第2話 忍術学園へようこそ
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ーー就職が決まった。
澪の頭の中では、「祝、忍術学園就職!」の横断幕が上がりパレードのような華やかな音楽が流れていた。
じわじわと込み上げて来る喜びに浸っている澪であるが、そう長くできる事でもない。
「澪ちゃんは、わしの専属秘書じゃ!譲らんからのっ」
口角泡を飛ばす勢いで学園長が声を上げている。
ここは、学園長の部屋だ。その学園長を前に教師陣や事務員達が陣取っている。
今、澪の採用を決めたところで所属をどうするのかという議論の真っ最中であった。
「澪さんは事務員として、うちにください。小松田くんの毎日毎日やらかすミスをフォローする貴重な人員として配置を要求します!」
「何を勿体無い事を言ってるんですか、吉野先生。澪くんは我々教師陣の補佐に回ってもらうんです。あの運動能力そして戦闘能力は非凡です。一年は組に必須の助っ人です!」
「まずいのは一年は組だけじゃないですか」
「そっちだってまずいのは小松田くんだけじゃないですか」
やいのやいのと、言い合いが続く。ちなみに声を発しているのは、事務職員の吉野作造と一年は組実技担当の伝蔵である。
澪は出されたお茶を啜って、ぷはーと息を吐いた。
「大人気ね、澪さん」
そんな澪にお茶を注ぎ足してくれるのは、美しい女性だった。教師陣の紅一点、山本シナである。
ちなみに、教師達からの自己紹介は話し合いの最初に済ませた。数が多い中、唯一の女性であるシナは直ぐに名前と顔が一致した。
「そんなに人材がいないんですか。ここは」
「そんなことないわ。こうなってるのは、澪さんが優秀だからよ。わたしも興奮しちゃったわ。上級生を瞬く間にやっつけちゃうんだもの。是非、くのたま達にも色々と教えてあげてほしいわ」
和やかな女同士のやり取りの横で、言い合いがヒートアップしている。そのうち、掴み合いになるかもしれない物の、当事者の澪は我関せずの姿勢である。
「ここは澪さんの意見を伺うのはどうでしょうか。本人の希望に沿ってみては?」
一年い組の教科担当、安藤夏之丞がにこりと笑って澪に矛先を向けて来た。てかっと光るやや油っぽい顔が特徴的な男性だ。
「我が一年い組は、は組と違って優秀ですので澪さんの手助けは不要です。ですから、早く決めてください。これから、わたしの優秀な生徒達のために授業の準備をしなくてはなりませんからね」
サラッと嫌味をかます安藤に、隣に座っていた半助かカチンときた顔をしている。どうやら、いつもの事らしく周りの教師達はスルーしていた。
ぶっちゃけ、給与が貰えるなら何でもいい澪である。
「手当が変わらないのであれば、何でも結構です」
まるで、きり丸のような回答に教師達数名の顔が引き攣った。仕方ないではないか、先立つ物は銭である。
「わしの秘書になってくれるなら、特別手当を出すぞ!わしの特製ブロマイドを好きなだけ贈呈しよう」
「結構です」
お給金を追加してくれないなら、秘書も事務も教師補助も同じだ。
澪の反応にシナが苦笑いした。
「では、こういうのはどう澪さん。当面の間は学園長先生の秘書をしながら、合間を見て授業の補助や事務員としても働くというのは。何か興味のあるお仕事ができたら、学園長のお許しを得て、そちらにいつでも変われるという風にすれば良いと思うの。澪さんに補助をお願いする場合は、事前に相談ということにすれば揉めないと思うのだけど」
シナの提案は、この場の全員がひとまず納得できそうな物だった。澪に否は無い。
「了解しました」
「わたしには余り畏まらなくていいからね。澪さんは同じ女同士なんだし。それにこれから、同じくのたまの宿舎に寝泊まりしてもらうのだから。気楽に接してくれると嬉しいわ。それと、早速なんだけど明日にでも、くのたま達に挨拶がてら、何か武術を教えてもらえないかしら」
さらっと早速予定を取り付けられる澪である。学園長を見ると、澪がとりあえず秘書におさまったことで納得しているのか、特に文句もなさそうである。
「わたしの武術は免許皆伝とかを受けている代物ではありませんが、それでよければ喜んで」
頷くと、そんな澪に伝蔵が「では次は、一年は組の補佐を!」と声を発した。負けじと吉野からは「その次は事務室にっ」と声がかかる。
「ひとまずはこの場に学園長先生もおられるので、今週の予定を立てます。来週以降については、またご相談に乗るということでお願いできますか。教えるにしても、わたしが忍術学園での授業を知ってからの方がうまくできると思いますし。わたし自身の学習と並行して、どうせなら生徒達に教えていきたいです。どうでしょうか?」
澪がてきぱきと話しをすると、漸く落ち着いた。今日は採用が来まったばかりのため、半助の長屋からの荷物の移動や学園内の施設の把握だってしたい。安藤とはまた違う理由で、話し合いを終わらせたい澪だった。
「澪さん。もしよければ、わたしと一緒に六年生達の様子を見に行ってもらえませんか。大した外傷もなかったですし、今頃は起きていると思うんです」
白い忍者服を纏った校医の新野洋一からの申し出に、澪はハッとする。すっかり忘れていたが、昏倒させてしまった六年生達のお見舞いは必須だ。でなければ申し訳なさ過ぎる。
「勿論です、ご一緒させてください。学園長先生、新野先生と一旦、失礼させてもらってよろしいでしょうか」
「勿論じゃ。六年生達を驚かせてくるといい、きっと澪ちゃんを見たらびっくりするぞ」
「ありがとうございます」
とりあえずとはいえ、今日から澪は学園長の秘書だ。頭の中で社長に付き従う秘書をイメージして対応すると、ウケたらしく学園長がご満悦な様子で頷いていた。
仕事が決まったのも、半助や伝蔵のおかげだ。もっと言うときり丸のおかげである。学園長の部屋を退室する際、たまたま目が合った半助に微笑むと何故か目を逸らされた。
ーーやっぱり、男性の方が好きだから女の自分の笑顔は気まずかったりするのかもしれない。半助が男性の方を好むのではという、推測が強くなっていく澪である。
新野と一緒に、六年生達が眠っているという宿舎に向かった。何でも医務室では全員寝転がるには狭いため、異常がないか具合を確認した後は各自の部屋に返したのだとか。
「あそこは、六年い組の生徒達がいる部屋だよ」
「六年い組……確か、立花さんと潮江さんでしたよね」
火薬使いと槍使いの少年の部屋だ。二人して向かい、代表して新野が外から声をかける。様子を伺うと、障子の向こうでは人の動く気配がした。起きているらしい。
「新野だ。お邪魔していいかい?」
「はい、どうぞ」
中から応じる声がした。この声は、多分、潮江の方だろう。
中に入ると、新野と続く澪を見て潮江と立花が目を見開いていた。二人はぎょっとした顔で澪を上から下まで見ている。ちなみに、澪の格好は忍者服のままだ。背格好からして、般若面の正体に二人はすぐ気付いたらしい。
「な、何だと。まさかあの般若面は女子だったのか……!」
「しかも、わたし達と同い年くらいとはな。学園長先生に一杯食わされたらしい」
二人とも顔を見合わせている。元気そうで何よりだ。
「先程は失礼しました。お加減は如何ですか、潮江さん、立花さん」
「問題はありません。その様子だと、貴女はあの勝負に勝たれたのでしょう。お名前を伺っても?」
立花が居住まいを正し丁寧に名を問うて来た。切り替えが早い。潮江の方は女子だったことが相当な衝撃だったらしく、項垂れていた。
「澪と申します。とりあえずは、学園長先生の秘書として採用されましたが、授業の補佐や事務の補助をする事もありますので、見かけましたらよろしくお願いします」
「そうでしたか。ところで、澪さんはお幾つでしょうか」
「立花さんと同じ十五です。ですので、気軽に接してくださいね」
気軽に、と言っても実際は生徒と学園の職員だ。適切な距離は必要である。
立花はにこりと人好きのする笑顔をしており、倒された事に対して何か含む所は無いようだった。
「よければ、わたしの事は仙蔵と呼んでください。それと貴女の体術は素晴らしかった、是非とも、機会があれば教えてください」
「勿論です。では、同い年ですし仙蔵くんとお呼びしても?わたしも忍術には興味があります。宝烙火矢の事、良ければわたしにも教えてくださいね」
「いいですとも。では、わたしも澪さんとお呼びしますね」
中性的な外見のせいもあってか、比較的話しやすい。ぐいぐい来ているのは、純粋に澪に興味があるせいらしかった。好意的で何よりだ。
「えっと、潮江さんもよろしくお願いしますね」
潮江は何やらブツブツ呟いている。仙蔵が、そんな潮江の姿を隠すように立った。
「文次郎は暫くあのままだと思いますので、放っておきましょう。これから他の者にも挨拶に行くんですよね。わたしも同行します。驚いた同級生の顔を見物に行きたいですし」
整った面差しに悪戯っぽい笑みを浮かべる仙蔵に、手を握られる。男性にしては白くてほっそりした指先だが、手の平には豆があるようだった。流石は忍者の卵ーー忍たまである。
「新野先生は医務室にお戻りください。澪さんはわたしが案内しておきますので。怪我をした生徒が尋ねてくるかもしれませんから」
「では、そうしましょうかね。澪さんをお願いします」
新野は仙蔵に澪を預けると戻ってしまった。残された澪の手を離すことはなく、仙蔵が次の部屋へと連れて行ってくれる。
「所で澪さんはどうして学園に。貴女程の人なら、他でも雇いたいという場所がありそうですが」
ーーこれは探りを入れられてるな。
手を握って来たのは、こちらに好意を示すフリをしながら、澪の手を確認することで何者かを知ろうとしているのだろう。
忍者というのは、人好きのする笑顔で相手の懐に入って何気ない会話から情報収集を図る物だ。そんな基本的な事くらいなら、澪は元忍者だった父親から教わっている。
とはいえ、別に澪が来た経緯は隠すほどでもない。
「実は、わたしがこちらで働くことになったのはーー」
澪はこれまでの経緯をあっさり仙蔵に話した。明に再婚相手と渡り、澪を残して母が去った所から余す事なく全て。
話を聞き終えた仙蔵はというと、ふむふむと頷いている。
「大変でしたね、澪さん。色々と苦労されたんですね」
「それ程でもありませんよ。なんやかんや、無事に就職出来ましたし」
丸く収まればそれで良しである。
話し終わった所で、次の部屋に着いた。
「長次、小平太。起きているか?入るぞ」
親しい仲の現れであろう。中の気配から二人が起きているのは明白で、仙蔵が障子を開けて中を覗くと、七松が元気よく出て来た。
「仙蔵っ、お前も気が付いたんだなっ。煙で見えなかったが、見事に般若面から攻撃をくらってたなぁ。まぁ、わたしもだが。あれは参ったぞ。本物の鬼そのものだったな!」
「ーー本人の前で失礼だぞ、小平太」
「ん、本人?」
鬼そのもの、と言われた澪は一ミリも傷付いてはいなかった。怪力を披露する度、その手の評価は嫌と言う程浴びて来たせいである。
七松は澪を視界に入れると、軽く目を開いた。そして澪の格好を見て気付いたらしい。
「何と、般若面の正体は女子だったのか。しかも凄い美人だ。見ろ長次っ、般若は羅刹だったらしい」
「わたしは人は食いません」
羅刹は力が強く人を喰らう悪鬼の事だ。そんな悪い物になった覚えは流石にないため、思わずツッコミを入れる。
「もそ……」
七松の後ろから、中在家が出て来た。何やら小さな声で話している。
「そうか、言い過ぎか長次。すまんな、般若面!」
「澪さんだ、小平太。羅刹だの般若だの、同い年の女子に失礼過ぎるぞ」
七松の悪びれない態度に、仙蔵がやれやれと言った様子で首を振った。いつものことらしい。まぁ、別に澪は怒ってはいないが。
「いいですよ、別に。それより、七松さんに中在家さんも、身体の具合は如何ですか。気分が悪いとかはないですか」
「大丈夫だ!うまく気絶させてくれたから、気持ちよく復活できたぞ。今度、コツを教えてくれ」
にこにこと七松が笑顔で澪を見ている。明るい笑顔は一点の曇りもない。中在家は仏頂面だが、学園長から貰った六年生達の資料で、彼は普段からそうで不機嫌になると逆に笑うと書いてあったので、気にしない事にした。
「気絶させるコツを教えるのは構いませんよ。ですが七松さんは、相手の懐に飛び込む勢いが強過ぎます。反動を利用される事もありますので、相手を気絶させる術を覚えるのは勿論、そうした武術を見越して対策を練るといいかもしれません。先生に相談してみてくださいね」
元気そうで良かった。
ついでに、羅刹と言われた仕返しに、小平太へはアドバイスと言うなの忠告をしておく。年頃の男子にはそれなりのお灸になるだろう。同い年のに澪言われれば、プライドも刺激されて程よくダメージを与えられるに違いない。
澪から仕返しをされた小平太は、ハッとした様子だ。目が覚めたような顔をしている。その表情をちょっと可愛いと思いながら、澪は次の組への訪問も予定しているため、さっさと暇を告げた。
「では、わたしはこれで。こちらで働くことになりますので、お二人とも今後はーー」
「澪さんは、付き合ってる人とかはいないのか?」
よろしくお願いします、と言って立ち去るつもりが、七松からいきなり思わぬ事を質問されて、発言が中途半端になった。
彼氏なんて、いるわけがない。
「いませんが、それが何か?」
「いや、純粋にいいなと思って。今すぐどうこうとは思ってないが、確認だ。ひょっとしたら今後、わたしや他の上級生達が嫁に欲しくなるかもしれないだろう。凄い美人だしな!」
遠慮のえの字もない話に、イヤらしい物はなくむしろ堂々としている分、清々しくすらある。この時代は前世日本より平均寿命が短いため、結婚も早いので澪に目をつけるのはおかしな話ではない。
「澪さんは、わたし達と同い年なのだろう。わたしの事は小平太と気軽に呼んでくれ。長次も、同じように気軽に呼んでいいぞ」
「はぁ、分かりました」
澪の怪力を知って尚、嫁に欲しいと思う男もとい、勇者が本当にいるのか疑問である。
戦国時代のため、女性もそれなりに強かだし現代日本と比べて武闘派だが、それでも男は女を護ってやりたいと思う生き物だ。
か弱そうなのは見た目だけの澪など、同年代の男子達が持て余すのは目に見えているーーリップサービスだな、と澪は結論付けた。何だったら、無邪気さを装って仕返しの仕返しかもしれない。わたし彼氏いません、とゲロさせるための。
そんなわけで、喋る小平太が少し照れ臭そうにしている事はガン無視の澪である。
珍しい物を見た仙蔵と長次が顔を見合わせているのも気が付いていなかった。
「またな、澪さん!」
「もそ……」
挨拶もそこそこに、最後の部屋に仙蔵と一緒に向かう。最後は六年は組、食満と善法寺の部屋だ。
だが、今度は仙蔵が声をかけて中に入る前に、部屋から二人が出てくる所に居合わせた。
「あれ、仙蔵も起きてたのかい?」
「まぁな。顔色は悪くないな。安心したぞ伊作」
二人は同級生の顔を見て、ほっとした様子になるのも束の間、その隣に立つ忍者装束姿の澪を見て時を止めた。
そして善法寺は目を見張り、食満の方は完全に真っ白になっている。どうやら潮江と同じくショックを受けたらしかった。
「留三郎、そのまま落ち込むと文次郎の二の舞になるぞ」
「ーーっ、は!」
食満が無理矢理立ち直ったようだった。そのまま、食満がマジマジと上から下まで澪を見つめる。六年生は仙蔵といい容姿の整った少年が多いな、と澪は思った。
凛々しい顔の食満は、あと数年もすれば娘達からモテモテになりそうである。善法寺も優しそうな顔をしていて、もっと大きくなれば半助のようになることだろう。
「……わたしは食満留三郎と言います。貴女のお名前を伺っても」
「澪と申します。食満さん、善法寺さんも先ほどは失礼しました。お身体の具合はどうですか?」
引き攣った顔でありながらも、食満は澪に話しかけた。潮江が落ち込んでいたという話を聞いたせいか、己を奮い立たせているようにも見える。
「ぼく達の様子を見に来てくれたんですね。ありがとうございます。ぼくは善法寺伊作と言います。そして、おめでとうございます澪さん。勝負に勝たれたんですよね。忍術学園では、どんな職に就かれるんですか?」
人懐こい笑顔で善法寺にも話しかけられた。なので、他に説明したのと同じように学園長の秘書になった事等を伝えて挨拶を済ませた。
「良かったら、これから僕たちと一緒に食堂に行きませんか。小腹が空いたので、何か食べに行こうかと思いまして」
「有難い話ですが、学園長先生の許へ一旦戻ります。また今度、ご一緒させてください善法寺さん」
六年生全員の回復がこの目で確認できたなら、それで良しだ。手加減はしたが、実際はそれなりの怪我をさせていないか心配だった澪である。
「では、わたしが学園長の所まで送りましょう澪さん。二人とも、またな」
「ああ、またな」
「またね、仙蔵。澪さんも、今度は食堂にご一緒しましょうね」
食満と善法寺と別れ、澪は仙蔵と来た道を戻る。道中、目に入る施設を簡単に紹介してもらいながら、仙蔵と二人で話をした。
「澪さんは、先ほど小平太に指摘をしていたが、わたしに関する事で何かあったりしますか。もし気づいた事があるのなら、遠慮せずに教えてほしいのですが」
「うーん、仙蔵くんに指摘と言っても。小平太くんへの発言は、羅刹って言われたから、ちょっと仕返ししたかっただけだし」
大体、仙蔵がした事は火薬を投げていたくらいで、小平太のようにやり合ってないのでアドバイスなんて出来ない。とはいえ、仙蔵の顔は大真面目だ。
少し悩みつつ、澪は好意的な返事を返した。
「あの、良かったら近い内にわたしと体術の稽古をしませんか?先ほど、機会があれば教えてほしいと仙蔵くん言ってましたし。わたしの技術は免許皆伝した物とかではないので、あんまり期待しないでもらえると嬉しいですが。その時、仙蔵くんの改善点があればお話しする、というのはどうですか」
澪の返答に、仙蔵は一瞬だけキョトンとしたものの、少しして嬉しそうに頷いた。
秀麗な面差しが、年相応のあどけない雰囲気が微かに残る笑みを浮かべる。
「それは有難い。よろしく頼みます。教えられる時間が出来たら、声をかけてくださいね」
ーー可愛い顔をするじゃないか。
この時代の十代は、澪の前世と比べれば早熟で大人っぽいが顔立ちやらは世界が変わっても同じだ。素直な反応に澪も嬉しくなって、微笑み返す。
「澪さん、ようこそ忍術学園へ。歓迎しますよ」
どうやら、澪は仙蔵に少しは気を許されたらしい。先ほどとは違い探るためではなく、友好の握手なのか豆が出来た白い仙蔵の手が差し出された。
「仙蔵くん、有難う。こちらこそよろしくお願いしますね」
忍術学園での滑り出しは上手くいきそうだ。仙蔵の手を握り返しながら、澪は内心でほっと一安心するのだった。
澪の頭の中では、「祝、忍術学園就職!」の横断幕が上がりパレードのような華やかな音楽が流れていた。
じわじわと込み上げて来る喜びに浸っている澪であるが、そう長くできる事でもない。
「澪ちゃんは、わしの専属秘書じゃ!譲らんからのっ」
口角泡を飛ばす勢いで学園長が声を上げている。
ここは、学園長の部屋だ。その学園長を前に教師陣や事務員達が陣取っている。
今、澪の採用を決めたところで所属をどうするのかという議論の真っ最中であった。
「澪さんは事務員として、うちにください。小松田くんの毎日毎日やらかすミスをフォローする貴重な人員として配置を要求します!」
「何を勿体無い事を言ってるんですか、吉野先生。澪くんは我々教師陣の補佐に回ってもらうんです。あの運動能力そして戦闘能力は非凡です。一年は組に必須の助っ人です!」
「まずいのは一年は組だけじゃないですか」
「そっちだってまずいのは小松田くんだけじゃないですか」
やいのやいのと、言い合いが続く。ちなみに声を発しているのは、事務職員の吉野作造と一年は組実技担当の伝蔵である。
澪は出されたお茶を啜って、ぷはーと息を吐いた。
「大人気ね、澪さん」
そんな澪にお茶を注ぎ足してくれるのは、美しい女性だった。教師陣の紅一点、山本シナである。
ちなみに、教師達からの自己紹介は話し合いの最初に済ませた。数が多い中、唯一の女性であるシナは直ぐに名前と顔が一致した。
「そんなに人材がいないんですか。ここは」
「そんなことないわ。こうなってるのは、澪さんが優秀だからよ。わたしも興奮しちゃったわ。上級生を瞬く間にやっつけちゃうんだもの。是非、くのたま達にも色々と教えてあげてほしいわ」
和やかな女同士のやり取りの横で、言い合いがヒートアップしている。そのうち、掴み合いになるかもしれない物の、当事者の澪は我関せずの姿勢である。
「ここは澪さんの意見を伺うのはどうでしょうか。本人の希望に沿ってみては?」
一年い組の教科担当、安藤夏之丞がにこりと笑って澪に矛先を向けて来た。てかっと光るやや油っぽい顔が特徴的な男性だ。
「我が一年い組は、は組と違って優秀ですので澪さんの手助けは不要です。ですから、早く決めてください。これから、わたしの優秀な生徒達のために授業の準備をしなくてはなりませんからね」
サラッと嫌味をかます安藤に、隣に座っていた半助かカチンときた顔をしている。どうやら、いつもの事らしく周りの教師達はスルーしていた。
ぶっちゃけ、給与が貰えるなら何でもいい澪である。
「手当が変わらないのであれば、何でも結構です」
まるで、きり丸のような回答に教師達数名の顔が引き攣った。仕方ないではないか、先立つ物は銭である。
「わしの秘書になってくれるなら、特別手当を出すぞ!わしの特製ブロマイドを好きなだけ贈呈しよう」
「結構です」
お給金を追加してくれないなら、秘書も事務も教師補助も同じだ。
澪の反応にシナが苦笑いした。
「では、こういうのはどう澪さん。当面の間は学園長先生の秘書をしながら、合間を見て授業の補助や事務員としても働くというのは。何か興味のあるお仕事ができたら、学園長のお許しを得て、そちらにいつでも変われるという風にすれば良いと思うの。澪さんに補助をお願いする場合は、事前に相談ということにすれば揉めないと思うのだけど」
シナの提案は、この場の全員がひとまず納得できそうな物だった。澪に否は無い。
「了解しました」
「わたしには余り畏まらなくていいからね。澪さんは同じ女同士なんだし。それにこれから、同じくのたまの宿舎に寝泊まりしてもらうのだから。気楽に接してくれると嬉しいわ。それと、早速なんだけど明日にでも、くのたま達に挨拶がてら、何か武術を教えてもらえないかしら」
さらっと早速予定を取り付けられる澪である。学園長を見ると、澪がとりあえず秘書におさまったことで納得しているのか、特に文句もなさそうである。
「わたしの武術は免許皆伝とかを受けている代物ではありませんが、それでよければ喜んで」
頷くと、そんな澪に伝蔵が「では次は、一年は組の補佐を!」と声を発した。負けじと吉野からは「その次は事務室にっ」と声がかかる。
「ひとまずはこの場に学園長先生もおられるので、今週の予定を立てます。来週以降については、またご相談に乗るということでお願いできますか。教えるにしても、わたしが忍術学園での授業を知ってからの方がうまくできると思いますし。わたし自身の学習と並行して、どうせなら生徒達に教えていきたいです。どうでしょうか?」
澪がてきぱきと話しをすると、漸く落ち着いた。今日は採用が来まったばかりのため、半助の長屋からの荷物の移動や学園内の施設の把握だってしたい。安藤とはまた違う理由で、話し合いを終わらせたい澪だった。
「澪さん。もしよければ、わたしと一緒に六年生達の様子を見に行ってもらえませんか。大した外傷もなかったですし、今頃は起きていると思うんです」
白い忍者服を纏った校医の新野洋一からの申し出に、澪はハッとする。すっかり忘れていたが、昏倒させてしまった六年生達のお見舞いは必須だ。でなければ申し訳なさ過ぎる。
「勿論です、ご一緒させてください。学園長先生、新野先生と一旦、失礼させてもらってよろしいでしょうか」
「勿論じゃ。六年生達を驚かせてくるといい、きっと澪ちゃんを見たらびっくりするぞ」
「ありがとうございます」
とりあえずとはいえ、今日から澪は学園長の秘書だ。頭の中で社長に付き従う秘書をイメージして対応すると、ウケたらしく学園長がご満悦な様子で頷いていた。
仕事が決まったのも、半助や伝蔵のおかげだ。もっと言うときり丸のおかげである。学園長の部屋を退室する際、たまたま目が合った半助に微笑むと何故か目を逸らされた。
ーーやっぱり、男性の方が好きだから女の自分の笑顔は気まずかったりするのかもしれない。半助が男性の方を好むのではという、推測が強くなっていく澪である。
新野と一緒に、六年生達が眠っているという宿舎に向かった。何でも医務室では全員寝転がるには狭いため、異常がないか具合を確認した後は各自の部屋に返したのだとか。
「あそこは、六年い組の生徒達がいる部屋だよ」
「六年い組……確か、立花さんと潮江さんでしたよね」
火薬使いと槍使いの少年の部屋だ。二人して向かい、代表して新野が外から声をかける。様子を伺うと、障子の向こうでは人の動く気配がした。起きているらしい。
「新野だ。お邪魔していいかい?」
「はい、どうぞ」
中から応じる声がした。この声は、多分、潮江の方だろう。
中に入ると、新野と続く澪を見て潮江と立花が目を見開いていた。二人はぎょっとした顔で澪を上から下まで見ている。ちなみに、澪の格好は忍者服のままだ。背格好からして、般若面の正体に二人はすぐ気付いたらしい。
「な、何だと。まさかあの般若面は女子だったのか……!」
「しかも、わたし達と同い年くらいとはな。学園長先生に一杯食わされたらしい」
二人とも顔を見合わせている。元気そうで何よりだ。
「先程は失礼しました。お加減は如何ですか、潮江さん、立花さん」
「問題はありません。その様子だと、貴女はあの勝負に勝たれたのでしょう。お名前を伺っても?」
立花が居住まいを正し丁寧に名を問うて来た。切り替えが早い。潮江の方は女子だったことが相当な衝撃だったらしく、項垂れていた。
「澪と申します。とりあえずは、学園長先生の秘書として採用されましたが、授業の補佐や事務の補助をする事もありますので、見かけましたらよろしくお願いします」
「そうでしたか。ところで、澪さんはお幾つでしょうか」
「立花さんと同じ十五です。ですので、気軽に接してくださいね」
気軽に、と言っても実際は生徒と学園の職員だ。適切な距離は必要である。
立花はにこりと人好きのする笑顔をしており、倒された事に対して何か含む所は無いようだった。
「よければ、わたしの事は仙蔵と呼んでください。それと貴女の体術は素晴らしかった、是非とも、機会があれば教えてください」
「勿論です。では、同い年ですし仙蔵くんとお呼びしても?わたしも忍術には興味があります。宝烙火矢の事、良ければわたしにも教えてくださいね」
「いいですとも。では、わたしも澪さんとお呼びしますね」
中性的な外見のせいもあってか、比較的話しやすい。ぐいぐい来ているのは、純粋に澪に興味があるせいらしかった。好意的で何よりだ。
「えっと、潮江さんもよろしくお願いしますね」
潮江は何やらブツブツ呟いている。仙蔵が、そんな潮江の姿を隠すように立った。
「文次郎は暫くあのままだと思いますので、放っておきましょう。これから他の者にも挨拶に行くんですよね。わたしも同行します。驚いた同級生の顔を見物に行きたいですし」
整った面差しに悪戯っぽい笑みを浮かべる仙蔵に、手を握られる。男性にしては白くてほっそりした指先だが、手の平には豆があるようだった。流石は忍者の卵ーー忍たまである。
「新野先生は医務室にお戻りください。澪さんはわたしが案内しておきますので。怪我をした生徒が尋ねてくるかもしれませんから」
「では、そうしましょうかね。澪さんをお願いします」
新野は仙蔵に澪を預けると戻ってしまった。残された澪の手を離すことはなく、仙蔵が次の部屋へと連れて行ってくれる。
「所で澪さんはどうして学園に。貴女程の人なら、他でも雇いたいという場所がありそうですが」
ーーこれは探りを入れられてるな。
手を握って来たのは、こちらに好意を示すフリをしながら、澪の手を確認することで何者かを知ろうとしているのだろう。
忍者というのは、人好きのする笑顔で相手の懐に入って何気ない会話から情報収集を図る物だ。そんな基本的な事くらいなら、澪は元忍者だった父親から教わっている。
とはいえ、別に澪が来た経緯は隠すほどでもない。
「実は、わたしがこちらで働くことになったのはーー」
澪はこれまでの経緯をあっさり仙蔵に話した。明に再婚相手と渡り、澪を残して母が去った所から余す事なく全て。
話を聞き終えた仙蔵はというと、ふむふむと頷いている。
「大変でしたね、澪さん。色々と苦労されたんですね」
「それ程でもありませんよ。なんやかんや、無事に就職出来ましたし」
丸く収まればそれで良しである。
話し終わった所で、次の部屋に着いた。
「長次、小平太。起きているか?入るぞ」
親しい仲の現れであろう。中の気配から二人が起きているのは明白で、仙蔵が障子を開けて中を覗くと、七松が元気よく出て来た。
「仙蔵っ、お前も気が付いたんだなっ。煙で見えなかったが、見事に般若面から攻撃をくらってたなぁ。まぁ、わたしもだが。あれは参ったぞ。本物の鬼そのものだったな!」
「ーー本人の前で失礼だぞ、小平太」
「ん、本人?」
鬼そのもの、と言われた澪は一ミリも傷付いてはいなかった。怪力を披露する度、その手の評価は嫌と言う程浴びて来たせいである。
七松は澪を視界に入れると、軽く目を開いた。そして澪の格好を見て気付いたらしい。
「何と、般若面の正体は女子だったのか。しかも凄い美人だ。見ろ長次っ、般若は羅刹だったらしい」
「わたしは人は食いません」
羅刹は力が強く人を喰らう悪鬼の事だ。そんな悪い物になった覚えは流石にないため、思わずツッコミを入れる。
「もそ……」
七松の後ろから、中在家が出て来た。何やら小さな声で話している。
「そうか、言い過ぎか長次。すまんな、般若面!」
「澪さんだ、小平太。羅刹だの般若だの、同い年の女子に失礼過ぎるぞ」
七松の悪びれない態度に、仙蔵がやれやれと言った様子で首を振った。いつものことらしい。まぁ、別に澪は怒ってはいないが。
「いいですよ、別に。それより、七松さんに中在家さんも、身体の具合は如何ですか。気分が悪いとかはないですか」
「大丈夫だ!うまく気絶させてくれたから、気持ちよく復活できたぞ。今度、コツを教えてくれ」
にこにこと七松が笑顔で澪を見ている。明るい笑顔は一点の曇りもない。中在家は仏頂面だが、学園長から貰った六年生達の資料で、彼は普段からそうで不機嫌になると逆に笑うと書いてあったので、気にしない事にした。
「気絶させるコツを教えるのは構いませんよ。ですが七松さんは、相手の懐に飛び込む勢いが強過ぎます。反動を利用される事もありますので、相手を気絶させる術を覚えるのは勿論、そうした武術を見越して対策を練るといいかもしれません。先生に相談してみてくださいね」
元気そうで良かった。
ついでに、羅刹と言われた仕返しに、小平太へはアドバイスと言うなの忠告をしておく。年頃の男子にはそれなりのお灸になるだろう。同い年のに澪言われれば、プライドも刺激されて程よくダメージを与えられるに違いない。
澪から仕返しをされた小平太は、ハッとした様子だ。目が覚めたような顔をしている。その表情をちょっと可愛いと思いながら、澪は次の組への訪問も予定しているため、さっさと暇を告げた。
「では、わたしはこれで。こちらで働くことになりますので、お二人とも今後はーー」
「澪さんは、付き合ってる人とかはいないのか?」
よろしくお願いします、と言って立ち去るつもりが、七松からいきなり思わぬ事を質問されて、発言が中途半端になった。
彼氏なんて、いるわけがない。
「いませんが、それが何か?」
「いや、純粋にいいなと思って。今すぐどうこうとは思ってないが、確認だ。ひょっとしたら今後、わたしや他の上級生達が嫁に欲しくなるかもしれないだろう。凄い美人だしな!」
遠慮のえの字もない話に、イヤらしい物はなくむしろ堂々としている分、清々しくすらある。この時代は前世日本より平均寿命が短いため、結婚も早いので澪に目をつけるのはおかしな話ではない。
「澪さんは、わたし達と同い年なのだろう。わたしの事は小平太と気軽に呼んでくれ。長次も、同じように気軽に呼んでいいぞ」
「はぁ、分かりました」
澪の怪力を知って尚、嫁に欲しいと思う男もとい、勇者が本当にいるのか疑問である。
戦国時代のため、女性もそれなりに強かだし現代日本と比べて武闘派だが、それでも男は女を護ってやりたいと思う生き物だ。
か弱そうなのは見た目だけの澪など、同年代の男子達が持て余すのは目に見えているーーリップサービスだな、と澪は結論付けた。何だったら、無邪気さを装って仕返しの仕返しかもしれない。わたし彼氏いません、とゲロさせるための。
そんなわけで、喋る小平太が少し照れ臭そうにしている事はガン無視の澪である。
珍しい物を見た仙蔵と長次が顔を見合わせているのも気が付いていなかった。
「またな、澪さん!」
「もそ……」
挨拶もそこそこに、最後の部屋に仙蔵と一緒に向かう。最後は六年は組、食満と善法寺の部屋だ。
だが、今度は仙蔵が声をかけて中に入る前に、部屋から二人が出てくる所に居合わせた。
「あれ、仙蔵も起きてたのかい?」
「まぁな。顔色は悪くないな。安心したぞ伊作」
二人は同級生の顔を見て、ほっとした様子になるのも束の間、その隣に立つ忍者装束姿の澪を見て時を止めた。
そして善法寺は目を見張り、食満の方は完全に真っ白になっている。どうやら潮江と同じくショックを受けたらしかった。
「留三郎、そのまま落ち込むと文次郎の二の舞になるぞ」
「ーーっ、は!」
食満が無理矢理立ち直ったようだった。そのまま、食満がマジマジと上から下まで澪を見つめる。六年生は仙蔵といい容姿の整った少年が多いな、と澪は思った。
凛々しい顔の食満は、あと数年もすれば娘達からモテモテになりそうである。善法寺も優しそうな顔をしていて、もっと大きくなれば半助のようになることだろう。
「……わたしは食満留三郎と言います。貴女のお名前を伺っても」
「澪と申します。食満さん、善法寺さんも先ほどは失礼しました。お身体の具合はどうですか?」
引き攣った顔でありながらも、食満は澪に話しかけた。潮江が落ち込んでいたという話を聞いたせいか、己を奮い立たせているようにも見える。
「ぼく達の様子を見に来てくれたんですね。ありがとうございます。ぼくは善法寺伊作と言います。そして、おめでとうございます澪さん。勝負に勝たれたんですよね。忍術学園では、どんな職に就かれるんですか?」
人懐こい笑顔で善法寺にも話しかけられた。なので、他に説明したのと同じように学園長の秘書になった事等を伝えて挨拶を済ませた。
「良かったら、これから僕たちと一緒に食堂に行きませんか。小腹が空いたので、何か食べに行こうかと思いまして」
「有難い話ですが、学園長先生の許へ一旦戻ります。また今度、ご一緒させてください善法寺さん」
六年生全員の回復がこの目で確認できたなら、それで良しだ。手加減はしたが、実際はそれなりの怪我をさせていないか心配だった澪である。
「では、わたしが学園長の所まで送りましょう澪さん。二人とも、またな」
「ああ、またな」
「またね、仙蔵。澪さんも、今度は食堂にご一緒しましょうね」
食満と善法寺と別れ、澪は仙蔵と来た道を戻る。道中、目に入る施設を簡単に紹介してもらいながら、仙蔵と二人で話をした。
「澪さんは、先ほど小平太に指摘をしていたが、わたしに関する事で何かあったりしますか。もし気づいた事があるのなら、遠慮せずに教えてほしいのですが」
「うーん、仙蔵くんに指摘と言っても。小平太くんへの発言は、羅刹って言われたから、ちょっと仕返ししたかっただけだし」
大体、仙蔵がした事は火薬を投げていたくらいで、小平太のようにやり合ってないのでアドバイスなんて出来ない。とはいえ、仙蔵の顔は大真面目だ。
少し悩みつつ、澪は好意的な返事を返した。
「あの、良かったら近い内にわたしと体術の稽古をしませんか?先ほど、機会があれば教えてほしいと仙蔵くん言ってましたし。わたしの技術は免許皆伝した物とかではないので、あんまり期待しないでもらえると嬉しいですが。その時、仙蔵くんの改善点があればお話しする、というのはどうですか」
澪の返答に、仙蔵は一瞬だけキョトンとしたものの、少しして嬉しそうに頷いた。
秀麗な面差しが、年相応のあどけない雰囲気が微かに残る笑みを浮かべる。
「それは有難い。よろしく頼みます。教えられる時間が出来たら、声をかけてくださいね」
ーー可愛い顔をするじゃないか。
この時代の十代は、澪の前世と比べれば早熟で大人っぽいが顔立ちやらは世界が変わっても同じだ。素直な反応に澪も嬉しくなって、微笑み返す。
「澪さん、ようこそ忍術学園へ。歓迎しますよ」
どうやら、澪は仙蔵に少しは気を許されたらしい。先ほどとは違い探るためではなく、友好の握手なのか豆が出来た白い仙蔵の手が差し出された。
「仙蔵くん、有難う。こちらこそよろしくお願いしますね」
忍術学園での滑り出しは上手くいきそうだ。仙蔵の手を握り返しながら、澪は内心でほっと一安心するのだった。
