第10話 ドッキリドキドキ大作戦
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色白の顔に、切れ長の瞳、サラサラとした髪。まるで、役者にでもなれそうな美男子の名は、六年い組は立花仙蔵その人である。
その仙蔵が彼の級友である潮江文次郎を伴って、澪を呼び出したのは伝蔵と一年は組の教室で皆の前で話した二日後の午後の事であった。
「ーー先日の件で、改めて澪さんと話がしたい。ついては、今からわたし達と作法委員会の部室まで来てくれるか。今日の委員会の活動は休みだから、部屋が空いているんだ」
真面目な顔で請われては、もとより断るつもりがないとはいえ、首を横に振るのは難しい。澪は了承して、指定された通り作法委員会の部屋を尋ねた。すると、そこには残りの六年生達が勢揃いしていた。
「えっ、何で皆さんまでいるんですか?」
「一年は組で澪さんと山田先生の話していた事を教えたら、こいつらも興味があるとかで。色々と聞いてみたいんだとか」
文次郎が教えてくれたが、ギャラリーが増えた事に首を傾げてしまいそうになる。とはいえ、ここまで来てしまっている以上、踵を返すわけにもいかず、大人しく用意された円坐の上に座る。
これは、ひょっとしたら長い話になるからかもしれない。板張りの上に座っては長く話せないと、円坐を用意されたのだろうと悟る澪である。
ふと見ると、人数分のお茶まであった。長次が静かに用意している。
「さて、早速だが昨日の話の件だ。宗教に関する話題だったが、わたしも文次郎も政教分離というのが気になった。それと、できれば澪さんの考える天下を制す……強い大名の資質について、話を聞きたい」
「……いいですけど、あくまでわたし一個人の考えですからね。その点をご了承ください」
「無論だ」
仙蔵が頷く。彼のサラサラの髪が揺れた。
「オレ達はその場に居なかったが、簡単に仙蔵達からどういう話をしたのかは聞いている。途中、オレ達も聞きたいことがあったら質問させてもらうぞ。とはいえ、楽にしてくれ」
「そんなに構えないで。ぼくらとの話は、雑談だと思ってくれたらいいから」
留三郎と伊作がそう言って、気持ちを軽くさせようとしてくる。
「……お茶、どうぞ。宜しく頼む」
「澪さんの話、わたしも仙蔵達から軽く聞いたが、色々と合理的だと思ったぞ。楽しみだ!」
「あはは、ありがとうございます」
長次からお茶を受け取りつつ、小平太からの期待に愛想笑いを返す。長次が淹れてくれたお茶は、温かい焙じ茶だった。
「そしたら、えっと政教分離についてですが……言葉通り、政と宗教を分ける事を言います。政治は原則として宗教を弾圧や反対に擁護もせず、宗教も政治に関わろうとしないと言うことです。それで、どんな事が聞きたいので?」
「政教分離の利点の説明が具体的にほしい。何故、それをする必要があるのかも詳しく頼みたい」
そう言えば、政教分離についてはサラッと話しただけで終わったのを思い出す。なので、ゆっくりとなるべく噛み砕いて仙蔵達に話した。
「政教分離の利点は幾つかあります。信仰の自由が保障される事や、宗教の拘束を受けない分だけ、あらゆる分野において発展が見込める事とかですかね。ただし、後者については合理性や探究心の追求は突き詰めると倫理を欠く可能性が高いので、何処かで非人道な事があった場合に備え、咎める仕組みは必須かと思いますが」
「……少々、抽象的で分かりづらい。具体例を頼む」
「あ、すみません」
後の歴史を知るので総括した内容になってしまった。仙蔵に指摘され、かえって分かりづらい話になってしまったのを反省しつつ、具体例を挙げる。
「一つ目に言った信仰の自由が保障される事ですが、そもそも、人間の心は自由なはずです。誰からも思想や考えを強要されるべきではないし、仮に強要されれば不満と争いの種になります。政教分離ができていないと、例えば領主が南蛮の宗教に帰依し擁護が過ぎれば、領内の寺社仏閣を潰して領民や家来にまで改宗を迫るでしょう。実際、九州ではそうした事をしている大名が居ます。権力者に取り入り、宗教が政に関われば、他の教えを排斥したり、差別が行われるのは必定と言っていい。それでは、例え千年後でも争いはなくならないでしょう。政の混乱は世に戦乱を招く事に繋がりやすい。ならば、その要素は廃すべきです」
「合理的だな」
納得したらしい。ふむふむと、文次郎が頷いていた。
「あらゆる分野において発展が見込まれる事については、宗教的拘束が排されれば、真理の探究が容易になると言いますか」
具体的には、カトリックの教えを否定する代表格として地動説や進化論等があるが、これは流石に口にできない。何せ、もう少し先の時代で議論される内容なのだし。
それに、日ノ本の場合はキリスト教やイスラム教に比べれば、宗教的拘束は宗派によるが必ずしも強いとは言えない。
「つまり、例えば宗教的には許されない研究なんかができるってこと?」
「そうそう、そんな感じです伊作くん。芸術分野とかもですよ。表現の幅が広がりますから。ですけど、何でもかんでも自由にやり過ぎると、目に余るから何処かで統制がいるということです。例えば、どんな副作用があるかも分からない薬の有効性を調べるために、危ない人体実験を老若男女問わず大勢にする、とかね。貧しい人にお金を積めばできたりしちゃいますから。でも、できるからってやっていい事と悪い事の線引きはいるって事です」
「理解したよ。それが、倫理を欠くって事なんだね」
良かった、納得してくれた。伊作の微笑みにホッとする。
「政教分離の話はこんな所でどうでしょうか。何か分からない事はありますか?」
「わたしは大丈夫だぞ。必要な理由が分かった!澪さんの言うように、宗教と政治を分けなくては面倒な事になる。いかに大名と言えど、人の気持ちまでは扱えん」
「その通りです、小平太くん」
要点を押さえた回答に、澪は頷いた。
「オレは、澪さんが何でそんな事を思いつくのか不思議でならん。普通はそんな事、考えもしないだろうに」
「たまたまですよ。それに最初に言ったはずです。わたしの個人的な考えである、と。わたしの話に合理性があっても、本当にそれが正解かどうかは誰にも分からないでしょう。それこそ、わたしが国を治める大名でない以上、所詮は卓上の議論に過ぎません。答えは誰にも分かりませんよ」
留三郎のツッコミに煙に巻くような言い方をするが、澪は良く似た世界の歴史の答えを知っている。
だから、妙に説得力があるせいで凄い発想をしているように思われるのだ。
「それに、政教分離は欠点もあります。宗教というのは、人の思想を一つに纏めるのに有効です。国教があるなら、政教分離は国民の団結を保てない一因になりますから。とはいえ、日ノ本の場合、宗教は数多の宗派に別れていますから、その欠点はあまり問題になりませんけど」
「そのような話を聞くと、有難いはずの仏の教えが味気なく感じるな」
仙蔵の感想の通り、澪の話は宗教を道具として見ている。有難みも失せるというものだろう。宗教に対して冷めた見方が出来るのは、根っこが現代日本人のせいである。
「じゃあ、次の話だが……澪さんが考える、強い大名について教えてほしい。過日、一向一揆を抑えるには悪名を畏れぬ胆力のある大名が必要と言っていたが、例えば天下を制すとなると、どうなのだ。わたし達もいずれは、どこぞの城で雇われて働くことになる可能性が高い。澪さんの意見を参考にしたい」
「六年生の皆さんは、卒業したら就職ですもんね。わかりました」
澪の知る世界の史実では、忍者の学校なんてなかったし、忍者が就活するなんて思いもよらなかった。利吉のようなフリーの忍者もいるし、この世界の忍者界隈は妙に現代的である。
仙蔵の一言は尤もだ。
働くにしても命懸けになる以上は、単に職場環境だけでなく先行きに見込みがある大名の方が仕え甲斐があるというもの。澪の意見を就職先を考える上での参考にしたいというなら、断るような話ではない。
「そうですねぇ……もしも、天下を制すなら、まずは富強である事は必須。そして資質という点では敵に対してはとことんまで冷たくなれて、味方には気遣いができるようなお方ですかね。頼もしい大将ならついて行きたいと思うでしょうから。後は、傲慢でない事、合理的である事、気配りができる事、後継者に恵まれている事、健康である事。まぁ、列挙するとキリがなくなりますから、この辺で。これら全ての条件に当てはまる必要はないですけど、一つでも多く当てはまれば、天下を狙っていい勝負ができるんではないですかね」
理想の君主の条件をこれだけ好きに言えるのは、澪が君主ではなく一般人だからだ。求められる物を聞いたら、世の大名の大半は逆ギレしてもおかしくはない。知りもしないで、好き勝手言っていると怒られても文句は言えない。
「うわぁ、厳しいなぁ」
「もそっ……しかし、天下を狙うとなると、頷ける物ばかりだ」
小平太が、太い眉を寄せて悩ましい顔になる傍らで、長次が頷きながらも茶を啜る。
「澪さんが男で、大名なら安心して仕えられたんだがな」
ふと、文次郎がしみじみとそんな事を言うものだから、澪はまさに口にした茶を吹き出しそうになった。
「それはちょっと分かるかも。澪さんが天下を目指すお殿様だったら、就職先候補第一だよね!」
「伊作……なんか、目が輝いてないか?」
確かに伊作の目がキラキラしてるような気がする。留三郎は、そんな級友をどこか呆れた様子で見ていた。
「わたしは、澪さんは今のままの方がいい。大名だったら、こうしてわたし達と話なんて出来ないのだし」
「もそ。わたしも、そう思う……」
「ふふっ、ありがとうございます」
小平太と長次の言葉に、澪は少しばかり照れくさい気持ちになりつつも、嬉しくなって笑った。
「ありがとう、澪さん。色々と勉強になった。また今度、こういった機会があればよろしく頼む」
「少しでもお役に立てたのなら、何よりです」
ホッと一息着く気持ちで、澪はお茶を飲み干した。
「澪さんって、本当に色々と物知りと言うか、着眼点が普通じゃないって言うか。凄いよねぇ……忍術学園に来てくれて、感謝しかないよ」
「だな。忍術学園に好意的でない城に居たらと思うと、怖いったらないぜ。味方で良かった」
しみじみ言う伊作と留三郎。他の面々とウンウンと頷いている。少々大袈裟である。
真面目な話を終えて、リラックスモードに入ったらしく、六年生達とお茶を飲みながら、雑談モードに移行した。
すると、伊作が澪の様子を伺いながら、じーっと見ていた。可愛らしく優し気な雰囲気の伊作が纏う空気は、六年生の中でもとりわけ柔らかい。澪が目が合った伊作に笑いかけると、それを合図にするかのように伊作が口を開く。
「あの、澪さん。前に見せてもらったやり方で香料を取って、ぼくも軟膏を作ってみたいと思うんだけど、もし良かったら道具を貸してくれないかな。それと、作業を見てくれる?弟子入りしたいって言って断られたけど、どうしても自分でも作ってみたくて。秘匿するし、売ったりしないって誓うから。お願いっ……!」
そう言えば、伊作が以前に乱太郎と一緒になって澪が香料を取るのを見ていた事を思い出す。あの時は半助も一緒だった。
伊作は保健委員の委員長というのもあってか、調合等に関心が高いようだ。勉強熱心な事だ。あの時は弟子入りがどうのと言っていたのを断った。
ーーが、うるうると縋るような目で伊作からじっと見られると、断りにくい。あの時は夜だったのもあって、表情がこうもはっきり見えなかったし、乱太郎の次に乗っかるように願い出ていた事もあって、しれっと断れたのだが。
弟子を取るつもりがないのは変わらずだ。
伊作の頼みは、弟子にしているのと変わりがない。
とはいえ、伊作なら彼の言葉に責任を持ち、ちゃんとレシピの秘匿もするし、売り物にもしないだろうとも思う。
少し悩んだが、ややあって、澪は苦笑いしつつも頷いた。
「……道具を貸すのも、作業を見るのもいいんですよ。でも、それはわたしと伊作くんとだけでやりましょう。他の人は立ち入り禁止です。とはいえ、その日は予定がありまして。また後日で」
「勿論だよ、ありがとう澪さん!ところで、今週末に予定があるって事は、ひょっとして、どこかへ出かけるの?」
「あ、はい。五年生の皆さんと遊びに行く予定がありまして」
勘右衛門達との事を素直に答えると、六年生一同が何故か固まった。特に大袈裟なのは小平太で、真ん丸な目をカッと見開いている。
「……わたし達を差し置いて、五年生達と遊びに行く、だと」
小平太がプルプルしている。
「もそっ、遠慮をして声をかけなかったのが失敗だったか」
ポツリと長次が呟く。
「っ、澪さん!ぼく達とも出かけて遊びましょうっ」
「皆さんの邪魔にならないなら、勿論」
「邪魔になんてならないさ。オレ達としては、五年生に先を越されたのが、微妙なだけで」
伊作から詰め寄られるように言われ、文次郎はちょっと拗ねたような顔をしている。これは、ひょっとしてヤキモチか。
最上級生と言えども、年齢は十五歳だ。澪の元いた世界では中学三年生である。この世界の十五歳は半ば大人扱いをされているとはいえ、澪からすればまだまだ少年である。
半助ですら、歳下の可愛い男に見える澪は、更に若い六年生は可愛らしい男の子にしか見えなかった。
「でしたら、その次のお休みに一緒に遊びに行きましょう。予定が合えば、お願いしますね。それと伊作くんの調合は休みと言わず、伊作くんの時間が作れそうなら放課後とかにでも、お付き合いしましょうか」
「ありがとう、澪さん!」
ーー顔の表情筋が緩みっぱなしになってやしないか。
そんな事を思いながら、週末の予定が埋まっていく澪だった。
+++++
ーーそして、いざ週末がやって来た。
本日の天気は、薄雲があるものの雨は降っていない。早く梅雨が明けて欲しい物である。この時代、傘はあるにはあるが高級品である。雨避けのための傘が庶民にも広まるのは、江戸時代以降の事だ。
そのため、雨避けの道具は笠や簑になる。とてもでないが、快適に雨を凌げるとは言い難い。安価で入手できた、カラフルな女性物の傘やお洒落なレインブーツ、可愛らしいレインコートが恋しい澪である。
とは言え、本日の澪にそうした道具は不要である。なんと言っても、今日の澪は男装姿であるのだから。
「澪ちゃーん!お待たせっ!!」
「か、勘ちゃん。シーっ!ちょっと声大きいっ。ここ、門出てすぐの所だからっ!」
早くに門の外で待っていた澪を見つけてやって来たのは、勘右衛門だった。同室の兵助はまだのようだ。
「だってさー、今日は邪魔が入らなかったら澪ちゃんと二人きりだったじゃん。遠慮せずに楽しくお出かけ出来たのにさぁ。ちょっとくらい、いいじゃんか。だから、こうやってわざわざ兵助を置いてきたのに」
「えっ、それいいの?」
「大丈夫大丈夫。出かける前に厠に行くって言うから、先に来ただけだし」
なら、いいのか。
勘右衛門が力強く言うので、澪はツッコミを入れずにおいた。
それに、勘右衛門のフレンドリーさを心のどこかで喜んでいる自分がいた。まるで学生時代に戻ったような気がするのだ。もっとも、今の見た目なら勘右衛門と歳が近いのでおかしくはない。
ーーが、中身がいい歳をした大人のため澪の胸中は、嬉しいやら気恥しいやら。
「今日は、町で皆で美味しいご飯を食べてお茶して帰るって事で。帰りに、雨が降ってなかったら気分転換に見晴らしのいい場所とかに寄り道しようか」
「分かった。町を皆で散策ね」
「途中、寄りたい店とかあったら言ってね」
「それは多分、大丈夫。ちょっと前にシナ先生と出かけたから。買いたいものは特にないし」
あの時は面倒な男達に続々と絡まれたが、今日は男装しているし多分大丈夫だろう。仮に鬱陶しい輩に今日も絡まれたなら、ぶん殴っても男装なので問題は少ないはずーーと、見た目は美少年なのに、物騒な事を考える澪である。
「そしたら、今度買い物行く時はオレを誘ってよ。護衛するからさ」
「別に護衛な要らないかな。わたし、強いし」
「はっ、そう言えばそうだった!オレより無茶苦茶強いじゃんっ!」
態とらしく声を上げる勘右衛門。オーバーリアクションが面白くて、澪が笑っていると残りの五年生達がぞろぞろとやって来た。
「澪さん、お待たせしました!」
「えっ、これどういう状況?澪さんが、笑ってる」
兵助が走ってやって来るその後ろで、八左ヱ門が首を傾げている。まさか、勘右衛門と澪が他愛ない友達同士のやり取りを楽しんでいたとは思うまい。
「大した事はないよ。さぁ、全員揃った所で遊びに行くぞぉ。しゅっぱーつ!」
勘右衛門が音頭を取る。拳を掲げるので、付き合って同じ動作を皆ですると段々楽しくなって来た。
「今日のわたしは伝助なので。皆さん、どうぞよろしく」
「分かったよ、伝助さん」
澪のお願いに三郎が頷いて、早速に名前を読んでくれた。伝助という、割と何処にでも居そうな名前と澪の容姿とのミスマッチぶりに、言った傍から三郎が「伝助感ゼロだなぁ」と、呟いていた。
六人揃って、町を目指す。
道中、暇つぶしに皆で話をしていると、兵助がどこの町のどんな豆腐が美味しくて、喉越しがいいやらと話しを始め、他の五年生の面子は豆腐のような白目を剥きそうになっていた。
食べてないのに豆腐地獄にできてしまう兵助である。おそるべし。
他にも五年生らから、彼らの得意武器や、好きな事、休日の暇つぶし方法等を教えてもらった。
「へぇ、勘右衛門くんは戦輪も結構得意なんですね」
「まぁね。滝夜叉丸がナンバーワンだって言いまくるせいで、目立ってないけどさぁ」
得意武器は四年生以降で決まってくるらしい。何でも使えるのが望ましいのだが、得意不得意は矢張りあるので皆、己の得意分野を伸ばすようにしているようだ。その方が、就職先を探す時にもアピールしやすいんだとか何とか。
微笑ましいのは、自然と相部屋の友達を意識して武器を選んでいる所だ。近距離を極める者がいるなら、自然とその相方は中距離や遠距離の武器を選択する等である。
今は得意武器等、選ぶような状況にないが例えば一年は組のきり丸、乱太郎、じんべヱ等は上級生になった時、どんな武器を選ぶのだろうか……そう思うと、何だか楽しい。
「……ん?」
ぞろぞろ喋りながら歩いていると、町が見えてきた辺りで、ふと、隣を歩いていた勘右衛門が立ち止まり、後方を振り返った。
「どうしたんですか?」
「……んー、気の所為、かも。大丈夫、何でもないよ」
澪が尋ねると、ヘラりと笑って首を振る勘右衛門。気を取り直すように、向こうに見える町並みを指さした。
「よーしっ、そしたら今日は思う存分遊ぶぞー!!」
「楽しみです」
いよいよ五年生達と遊ぶとなり、気分が上向いてきた。勘右衛門の掛け声に、澪だけでなく他の面々も嬉しそうな顔をしている。
「オレは、遊ぶついでに変装しやすそうな顔の調査をしようっと」
「ぼくは、美味しい物が食べられたら」
「オレもだな。安くて美味い店がいい」
「澪ちゃ……じゃなかった、伝助さんと一緒なら何でもいいや」
町の光景が近づくにつれ、三郎が彼らしい一言を口にすると、雷蔵、八左ヱ門、勘右衛門が続く。
兵助はと言うと。
「そしたら、オレは豆腐の……」
「「「「それはやめてくれ」」」」
豆腐、という単語が出た瞬間に他の五年生全員から窘められていた。
漫才のようなやり取りを前に、澪は思わずプッと軽く吹き出しそうになるのだった。
その仙蔵が彼の級友である潮江文次郎を伴って、澪を呼び出したのは伝蔵と一年は組の教室で皆の前で話した二日後の午後の事であった。
「ーー先日の件で、改めて澪さんと話がしたい。ついては、今からわたし達と作法委員会の部室まで来てくれるか。今日の委員会の活動は休みだから、部屋が空いているんだ」
真面目な顔で請われては、もとより断るつもりがないとはいえ、首を横に振るのは難しい。澪は了承して、指定された通り作法委員会の部屋を尋ねた。すると、そこには残りの六年生達が勢揃いしていた。
「えっ、何で皆さんまでいるんですか?」
「一年は組で澪さんと山田先生の話していた事を教えたら、こいつらも興味があるとかで。色々と聞いてみたいんだとか」
文次郎が教えてくれたが、ギャラリーが増えた事に首を傾げてしまいそうになる。とはいえ、ここまで来てしまっている以上、踵を返すわけにもいかず、大人しく用意された円坐の上に座る。
これは、ひょっとしたら長い話になるからかもしれない。板張りの上に座っては長く話せないと、円坐を用意されたのだろうと悟る澪である。
ふと見ると、人数分のお茶まであった。長次が静かに用意している。
「さて、早速だが昨日の話の件だ。宗教に関する話題だったが、わたしも文次郎も政教分離というのが気になった。それと、できれば澪さんの考える天下を制す……強い大名の資質について、話を聞きたい」
「……いいですけど、あくまでわたし一個人の考えですからね。その点をご了承ください」
「無論だ」
仙蔵が頷く。彼のサラサラの髪が揺れた。
「オレ達はその場に居なかったが、簡単に仙蔵達からどういう話をしたのかは聞いている。途中、オレ達も聞きたいことがあったら質問させてもらうぞ。とはいえ、楽にしてくれ」
「そんなに構えないで。ぼくらとの話は、雑談だと思ってくれたらいいから」
留三郎と伊作がそう言って、気持ちを軽くさせようとしてくる。
「……お茶、どうぞ。宜しく頼む」
「澪さんの話、わたしも仙蔵達から軽く聞いたが、色々と合理的だと思ったぞ。楽しみだ!」
「あはは、ありがとうございます」
長次からお茶を受け取りつつ、小平太からの期待に愛想笑いを返す。長次が淹れてくれたお茶は、温かい焙じ茶だった。
「そしたら、えっと政教分離についてですが……言葉通り、政と宗教を分ける事を言います。政治は原則として宗教を弾圧や反対に擁護もせず、宗教も政治に関わろうとしないと言うことです。それで、どんな事が聞きたいので?」
「政教分離の利点の説明が具体的にほしい。何故、それをする必要があるのかも詳しく頼みたい」
そう言えば、政教分離についてはサラッと話しただけで終わったのを思い出す。なので、ゆっくりとなるべく噛み砕いて仙蔵達に話した。
「政教分離の利点は幾つかあります。信仰の自由が保障される事や、宗教の拘束を受けない分だけ、あらゆる分野において発展が見込める事とかですかね。ただし、後者については合理性や探究心の追求は突き詰めると倫理を欠く可能性が高いので、何処かで非人道な事があった場合に備え、咎める仕組みは必須かと思いますが」
「……少々、抽象的で分かりづらい。具体例を頼む」
「あ、すみません」
後の歴史を知るので総括した内容になってしまった。仙蔵に指摘され、かえって分かりづらい話になってしまったのを反省しつつ、具体例を挙げる。
「一つ目に言った信仰の自由が保障される事ですが、そもそも、人間の心は自由なはずです。誰からも思想や考えを強要されるべきではないし、仮に強要されれば不満と争いの種になります。政教分離ができていないと、例えば領主が南蛮の宗教に帰依し擁護が過ぎれば、領内の寺社仏閣を潰して領民や家来にまで改宗を迫るでしょう。実際、九州ではそうした事をしている大名が居ます。権力者に取り入り、宗教が政に関われば、他の教えを排斥したり、差別が行われるのは必定と言っていい。それでは、例え千年後でも争いはなくならないでしょう。政の混乱は世に戦乱を招く事に繋がりやすい。ならば、その要素は廃すべきです」
「合理的だな」
納得したらしい。ふむふむと、文次郎が頷いていた。
「あらゆる分野において発展が見込まれる事については、宗教的拘束が排されれば、真理の探究が容易になると言いますか」
具体的には、カトリックの教えを否定する代表格として地動説や進化論等があるが、これは流石に口にできない。何せ、もう少し先の時代で議論される内容なのだし。
それに、日ノ本の場合はキリスト教やイスラム教に比べれば、宗教的拘束は宗派によるが必ずしも強いとは言えない。
「つまり、例えば宗教的には許されない研究なんかができるってこと?」
「そうそう、そんな感じです伊作くん。芸術分野とかもですよ。表現の幅が広がりますから。ですけど、何でもかんでも自由にやり過ぎると、目に余るから何処かで統制がいるということです。例えば、どんな副作用があるかも分からない薬の有効性を調べるために、危ない人体実験を老若男女問わず大勢にする、とかね。貧しい人にお金を積めばできたりしちゃいますから。でも、できるからってやっていい事と悪い事の線引きはいるって事です」
「理解したよ。それが、倫理を欠くって事なんだね」
良かった、納得してくれた。伊作の微笑みにホッとする。
「政教分離の話はこんな所でどうでしょうか。何か分からない事はありますか?」
「わたしは大丈夫だぞ。必要な理由が分かった!澪さんの言うように、宗教と政治を分けなくては面倒な事になる。いかに大名と言えど、人の気持ちまでは扱えん」
「その通りです、小平太くん」
要点を押さえた回答に、澪は頷いた。
「オレは、澪さんが何でそんな事を思いつくのか不思議でならん。普通はそんな事、考えもしないだろうに」
「たまたまですよ。それに最初に言ったはずです。わたしの個人的な考えである、と。わたしの話に合理性があっても、本当にそれが正解かどうかは誰にも分からないでしょう。それこそ、わたしが国を治める大名でない以上、所詮は卓上の議論に過ぎません。答えは誰にも分かりませんよ」
留三郎のツッコミに煙に巻くような言い方をするが、澪は良く似た世界の歴史の答えを知っている。
だから、妙に説得力があるせいで凄い発想をしているように思われるのだ。
「それに、政教分離は欠点もあります。宗教というのは、人の思想を一つに纏めるのに有効です。国教があるなら、政教分離は国民の団結を保てない一因になりますから。とはいえ、日ノ本の場合、宗教は数多の宗派に別れていますから、その欠点はあまり問題になりませんけど」
「そのような話を聞くと、有難いはずの仏の教えが味気なく感じるな」
仙蔵の感想の通り、澪の話は宗教を道具として見ている。有難みも失せるというものだろう。宗教に対して冷めた見方が出来るのは、根っこが現代日本人のせいである。
「じゃあ、次の話だが……澪さんが考える、強い大名について教えてほしい。過日、一向一揆を抑えるには悪名を畏れぬ胆力のある大名が必要と言っていたが、例えば天下を制すとなると、どうなのだ。わたし達もいずれは、どこぞの城で雇われて働くことになる可能性が高い。澪さんの意見を参考にしたい」
「六年生の皆さんは、卒業したら就職ですもんね。わかりました」
澪の知る世界の史実では、忍者の学校なんてなかったし、忍者が就活するなんて思いもよらなかった。利吉のようなフリーの忍者もいるし、この世界の忍者界隈は妙に現代的である。
仙蔵の一言は尤もだ。
働くにしても命懸けになる以上は、単に職場環境だけでなく先行きに見込みがある大名の方が仕え甲斐があるというもの。澪の意見を就職先を考える上での参考にしたいというなら、断るような話ではない。
「そうですねぇ……もしも、天下を制すなら、まずは富強である事は必須。そして資質という点では敵に対してはとことんまで冷たくなれて、味方には気遣いができるようなお方ですかね。頼もしい大将ならついて行きたいと思うでしょうから。後は、傲慢でない事、合理的である事、気配りができる事、後継者に恵まれている事、健康である事。まぁ、列挙するとキリがなくなりますから、この辺で。これら全ての条件に当てはまる必要はないですけど、一つでも多く当てはまれば、天下を狙っていい勝負ができるんではないですかね」
理想の君主の条件をこれだけ好きに言えるのは、澪が君主ではなく一般人だからだ。求められる物を聞いたら、世の大名の大半は逆ギレしてもおかしくはない。知りもしないで、好き勝手言っていると怒られても文句は言えない。
「うわぁ、厳しいなぁ」
「もそっ……しかし、天下を狙うとなると、頷ける物ばかりだ」
小平太が、太い眉を寄せて悩ましい顔になる傍らで、長次が頷きながらも茶を啜る。
「澪さんが男で、大名なら安心して仕えられたんだがな」
ふと、文次郎がしみじみとそんな事を言うものだから、澪はまさに口にした茶を吹き出しそうになった。
「それはちょっと分かるかも。澪さんが天下を目指すお殿様だったら、就職先候補第一だよね!」
「伊作……なんか、目が輝いてないか?」
確かに伊作の目がキラキラしてるような気がする。留三郎は、そんな級友をどこか呆れた様子で見ていた。
「わたしは、澪さんは今のままの方がいい。大名だったら、こうしてわたし達と話なんて出来ないのだし」
「もそ。わたしも、そう思う……」
「ふふっ、ありがとうございます」
小平太と長次の言葉に、澪は少しばかり照れくさい気持ちになりつつも、嬉しくなって笑った。
「ありがとう、澪さん。色々と勉強になった。また今度、こういった機会があればよろしく頼む」
「少しでもお役に立てたのなら、何よりです」
ホッと一息着く気持ちで、澪はお茶を飲み干した。
「澪さんって、本当に色々と物知りと言うか、着眼点が普通じゃないって言うか。凄いよねぇ……忍術学園に来てくれて、感謝しかないよ」
「だな。忍術学園に好意的でない城に居たらと思うと、怖いったらないぜ。味方で良かった」
しみじみ言う伊作と留三郎。他の面々とウンウンと頷いている。少々大袈裟である。
真面目な話を終えて、リラックスモードに入ったらしく、六年生達とお茶を飲みながら、雑談モードに移行した。
すると、伊作が澪の様子を伺いながら、じーっと見ていた。可愛らしく優し気な雰囲気の伊作が纏う空気は、六年生の中でもとりわけ柔らかい。澪が目が合った伊作に笑いかけると、それを合図にするかのように伊作が口を開く。
「あの、澪さん。前に見せてもらったやり方で香料を取って、ぼくも軟膏を作ってみたいと思うんだけど、もし良かったら道具を貸してくれないかな。それと、作業を見てくれる?弟子入りしたいって言って断られたけど、どうしても自分でも作ってみたくて。秘匿するし、売ったりしないって誓うから。お願いっ……!」
そう言えば、伊作が以前に乱太郎と一緒になって澪が香料を取るのを見ていた事を思い出す。あの時は半助も一緒だった。
伊作は保健委員の委員長というのもあってか、調合等に関心が高いようだ。勉強熱心な事だ。あの時は弟子入りがどうのと言っていたのを断った。
ーーが、うるうると縋るような目で伊作からじっと見られると、断りにくい。あの時は夜だったのもあって、表情がこうもはっきり見えなかったし、乱太郎の次に乗っかるように願い出ていた事もあって、しれっと断れたのだが。
弟子を取るつもりがないのは変わらずだ。
伊作の頼みは、弟子にしているのと変わりがない。
とはいえ、伊作なら彼の言葉に責任を持ち、ちゃんとレシピの秘匿もするし、売り物にもしないだろうとも思う。
少し悩んだが、ややあって、澪は苦笑いしつつも頷いた。
「……道具を貸すのも、作業を見るのもいいんですよ。でも、それはわたしと伊作くんとだけでやりましょう。他の人は立ち入り禁止です。とはいえ、その日は予定がありまして。また後日で」
「勿論だよ、ありがとう澪さん!ところで、今週末に予定があるって事は、ひょっとして、どこかへ出かけるの?」
「あ、はい。五年生の皆さんと遊びに行く予定がありまして」
勘右衛門達との事を素直に答えると、六年生一同が何故か固まった。特に大袈裟なのは小平太で、真ん丸な目をカッと見開いている。
「……わたし達を差し置いて、五年生達と遊びに行く、だと」
小平太がプルプルしている。
「もそっ、遠慮をして声をかけなかったのが失敗だったか」
ポツリと長次が呟く。
「っ、澪さん!ぼく達とも出かけて遊びましょうっ」
「皆さんの邪魔にならないなら、勿論」
「邪魔になんてならないさ。オレ達としては、五年生に先を越されたのが、微妙なだけで」
伊作から詰め寄られるように言われ、文次郎はちょっと拗ねたような顔をしている。これは、ひょっとしてヤキモチか。
最上級生と言えども、年齢は十五歳だ。澪の元いた世界では中学三年生である。この世界の十五歳は半ば大人扱いをされているとはいえ、澪からすればまだまだ少年である。
半助ですら、歳下の可愛い男に見える澪は、更に若い六年生は可愛らしい男の子にしか見えなかった。
「でしたら、その次のお休みに一緒に遊びに行きましょう。予定が合えば、お願いしますね。それと伊作くんの調合は休みと言わず、伊作くんの時間が作れそうなら放課後とかにでも、お付き合いしましょうか」
「ありがとう、澪さん!」
ーー顔の表情筋が緩みっぱなしになってやしないか。
そんな事を思いながら、週末の予定が埋まっていく澪だった。
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ーーそして、いざ週末がやって来た。
本日の天気は、薄雲があるものの雨は降っていない。早く梅雨が明けて欲しい物である。この時代、傘はあるにはあるが高級品である。雨避けのための傘が庶民にも広まるのは、江戸時代以降の事だ。
そのため、雨避けの道具は笠や簑になる。とてもでないが、快適に雨を凌げるとは言い難い。安価で入手できた、カラフルな女性物の傘やお洒落なレインブーツ、可愛らしいレインコートが恋しい澪である。
とは言え、本日の澪にそうした道具は不要である。なんと言っても、今日の澪は男装姿であるのだから。
「澪ちゃーん!お待たせっ!!」
「か、勘ちゃん。シーっ!ちょっと声大きいっ。ここ、門出てすぐの所だからっ!」
早くに門の外で待っていた澪を見つけてやって来たのは、勘右衛門だった。同室の兵助はまだのようだ。
「だってさー、今日は邪魔が入らなかったら澪ちゃんと二人きりだったじゃん。遠慮せずに楽しくお出かけ出来たのにさぁ。ちょっとくらい、いいじゃんか。だから、こうやってわざわざ兵助を置いてきたのに」
「えっ、それいいの?」
「大丈夫大丈夫。出かける前に厠に行くって言うから、先に来ただけだし」
なら、いいのか。
勘右衛門が力強く言うので、澪はツッコミを入れずにおいた。
それに、勘右衛門のフレンドリーさを心のどこかで喜んでいる自分がいた。まるで学生時代に戻ったような気がするのだ。もっとも、今の見た目なら勘右衛門と歳が近いのでおかしくはない。
ーーが、中身がいい歳をした大人のため澪の胸中は、嬉しいやら気恥しいやら。
「今日は、町で皆で美味しいご飯を食べてお茶して帰るって事で。帰りに、雨が降ってなかったら気分転換に見晴らしのいい場所とかに寄り道しようか」
「分かった。町を皆で散策ね」
「途中、寄りたい店とかあったら言ってね」
「それは多分、大丈夫。ちょっと前にシナ先生と出かけたから。買いたいものは特にないし」
あの時は面倒な男達に続々と絡まれたが、今日は男装しているし多分大丈夫だろう。仮に鬱陶しい輩に今日も絡まれたなら、ぶん殴っても男装なので問題は少ないはずーーと、見た目は美少年なのに、物騒な事を考える澪である。
「そしたら、今度買い物行く時はオレを誘ってよ。護衛するからさ」
「別に護衛な要らないかな。わたし、強いし」
「はっ、そう言えばそうだった!オレより無茶苦茶強いじゃんっ!」
態とらしく声を上げる勘右衛門。オーバーリアクションが面白くて、澪が笑っていると残りの五年生達がぞろぞろとやって来た。
「澪さん、お待たせしました!」
「えっ、これどういう状況?澪さんが、笑ってる」
兵助が走ってやって来るその後ろで、八左ヱ門が首を傾げている。まさか、勘右衛門と澪が他愛ない友達同士のやり取りを楽しんでいたとは思うまい。
「大した事はないよ。さぁ、全員揃った所で遊びに行くぞぉ。しゅっぱーつ!」
勘右衛門が音頭を取る。拳を掲げるので、付き合って同じ動作を皆ですると段々楽しくなって来た。
「今日のわたしは伝助なので。皆さん、どうぞよろしく」
「分かったよ、伝助さん」
澪のお願いに三郎が頷いて、早速に名前を読んでくれた。伝助という、割と何処にでも居そうな名前と澪の容姿とのミスマッチぶりに、言った傍から三郎が「伝助感ゼロだなぁ」と、呟いていた。
六人揃って、町を目指す。
道中、暇つぶしに皆で話をしていると、兵助がどこの町のどんな豆腐が美味しくて、喉越しがいいやらと話しを始め、他の五年生の面子は豆腐のような白目を剥きそうになっていた。
食べてないのに豆腐地獄にできてしまう兵助である。おそるべし。
他にも五年生らから、彼らの得意武器や、好きな事、休日の暇つぶし方法等を教えてもらった。
「へぇ、勘右衛門くんは戦輪も結構得意なんですね」
「まぁね。滝夜叉丸がナンバーワンだって言いまくるせいで、目立ってないけどさぁ」
得意武器は四年生以降で決まってくるらしい。何でも使えるのが望ましいのだが、得意不得意は矢張りあるので皆、己の得意分野を伸ばすようにしているようだ。その方が、就職先を探す時にもアピールしやすいんだとか何とか。
微笑ましいのは、自然と相部屋の友達を意識して武器を選んでいる所だ。近距離を極める者がいるなら、自然とその相方は中距離や遠距離の武器を選択する等である。
今は得意武器等、選ぶような状況にないが例えば一年は組のきり丸、乱太郎、じんべヱ等は上級生になった時、どんな武器を選ぶのだろうか……そう思うと、何だか楽しい。
「……ん?」
ぞろぞろ喋りながら歩いていると、町が見えてきた辺りで、ふと、隣を歩いていた勘右衛門が立ち止まり、後方を振り返った。
「どうしたんですか?」
「……んー、気の所為、かも。大丈夫、何でもないよ」
澪が尋ねると、ヘラりと笑って首を振る勘右衛門。気を取り直すように、向こうに見える町並みを指さした。
「よーしっ、そしたら今日は思う存分遊ぶぞー!!」
「楽しみです」
いよいよ五年生達と遊ぶとなり、気分が上向いてきた。勘右衛門の掛け声に、澪だけでなく他の面々も嬉しそうな顔をしている。
「オレは、遊ぶついでに変装しやすそうな顔の調査をしようっと」
「ぼくは、美味しい物が食べられたら」
「オレもだな。安くて美味い店がいい」
「澪ちゃ……じゃなかった、伝助さんと一緒なら何でもいいや」
町の光景が近づくにつれ、三郎が彼らしい一言を口にすると、雷蔵、八左ヱ門、勘右衛門が続く。
兵助はと言うと。
「そしたら、オレは豆腐の……」
「「「「それはやめてくれ」」」」
豆腐、という単語が出た瞬間に他の五年生全員から窘められていた。
漫才のようなやり取りを前に、澪は思わずプッと軽く吹き出しそうになるのだった。
