第10話 ドッキリドキドキ大作戦
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「えー、いいなぁ乱太郎達。澪さんに特別授業してもらったなんて!」
授業前の一年は組の教室にて。
からくり大好き少年もとい、笹山兵太夫が昨日の授業の事を乱太郎達から聞いて純粋に羨ましがっていた。座学の成績の悪い一年は組ではあるが、澪が補佐をする時の授業は皆が真剣にやっている。
とは言え、澪の補佐は毎日の事ではないため、半助一人の授業の時は居眠りやよそ見に落書きやきり丸に至っては内職する物だから、半助からチョークが怒声と共に飛んできたりする。
それはそれである。
「歴史の授業だったんだよね、どんな話をしたの?」
食い気味に聞いてくるのは、学級委員長の黒木庄左ヱ門だ。真面目で、は組の中では熱心に勉強をする方のため、当然と言えば当然だろう。
「一気飲みの変まで教えてくれたよ!」
「一気飲みじゃなくて、乙巳の変だって。ちゃんと澪さんの話、聞いてたのかよ。しんベヱ」
「おお、きりちゃんがちゃんと覚えてる……!」
しんベヱの間違いを、すかさずきり丸が訂正すると、乱太郎が感心したのか拍手した。
きり丸としては、特別授業では、澪と二人きりになれるとは元より思っていなかったが、上級生も含めてあんなにギャラリーが来るなんて驚きだった。
しかもギャラリーのうち、澪を異性として好む故の下心を持っていたのは、少数派で殆どは知的好奇心から同席したから恐れ入る。それだけ、澪の話が面白いという証拠であった。
「当たり前だろ。そもそもはオレのためなんだし」
そう、澪はきり丸のためにわざわざ時間を取ってくれたのだ。そう思えば、無駄にできない。だから、ちゃんと箇条書きだが、きり丸なりにノートにも書き記してある。
短い授業だったが、澪の話は面白かった。先生でこそないが、例えが分かりやすかったのだ。きり丸達がちゃんと理解できるように噛み砕いていてくれた。
ちなみに、半助も無論そうした事をしてはいるが、毎日の授業となるため生徒が慣れてしまい、居眠り、よそ見、落書き、きり丸に至っては内職に走る等、は組がまともに話を聞いていないという悲しい結果になっている。
澪だって、毎日彼女が教壇に立てば新鮮味が薄れて、そのうち一年は組の子ども達が、ため息をつきたくなる授業態度を取るようになる可能性があった。とはいえ、仮に他のは組の生徒達がそうなっても、きり丸は澪の授業はきちんと聞く自信があった。内職なんてもっての外である……これが、惚れたという事なのかと、自分自身できり丸はちょっと感動していた。
なお、きり丸の心の内を理解している者は本人のみのため、半助の時にも同じように真面目に授業を聞く自信を持てよ、という真っ当なツッコミをする人間は誰一人としていない。
「きり丸ってさ、澪さんと特別に仲良いよね……ここに澪さんが就職する前から知り合ってるせいなんだろうけど、正直言って羨ましすぎる!!」
「団蔵ってば、声大きいよ。まぁ、気持ちはそりゃ分かるけどさ」
力いっぱい言う団蔵に虎若が苦笑いしている。きり丸は顔にこそ出しはしなかったが、内心では羨ましいと言われた事に満足していた。
何故なら、この忍術学園の関係者で一番最初に澪と出会ったのは自分だからだ。皆に自慢はしていないが、その事実はきり丸にとっては大切な事であった。
「はぁ……早く梅雨が開けないかなぁ。おシゲちゃんと、外に出かけられないよぉ」
しんベヱが外を見て、筆で描いたような太い眉をへにょりと八の字にして外を見ていた。しとしとと、雨が降っている。梅雨なのだから、雨がちな天気なのは仕方ない。
そう言えば、今週末、半助は長屋に帰るのだろうか。忙しくなければ、ドブさらいの仕事があるはずだ。連日の雨で、さぞや泥が溜まっている事だろう。
ーーきり丸は、半助に澪に対して抱く自分の気持ちを告白する気でいた。
それと言うのも、単純に隠していたくなかったからだ。澪ときり丸とでは五つも歳が離れており、きり丸の方が澪より歳下だ。半助や同じく澪に対して好意を寄せている七松小平太を思うときり丸は圧倒的に不利だと分かっている。どうしようもない事実を考えると、辛い。きり丸が年上で澪が歳下で……逆だったら良かったのに、そう思う。
そしたら、自分だって半助や小平太に負けないよう頑張れたのかもしれない。
澪に対して嫁に来て欲しいなんて無茶な事を言って、卒業まで待たせるなんて無責任な事が許されないと、言われなくても分かっていた。
何より、そんな事をきり丸がしたくない。自分の我儘のために、願いを押し付けるのは傲慢だからだ。ましてや、自分が一人前の忍者になって、澪を養える補償はないのに……下手をしたら、澪の場合はきり丸が養われそうである。しかも、それも悪くないな、とか思ってしまうから余計に駄目だ。
ただ、澪の事は好きだからその気持ちに嘘をつきたくない。身勝手かもしれないが、実る可能性が低いからこそ、逆に澪に自分の気持ちを知って欲しいという思いもあるのだ。
澪ならきっと、きり丸の気持ちを茶化したりせず、ちゃんと受け止めた上で、上手く対処してくれると信じていた。
それで断られたっていいのだ。告白して付き合えるなんて、きり丸自身が思っていないし、恋人同士になった所で持て余すだけだと分かっているから。
気持ちに気付いた時こそ、最初は戸惑いが強かったが時間の経過と共に、冷静になるにつれて、きり丸は現実的な答えを見出しつつあった。
そして何より、澪の事を好きだと思うから、きり丸の事を気にかけてくれる半助に、気持ちの他に伝えたい事があった。
最初はどうしようかと悩んでいたが、溜め込むよりはいいと思っての事だ。できれば、話そうとする勇気が萎んでしまう前に、鉄は熱いうちに打てというし、早く半助と話したかった。
そんなきり丸の思いが通じたのか。
ガラリ、と扉が開いて半助、そして今日は補佐をしてくれるらしい澪が入ってきた。
「全員、着席するように」
半助の一言で、定位置に着席する生徒達。半助が出席簿片手に出席状況を確認する傍ら、澪と目が合った。
ーー今日も美人だな、と素直に思う。
澪を好きだと自覚したら、澪がキラキラして見えた。前から美人だと思っていたが、天女だと言われても納得の美貌に、頭が抜群によくて、おまけに滅茶苦茶強い。性格だって優しい。料理も上手だ。文句無しの美少女である。
何だってつくづく神様は意地悪にも、澪ときり丸の年齢を離したのだろうかと、ちょっと恨めしく思ってしまったり。
にこり、と澪がきり丸を見て笑ったーードキドキして、フワフワする。半助が見蕩れる気持ちが凄く分かる。分かってしまう。
「えー、それでは今日は漢字の小テストをするぞ」
「はい、プリントを後ろの人に渡してくださいね」
澪がプリントを配ってくれる。一番前の列に座っているため、乱太郎やしんベヱよりも早く澪からプリントをサッと受けとった。
「わぁ、きり丸ったらやる気だね」
「……まぁな」
ほんわか笑うしんベヱは、きり丸が澪に恋をしていると分かるはずもない。きり丸はプリントを取ってさっさと後ろに回した。
「それじゃあ、用紙が行き渡ったらテスト開始だ。終わったら直ぐに採点をして返すから、間違った漢字は十回書くように」
「「はーい」」
早速、小テストが始まった。半助は教壇に立ったまま。澪は後ろに行って見守りとなった。あーあ、行っちゃった……と、心の中で残念に思いながら、漢字の小テストへ目を向ける。
そして、フッと笑った。
うむ、いつも通りよく分からん。よし、適当で行こう。乱太郎やしんベヱも書いているが、どうせ自分と似たような点数だろう。
……そして、その結果は。
「あ、思ったより取れてる。二点だっ!やったぜ。下手したらゼロかと思ってたし」
「うんうん、十点満点中の二点だもんな。快挙じゃないか、きり丸!等と言うと思ったか馬鹿者ぉー!!」
返却されるや否や喜ぶきり丸に、半助の怒声が飛んだ。
「この小テストはこの前、ここから出すと言った漢字のドリルの範囲内から出題したんだぞ。お前達にとっては、絶好の点取りの小テストなんだぞ。それを、それを、お前と言う奴は!ぐっ、痛っ、胃がぁ……!」
「大変っ、土井先生、大丈夫ですか?」
神経性の胃痛が来たのか、横腹を抱える半助に澪が慌てて駆け寄った。
「土井先生、きり丸は二点でしたけど、わたしは三点ですから元気出してください!」
「ぼくも三点です。きり丸より一点多いんですよ。えっへん!」
「嬉しそうな顔をするな、威張るな、胸を張るなっ。お前達二人はきり丸の次に酷い点数だっ……!」
バンバンと教卓を悔しそうに殴る半助。きっとこの小テストなら、きり丸達もそれなりの点数が取れるはずだと期待したのだろう。残念な話である。誠に遺憾だ。
「土井先生、落ち着いてください。興奮すると、余計に胃痛が酷くなるかもしれませんし」
「うぅ、澪さん……!」
澪が半助の肩を叩き、半助はほんの少しだけ澪に寄っている。
「保健委員なんだし、乱太郎が土井先生の看病しないと」
「あっ、そっか。澪さん、わたし代わります」
はっきり言って、半助が澪に引っ付くのは面白くないので乱太郎をさり気なく行かせる。すると、半助がキッと強い眼差しになって首を振った。
「今は授業中だっ!看病は要らんから、お前達の小テストの点数をどうにかしろ。今日は放課後、乱太郎、きり丸、しんベヱは補習だぁー!!」
「えーっ、そんなぁ。今日は放課後に保健委員の仕事があるのに!」
「ぼくも、今日は放課後におしげちゃんの作ったおやつを食べる約束があるのに!」
「オレだって、放課後は造花作りの内職があるのに!」
「お前達に必要なのは、補習だっ、補習!!」
放課後の予定がおじゃんになる事に抗議するが、半助の目が三角になっている。若干、目が血走っていた。毎日毎回毎度、一年は組の中でもピカイチで厄介なトリオを見て、他のは組の子ども達がまだ自分達はマシだと、ホッと胸を撫で下ろしていた。ちなみに、満点は一人もおらず、最高得点は庄左ヱ門の九点だったと、きり丸は後で知ったのだった。
そして、放課後。
てっきり、一年は組の教室で半助に大量の漢字の書き取りをさせられるとばかり思い、憂鬱な気分で臨んだ補習に、何と澪がいた。
曰く。
「土井先生の胃の調子が本格的によくなみたいなので、土井先生に代わって今日はわたしが三人の補習をしますね」
との事らしい。
きり丸は預かり知らなぬ事だが、ここの所、半助は通常の仕事に加え、心底惚れた愛する澪という悩ましい片思い相手の絡む案件に、胃が度重なるストレスによるダメージを受けており、トドメにいつもの一年は組の胃と頭の痛くなる現状に、遂に胃が悲鳴を上げて胃だけでなく背中や肩まで痛み出したため、見かねた校医の新野から今日の仕事にドクターストップがかかってしまった次第であった。
「三人は、頑張ったらご褒美をあげますから、再テストで五点以上を目ざして勉強しましょう。勿論、最初のテストと問題は変えるので、あしからず」
「ご褒美だぁ、頑張りマース!!」
ご褒美をあげるという甘美な響に、きり丸のドケチ魂が反応する。ましてや、くれる相手は澪なのだ。尚更である。
そして、早速、補習が開始された。半助が出すと言っていた漢字ドリルの範囲の文字を、今度は澪が教えてくれる。
「はい、この漢字。票という字は木辺がつくと標となり、意味が代わります。票の字は小さな用紙や、札といった意味がありますが、標になると目印やしるす、という意味になります。よく使われる熟語はこれで……」
澪が黒板に文字を聞いていく。
とはいえ、半助とは違い慣れていないため途中から黒板の文字が下がっていっているも、字自体は綺麗で見やすい。
半助の授業も丁寧で分かりやすい、と、一年は組の学級委員もとい、良心でもある庄左ヱ門は評価するが、澪の授業も負けてないと思う。
そして、澪の授業を一通り受け終わった後の小テストの結果は……。
「やったー!七点だぁっ」
「ぼくも六点だ。目標達成っ。きり丸は?」
点が上がった二人が大喜びしている。きり丸はと言うと、返ってきた答案用紙を前に小さく震えた。
「ま、満点。オレ、満点だ……!」
最後の漢字があってるか、少し不安だったが見事に満点だ。澪が花丸を書いてくれて、よく出来ましたとメッセージまで書いてある。
恋って凄い。
きり丸はそう素直に思った。澪が補習をしてくれるなら、乱太郎達よりいい点数が欲しいと思って必死になった結果である。
ちなみに、きり丸本人の頭は悪くなく手先も器用でポテンシャルは高い。アルバイト漬けで居眠りが多っかたりするせいで、まともに勉強が捗っていないだけである。
なので、澪に限らずきちんと勉強をするよう指導すれば、は組の大ボケトリオの中では一番伸び代があったりするのだが、本人はそんな事より銭儲けに必死のため、ご覧の有様なのである。
「読み書きは、記憶力が相当良くない限りは頭と体に染み込ませるしかありません。沢山文字を読んで、とにかく書くんです。同じ漢字ばかり書いているよりは、熟語を複数書いて意味を意識しながら、練習するといいと思いますよ。読み書きが堪能になれば、それだけ大人になった時に色んな文字が読めるようになるので、あらゆる仕事において重宝するでしょう。皆さん、頑張りましたね」
きり丸の満点を知り、乱太郎としんベヱが凄いと褒める傍ら、澪から締めくくりの言葉があった。
漢字のやり直しの小テストだが、満点なんてまず無い事だ。嬉し過ぎて答案用紙を、ギュッと抱きしめる。
「はい、それじゃご褒美です。三人で仲良く分けて食べるように」
澪が笑顔のまま、ご褒美だと包み紙を差し出した。中を開けると、そこには……。
「あっ、小さいボーロだ!」
「卵ボーロって言うんですよ。わたしの手作りです。割れやすいですけど、美味しいので食べてみてください」
コロコロと小さな白いボーロが入っていた。真っ先にボーロだと言い当てたのはしんベヱだ。流石は食いしん坊。それにしても、ボーロの一つ一つが可愛らしい。
試しに、一つ手に取って口にいれると、砕けるや否やしゅわっと溶けて無くなった。ほんのりと優しい甘さか口の中に残る。
「美味しい……!」
ひとつ食べた感想を澪に伝えると、嬉しそうに頷かれた。
「それは良かった」
澪がフワリと笑う。ドキドキして、口の中に広がるボーロみたいだと思った。優しく残る甘さが、まるで澪そのものだ。また食べたくなる、そういう味である。
澪は補習を終えると、事務室の手伝いがあるとかで去ってしまった。残されたきり丸は、乱太郎達と長屋の自室に戻ってから、貰ったボーロを仲良く分けて味わった。
「本当、澪さんって何でも出来るよね。羨ましい……」
「料理も上手だもんね。んー、卵ボーロ、美味しい!」
乱太郎がしみじみと呟く傍ら、しんベヱが満面の笑顔でボーロを食べていた。
「だよな、流石は澪さんって感じだぜ」
「きりちゃんは、本当に澪さん好きだよね」
「あぁ……そうだな。オレ、澪さんが本当に大好きだ」
和やかに言う乱太郎に、少し前なら照れくさく頷いていただろう。だが、今はあっさり肯定出来てしまう。何だか擽ったい気持ちはあるが、それ以上に好きだと言う気持ちの方が大きかったからだ。
きり丸が真面目に答えたせいか。
乱太郎としんベヱが、ボーロを食べる手を止めてお互いに顔を見合せた。
「ねぇ……きり丸。ひょっとして、本当の本当に真面目な話、澪さんが好き、とか?」
乱太郎が、少し戸惑ったような顔で声をかけてきた。まだ十歳だが、色恋がどういう物かくらいは何となく知っている。女子ではないから、そういう話題を好むわけではないが、何かくらいは分かるのだろう。しんベヱはと言うと、キョトンとした顔をしていた。
てっきり、しんベヱは呆けているのなとおもいきや。
「え、きり丸も土井先生と一緒ってこと」
まさかの核心を突く一言。きり丸は、次の一粒にと食べようとした卵ボーロを指で砕きそうになった。
危ない危ない。
「しんベヱ、土井先生と一緒って……」
「土井先生は、澪さんの事大好きだよね。見てたら分かるよ。きり丸も同じなんでしょ。だって、二人が澪さんを見る顔、そっくりだもん。あ、七松先輩もだよね」
乱太郎が眼鏡の分厚いレンズの下で、思い切り目を見開いていた。いつものんびり、のほほんとしたしんベヱからは想像もつかない観察眼である。
乱太郎の方は、気付いてなかったようで固まっていた。
「澪さんって、モテモテだよね。本人は気にしてないというか、気がついてないというか……。あ、澪さんって自分の事には意外と鈍いとか?」
「すげぇな、しんベヱ。意外だぜ、鋭いんだな」
「えへへー。それ程でもぉ」
てれっ、となるしんベヱの鼻の穴からタラっと鼻水が垂れた。イマイチ締まりがない。一方で乱太郎が何故か慌てた様子で声を上げた。
「ちょっと、待ってよ。そしたら、きりちゃんは土井先生と、こ、恋のライバルになるよね?」
「あー、確かにそうなるな。でも、オレ、澪さんの事、女の子として好きだけど付き合って欲しいとか頼むつもりないぜ。恋人とかよく分かんねぇし。今のオレは見ての通り忍たまだしな」
「えっ、何それ。そしたら、きりちゃんは土井先生が澪さんとくっついてもいいって事?応援するの?」
「そんなわけねーじゃん」
乱太郎の問いを、きり丸は即座に否定した。
「オレは土井先生も、ましてや七松先輩も応援する気はねぇぜ。オレは澪さんが好きなんだぞ」
「じゃあ、邪魔するの?」
「分かってんじゃん、しんベヱ」
ニヤリ、ときり丸は笑う。
「今のオレが澪さんと付き合えるとかは思ってないけど、だからって何にもしないで、タダで取られるのも嫌だからな」
「……それ、性格悪いよ。きりちゃん」
「好きに言えよ。乱太郎も、好きな女の子が出来たらオレの気持ちが分かるはずだ」
「あー、ぼくはちょっと分かるかも?」
まさかのしんベヱが、きり丸に同意して頷いた。乱太郎は、何か言いたげな眼差しをきり丸へと向けてため息をついている。
「二人とも、余計な事を土井先生に言うなよ。この事はオレの口から早ければ土井先生に週末にちゃんと言うつもりだからな」
二人にそう言うと、しんベヱも乱太郎も顔を見合せた後、ややあって頷いた。
「きり丸、頑張ってね!」
「わたしは、土井先生が気の毒になって来たよ……」
二人の言葉に笑いながら、きり丸は残った最後の卵ボーロを一つ口に放り込む。蕩ける優しい甘さに、作ってくれた澪を思う。
大好きな優しい澪。
そのうち、この気持ちを伝えよう。そして、実らないと分かっているからこそ、澪の事を好きな、彼女と結ばれるかもしれない男達の邪魔くらいはさせてほしい。
身勝手かもしれないが、その位は許してほしい。だって、最初に忍術学園で澪と出会ったのは、きり丸なのだ。
自分が見つけた美しい宝のような女性を、はいどうぞとタダでやる間抜けになるのだけはドケチの名にかけて、絶対に御免だった。
授業前の一年は組の教室にて。
からくり大好き少年もとい、笹山兵太夫が昨日の授業の事を乱太郎達から聞いて純粋に羨ましがっていた。座学の成績の悪い一年は組ではあるが、澪が補佐をする時の授業は皆が真剣にやっている。
とは言え、澪の補佐は毎日の事ではないため、半助一人の授業の時は居眠りやよそ見に落書きやきり丸に至っては内職する物だから、半助からチョークが怒声と共に飛んできたりする。
それはそれである。
「歴史の授業だったんだよね、どんな話をしたの?」
食い気味に聞いてくるのは、学級委員長の黒木庄左ヱ門だ。真面目で、は組の中では熱心に勉強をする方のため、当然と言えば当然だろう。
「一気飲みの変まで教えてくれたよ!」
「一気飲みじゃなくて、乙巳の変だって。ちゃんと澪さんの話、聞いてたのかよ。しんベヱ」
「おお、きりちゃんがちゃんと覚えてる……!」
しんベヱの間違いを、すかさずきり丸が訂正すると、乱太郎が感心したのか拍手した。
きり丸としては、特別授業では、澪と二人きりになれるとは元より思っていなかったが、上級生も含めてあんなにギャラリーが来るなんて驚きだった。
しかもギャラリーのうち、澪を異性として好む故の下心を持っていたのは、少数派で殆どは知的好奇心から同席したから恐れ入る。それだけ、澪の話が面白いという証拠であった。
「当たり前だろ。そもそもはオレのためなんだし」
そう、澪はきり丸のためにわざわざ時間を取ってくれたのだ。そう思えば、無駄にできない。だから、ちゃんと箇条書きだが、きり丸なりにノートにも書き記してある。
短い授業だったが、澪の話は面白かった。先生でこそないが、例えが分かりやすかったのだ。きり丸達がちゃんと理解できるように噛み砕いていてくれた。
ちなみに、半助も無論そうした事をしてはいるが、毎日の授業となるため生徒が慣れてしまい、居眠り、よそ見、落書き、きり丸に至っては内職に走る等、は組がまともに話を聞いていないという悲しい結果になっている。
澪だって、毎日彼女が教壇に立てば新鮮味が薄れて、そのうち一年は組の子ども達が、ため息をつきたくなる授業態度を取るようになる可能性があった。とはいえ、仮に他のは組の生徒達がそうなっても、きり丸は澪の授業はきちんと聞く自信があった。内職なんてもっての外である……これが、惚れたという事なのかと、自分自身できり丸はちょっと感動していた。
なお、きり丸の心の内を理解している者は本人のみのため、半助の時にも同じように真面目に授業を聞く自信を持てよ、という真っ当なツッコミをする人間は誰一人としていない。
「きり丸ってさ、澪さんと特別に仲良いよね……ここに澪さんが就職する前から知り合ってるせいなんだろうけど、正直言って羨ましすぎる!!」
「団蔵ってば、声大きいよ。まぁ、気持ちはそりゃ分かるけどさ」
力いっぱい言う団蔵に虎若が苦笑いしている。きり丸は顔にこそ出しはしなかったが、内心では羨ましいと言われた事に満足していた。
何故なら、この忍術学園の関係者で一番最初に澪と出会ったのは自分だからだ。皆に自慢はしていないが、その事実はきり丸にとっては大切な事であった。
「はぁ……早く梅雨が開けないかなぁ。おシゲちゃんと、外に出かけられないよぉ」
しんベヱが外を見て、筆で描いたような太い眉をへにょりと八の字にして外を見ていた。しとしとと、雨が降っている。梅雨なのだから、雨がちな天気なのは仕方ない。
そう言えば、今週末、半助は長屋に帰るのだろうか。忙しくなければ、ドブさらいの仕事があるはずだ。連日の雨で、さぞや泥が溜まっている事だろう。
ーーきり丸は、半助に澪に対して抱く自分の気持ちを告白する気でいた。
それと言うのも、単純に隠していたくなかったからだ。澪ときり丸とでは五つも歳が離れており、きり丸の方が澪より歳下だ。半助や同じく澪に対して好意を寄せている七松小平太を思うときり丸は圧倒的に不利だと分かっている。どうしようもない事実を考えると、辛い。きり丸が年上で澪が歳下で……逆だったら良かったのに、そう思う。
そしたら、自分だって半助や小平太に負けないよう頑張れたのかもしれない。
澪に対して嫁に来て欲しいなんて無茶な事を言って、卒業まで待たせるなんて無責任な事が許されないと、言われなくても分かっていた。
何より、そんな事をきり丸がしたくない。自分の我儘のために、願いを押し付けるのは傲慢だからだ。ましてや、自分が一人前の忍者になって、澪を養える補償はないのに……下手をしたら、澪の場合はきり丸が養われそうである。しかも、それも悪くないな、とか思ってしまうから余計に駄目だ。
ただ、澪の事は好きだからその気持ちに嘘をつきたくない。身勝手かもしれないが、実る可能性が低いからこそ、逆に澪に自分の気持ちを知って欲しいという思いもあるのだ。
澪ならきっと、きり丸の気持ちを茶化したりせず、ちゃんと受け止めた上で、上手く対処してくれると信じていた。
それで断られたっていいのだ。告白して付き合えるなんて、きり丸自身が思っていないし、恋人同士になった所で持て余すだけだと分かっているから。
気持ちに気付いた時こそ、最初は戸惑いが強かったが時間の経過と共に、冷静になるにつれて、きり丸は現実的な答えを見出しつつあった。
そして何より、澪の事を好きだと思うから、きり丸の事を気にかけてくれる半助に、気持ちの他に伝えたい事があった。
最初はどうしようかと悩んでいたが、溜め込むよりはいいと思っての事だ。できれば、話そうとする勇気が萎んでしまう前に、鉄は熱いうちに打てというし、早く半助と話したかった。
そんなきり丸の思いが通じたのか。
ガラリ、と扉が開いて半助、そして今日は補佐をしてくれるらしい澪が入ってきた。
「全員、着席するように」
半助の一言で、定位置に着席する生徒達。半助が出席簿片手に出席状況を確認する傍ら、澪と目が合った。
ーー今日も美人だな、と素直に思う。
澪を好きだと自覚したら、澪がキラキラして見えた。前から美人だと思っていたが、天女だと言われても納得の美貌に、頭が抜群によくて、おまけに滅茶苦茶強い。性格だって優しい。料理も上手だ。文句無しの美少女である。
何だってつくづく神様は意地悪にも、澪ときり丸の年齢を離したのだろうかと、ちょっと恨めしく思ってしまったり。
にこり、と澪がきり丸を見て笑ったーードキドキして、フワフワする。半助が見蕩れる気持ちが凄く分かる。分かってしまう。
「えー、それでは今日は漢字の小テストをするぞ」
「はい、プリントを後ろの人に渡してくださいね」
澪がプリントを配ってくれる。一番前の列に座っているため、乱太郎やしんベヱよりも早く澪からプリントをサッと受けとった。
「わぁ、きり丸ったらやる気だね」
「……まぁな」
ほんわか笑うしんベヱは、きり丸が澪に恋をしていると分かるはずもない。きり丸はプリントを取ってさっさと後ろに回した。
「それじゃあ、用紙が行き渡ったらテスト開始だ。終わったら直ぐに採点をして返すから、間違った漢字は十回書くように」
「「はーい」」
早速、小テストが始まった。半助は教壇に立ったまま。澪は後ろに行って見守りとなった。あーあ、行っちゃった……と、心の中で残念に思いながら、漢字の小テストへ目を向ける。
そして、フッと笑った。
うむ、いつも通りよく分からん。よし、適当で行こう。乱太郎やしんベヱも書いているが、どうせ自分と似たような点数だろう。
……そして、その結果は。
「あ、思ったより取れてる。二点だっ!やったぜ。下手したらゼロかと思ってたし」
「うんうん、十点満点中の二点だもんな。快挙じゃないか、きり丸!等と言うと思ったか馬鹿者ぉー!!」
返却されるや否や喜ぶきり丸に、半助の怒声が飛んだ。
「この小テストはこの前、ここから出すと言った漢字のドリルの範囲内から出題したんだぞ。お前達にとっては、絶好の点取りの小テストなんだぞ。それを、それを、お前と言う奴は!ぐっ、痛っ、胃がぁ……!」
「大変っ、土井先生、大丈夫ですか?」
神経性の胃痛が来たのか、横腹を抱える半助に澪が慌てて駆け寄った。
「土井先生、きり丸は二点でしたけど、わたしは三点ですから元気出してください!」
「ぼくも三点です。きり丸より一点多いんですよ。えっへん!」
「嬉しそうな顔をするな、威張るな、胸を張るなっ。お前達二人はきり丸の次に酷い点数だっ……!」
バンバンと教卓を悔しそうに殴る半助。きっとこの小テストなら、きり丸達もそれなりの点数が取れるはずだと期待したのだろう。残念な話である。誠に遺憾だ。
「土井先生、落ち着いてください。興奮すると、余計に胃痛が酷くなるかもしれませんし」
「うぅ、澪さん……!」
澪が半助の肩を叩き、半助はほんの少しだけ澪に寄っている。
「保健委員なんだし、乱太郎が土井先生の看病しないと」
「あっ、そっか。澪さん、わたし代わります」
はっきり言って、半助が澪に引っ付くのは面白くないので乱太郎をさり気なく行かせる。すると、半助がキッと強い眼差しになって首を振った。
「今は授業中だっ!看病は要らんから、お前達の小テストの点数をどうにかしろ。今日は放課後、乱太郎、きり丸、しんベヱは補習だぁー!!」
「えーっ、そんなぁ。今日は放課後に保健委員の仕事があるのに!」
「ぼくも、今日は放課後におしげちゃんの作ったおやつを食べる約束があるのに!」
「オレだって、放課後は造花作りの内職があるのに!」
「お前達に必要なのは、補習だっ、補習!!」
放課後の予定がおじゃんになる事に抗議するが、半助の目が三角になっている。若干、目が血走っていた。毎日毎回毎度、一年は組の中でもピカイチで厄介なトリオを見て、他のは組の子ども達がまだ自分達はマシだと、ホッと胸を撫で下ろしていた。ちなみに、満点は一人もおらず、最高得点は庄左ヱ門の九点だったと、きり丸は後で知ったのだった。
そして、放課後。
てっきり、一年は組の教室で半助に大量の漢字の書き取りをさせられるとばかり思い、憂鬱な気分で臨んだ補習に、何と澪がいた。
曰く。
「土井先生の胃の調子が本格的によくなみたいなので、土井先生に代わって今日はわたしが三人の補習をしますね」
との事らしい。
きり丸は預かり知らなぬ事だが、ここの所、半助は通常の仕事に加え、心底惚れた愛する澪という悩ましい片思い相手の絡む案件に、胃が度重なるストレスによるダメージを受けており、トドメにいつもの一年は組の胃と頭の痛くなる現状に、遂に胃が悲鳴を上げて胃だけでなく背中や肩まで痛み出したため、見かねた校医の新野から今日の仕事にドクターストップがかかってしまった次第であった。
「三人は、頑張ったらご褒美をあげますから、再テストで五点以上を目ざして勉強しましょう。勿論、最初のテストと問題は変えるので、あしからず」
「ご褒美だぁ、頑張りマース!!」
ご褒美をあげるという甘美な響に、きり丸のドケチ魂が反応する。ましてや、くれる相手は澪なのだ。尚更である。
そして、早速、補習が開始された。半助が出すと言っていた漢字ドリルの範囲の文字を、今度は澪が教えてくれる。
「はい、この漢字。票という字は木辺がつくと標となり、意味が代わります。票の字は小さな用紙や、札といった意味がありますが、標になると目印やしるす、という意味になります。よく使われる熟語はこれで……」
澪が黒板に文字を聞いていく。
とはいえ、半助とは違い慣れていないため途中から黒板の文字が下がっていっているも、字自体は綺麗で見やすい。
半助の授業も丁寧で分かりやすい、と、一年は組の学級委員もとい、良心でもある庄左ヱ門は評価するが、澪の授業も負けてないと思う。
そして、澪の授業を一通り受け終わった後の小テストの結果は……。
「やったー!七点だぁっ」
「ぼくも六点だ。目標達成っ。きり丸は?」
点が上がった二人が大喜びしている。きり丸はと言うと、返ってきた答案用紙を前に小さく震えた。
「ま、満点。オレ、満点だ……!」
最後の漢字があってるか、少し不安だったが見事に満点だ。澪が花丸を書いてくれて、よく出来ましたとメッセージまで書いてある。
恋って凄い。
きり丸はそう素直に思った。澪が補習をしてくれるなら、乱太郎達よりいい点数が欲しいと思って必死になった結果である。
ちなみに、きり丸本人の頭は悪くなく手先も器用でポテンシャルは高い。アルバイト漬けで居眠りが多っかたりするせいで、まともに勉強が捗っていないだけである。
なので、澪に限らずきちんと勉強をするよう指導すれば、は組の大ボケトリオの中では一番伸び代があったりするのだが、本人はそんな事より銭儲けに必死のため、ご覧の有様なのである。
「読み書きは、記憶力が相当良くない限りは頭と体に染み込ませるしかありません。沢山文字を読んで、とにかく書くんです。同じ漢字ばかり書いているよりは、熟語を複数書いて意味を意識しながら、練習するといいと思いますよ。読み書きが堪能になれば、それだけ大人になった時に色んな文字が読めるようになるので、あらゆる仕事において重宝するでしょう。皆さん、頑張りましたね」
きり丸の満点を知り、乱太郎としんベヱが凄いと褒める傍ら、澪から締めくくりの言葉があった。
漢字のやり直しの小テストだが、満点なんてまず無い事だ。嬉し過ぎて答案用紙を、ギュッと抱きしめる。
「はい、それじゃご褒美です。三人で仲良く分けて食べるように」
澪が笑顔のまま、ご褒美だと包み紙を差し出した。中を開けると、そこには……。
「あっ、小さいボーロだ!」
「卵ボーロって言うんですよ。わたしの手作りです。割れやすいですけど、美味しいので食べてみてください」
コロコロと小さな白いボーロが入っていた。真っ先にボーロだと言い当てたのはしんベヱだ。流石は食いしん坊。それにしても、ボーロの一つ一つが可愛らしい。
試しに、一つ手に取って口にいれると、砕けるや否やしゅわっと溶けて無くなった。ほんのりと優しい甘さか口の中に残る。
「美味しい……!」
ひとつ食べた感想を澪に伝えると、嬉しそうに頷かれた。
「それは良かった」
澪がフワリと笑う。ドキドキして、口の中に広がるボーロみたいだと思った。優しく残る甘さが、まるで澪そのものだ。また食べたくなる、そういう味である。
澪は補習を終えると、事務室の手伝いがあるとかで去ってしまった。残されたきり丸は、乱太郎達と長屋の自室に戻ってから、貰ったボーロを仲良く分けて味わった。
「本当、澪さんって何でも出来るよね。羨ましい……」
「料理も上手だもんね。んー、卵ボーロ、美味しい!」
乱太郎がしみじみと呟く傍ら、しんベヱが満面の笑顔でボーロを食べていた。
「だよな、流石は澪さんって感じだぜ」
「きりちゃんは、本当に澪さん好きだよね」
「あぁ……そうだな。オレ、澪さんが本当に大好きだ」
和やかに言う乱太郎に、少し前なら照れくさく頷いていただろう。だが、今はあっさり肯定出来てしまう。何だか擽ったい気持ちはあるが、それ以上に好きだと言う気持ちの方が大きかったからだ。
きり丸が真面目に答えたせいか。
乱太郎としんベヱが、ボーロを食べる手を止めてお互いに顔を見合せた。
「ねぇ……きり丸。ひょっとして、本当の本当に真面目な話、澪さんが好き、とか?」
乱太郎が、少し戸惑ったような顔で声をかけてきた。まだ十歳だが、色恋がどういう物かくらいは何となく知っている。女子ではないから、そういう話題を好むわけではないが、何かくらいは分かるのだろう。しんベヱはと言うと、キョトンとした顔をしていた。
てっきり、しんベヱは呆けているのなとおもいきや。
「え、きり丸も土井先生と一緒ってこと」
まさかの核心を突く一言。きり丸は、次の一粒にと食べようとした卵ボーロを指で砕きそうになった。
危ない危ない。
「しんベヱ、土井先生と一緒って……」
「土井先生は、澪さんの事大好きだよね。見てたら分かるよ。きり丸も同じなんでしょ。だって、二人が澪さんを見る顔、そっくりだもん。あ、七松先輩もだよね」
乱太郎が眼鏡の分厚いレンズの下で、思い切り目を見開いていた。いつものんびり、のほほんとしたしんベヱからは想像もつかない観察眼である。
乱太郎の方は、気付いてなかったようで固まっていた。
「澪さんって、モテモテだよね。本人は気にしてないというか、気がついてないというか……。あ、澪さんって自分の事には意外と鈍いとか?」
「すげぇな、しんベヱ。意外だぜ、鋭いんだな」
「えへへー。それ程でもぉ」
てれっ、となるしんベヱの鼻の穴からタラっと鼻水が垂れた。イマイチ締まりがない。一方で乱太郎が何故か慌てた様子で声を上げた。
「ちょっと、待ってよ。そしたら、きりちゃんは土井先生と、こ、恋のライバルになるよね?」
「あー、確かにそうなるな。でも、オレ、澪さんの事、女の子として好きだけど付き合って欲しいとか頼むつもりないぜ。恋人とかよく分かんねぇし。今のオレは見ての通り忍たまだしな」
「えっ、何それ。そしたら、きりちゃんは土井先生が澪さんとくっついてもいいって事?応援するの?」
「そんなわけねーじゃん」
乱太郎の問いを、きり丸は即座に否定した。
「オレは土井先生も、ましてや七松先輩も応援する気はねぇぜ。オレは澪さんが好きなんだぞ」
「じゃあ、邪魔するの?」
「分かってんじゃん、しんベヱ」
ニヤリ、ときり丸は笑う。
「今のオレが澪さんと付き合えるとかは思ってないけど、だからって何にもしないで、タダで取られるのも嫌だからな」
「……それ、性格悪いよ。きりちゃん」
「好きに言えよ。乱太郎も、好きな女の子が出来たらオレの気持ちが分かるはずだ」
「あー、ぼくはちょっと分かるかも?」
まさかのしんベヱが、きり丸に同意して頷いた。乱太郎は、何か言いたげな眼差しをきり丸へと向けてため息をついている。
「二人とも、余計な事を土井先生に言うなよ。この事はオレの口から早ければ土井先生に週末にちゃんと言うつもりだからな」
二人にそう言うと、しんベヱも乱太郎も顔を見合せた後、ややあって頷いた。
「きり丸、頑張ってね!」
「わたしは、土井先生が気の毒になって来たよ……」
二人の言葉に笑いながら、きり丸は残った最後の卵ボーロを一つ口に放り込む。蕩ける優しい甘さに、作ってくれた澪を思う。
大好きな優しい澪。
そのうち、この気持ちを伝えよう。そして、実らないと分かっているからこそ、澪の事を好きな、彼女と結ばれるかもしれない男達の邪魔くらいはさせてほしい。
身勝手かもしれないが、その位は許してほしい。だって、最初に忍術学園で澪と出会ったのは、きり丸なのだ。
自分が見つけた美しい宝のような女性を、はいどうぞとタダでやる間抜けになるのだけはドケチの名にかけて、絶対に御免だった。
