何なら教員からも非難の嵐であろう。
ーーなんたって、学園長秘書として最近雇われた美少女、澪と互いに裸で風呂場で遭遇してしまったのだから。
文次郎も留三郎も流石に反省した。
互いに同じ事で反省しているので、今は仲良く大人しく並んで風呂に浸かれているというわけである。外の天気が曇りがちになってきた。一雨くるかもしれない。
「なぁ、澪さん。あんな事言ってたけど、本当に大丈夫だと思うか」
「……あー、どうなんだろうな。だが、年頃の娘なら怒って泣いて、責任を取れと言っていてもおかしくはないな」
風呂にじっくり浸かりながら、文次郎がポツリと呟く言葉に、留三郎は唸るように返事を返す。
思い出すのは、澪の態度だ。どちらか責任を取れ、と言ってこちらを慌てさせたと思ったら、冗談だと言って去った。
「そうか。ならば、明日以降の澪さんの様子次第だな。あの時の言葉が本心ならいいが、冗談だと言ったのが気遣いなら、責任を取れという言葉はあながち嘘ではなくなる」
「おい、やっぱり嘘でもなんでもないなら、オレ達のどっちかが責任を取る事になるぞ」
「そうなったらなったで、オレが取る。逃げも隠れもせん!」
男らしく文次郎は腹を括っていた。
そこは、そうなったらじゃあがんばれよ……で終われば平和だったのに。
澪はアホみたいな怪力無双の娘だが、容姿は天女のようだし性格だって悪くない。
ぶっちゃけ、怪力さえ無視すれば嫁としては優良物件である。責任を取るとか何とか言って、嫁に出来るなら棚から牡丹餅のような話とも言えた。留三郎の顔がぴくりと不快そうに歪む。
なお、その表情の意味はーーお前にあんな美女が嫁ぐのはそれはそれで面白くない、である。
澪が好きだとか、そう言う問題ではない。
何だってお前が結果的に得をするんだ解せん、留三郎の気持ちはその一言に尽きた。
「いーや、責任ならオレが取る。オレの方が先に澪さんの体を見たはずだ」
「ふん、何を言う。オレが先だ。大体だ、お前よりオレの方がギンギンに鍛えてる分、身体だってこの通り逞しいだろうが」
「はぁ?」
外の天気が、気持ちマシになったかもしれない。喧嘩はせずに仲良く風呂に入れと澪に言われて、さしたる時間も経過していないのに、既に口論が始まっていた。
「オレだって鍛えてる。大体、オレのが男前だ。見ろ、この二枚目の顔を。くのいち教室の子達から、オレはカッコイイと言われてるからな。どうだ、文次。オレの方が容姿に優れてるだろうが」
「アホか留。平滝夜叉丸のような事を言うとは。男とは容姿ではなく、心と肉体だ。オレはその点、心も身体もギンギンに鍛練しているから、お前より遥かに澪さんを娶るのに支障はあるまい」
普段は互いの名前を呼び合う文次郎と留三郎であるが、ヒートアップしてくると文次、留、と愛称を互いに口にする。仲良しなのだーーただし、加減を知らない喧嘩を伴う。
二人のやり取りを聞けば、六年生達は毎度の事に顔を顰めるだろうし、澪に惚れている半助はどっちも不合格だと喚き散らしたに違いない。何なら、お得意の教材攻撃が炸裂している可能性もある。
「心と体だぁ?はっ、そんなもんはモテない男の言い訳だ。現実を見ろ文次よ、お前はくのたま達からカッコイイと言われた事あるか?ないだろうが」
「なっ?!見てくれがいいから何だっ。大体、澪さんは容姿で男を選ぶようなタマではなかろう。それなら、あの時、どちらかが責任を取れとは言わず、お前に取れと言ったはずだ!という事は澪さんはオレだって射程範囲に違いないっ。むしろ、オレの方が好みな事だってあるだろうが」
「ふん、悲しいなぁ文次よ。澪さんの気遣いの可能性だってあるだろう。どちらか、と言うのはお前に対する配慮かもしれんぞ」
口論が終わらない。
殴り合いこそしていないが、風呂場は二人のヒートアップしていく声のせいで、五月蝿くなってきていた。
そして、あーだこーだと言う会話は遂に女が聞けば、否、男が聞いてもしょうもない境地に行き着く。
「そうまでいうなら、顔じゃなくて下についてるモンで勝負だ!文次、お前とオレならオレの息子の方がでかいっ!!」
「はぁ?バカ留め。息子はオレの方がデカイっ。そして太い!!」
本気でどうでもいい話を展開させる二人。余談だが、過去には立ちションしながら喧嘩をしたこともあったりする。その時は教員に見つかって怒られたのだが、今は大変残念な事に止める人間は居なかった。
「そこまで言うなら、直接確認してやるわ。見せろ文次ぃ!!本当は見たくないがな!」
「オレだって大事な息子を見せたくないわぁ!仕方ないからお前に見せてやるだけだ。その代わり、留こそ見せてみろ。大したことなかったら、鼻で笑ってやるからなぁ!!」
バカ丸出しな会話だが、誰も聞いては居ないのが救いである。
「いいだろうっ、見せてやるぞ。一、二の三で見せ合うぞっ、後出しはダメだからなっ!」
「じゃんけんじゃあるまいし、そんな事するかバカ留」
「んだと、バカ文次。くっ、こうなったらどっちの息子が立派か勝負だ!いくぞっ、いーち、にーの、さーん!!!」
ザバァっと、二人は勢いよく湯船から立ち上がった。
湯気の立ちこめる浴室で、二人の男が股間にぶら下がった互いの息子の体格比べを開始するという、本気でどうでもいいーーだが、ある意味では退けない仁義なき戦いが幕を開けるかに見えた。
その時である。
「「……ふらぁ」」
二人はほぼ同時に、互いに自慢の息子を見る前にまるで空腹のために力を失った忍術学園剣術師範の戸部新左衛門よろしく、ふらふらして倒れた。
それもそのはず。
何やかんや、二人は結構な長い時間風呂に浸かっていたためである。
早い話が、のぼせている所に急に立ち上がったせいで、立ちくらみしたのだ。
お陰様で、互いがどれだけアホな事をしていたか嫌でも悟った。頭が冴えて途端に揃って冷静になる。
「…………出るか留三郎」
「ああ、出よう文次郎」
二人は互いの息子比べをするでもなく、静かに浴室から退場したのだった。
ーーそして、その後暫くして。
朝早くに風呂に入ったのにも関わらず、六年生の忍たま長屋では何故か井戸水で朝起きた時にそうするように、やたら顔を洗う潮江文次郎と食満留三郎がいた。
日頃から、目の下に隈を作っている文次郎の顔は何故か疲労が浮かんでおり、留三郎の目は何故か充血していた。
互いの姿を見ても喧嘩をする事なく、ただ無言で顔を洗う二人。
やがて、顔を手拭いで乱暴に拭きながら、文次郎の方が先に口を開いた。
「なぁ……留三郎、オレ、風呂から出たはいいが、どうしても目を閉じると澪さんの姿が浮かぶんだ。お前はどうだ?」
「オレの顔見れば分かるだろ。嫌なことにお前と同じだ」
二人の少年は澪との全裸のドッキリ対面の衝撃から、その時こそ問題無かったが、後になってじわじわと澪の裸体という、年頃の少年にはまったくもって毒な姿に苛まれていた。
二人の脳裏に浮かぶのは、湯気立ち込める浴槽にいた澪の姿だ。
驚いたように目を見張る華の顏、頬に張り付いた黒い髪が色っぽくて、細い首筋から綺麗な鎖骨、男には存在しない柔らかそうな乳房、小さな臍と更にその下の秘所まで余す事無く二人は見た、見てしまった。
言葉もなくただ一瞬とはいえ、二人は見蕩れたのだ。
その裸体に、その美しさにーー健全な若い男子に反応するなと言う方が無茶だ。
異性として澪を好いているかというとそうではないが、美しい娘の裸という大変に刺激的な光景は、二人の少年に分け隔てなく煩悩と懊悩を齎した。
「流石に褌は洗わずに済んだが……オレのきかん坊が」
「それ以上言うな留。オレもだ。というか、アレを目撃したら他の六年生も似たような事になっていると思う。まぁ、仙蔵はやり過ごすかもしれんが」
「伊作は無理だな。そういう意味では澪さんと遭遇したのが、オレでよかったのか……」
ポツポツと話し合う少年二人は、悩めるお年頃であることも手伝って普段の犬猿ぶりはなりを潜めていた。というか、喧嘩なんて出来る元気がもうない。なんたって、澪の裸が二人の頭の中に居座るせいで、互いに息子がコントロール出来なくなり、それはそれは大変な事になっているのだ。
女性に分かりやすく説明すると、まるで、ゲームコントローラのアナログスティックが制御不能になったのに、ゲームを勝つためにプレイしないといけない感じである。
これはまずい。
大変にまずい。
無茶苦茶まずい。
澪に合わせる顔が無いし、というか他の六年生達に気付かれたくない。
澪には、そもそも彼女の就職試験の時に二人してコテンパンに倒されたという事もあり、ただでさえ思う所があるというのに、今回はその澪の裸を見てしまった事で更に二人は悶々としてしまっていた。
午後とはいえ日はまだ高く眩いーーその光は、まるで二人の邪な心を浄化するような物だが、そんな簡単に年頃の少年の欲は退散してくれない。
「なぁ、文次……今から山、行かないか?」
「行く」
「滝に、打たれないか?」
「打たれる」
一度目が覚めてしまった若い性欲を鎮めるには、それしかない。
二人は無言で頷きあって、この日から裏山や裏裏山へ出掛けては互いに戦ったり、滝に打たれたり、鍛錬したりとまさしく修験者のような日々を送ることになる。
それに終止符を打ったのは他ならぬ澪であった。
皮肉にも後日。
観客付きの澪との試合でボコボコにされた結果、二人の身体だけではなく澪に対して抱いていたちょっとした助平心まで、それは見事に倒されたお陰であった。
この日を境に、彼等の友情は益々深まり文次郎と留三郎はまた仲良くしょうもない喧嘩をしては、周りの人間を呆れさせる事になるのだがーーそれはまた別の話である。
「……ああ、やってしまったな」
ちゃぽん、ぴちょん、と水音がする浴室にて。二人の少年は互いに同じ反省の気持ちを分かちあっていた。
忍術学園の浴室にて。
入口を正面とし向かって右のやや老けた顔の少年は潮江文次郎、左にいる目鼻立ちの整った少年は食満留三郎といい、忍術学園の最上級生であり、犬猿の仲と皆が知る少年達である。
にもかかわらず、彼らが肩を並べて仲良く喧嘩もせず入浴しているという、すわ、外の天気は雨か霰かという事態になったのは、遡ること少し前の出来事のせいである。
二人はいつも通り、口論しながらどちらが先に風呂に入るか揉めていた。今にして思えば、それはしょうもない理由で喧嘩をしていた。何故、そんな事になったか二人とも分からないのだから、根っからの犬猿の仲らしいといえばらしい。
これまで、二人の喧嘩が原因で忍務に失敗したり、あまりの仲の悪さに他の六年生達が仲を取り持とうとして、やはり失敗して匙を投げたといった事もあったのだが、今回の特大級のやらかしは、他の六年生達から知られれば非難轟々であろう事は明らかだ。
それどころか、他の忍たまやくのたまに何なら教員からも非難の嵐であろう。
ーーなんたって、学園長秘書として最近雇われた美少女、澪と互いに裸で風呂場で遭遇してしまったのだから。
文次郎も留三郎も流石に反省した。
互いに同じ事で反省しているので、今は仲良く大人しく並んで風呂に浸かれているというわけである。外の天気が曇りがちになってきた。一雨くるかもしれない。
「なぁ、澪さん。あんな事言ってたけど、本当に大丈夫だと思うか」
「……あー、どうなんだろうな。だが、年頃の娘なら怒って泣いて、責任を取れと言っていてもおかしくはないな」
風呂にじっくり浸かりながら、文次郎がポツリと呟く言葉に、留三郎は唸るように返事を返す。
思い出すのは、澪の態度だ。どちらか責任を取れ、と言ってこちらを慌てさせたと思ったら、冗談だと言って去った。
「そうか。ならば、明日以降の澪さんの様子次第だな。あの時の言葉が本心ならいいが、冗談だと言ったのが気遣いなら、責任を取れという言葉はあながち嘘ではなくなる」
「おい、やっぱり嘘でもなんでもないなら、オレ達のどっちかが責任を取る事になるぞ」
「そうなったらなったで、オレが取る。逃げも隠れもせん!」
男らしく文次郎は腹を括っていた。
そこは、そうなったらじゃあがんばれよ……で終われば平和だったのに。
澪はアホみたいな怪力無双の娘だが、容姿は天女のようだし性格だって悪くない。
ぶっちゃけ、怪力さえ無視すれば嫁としては優良物件である。責任を取るとか何とか言って、嫁に出来るなら棚から牡丹餅のような話とも言えた。留三郎の顔がぴくりと不快そうに歪む。
なお、その表情の意味はーーお前にあんな美女が嫁ぐのはそれはそれで面白くない、である。
澪が好きだとか、そう言う問題ではない。
何だってお前が結果的に得をするんだ解せん、留三郎の気持ちはその一言に尽きた。
「いーや、責任ならオレが取る。オレの方が先に澪さんの体を見たはずだ」
「ふん、何を言う。オレが先だ。大体だ、お前よりオレの方がギンギンに鍛えてる分、身体だってこの通り逞しいだろうが」
「はぁ?」
外の天気が、気持ちマシになったかもしれない。喧嘩はせずに仲良く風呂に入れと澪に言われて、さしたる時間も経過していないのに、既に口論が始まっていた。
「オレだって鍛えてる。大体、オレのが男前だ。見ろ、この二枚目の顔を。くのいち教室の子達から、オレはカッコイイと言われてるからな。どうだ、文次。オレの方が容姿に優れてるだろうが」
「アホか留。平滝夜叉丸のような事を言うとは。男とは容姿ではなく、心と肉体だ。オレはその点、心も身体もギンギンに鍛練しているから、お前より遥かに澪さんを娶るのに支障はあるまい」
普段は互いの名前を呼び合う文次郎と留三郎であるが、ヒートアップしてくると文次、留、と愛称を互いに口にする。仲良しなのだーーただし、加減を知らない喧嘩を伴う。
二人のやり取りを聞けば、六年生達は毎度の事に顔を顰めるだろうし、澪に惚れている半助はどっちも不合格だと喚き散らしたに違いない。何なら、お得意の教材攻撃が炸裂している可能性もある。
「心と体だぁ?はっ、そんなもんはモテない男の言い訳だ。現実を見ろ文次よ、お前はくのたま達からカッコイイと言われた事あるか?ないだろうが」
「なっ?!見てくれがいいから何だっ。大体、澪さんは容姿で男を選ぶようなタマではなかろう。それなら、あの時、どちらかが責任を取れとは言わず、お前に取れと言ったはずだ!という事は澪さんはオレだって射程範囲に違いないっ。むしろ、オレの方が好みな事だってあるだろうが」
「ふん、悲しいなぁ文次よ。澪さんの気遣いの可能性だってあるだろう。どちらか、と言うのはお前に対する配慮かもしれんぞ」
口論が終わらない。
殴り合いこそしていないが、風呂場は二人のヒートアップしていく声のせいで、五月蝿くなってきていた。
そして、あーだこーだと言う会話は遂に女が聞けば、否、男が聞いてもしょうもない境地に行き着く。
「そうまでいうなら、顔じゃなくて下についてるモンで勝負だ!文次、お前とオレならオレの息子の方がでかいっ!!」
「はぁ?バカ留め。息子はオレの方がデカイっ。そして太い!!」
本気でどうでもいい話を展開させる二人。余談だが、過去には立ちションしながら喧嘩をしたこともあったりする。その時は教員に見つかって怒られたのだが、今は大変残念な事に止める人間は居なかった。
「そこまで言うなら、直接確認してやるわ。見せろ文次ぃ!!本当は見たくないがな!」
「オレだって大事な息子を見せたくないわぁ!仕方ないからお前に見せてやるだけだ。その代わり、留こそ見せてみろ。大したことなかったら、鼻で笑ってやるからなぁ!!」
バカ丸出しな会話だが、誰も聞いては居ないのが救いである。
「いいだろうっ、見せてやるぞ。一、二の三で見せ合うぞっ、後出しはダメだからなっ!」
「じゃんけんじゃあるまいし、そんな事するかバカ留」
「んだと、バカ文次。くっ、こうなったらどっちの息子が立派か勝負だ!いくぞっ、いーち、にーの、さーん!!!」
ザバァっと、二人は勢いよく湯船から立ち上がった。
湯気の立ちこめる浴室で、二人の男が股間にぶら下がった互いの息子の体格比べを開始するという、本気でどうでもいいーーだが、ある意味では退けない仁義なき戦いが幕を開けるかに見えた。
その時である。
「「……ふらぁ」」
二人はほぼ同時に、互いに自慢の息子を見る前にまるで空腹のために力を失った忍術学園剣術師範の戸部新左衛門よろしく、ふらふらして倒れた。
それもそのはず。
何やかんや、二人は結構な長い時間風呂に浸かっていたためである。
早い話が、のぼせている所に急に立ち上がったせいで、立ちくらみしたのだ。
お陰様で、互いがどれだけアホな事をしていたか嫌でも悟った。頭が冴えて途端に揃って冷静になる。
「…………出るか留三郎」
「ああ、出よう文次郎」
二人は互いの息子比べをするでもなく、静かに浴室から退場したのだった。
ーーそして、その後暫くして。
朝早くに風呂に入ったのにも関わらず、六年生の忍たま長屋では何故か井戸水で朝起きた時にそうするように、やたら顔を洗う潮江文次郎と食満留三郎がいた。
日頃から、目の下に隈を作っている文次郎の顔は何故か疲労が浮かんでおり、留三郎の目は何故か充血していた。
互いの姿を見ても喧嘩をする事なく、ただ無言で顔を洗う二人。
やがて、顔を手拭いで乱暴に拭きながら、文次郎の方が先に口を開いた。
「なぁ……留三郎、オレ、風呂から出たはいいが、どうしても目を閉じると澪さんの姿が浮かぶんだ。お前はどうだ?」
「オレの顔見れば分かるだろ。嫌なことにお前と同じだ」
二人の少年は澪との全裸のドッキリ対面の衝撃から、その時こそ問題無かったが、後になってじわじわと澪の裸体という、年頃の少年にはまったくもって毒な姿に苛まれていた。
二人の脳裏に浮かぶのは、湯気立ち込める浴槽にいた澪の姿だ。
驚いたように目を見張る華の顏、頬に張り付いた黒い髪が色っぽくて、細い首筋から綺麗な鎖骨、男には存在しない柔らかそうな乳房、小さな臍と更にその下の秘所まで余す事無く二人は見た、見てしまった。
言葉もなくただ一瞬とはいえ、二人は見蕩れたのだ。
その裸体に、その美しさにーー健全な若い男子に反応するなと言う方が無茶だ。
異性として澪を好いているかというとそうではないが、美しい娘の裸という大変に刺激的な光景は、二人の少年に分け隔てなく煩悩と懊悩を齎した。
「流石に褌は洗わずに済んだが……オレのきかん坊が」
「それ以上言うな留。オレもだ。というか、アレを目撃したら他の六年生も似たような事になっていると思う。まぁ、仙蔵はやり過ごすかもしれんが」
「伊作は無理だな。そういう意味では澪さんと遭遇したのが、オレでよかったのか……」
ポツポツと話し合う少年二人は、悩めるお年頃であることも手伝って普段の犬猿ぶりはなりを潜めていた。というか、喧嘩なんて出来る元気がもうない。なんたって、澪の裸が二人の頭の中に居座るせいで、互いに息子がコントロール出来なくなり、それはそれは大変な事になっているのだ。
女性に分かりやすく説明すると、まるで、ゲームコントローラのアナログスティックが制御不能になったのに、ゲームを勝つためにプレイしないといけない感じである。
これはまずい。
大変にまずい。
無茶苦茶まずい。
澪に合わせる顔が無いし、というか他の六年生達に気付かれたくない。
澪には、そもそも彼女の就職試験の時に二人してコテンパンに倒されたという事もあり、ただでさえ思う所があるというのに、今回はその澪の裸を見てしまった事で更に二人は悶々としてしまっていた。
午後とはいえ日はまだ高く眩いーーその光は、まるで二人の邪な心を浄化するような物だが、そんな簡単に年頃の少年の欲は退散してくれない。
「なぁ、文次……今から山、行かないか?」
「行く」
「滝に、打たれないか?」
「打たれる」
一度目が覚めてしまった若い性欲を鎮めるには、それしかない。
二人は無言で頷きあって、この日から裏山や裏裏山へ出掛けては互いに戦ったり、滝に打たれたり、鍛錬したりとまさしく修験者のような日々を送ることになる。
それに終止符を打ったのは他ならぬ澪であった。
皮肉にも後日。
観客付きの澪との試合でボコボコにされた結果、二人の身体だけではなく澪に対して抱いていたちょっとした助平心まで、それは見事に倒されたお陰であった。
この日を境に、彼等の友情は益々深まり文次郎と留三郎はまた仲良くしょうもない喧嘩をしては、周りの人間を呆れさせる事になるのだがーーそれはまた別の話である。
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