第7話 ハマってください
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半助が綾部喜八郎に用意したガス抜き作戦は、授業の準備を終えた後にすぐさま学園長に報告され、話を聞いた大川平次渦正その人は良い案だと頷いた。
そして。
「どうせなら、他の四年生達にも声をかけてやる気のある者に参加させよ。綾部喜八郎だけでは、手が足りん可能性もあるし、最近はこの近辺によからぬ輩が増えておるようだからの。落とし穴だけでなく、他にも罠を仕掛けさせれば勉強になるじゃろ。監督と護衛には澪ちゃんと、上級生にでも行かせるとしよう」
との事だった。半助が発案者でもあるので、それなら自分も行くと申し出ていたが、先日の鵺捕獲の一件もあるし仕事もあるのだから今回は上級生に頼んで学園に残るよう言い渡されてしまい、何だか残念そうであった。
「はぁ…… 澪さん。大丈夫だとは思うが気をつけてくれ。特に上級生と二人きりにならぬように。歳の近い男女なんだから」
「はいはい、分かってますって。まぁ、ないと思うけど変な気を起こされたら軽くお灸を据えておくから」
今のところ、澪に鼻の下を伸ばして口説いてくるような忍たまは居ない。
裸を見た文次郎と留三郎でさえ、皆の前で澪に倒されてからは反応しなくなっている。小平太が良く引っ付いて来る気はするが、スキンシップだと思えば可愛い物だし、特別に警戒するような接触は今の所ないと澪は感じている。
山賊の事で心配しているのといい、半助は心配性だ。一年は組の担任をしているせいか、元々の性格なのかは謎である。
それから。
澪は、半助と一緒に声をかけるために二人で綾部喜八郎を探した。四年生は現在、手裏剣等の投擲武器の練習中と聞いて修練場に行くと紫色の忍者服を纏った少年達が、各々手裏剣等を手に取って投げていた。
「ふんっ!」
滝夜叉丸が人差し指で戦輪をぐるぐる回して投げている。真ん中に穴が空いているとはいえ、周囲は刃のため中々に扱いが難しい道具である。それが滝夜叉丸の手にかかると、ブーメランのように飛んでまた元の位置ーーすなわち、彼の指先に戻ってくる。
他の四年生達も色んな投擲武器を使って、的に当てたり或いは的を破壊している。流石は上級生になる学年のため、下級生達とは趣が異なる。
「わぁー」
どんな材料を使っているかは知らないが、おそらくは染めてあるのだろうーー金髪という、戦国ではまずありえない髪色の少年が澪と半助を見て声を上げた。
彼の名前は斉藤タカ丸。何でも生家が髪結屋らしく、元々は代々忍者をしていた家系という理由で珍しく編入生として四年生に在籍する生徒である。そのため、年齢は澪や六年生と同じであり、四年生の中にあって背が高いため髪色もあって目立つ。彼の名前を澪は一方的に知っていた。
「土井先生、澪さんじゃないですか。どうしたんですか?あ、澪さんは初めましてですね。斉藤タカ丸です。タカ丸って呼んでください。あと、今度、是非髪を結わせてください。澪さんの髪、凄く綺麗だから一度触ってみたくて」
忍術学園に入るまでは、髪結屋を目ざしていたというタカ丸らしい挨拶である。
「タカ丸くん、髪結がとても上手だというお話はくのたまの子達から聞いて知っています。くのたまの子達がいつもお世話になっています。澪です。わたしの髪でよろしければ、是非結ってくださいね」
「はーい。あ、土井先生も、ぼくが我慢出来なくなる前にいい加減、髪をお手入れしてくださいね」
「はは、善処する」
タカ丸は実家で髪結を今でもやっていることから、度々くのたま達に追いかけられては髪結をお願いされている。確かに、彼の手によってアレンジされた髪型になったくのたま達は皆可愛かった。
金髪である事といい、ファッションセンスが現代的であることといい、髪結だけあって美的感覚が先進的である。
半助の傷んだ前髪を見て、鋭く目を細めている理由も髪結屋らしい。タカ丸は編入生のため、授業の内容を補うため低学年の授業にも参加するので、澪も挨拶こそした事はないが見かけた事が何度もある。
「タカ丸、悪いんだが綾部喜八郎を呼んできてくれるか。それと、ここに居る四年生達にも話がある」
「分かりました。少しお待ちください」
半助の指示に頷くと、タカ丸は投擲武器の練習をしていた四年生達に声を掛けて集めてくれた。半助と澪の姿を見て全員、首を傾げている。
「綾部喜八郎、お前を筆頭に四年生に学園長からの指示つまり忍務がある」
「はぁ、ぼくを筆頭に忍務ですかー?」
こてん、と首を傾げる少年がいた。色素の薄い髪と瞳に少女と言われても遜色ない顔立ち。まさかの穴掘り小僧は、かなりの美少年だった。その美少年ーー綾部は澪と半助を交互に見ている。
「ここの所、どこぞから悪人共が流れて来ているのか忍術学園近辺の治安が悪いようだ。近隣の村等に出向き、山賊や破落戸達対策に落とし穴等の罠を仕掛けて治安維持に協力してくるように。ここに、学園長から村の代表者達に宛てた書状があるから、それを持って村々に出向くように。なお、監督役兼護衛として澪さんとついていける上級生も行くことになる。喜八郎は絶対参加だが、他の者は希望制だ」
半助が趣旨を説明すると、四年生が顔を見合せた。
「土井先生の話を聞いて参加をしたい方は、わたしとこの後に簡単な打ち合わせをしましょう。投擲武器の訓練が終わるまでに、わたしは同行できそうな上級生を探して来ますので」
「と、いうことだ。参加希望者はいるか?」
半助が四年生を見渡すと、タカ丸が手を挙げた。
「はーい、ぼくもやります。罠をはる訓練にもなりそうですし」
「わたしはそんな地味な作業は遠慮しておきます。何せ、戦輪の訓練をする方が美しいわたしには相応しいので!」
「わたしは参加します。ユリコとの訓練も大事ですが、滝夜叉丸のように恐れを成して逃げるような真似はしたくありませんので」
タカ丸が参加表明した後で滝夜叉丸がやたらキラキラして断ると、もう一人の四年生がキツイ事を言って滝夜叉丸を批難しつつ、参加を申し出て来た。言葉に刺があるが、こちらの少年の顔も喜八郎と負けず劣らず可愛らしい。
その少年と目が合うと、にこりと人好きのする笑顔を浮かべられた。
「ご挨拶は初めましてですね澪さん!わたしは四年ろ組は成績優秀にして、石火矢を筆頭に過激な火器を使わせたらナンバーワンの忍たま、忍術学園のアイドル田村三木ヱ門と言います。どうぞ、三木ヱ門とお呼びください。以後お見知り置きを」
役者じみた言葉と挨拶を聞いて澪は直ぐに分かったーー成程、滝夜叉丸と同類か。
道理で滝夜叉丸に対し、キツイ事を言うわけだと理解する。
「わたしは恐れを成して等いない!いいだろう、ならばどちらがより素晴らしい罠を仕掛けられるか、勝負だ田村三木ヱ門!」
「ふんっ、いいだろう。過激な火器以外にも優れているわたしの実力を思い知るがいい滝夜叉丸!」
「つまりは、ここに居る皆参加って事だね。頑張ろうー」
「おおー」
まるで、六年生の犬猿コンビでも見ているかのようだ。滝夜叉丸と三木ヱ門の場合、同族同士故の反発と見た。
美少年二人が火花を散らすその横で、マイペースな雰囲気を放つタカ丸と喜八郎を見た澪は、四年生の手綱を握れそうな上級生として、一体誰が適当なのかーー居たとして、果たしてその忍たまの都合がつくのか、早くも悩むのだった。
+++++
「ーーと、まぁそういうわけでして。どなたか四年生の綾部くんと他の子達の監督兼護衛役として、わたしと出かけてくれませんか?」
投擲訓練の間に、澪は急いで最上級生である六年生達のうち、文次郎、小平太、長次らへ声掛けをした。
仙蔵は今日は個別課題の実習のため、夜まで不在である。
伊作は落とし穴に落ちた下級生達の手当て、留三郎は穴埋め作業に忙しく声掛けは躊躇われた。偶然、校庭で鍛錬中の三人を見かけたので声を掛けた次第である。
「勿論だぞ!」
「もそ、手が多い方がいいだろうから行こう」
「すまないが、オレは会計委員会で管理している帳簿が合わなくてな。明日から、空いている時間は計算合わせにあてたい」
一番に元気よく頷いてくれる小平太。長次も頷いてくれたが、文次郎は生憎とタイミングが悪かった。
とはいえ、六年生が二人も来てくれたら十分だろう。
「そう言えば…… 澪さん。伊作が、ファン倶楽部とやらに入るとか何とか言っていたんだが、そんな物があるのか」
「っぐふ」
文次郎から、いきなり問いかけられた澪はくぐもった女らしくない声を上げた。せっかくの綺麗な顔が台無しである。
「ファン倶楽部?何だそれは?」
「何でも、くのたま達が主に会員になっている澪さんのファン倶楽部があるらしい。山本シナ先生も加入してて、勧められたから伊作と保健委員一年の鶴町伏木蔵が入会するそうだ」
「ほー……」
じーっと、小平太の真ん丸な瞳が凝視してくるのを、澪は気まずくなって目を逸らした。
「その顔は、澪さんが快く許可した集まりではないんだな。止めさせないのか?」
「……シナ先生もいるなら、変なことにはならないでしょう。それに、慕われてると思えば強くも言えませんから」
「ふぅん、気に入らなければ解散させればいいのに。澪さんは優しいんだな!」
小平太は無邪気に言うが、その発言の中身は中々に容赦がない。リアリストというべきか。
「何か娯楽があるに越した事はないですからね。まぁ、わたしでいいなら……もう、好きにしてくれたら」
「澪さんも大変だな。留三郎の奴が伊作がおかしくなったって愚痴ってたからな。もし、アイツがその事で澪さんに突っかかりに来たら、オレに言ってくれ。ギンギンにお灸を据えておくからな」
「アハハ……ありがとうございます。文次郎くん」
単に留三郎と喧嘩をしたいだけではないのかと疑う科白である。仲が良いのやら悪いのやら。先程、滝夜叉丸と三木ヱ門のやり取りを見て来ただけに、苦笑いする澪である。
「それじゃあ、上級生の同行者は長次くんと小平太くんということで。では、早速打ち合わせを……」
「はいはーい!それって、五年生も同行できたりしますかー?」
澪が引率者も決まった事だし、さっさと仕事の話をしようとすると元気な声が乱入した。振り向くと、そこには五年生の尾浜勘右衛門と久々知兵助がいた。
「何だ、二人とも。話を盗み聞きしているだけかと思ったら混ざりたくなったのか。この程度の忍務なら危険は少ない。澪さんもいるし、わたし達だけで十分だぞ」
盗み聞きしているなんて、澪にはちっとも分からなかった。前に鵺退治の一件の時に職員室に忍び込んできた小平太達にも気付けなかったし、忍たま上級生達は流石である。これでも、下級生やくのたま達なら気付けるのだが。
対銃火器の訓練とあわせて、気配察知能力を上げようと地味に決意する澪。なお、ドクタケ忍者に火縄銃で撃たれてからというもの、シナと話し合って少しずつ訓練をしている。今の澪は正面から複数の火縄銃による攻撃なら、弾丸を見切って避けて反撃が出来るため、問題は見えない位置からの狙撃である。
その時点で、既に十分に人間離れしている澪なのだが、無自覚に更なる化け物への道を歩む気満々であった。ファン倶楽部のメンバーと利吉が、きゃあきゃあ騒ぎそうな案件である。
「えー、そんな冷たい事言わないでくださいよ、七松先輩。オレ達も澪さんと一緒に外での活動に参加したいんです。それに、一日で終わる話じゃないなら交代で事にあたる方が効率がいいでしょう。どうです澪さん、悪くない話でしょう」
「えぇ、まぁ……学園長が村の長に宛てた書状は複数ありますから。数日はかかるので、六年生達への負担軽減にもなりますし有難いと言えば有難いのですが」
「ふふ、なら決まり!オレと兵助に先輩方が交代で忍務にあたるって事でよろしく澪さんっ」
パチンと、勘右衛門にウィンクされる。その後ろでは兵助が「よろしくお願いします」と笑顔で頭を下げていた。
「むぅー……」
「小平太、あからさま過ぎるぞ」
「澪さんとわたし達だけでいいのに。面白くないぞ」
「もそ、澪さんは人気だからな」
澪には聞こえないよう、長次と小平太が小さな声でそんなやり取りをしていたのだった。
その後、澪は協力してくれる事になった四人の上級生達を連れて四年生達の元に向かった。半助はどうやら言伝を終えて職場に戻ったようで姿はなく、代わりに四年生達が揃っていたので、早速、忍術学園近辺の地図を持ち出して作戦会議となった。
と言っても、行く先は決まっているので順番と日程を決める程度である。
「書状は全部で三つ。つまりは三つの村に落とし穴等の罠を仕掛けます。学園周辺にある近隣の村の長達に宛てられたこれらの書状には、学園長のお名前が書かれている物はなく、全て外向きに対する偽名です。つまり、今回の忍務にあたってはわたし達が忍術学園の関係者である事は伏せられているという事を前提として頂く必要があります。忍者とバレるような行動は厳に慎む事とします。さて、地図はこの近辺の物となりますので、ご存じの方もいると思いますがーーこれに」
澪は学園長から預かった資料の地図を広げた。ちなみに、書状に学園長の名前は確かに書かれてはいないが、偽名である事を知る近隣の有力者はそれなりにおり、その名前を知る人が見れば大川平次渦正その人を指すと分かる仕様になっている。学園長は、この偽名を使い分けて使者を送ったりという事が多々あるのだ。
また、村には平忍者が混ざっていたりもする。これは何処へ行ってもある可能性の話だ。忍者をやめて帰農する者だって多いのである。
今回の任務は、そうした忍者の事を知る者ではなく、あくまでも一般人に対する不安を煽らぬようにする措置の部分が大きい。
この事に気づいたのは五年生と六年生の四人だ。四年生が素直に指示を黙って聞いている隣で、頷く以外の表情を見せている。経験値の差が出る様子が見て取れた。
「村の規模はどれも差はなく、学園からの距離も似たような物です。特に異論がなければ、破落戸等の目撃情報が多い場所から近い所を優先していこうと思いますが、如何でしょうか」
「オレは澪さんの案で問題ないと思う。皆は?」
小平太が頷くと、全員から特に異論は出なかった。なので、そのまま澪は話を進める。
「では、明日からの忍務開始でお願いします。わたしは今から念の為、先に村に行って最新の情報を得るために聞き込みをして来ます。女が混じっていては悪目立ちするので、今回、わたしは男装します。皆さん、わたしの事は伝助と呼ぶように」
伝助姿の澪はそれなりに目立つが、四年生の三木ヱ門達を筆頭に他に美少年達がいるなら、一人だけやたら目につく事もないだろう。
「澪さん、その伝助って偽名……ひょっとして、土井先生と山田先生から取ったんですか?」
「そうです。いい名前でしょうタカ丸くん」
由来がすぐ分かる名前に苦笑いするタカ丸に、にこりと笑う澪。
男装と聞いて、小平太と勘右衛門の顔がワクワクしているように見えるのは気のせいか。
「では、皆さん明日からよろしくお願いしますね」
ーー後に、澪の男装姿にファン倶楽部の主メンバーであるくのたま達が狂喜したのは言う間でもない。
そして。
「どうせなら、他の四年生達にも声をかけてやる気のある者に参加させよ。綾部喜八郎だけでは、手が足りん可能性もあるし、最近はこの近辺によからぬ輩が増えておるようだからの。落とし穴だけでなく、他にも罠を仕掛けさせれば勉強になるじゃろ。監督と護衛には澪ちゃんと、上級生にでも行かせるとしよう」
との事だった。半助が発案者でもあるので、それなら自分も行くと申し出ていたが、先日の鵺捕獲の一件もあるし仕事もあるのだから今回は上級生に頼んで学園に残るよう言い渡されてしまい、何だか残念そうであった。
「はぁ…… 澪さん。大丈夫だとは思うが気をつけてくれ。特に上級生と二人きりにならぬように。歳の近い男女なんだから」
「はいはい、分かってますって。まぁ、ないと思うけど変な気を起こされたら軽くお灸を据えておくから」
今のところ、澪に鼻の下を伸ばして口説いてくるような忍たまは居ない。
裸を見た文次郎と留三郎でさえ、皆の前で澪に倒されてからは反応しなくなっている。小平太が良く引っ付いて来る気はするが、スキンシップだと思えば可愛い物だし、特別に警戒するような接触は今の所ないと澪は感じている。
山賊の事で心配しているのといい、半助は心配性だ。一年は組の担任をしているせいか、元々の性格なのかは謎である。
それから。
澪は、半助と一緒に声をかけるために二人で綾部喜八郎を探した。四年生は現在、手裏剣等の投擲武器の練習中と聞いて修練場に行くと紫色の忍者服を纏った少年達が、各々手裏剣等を手に取って投げていた。
「ふんっ!」
滝夜叉丸が人差し指で戦輪をぐるぐる回して投げている。真ん中に穴が空いているとはいえ、周囲は刃のため中々に扱いが難しい道具である。それが滝夜叉丸の手にかかると、ブーメランのように飛んでまた元の位置ーーすなわち、彼の指先に戻ってくる。
他の四年生達も色んな投擲武器を使って、的に当てたり或いは的を破壊している。流石は上級生になる学年のため、下級生達とは趣が異なる。
「わぁー」
どんな材料を使っているかは知らないが、おそらくは染めてあるのだろうーー金髪という、戦国ではまずありえない髪色の少年が澪と半助を見て声を上げた。
彼の名前は斉藤タカ丸。何でも生家が髪結屋らしく、元々は代々忍者をしていた家系という理由で珍しく編入生として四年生に在籍する生徒である。そのため、年齢は澪や六年生と同じであり、四年生の中にあって背が高いため髪色もあって目立つ。彼の名前を澪は一方的に知っていた。
「土井先生、澪さんじゃないですか。どうしたんですか?あ、澪さんは初めましてですね。斉藤タカ丸です。タカ丸って呼んでください。あと、今度、是非髪を結わせてください。澪さんの髪、凄く綺麗だから一度触ってみたくて」
忍術学園に入るまでは、髪結屋を目ざしていたというタカ丸らしい挨拶である。
「タカ丸くん、髪結がとても上手だというお話はくのたまの子達から聞いて知っています。くのたまの子達がいつもお世話になっています。澪です。わたしの髪でよろしければ、是非結ってくださいね」
「はーい。あ、土井先生も、ぼくが我慢出来なくなる前にいい加減、髪をお手入れしてくださいね」
「はは、善処する」
タカ丸は実家で髪結を今でもやっていることから、度々くのたま達に追いかけられては髪結をお願いされている。確かに、彼の手によってアレンジされた髪型になったくのたま達は皆可愛かった。
金髪である事といい、ファッションセンスが現代的であることといい、髪結だけあって美的感覚が先進的である。
半助の傷んだ前髪を見て、鋭く目を細めている理由も髪結屋らしい。タカ丸は編入生のため、授業の内容を補うため低学年の授業にも参加するので、澪も挨拶こそした事はないが見かけた事が何度もある。
「タカ丸、悪いんだが綾部喜八郎を呼んできてくれるか。それと、ここに居る四年生達にも話がある」
「分かりました。少しお待ちください」
半助の指示に頷くと、タカ丸は投擲武器の練習をしていた四年生達に声を掛けて集めてくれた。半助と澪の姿を見て全員、首を傾げている。
「綾部喜八郎、お前を筆頭に四年生に学園長からの指示つまり忍務がある」
「はぁ、ぼくを筆頭に忍務ですかー?」
こてん、と首を傾げる少年がいた。色素の薄い髪と瞳に少女と言われても遜色ない顔立ち。まさかの穴掘り小僧は、かなりの美少年だった。その美少年ーー綾部は澪と半助を交互に見ている。
「ここの所、どこぞから悪人共が流れて来ているのか忍術学園近辺の治安が悪いようだ。近隣の村等に出向き、山賊や破落戸達対策に落とし穴等の罠を仕掛けて治安維持に協力してくるように。ここに、学園長から村の代表者達に宛てた書状があるから、それを持って村々に出向くように。なお、監督役兼護衛として澪さんとついていける上級生も行くことになる。喜八郎は絶対参加だが、他の者は希望制だ」
半助が趣旨を説明すると、四年生が顔を見合せた。
「土井先生の話を聞いて参加をしたい方は、わたしとこの後に簡単な打ち合わせをしましょう。投擲武器の訓練が終わるまでに、わたしは同行できそうな上級生を探して来ますので」
「と、いうことだ。参加希望者はいるか?」
半助が四年生を見渡すと、タカ丸が手を挙げた。
「はーい、ぼくもやります。罠をはる訓練にもなりそうですし」
「わたしはそんな地味な作業は遠慮しておきます。何せ、戦輪の訓練をする方が美しいわたしには相応しいので!」
「わたしは参加します。ユリコとの訓練も大事ですが、滝夜叉丸のように恐れを成して逃げるような真似はしたくありませんので」
タカ丸が参加表明した後で滝夜叉丸がやたらキラキラして断ると、もう一人の四年生がキツイ事を言って滝夜叉丸を批難しつつ、参加を申し出て来た。言葉に刺があるが、こちらの少年の顔も喜八郎と負けず劣らず可愛らしい。
その少年と目が合うと、にこりと人好きのする笑顔を浮かべられた。
「ご挨拶は初めましてですね澪さん!わたしは四年ろ組は成績優秀にして、石火矢を筆頭に過激な火器を使わせたらナンバーワンの忍たま、忍術学園のアイドル田村三木ヱ門と言います。どうぞ、三木ヱ門とお呼びください。以後お見知り置きを」
役者じみた言葉と挨拶を聞いて澪は直ぐに分かったーー成程、滝夜叉丸と同類か。
道理で滝夜叉丸に対し、キツイ事を言うわけだと理解する。
「わたしは恐れを成して等いない!いいだろう、ならばどちらがより素晴らしい罠を仕掛けられるか、勝負だ田村三木ヱ門!」
「ふんっ、いいだろう。過激な火器以外にも優れているわたしの実力を思い知るがいい滝夜叉丸!」
「つまりは、ここに居る皆参加って事だね。頑張ろうー」
「おおー」
まるで、六年生の犬猿コンビでも見ているかのようだ。滝夜叉丸と三木ヱ門の場合、同族同士故の反発と見た。
美少年二人が火花を散らすその横で、マイペースな雰囲気を放つタカ丸と喜八郎を見た澪は、四年生の手綱を握れそうな上級生として、一体誰が適当なのかーー居たとして、果たしてその忍たまの都合がつくのか、早くも悩むのだった。
+++++
「ーーと、まぁそういうわけでして。どなたか四年生の綾部くんと他の子達の監督兼護衛役として、わたしと出かけてくれませんか?」
投擲訓練の間に、澪は急いで最上級生である六年生達のうち、文次郎、小平太、長次らへ声掛けをした。
仙蔵は今日は個別課題の実習のため、夜まで不在である。
伊作は落とし穴に落ちた下級生達の手当て、留三郎は穴埋め作業に忙しく声掛けは躊躇われた。偶然、校庭で鍛錬中の三人を見かけたので声を掛けた次第である。
「勿論だぞ!」
「もそ、手が多い方がいいだろうから行こう」
「すまないが、オレは会計委員会で管理している帳簿が合わなくてな。明日から、空いている時間は計算合わせにあてたい」
一番に元気よく頷いてくれる小平太。長次も頷いてくれたが、文次郎は生憎とタイミングが悪かった。
とはいえ、六年生が二人も来てくれたら十分だろう。
「そう言えば…… 澪さん。伊作が、ファン倶楽部とやらに入るとか何とか言っていたんだが、そんな物があるのか」
「っぐふ」
文次郎から、いきなり問いかけられた澪はくぐもった女らしくない声を上げた。せっかくの綺麗な顔が台無しである。
「ファン倶楽部?何だそれは?」
「何でも、くのたま達が主に会員になっている澪さんのファン倶楽部があるらしい。山本シナ先生も加入してて、勧められたから伊作と保健委員一年の鶴町伏木蔵が入会するそうだ」
「ほー……」
じーっと、小平太の真ん丸な瞳が凝視してくるのを、澪は気まずくなって目を逸らした。
「その顔は、澪さんが快く許可した集まりではないんだな。止めさせないのか?」
「……シナ先生もいるなら、変なことにはならないでしょう。それに、慕われてると思えば強くも言えませんから」
「ふぅん、気に入らなければ解散させればいいのに。澪さんは優しいんだな!」
小平太は無邪気に言うが、その発言の中身は中々に容赦がない。リアリストというべきか。
「何か娯楽があるに越した事はないですからね。まぁ、わたしでいいなら……もう、好きにしてくれたら」
「澪さんも大変だな。留三郎の奴が伊作がおかしくなったって愚痴ってたからな。もし、アイツがその事で澪さんに突っかかりに来たら、オレに言ってくれ。ギンギンにお灸を据えておくからな」
「アハハ……ありがとうございます。文次郎くん」
単に留三郎と喧嘩をしたいだけではないのかと疑う科白である。仲が良いのやら悪いのやら。先程、滝夜叉丸と三木ヱ門のやり取りを見て来ただけに、苦笑いする澪である。
「それじゃあ、上級生の同行者は長次くんと小平太くんということで。では、早速打ち合わせを……」
「はいはーい!それって、五年生も同行できたりしますかー?」
澪が引率者も決まった事だし、さっさと仕事の話をしようとすると元気な声が乱入した。振り向くと、そこには五年生の尾浜勘右衛門と久々知兵助がいた。
「何だ、二人とも。話を盗み聞きしているだけかと思ったら混ざりたくなったのか。この程度の忍務なら危険は少ない。澪さんもいるし、わたし達だけで十分だぞ」
盗み聞きしているなんて、澪にはちっとも分からなかった。前に鵺退治の一件の時に職員室に忍び込んできた小平太達にも気付けなかったし、忍たま上級生達は流石である。これでも、下級生やくのたま達なら気付けるのだが。
対銃火器の訓練とあわせて、気配察知能力を上げようと地味に決意する澪。なお、ドクタケ忍者に火縄銃で撃たれてからというもの、シナと話し合って少しずつ訓練をしている。今の澪は正面から複数の火縄銃による攻撃なら、弾丸を見切って避けて反撃が出来るため、問題は見えない位置からの狙撃である。
その時点で、既に十分に人間離れしている澪なのだが、無自覚に更なる化け物への道を歩む気満々であった。ファン倶楽部のメンバーと利吉が、きゃあきゃあ騒ぎそうな案件である。
「えー、そんな冷たい事言わないでくださいよ、七松先輩。オレ達も澪さんと一緒に外での活動に参加したいんです。それに、一日で終わる話じゃないなら交代で事にあたる方が効率がいいでしょう。どうです澪さん、悪くない話でしょう」
「えぇ、まぁ……学園長が村の長に宛てた書状は複数ありますから。数日はかかるので、六年生達への負担軽減にもなりますし有難いと言えば有難いのですが」
「ふふ、なら決まり!オレと兵助に先輩方が交代で忍務にあたるって事でよろしく澪さんっ」
パチンと、勘右衛門にウィンクされる。その後ろでは兵助が「よろしくお願いします」と笑顔で頭を下げていた。
「むぅー……」
「小平太、あからさま過ぎるぞ」
「澪さんとわたし達だけでいいのに。面白くないぞ」
「もそ、澪さんは人気だからな」
澪には聞こえないよう、長次と小平太が小さな声でそんなやり取りをしていたのだった。
その後、澪は協力してくれる事になった四人の上級生達を連れて四年生達の元に向かった。半助はどうやら言伝を終えて職場に戻ったようで姿はなく、代わりに四年生達が揃っていたので、早速、忍術学園近辺の地図を持ち出して作戦会議となった。
と言っても、行く先は決まっているので順番と日程を決める程度である。
「書状は全部で三つ。つまりは三つの村に落とし穴等の罠を仕掛けます。学園周辺にある近隣の村の長達に宛てられたこれらの書状には、学園長のお名前が書かれている物はなく、全て外向きに対する偽名です。つまり、今回の忍務にあたってはわたし達が忍術学園の関係者である事は伏せられているという事を前提として頂く必要があります。忍者とバレるような行動は厳に慎む事とします。さて、地図はこの近辺の物となりますので、ご存じの方もいると思いますがーーこれに」
澪は学園長から預かった資料の地図を広げた。ちなみに、書状に学園長の名前は確かに書かれてはいないが、偽名である事を知る近隣の有力者はそれなりにおり、その名前を知る人が見れば大川平次渦正その人を指すと分かる仕様になっている。学園長は、この偽名を使い分けて使者を送ったりという事が多々あるのだ。
また、村には平忍者が混ざっていたりもする。これは何処へ行ってもある可能性の話だ。忍者をやめて帰農する者だって多いのである。
今回の任務は、そうした忍者の事を知る者ではなく、あくまでも一般人に対する不安を煽らぬようにする措置の部分が大きい。
この事に気づいたのは五年生と六年生の四人だ。四年生が素直に指示を黙って聞いている隣で、頷く以外の表情を見せている。経験値の差が出る様子が見て取れた。
「村の規模はどれも差はなく、学園からの距離も似たような物です。特に異論がなければ、破落戸等の目撃情報が多い場所から近い所を優先していこうと思いますが、如何でしょうか」
「オレは澪さんの案で問題ないと思う。皆は?」
小平太が頷くと、全員から特に異論は出なかった。なので、そのまま澪は話を進める。
「では、明日からの忍務開始でお願いします。わたしは今から念の為、先に村に行って最新の情報を得るために聞き込みをして来ます。女が混じっていては悪目立ちするので、今回、わたしは男装します。皆さん、わたしの事は伝助と呼ぶように」
伝助姿の澪はそれなりに目立つが、四年生の三木ヱ門達を筆頭に他に美少年達がいるなら、一人だけやたら目につく事もないだろう。
「澪さん、その伝助って偽名……ひょっとして、土井先生と山田先生から取ったんですか?」
「そうです。いい名前でしょうタカ丸くん」
由来がすぐ分かる名前に苦笑いするタカ丸に、にこりと笑う澪。
男装と聞いて、小平太と勘右衛門の顔がワクワクしているように見えるのは気のせいか。
「では、皆さん明日からよろしくお願いしますね」
ーー後に、澪の男装姿にファン倶楽部の主メンバーであるくのたま達が狂喜したのは言う間でもない。
