第7話 ハマってください
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
左を見ても落とし穴、右を見ても落とし穴、前を見ても後ろを見ても落とし穴。四面全て落とし穴という有様を見て、澪はため息をつく。
半助とのデートをし、きり丸を抱っこして忍術学園まで帰宅した休日を終えた、その翌日のこと。
時間が出来たので、伝子から依頼されていた練り香水代わりとなる香りの良い軟膏を作るため、香料を山に取りに行こうとしていた。
ついでに、草花や虫をスケッチして刺繍の図案の参考にしようとしていたのだが。
レースの方はちまちまやって、何とか完成したしようやく軟膏に着手しようと思っていたのに。
「伊作せんぱーい、大丈夫ですか?」
「伏木蔵も大丈夫かい?」
「大丈夫ですけど、穴が深くて這い上がれません。誰も来ないと、このままかと思うと凄いスリルー」
「ぼくもここまで深いのは、縄梯子がないときついな。薬草取りに行くのに苦無は忘れて来たし……嗚呼、ぼくの不運のせいでっ」
どうやら、伊作と同じく保健委員の一年ろ組は鶴町伏木蔵が二人とも仲良く落とし穴に落っこちたらしい。
落とし穴は、保健委員ほいほいのようである。
「……伊作くん、伏木蔵くん、無事ですか」
一体、あと何度、忍たま達を落とし穴から救出する羽目になるやら。
「その声は…… 澪さん!ねぇ、悪いんだけどぼく達を助けてもらえないかな?縄梯子を持ってきてもらえたら」
「分かりました」
仕方なく、澪は用具倉庫から縄梯子を取りに行き二人を救出した。
薬草取りに行くとあって、籠を背負った二人が出てきた。少し土埃がついてしまっているが、怪我はなさそうである。
「澪さんも、山に行くのかい?」
「ええ、まぁ」
「ぼくらも薬草を採取しに行くんです。もし行先が同じなら御一緒しませんか?」
澪も籠を背負っているので、どうせならと誘われた。行く山は近い場所で選ぶつもりだったのだが、不運とか何とか言われる保健委員二名が地味に心配である。
「ええ、喜んで」
スケッチする余裕はないかもしれないな……と思いつつ、澪は笑顔で頷いたのだった。
そして。
案の定と言うか何と言うか。
山につくまでに伏木蔵は鳥の糞が頭に落ちてくるは、伊作はそれを見て慌てて頭を拭いてやろうとしたら、足元を見ていなかったせいでよりにもよって人がしたと思われる便を踏んでしまった。
トイレなんてあちこちにない時代、急にしたくなったら大自然でするのが当たり前である。町中なら厠があったりするのだが、ここは僻地の方だーー油断しているとそういう事もある。
「まぁ、運がついたと思えばーー」
「うぅっ、同じ草履をこれ以上は履きたくないぃ」
「伊作先輩、ぼくの頭を拭いてくれようとしただけなのに……」
澪が上手いことを言って慰めようとしたが、あまり効果はなかった。辺りを見渡すと、人家がそれなりにある。
「はぁ、仕方ありません。伊作くんと伏木蔵くんはここに居てくださいね。草履を手に入れてきます」
草履や縄、それに竹細工は農家の手仕事による作品が多く、路上でよく売られている。指で伊作の足のおおまかなサイズを確認し、澪は二人を残して近くの農家を訪ね、草履を譲ってもらいに走った。
澪が気持ち多めの小銭をチラつかせれば、交渉は直ぐに成立した。山に行くとあって、澪は軽装をしており市女笠もしていない。尋ねた民家の家に住んでいた老人は、澪の美少女ぶりに目を見張り孫の嫁に来ないかとか何とか言ってきたが、執拗いので夫がいますのでと切り抜けた。
「伊作くん、草履を入手したのですが、実はかくかくしかじかで……この辺りの村の人にわたしについて何か聞かれたら、わたしは既婚者だと言う事にしておいてください。草履を売ってくれたお爺さんがしつこかったので、つい」
「わかった、ありがとう澪さん。後でお金は返すよ。草履を手に入れてくれてありがとう。とはいえ、大変だね澪さんも。綺麗だからあちこちで今までも声をかけられてきたんでしょう?」
「ええ、まぁ……そうですね」
恋人、妻、愛人だの、確かにこれまで澪の容姿を見た人から声をかけられた事は多々ある。閉鎖的な村とかだと、気に入った娘を攫って嫁にするのが合法なんて地域もあるので、美人が必ずしもいい物だとは限らない。
美しい娘は、その親に売られたり、又は人攫いにあって矢張り売られたりする事もあるし、有力者の目に留まれば妻や妾になったり、その有力者が殿様なら側室にだってなる可能性が普通の娘より高くなる。
澪はと言うと、そうはならないように母や元父親達が立ち回ってくれていたので、それこそ一人になるまで矢面に晒される事はなかった。しかも怪力があるから、下手な誘いを切り抜けられている部分は大きい。
それでも今、一人になって少しずつ面倒になってきている。なのでもういっそ、忍術学園の外では既婚者で通す事にしようと思ったり。
「じゃあ、外に出る時は誰かに協力してもらって旦那さん役を決めておかないといけませんね」
「ーーえ、そんな必要あります?」
「しつこい人だと、夫がいるなら見せてみろとか言うかもしれないじゃないですか」
伏木蔵の指摘に澪は顔をしかめる。現代日本なら、プライベートを詮索するなんて失礼だし個人情報を誰かに開示する必要はないとつっぱねられるが、ここはなんちゃってでも戦国である。人同士の付き合いは粘っこいというか、面倒くさい部分がある。
「ーーどうしても必要なら、卒無く立ち回れる人に頼んでみますよ」
澪は一生懸命やっているのだが、どうにも演技はそこまでらしいので、そういう澪をサポートできて夫役になってもいいという人に依頼するしかない。まぁ、そうなったらなった時である。
伊作の草履を入手して、一行は無事に目的地の山についた。澪の目的でもある香料の取れる草花も沢山自生しており、スケッチも申し分ない場所であった。
が。
「わぁ、凄い立派な自然薯がありました」
「早速、掘ろう伏木蔵。って、わぁああー!!」
「あ、伊作先輩が谷の方に!」
「……助けに行ってきますので、伏木蔵くんはここに居てくださいね」
とてもでないが、スケッチなんて出来る雰囲気ではない。山芋を掘ろうと足を滑らせて、谷の方へ滑り落ちた伊作を回収に行きつつ、澪はやれやれと苦笑いしたのだった。
伊作をはじめ保健委員が不運なのか、それともちょっとした偶然が重なっただけなのか。
よくは分からないが、薬草を取りに来ただけなのに、野生の猪に追いかけられ澪が猪を気絶させて事なきを得たり、蝮が道端で襲いかかってくるのを澪が撃退したりetc……。
同行する護衛のように、保健委員に降かかる火の粉を只管振り払った。
結果。
「澪さん、迷惑かけてごめんね。でも、ありがとう!こんなに滞りなく薬草を採取できるなんて、本当に嬉しいよ!」
「澪さんがいたら、ぼくらの不運も帳消しです。ありがとうございます」
保健委員の二人から凄い賞賛を浴びて、複雑な気持ちになった。まぁ、忍たま達が元気に委員活動ができたならよかったとしよう。澪は忍術学園の職員なのだから、生徒達を守るのは当たり前の事なのだし。
「いえいえ、沢山採れてよかったです」
「澪さんの持ってるのって、いい匂いの花とかばかりだけど、何に使うの?」
「香料を抽出して、軟膏に混ぜたりするんですよ。主に美容品に使うんです」
澪の持っている物を見て尋ねてくる伊作に答えると、感心したように頷かれた。
「そうだったんだ。あの、もしよかったら香料を抽出する所とか美容品を作る所とか、見せてもらえたりしないかな」
「うーん……別に構いませんけど、わたしの貴重な収入源でもあるので、他の人に配合とか分かっても広めたりしないと約束してくださるなら」
香料の抽出等は原始的な作業なので、伊作に見られるのは構わないが調合は配合も関係するので、余り好ましくない。
「収入源って、学園のお給料少ないんですか」
「そんな事ないですよ、伏木蔵くん。老後の事も考えての事です。何時までも忍術学園では働けないですしね。まぁ、老後の生活設計も今の内からわたしが単に色々考えてるだけです。多芸は身を助けますからね。特に、こんなご時世では食いっぱぐれだけはごめんですから」
持論を話すと、二人ともポカンとしていた。
「……小平太の気持ちが、ちょっと分かるような気が」
「澪さんと居たら、将来安泰そうですね」
そこでどうして伊作から小平太の名前が出るのかは謎だが、二人はどうやら澪の発言に感心したらしい。まぁ、何やかんや戦国なので現代日本人よりも子どもはしっかりしているのである。
「さて、そろそろ帰りましょう。日が暮れる前に学園に戻らないと」
「ですね。じゃないと、山賊とか出てきたりするかもしれませんし。それはそれで、すっごいスリルー……」
おそらく、伏木蔵のその一言は大いなるフラグであった。
澪達は帰還開始から早々に、如何にも山賊ですと顔に書いた面々の男達に取り囲まれてしまった。
戦国時代、治安なんて物は優秀な大名が治めている土地でもない限りまず無いに等しい。
この国が律令制度を大陸から仕入れ天皇の名による統治を開始し、やがて貴族の時代が終わり荘園を護ってきた武士達が台頭し幕府が生まれてから、幾久しくーー世は正に次の時代を産み出す夜明けを待つ、最も暗い混迷の時代となっている。
だからこそ、弱い者からむしり取ろうとする無法者が湧いてくるのだ。きり丸相手に銭を取ろうとする輩然り、澪達に武器を突き付ける輩然り。
「おい、金目の物とそこの女を置いてけ」
「いい女だな。存分に可愛がってやるぜ」
「アホか手はつけるな。処女の方が高く売れる。どうせなら、こいつら全員売り飛ばそう。男の方も可愛い顔してやがる。衆道の奴に高値で売れるだろう」
人権無視も甚だしい売買の話を聞いて、呆れ顔になる澪である。伊作と伏木蔵は身を寄せあって警戒していた。男達は筋骨隆々としていて、顔や身体には多数の傷があり、手入れのされていない髪や髭が目立つ。
いかにも全員が全員、地獄に落ちそうな面構えである。
「澪さん、ごめんなさい。ぼく等のせいだ」
「保健委員が不運だからこんな目に。でも凄いスリルー」
二人が申し訳なさそうな顔になる。なので、澪は首を振って笑った。なるべく安心させるために。
「伊作くん、わたしが前に言ったこと覚えてますか?」
「え……」
「不運なんて物はね、大した事ないんですよ」
ぽんぽんと、伊作の肩を叩いた。そんな澪達に痺れを切らしたらしい山賊達が怒声を浴びせてくる。
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!いいから来やがれ!!」
「はいはい今、行くわよ山賊さん達。とりあえず、籠を持っててください伊作くん。伏木蔵くんは怖いなら目を瞑って耳を塞いで十をゆっくり数えてくださいね」
伊作にとっとと籠を預け、澪はゆっくりと山賊達の所へ向かう。
「おお、本当にいい女じゃねーか。頭、やっぱり回そう。オレ我慢できねぇ」
「うーん、まぁこれだけ綺麗なら多少手つきでも売れるか。よーし、お前ら身体に傷や跡は付けるなよ」
「へへ、優しくしてやるぜ」
にこ、と澪は満面の笑顔を山賊達へ向けた。まさしく大輪の花の咲くような笑顔に、男達の悪人面の鼻の下が伸びる。
が、当然そのまま男達の思い通りにはならない。
「ーーお前達には、わたしが花にでも見えるのね。どいつもこいつも、おめでたいったらありゃしない。全員、地獄へ落ちろ悪党共」
澪はそれだけ言うと、手近にいた男にアッパーカットした。星になる勢いで吹っ飛ぶ男に、残りの男達がポカンと間抜けな顔を晒す。
「な、何しやがるこのアマ……ぐふぉ?!」
「お、おい嘘だろなんじゃこりゃ、ぶべら!」
武器は叩き折り、胸倉掴んでフルスイングして適当に放り投げ、鳩尾に蹴りやパンチをし、頭にはかかと落としか肘鉄をくらわせていき、十も数えない内に全員ボコボコにして、あっという間に山賊退治終了である。
「ほら!不運なんて物は、強くなって粉砕すれば問題ありません。こんな風に、ね?」
ちょっと頬に山賊の血が飛んだので、それを拭って努めて柔らかく優しい声で伊作と伏木蔵に話しかける澪。
姿は天女にして、ステータスが阿修羅な忍術学園秘書の姿を照らすように陽の光が注ぐ。その美しくも力強い光景を前にした二人の少年達の瞳に、次第にキラキラとした物が宿る。
澪は全く知らない事であったが、それは伊作と伏木蔵が利吉の後に続いた瞬間であった。
++++++
「ーー澪さん。おはよう!!」
「おはようございます、澪さん!」
「おはようございます、伊作くん、伏木蔵くん。二人共、早いですね」
薬草摂りの翌日のこと。澪が朝食を食べに老女姿のシナと食堂を訪れると、伊作と伏木蔵がやたらキラキラした笑顔で先に食堂に居た。
「ぼく達、今日はできる限り早起きして澪さんとご飯を食べたくて……!」
「昨日のお礼もちゃんと言いたいですし」
「あらあら、澪さんは皆んなから引っ張りだこねぇ」
なんでそんなキラキラしているのかは謎だ。というか、この二人の顔を見ると利吉を思い出す。何故だ。
「あ、澪さんの分の朝食はぼくがカウンターから取ってくるよ。よければ山本シナ先生の分も」
「なら、ぼくはお茶を注ぎます。あ、山本シナ先生もどうぞ」
椅子を引かれ伊作達と同じ席に座るよう促され、お茶まで注がれる。さながら、大御所の俳優に対するテレビ局スタッフのような対応に、澪は目を白黒させた。
「今日の朝食はアジの開きだから、澪さん、よかったらぼくが魚を解してーー」
「それは自分でするから、伊作くん」
なんで、こんな急に澪が世話を焼かれるのだ。なんで、朝食を食べるだけの澪の姿を伊作や伏木蔵がじーっと見てくるのだ。魚の小骨が喉に引っかかりそうである。二人とも、澪の食べている様を見てないで自分達の朝食を食べるべきなのに。
そんな伊作と伏木蔵の顔を見たシナが、味噌汁を上品に啜りながら二人に話しかけた。
「二人とも。もし、よかったら澪さんの事でくのいち教室の子達と話してみるといいわ。きっと盛り上がると思うし」
「くのいち教室の子達とですか?」
シナの話に、伊作も伏木蔵も顔を見合せている。澪も、何故そうなるのか分からず、ご飯をもぐもぐ食べながらシナの話に耳を傾けた。
「だって、澪さんのファン倶楽部がありますから」
「ぶふっ?!」
澪はご飯をちょっと吹き出してしまった。全て茶碗の中で米粒が弾けたので、被害は殆ど無かったが器官に米粒が入りかけて苦しい。慌てて味噌汁を飲んだ。
「な、何ですかシナ先生、それっ、ふぁ、ファン倶楽部?!」
「ちょっと前に発足したのよ。会員は殆どくのたま達だけどね。害も少なさそうだし、澪さんの邪魔をしないなら別にいいかと思って。あと面白そうだし、実はわたしも入ったの」
「な、何と……」
おほほ、とお淑やかに笑う品のいい老女のシナに、澪は脱力した。
「ファン倶楽部……そんな物が既に発足してるなんて」
「伊作先輩っ」
何やら伊作の顔が更に輝き、伏木蔵が伊作の名を呼ぶと二人して何かを決意するように頷きあっていた。
澪はもう遠い目になっていた。
シナまで参加しているという己のファン倶楽部とやらを、解散しろなんて言えるわけもない。
「「ぼくらも、入会します!!」」
「御新規二名様ね。あとでユキちゃん達に言っておくわ。厳しくはないけど、会則もあるから気をつけてね」
ーーもう何もツッコムまい。まぁ、シナが入ることで事実上、監督をしているような物だ。それならば変な事はしないだろうと、澪はスルーする事に決めたのだった。
それから、落ち着かない朝食を終えた澪は一年は組の教科の授業の準備を手伝う傍ら、例の知識共有の話をしに半助の元へ向かった。午前のは組の授業は実技の伝蔵が担当するため、午後からの半助の授業に備える必要があっての事である。
ついでに準備中に雑談を兼ねて、澪の知識を半助に少しずつ話す予定だ。と言っても、話す内容の分野は多岐に渡る。
現代日本の知識もあれば、この世界の澪が得た情報もあったりと、体系的に纏まってはいないので、半助の理解力の高さが自然と要求される内容だったりした。
半助は澪と二人きりになるとあって、朝から準備万端で茶菓子にボーロを準備していたりしたのだが、やって来た澪が何やら複雑そうな顔をしているのを見て首を傾げた。
「どうしたんだい、澪さん。何か、困った事でもあったのかい?」
優しい声と優しい顔。
流石は一年生の担任だけあって、半助には何でも話しやすい空気がある。
「はぁ……実は」
そんなわけで、澪は今朝判明したファン倶楽部について半助に説明する事になった。全て聞いた半助はと言うと、腕を組み何とも言えない表情になっていた。あえて言うなら、苦笑いが近いかもしれない。
「なるほどね。まぁ、澪さんに対して好意的な面々が増えた結果、同じ人間が集まるのは自然な流れだ。それに、山本シナ先生もいるなら滅多な事にはならないだろうから、様子見だろうね」
「わたしに好意を示してくれる事の現れだと思うと、無理に解散させる気も起きないのよね。とはいえ、そんな上等な物でもないのにキラキラした目で見られると、こそばゆいというか落ち着かないというか。まぁ、慣れるしかないか」
半助が淹れてくれたお茶をゆっくり飲む。半助も湯呑みに口をつけており、熱い茶を味わっていた。
「それにしても、二日連続だな。破落戸に山賊といい、大丈夫かい澪さん」
ファン倶楽部の話の際、昨日の山賊退治の一件もついでに話したせいか半助が心配そうな顔で澪を見ていた。澪の怪力や何やら目にしても、普通の女性に対するように見つめられると、ムズムズとくすぐったい気持ちになる。
「山賊はばっちりボコボコにしといたので、問題ないわ」
なので、照れ隠しも兼ねて返事を返す。それから、少し思った事も言っておく。
「とはいえ、学園から歩いて行ける場所にその手の輩が増えているなら、何か手を打ってもいいのかもね。積極的に山賊狩りするとか?」
単なる偶然なのか、それとも元々良くない治安がどこぞで起こった戦の影響で更に悪化しているのかは分からないが、少々気になった。忍術学園の忍たまが巻き込まれて大変な事態になる前に、治安維持と警備を兼ねて見回りをしてもいいのかもしれないと思ったり。
「山賊狩り……それだ!」
「へ?」
澪の話を聞いた半助がポン!と、手を叩いた。急な半助の動きに目を瞬く澪。
「綾部喜八郎だよ。あいつの穴掘りを、外でやらせるんだ。忍術学園に落とし穴は、これ以上は要らないからな。何だってあんなに落とし穴が増えているかは知らないが、掘り足りないなら外で防犯用の穴を掘らせまくればいい。沢山掘れば、少しは綾部も落ち着くだろ。忍術学園から近い村の周囲なんかに落とし穴を掘れば防犯になる。乙名達に申し出れば、向こうも喜んで穴掘りの場所を指定してくれるだろうしね。トラップの場所を示す忍者の印を残すか、穴の位置を情報共有しておけば、もし村の近くに行っても忍たま達は引っかかる心配は少ない」
「なるほど。いけるかもしれないわね」
半助の案に澪は頷いた。
「そうと決まれば、学園長に許可を貰った上で喜八郎に声をかけるとしよう」
「なら、わたしもついてくわ。穴掘り小僧の顔を拝みたいしね」
一体、穴蜂に負けない大量の穴を作り出すのはどんな顔の少年なのか。
最近増えていた落とし穴騒動の犯人を、何としても見てやろうという気持ちになる澪であった。
半助とのデートをし、きり丸を抱っこして忍術学園まで帰宅した休日を終えた、その翌日のこと。
時間が出来たので、伝子から依頼されていた練り香水代わりとなる香りの良い軟膏を作るため、香料を山に取りに行こうとしていた。
ついでに、草花や虫をスケッチして刺繍の図案の参考にしようとしていたのだが。
レースの方はちまちまやって、何とか完成したしようやく軟膏に着手しようと思っていたのに。
「伊作せんぱーい、大丈夫ですか?」
「伏木蔵も大丈夫かい?」
「大丈夫ですけど、穴が深くて這い上がれません。誰も来ないと、このままかと思うと凄いスリルー」
「ぼくもここまで深いのは、縄梯子がないときついな。薬草取りに行くのに苦無は忘れて来たし……嗚呼、ぼくの不運のせいでっ」
どうやら、伊作と同じく保健委員の一年ろ組は鶴町伏木蔵が二人とも仲良く落とし穴に落っこちたらしい。
落とし穴は、保健委員ほいほいのようである。
「……伊作くん、伏木蔵くん、無事ですか」
一体、あと何度、忍たま達を落とし穴から救出する羽目になるやら。
「その声は…… 澪さん!ねぇ、悪いんだけどぼく達を助けてもらえないかな?縄梯子を持ってきてもらえたら」
「分かりました」
仕方なく、澪は用具倉庫から縄梯子を取りに行き二人を救出した。
薬草取りに行くとあって、籠を背負った二人が出てきた。少し土埃がついてしまっているが、怪我はなさそうである。
「澪さんも、山に行くのかい?」
「ええ、まぁ」
「ぼくらも薬草を採取しに行くんです。もし行先が同じなら御一緒しませんか?」
澪も籠を背負っているので、どうせならと誘われた。行く山は近い場所で選ぶつもりだったのだが、不運とか何とか言われる保健委員二名が地味に心配である。
「ええ、喜んで」
スケッチする余裕はないかもしれないな……と思いつつ、澪は笑顔で頷いたのだった。
そして。
案の定と言うか何と言うか。
山につくまでに伏木蔵は鳥の糞が頭に落ちてくるは、伊作はそれを見て慌てて頭を拭いてやろうとしたら、足元を見ていなかったせいでよりにもよって人がしたと思われる便を踏んでしまった。
トイレなんてあちこちにない時代、急にしたくなったら大自然でするのが当たり前である。町中なら厠があったりするのだが、ここは僻地の方だーー油断しているとそういう事もある。
「まぁ、運がついたと思えばーー」
「うぅっ、同じ草履をこれ以上は履きたくないぃ」
「伊作先輩、ぼくの頭を拭いてくれようとしただけなのに……」
澪が上手いことを言って慰めようとしたが、あまり効果はなかった。辺りを見渡すと、人家がそれなりにある。
「はぁ、仕方ありません。伊作くんと伏木蔵くんはここに居てくださいね。草履を手に入れてきます」
草履や縄、それに竹細工は農家の手仕事による作品が多く、路上でよく売られている。指で伊作の足のおおまかなサイズを確認し、澪は二人を残して近くの農家を訪ね、草履を譲ってもらいに走った。
澪が気持ち多めの小銭をチラつかせれば、交渉は直ぐに成立した。山に行くとあって、澪は軽装をしており市女笠もしていない。尋ねた民家の家に住んでいた老人は、澪の美少女ぶりに目を見張り孫の嫁に来ないかとか何とか言ってきたが、執拗いので夫がいますのでと切り抜けた。
「伊作くん、草履を入手したのですが、実はかくかくしかじかで……この辺りの村の人にわたしについて何か聞かれたら、わたしは既婚者だと言う事にしておいてください。草履を売ってくれたお爺さんがしつこかったので、つい」
「わかった、ありがとう澪さん。後でお金は返すよ。草履を手に入れてくれてありがとう。とはいえ、大変だね澪さんも。綺麗だからあちこちで今までも声をかけられてきたんでしょう?」
「ええ、まぁ……そうですね」
恋人、妻、愛人だの、確かにこれまで澪の容姿を見た人から声をかけられた事は多々ある。閉鎖的な村とかだと、気に入った娘を攫って嫁にするのが合法なんて地域もあるので、美人が必ずしもいい物だとは限らない。
美しい娘は、その親に売られたり、又は人攫いにあって矢張り売られたりする事もあるし、有力者の目に留まれば妻や妾になったり、その有力者が殿様なら側室にだってなる可能性が普通の娘より高くなる。
澪はと言うと、そうはならないように母や元父親達が立ち回ってくれていたので、それこそ一人になるまで矢面に晒される事はなかった。しかも怪力があるから、下手な誘いを切り抜けられている部分は大きい。
それでも今、一人になって少しずつ面倒になってきている。なのでもういっそ、忍術学園の外では既婚者で通す事にしようと思ったり。
「じゃあ、外に出る時は誰かに協力してもらって旦那さん役を決めておかないといけませんね」
「ーーえ、そんな必要あります?」
「しつこい人だと、夫がいるなら見せてみろとか言うかもしれないじゃないですか」
伏木蔵の指摘に澪は顔をしかめる。現代日本なら、プライベートを詮索するなんて失礼だし個人情報を誰かに開示する必要はないとつっぱねられるが、ここはなんちゃってでも戦国である。人同士の付き合いは粘っこいというか、面倒くさい部分がある。
「ーーどうしても必要なら、卒無く立ち回れる人に頼んでみますよ」
澪は一生懸命やっているのだが、どうにも演技はそこまでらしいので、そういう澪をサポートできて夫役になってもいいという人に依頼するしかない。まぁ、そうなったらなった時である。
伊作の草履を入手して、一行は無事に目的地の山についた。澪の目的でもある香料の取れる草花も沢山自生しており、スケッチも申し分ない場所であった。
が。
「わぁ、凄い立派な自然薯がありました」
「早速、掘ろう伏木蔵。って、わぁああー!!」
「あ、伊作先輩が谷の方に!」
「……助けに行ってきますので、伏木蔵くんはここに居てくださいね」
とてもでないが、スケッチなんて出来る雰囲気ではない。山芋を掘ろうと足を滑らせて、谷の方へ滑り落ちた伊作を回収に行きつつ、澪はやれやれと苦笑いしたのだった。
伊作をはじめ保健委員が不運なのか、それともちょっとした偶然が重なっただけなのか。
よくは分からないが、薬草を取りに来ただけなのに、野生の猪に追いかけられ澪が猪を気絶させて事なきを得たり、蝮が道端で襲いかかってくるのを澪が撃退したりetc……。
同行する護衛のように、保健委員に降かかる火の粉を只管振り払った。
結果。
「澪さん、迷惑かけてごめんね。でも、ありがとう!こんなに滞りなく薬草を採取できるなんて、本当に嬉しいよ!」
「澪さんがいたら、ぼくらの不運も帳消しです。ありがとうございます」
保健委員の二人から凄い賞賛を浴びて、複雑な気持ちになった。まぁ、忍たま達が元気に委員活動ができたならよかったとしよう。澪は忍術学園の職員なのだから、生徒達を守るのは当たり前の事なのだし。
「いえいえ、沢山採れてよかったです」
「澪さんの持ってるのって、いい匂いの花とかばかりだけど、何に使うの?」
「香料を抽出して、軟膏に混ぜたりするんですよ。主に美容品に使うんです」
澪の持っている物を見て尋ねてくる伊作に答えると、感心したように頷かれた。
「そうだったんだ。あの、もしよかったら香料を抽出する所とか美容品を作る所とか、見せてもらえたりしないかな」
「うーん……別に構いませんけど、わたしの貴重な収入源でもあるので、他の人に配合とか分かっても広めたりしないと約束してくださるなら」
香料の抽出等は原始的な作業なので、伊作に見られるのは構わないが調合は配合も関係するので、余り好ましくない。
「収入源って、学園のお給料少ないんですか」
「そんな事ないですよ、伏木蔵くん。老後の事も考えての事です。何時までも忍術学園では働けないですしね。まぁ、老後の生活設計も今の内からわたしが単に色々考えてるだけです。多芸は身を助けますからね。特に、こんなご時世では食いっぱぐれだけはごめんですから」
持論を話すと、二人ともポカンとしていた。
「……小平太の気持ちが、ちょっと分かるような気が」
「澪さんと居たら、将来安泰そうですね」
そこでどうして伊作から小平太の名前が出るのかは謎だが、二人はどうやら澪の発言に感心したらしい。まぁ、何やかんや戦国なので現代日本人よりも子どもはしっかりしているのである。
「さて、そろそろ帰りましょう。日が暮れる前に学園に戻らないと」
「ですね。じゃないと、山賊とか出てきたりするかもしれませんし。それはそれで、すっごいスリルー……」
おそらく、伏木蔵のその一言は大いなるフラグであった。
澪達は帰還開始から早々に、如何にも山賊ですと顔に書いた面々の男達に取り囲まれてしまった。
戦国時代、治安なんて物は優秀な大名が治めている土地でもない限りまず無いに等しい。
この国が律令制度を大陸から仕入れ天皇の名による統治を開始し、やがて貴族の時代が終わり荘園を護ってきた武士達が台頭し幕府が生まれてから、幾久しくーー世は正に次の時代を産み出す夜明けを待つ、最も暗い混迷の時代となっている。
だからこそ、弱い者からむしり取ろうとする無法者が湧いてくるのだ。きり丸相手に銭を取ろうとする輩然り、澪達に武器を突き付ける輩然り。
「おい、金目の物とそこの女を置いてけ」
「いい女だな。存分に可愛がってやるぜ」
「アホか手はつけるな。処女の方が高く売れる。どうせなら、こいつら全員売り飛ばそう。男の方も可愛い顔してやがる。衆道の奴に高値で売れるだろう」
人権無視も甚だしい売買の話を聞いて、呆れ顔になる澪である。伊作と伏木蔵は身を寄せあって警戒していた。男達は筋骨隆々としていて、顔や身体には多数の傷があり、手入れのされていない髪や髭が目立つ。
いかにも全員が全員、地獄に落ちそうな面構えである。
「澪さん、ごめんなさい。ぼく等のせいだ」
「保健委員が不運だからこんな目に。でも凄いスリルー」
二人が申し訳なさそうな顔になる。なので、澪は首を振って笑った。なるべく安心させるために。
「伊作くん、わたしが前に言ったこと覚えてますか?」
「え……」
「不運なんて物はね、大した事ないんですよ」
ぽんぽんと、伊作の肩を叩いた。そんな澪達に痺れを切らしたらしい山賊達が怒声を浴びせてくる。
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!いいから来やがれ!!」
「はいはい今、行くわよ山賊さん達。とりあえず、籠を持っててください伊作くん。伏木蔵くんは怖いなら目を瞑って耳を塞いで十をゆっくり数えてくださいね」
伊作にとっとと籠を預け、澪はゆっくりと山賊達の所へ向かう。
「おお、本当にいい女じゃねーか。頭、やっぱり回そう。オレ我慢できねぇ」
「うーん、まぁこれだけ綺麗なら多少手つきでも売れるか。よーし、お前ら身体に傷や跡は付けるなよ」
「へへ、優しくしてやるぜ」
にこ、と澪は満面の笑顔を山賊達へ向けた。まさしく大輪の花の咲くような笑顔に、男達の悪人面の鼻の下が伸びる。
が、当然そのまま男達の思い通りにはならない。
「ーーお前達には、わたしが花にでも見えるのね。どいつもこいつも、おめでたいったらありゃしない。全員、地獄へ落ちろ悪党共」
澪はそれだけ言うと、手近にいた男にアッパーカットした。星になる勢いで吹っ飛ぶ男に、残りの男達がポカンと間抜けな顔を晒す。
「な、何しやがるこのアマ……ぐふぉ?!」
「お、おい嘘だろなんじゃこりゃ、ぶべら!」
武器は叩き折り、胸倉掴んでフルスイングして適当に放り投げ、鳩尾に蹴りやパンチをし、頭にはかかと落としか肘鉄をくらわせていき、十も数えない内に全員ボコボコにして、あっという間に山賊退治終了である。
「ほら!不運なんて物は、強くなって粉砕すれば問題ありません。こんな風に、ね?」
ちょっと頬に山賊の血が飛んだので、それを拭って努めて柔らかく優しい声で伊作と伏木蔵に話しかける澪。
姿は天女にして、ステータスが阿修羅な忍術学園秘書の姿を照らすように陽の光が注ぐ。その美しくも力強い光景を前にした二人の少年達の瞳に、次第にキラキラとした物が宿る。
澪は全く知らない事であったが、それは伊作と伏木蔵が利吉の後に続いた瞬間であった。
++++++
「ーー澪さん。おはよう!!」
「おはようございます、澪さん!」
「おはようございます、伊作くん、伏木蔵くん。二人共、早いですね」
薬草摂りの翌日のこと。澪が朝食を食べに老女姿のシナと食堂を訪れると、伊作と伏木蔵がやたらキラキラした笑顔で先に食堂に居た。
「ぼく達、今日はできる限り早起きして澪さんとご飯を食べたくて……!」
「昨日のお礼もちゃんと言いたいですし」
「あらあら、澪さんは皆んなから引っ張りだこねぇ」
なんでそんなキラキラしているのかは謎だ。というか、この二人の顔を見ると利吉を思い出す。何故だ。
「あ、澪さんの分の朝食はぼくがカウンターから取ってくるよ。よければ山本シナ先生の分も」
「なら、ぼくはお茶を注ぎます。あ、山本シナ先生もどうぞ」
椅子を引かれ伊作達と同じ席に座るよう促され、お茶まで注がれる。さながら、大御所の俳優に対するテレビ局スタッフのような対応に、澪は目を白黒させた。
「今日の朝食はアジの開きだから、澪さん、よかったらぼくが魚を解してーー」
「それは自分でするから、伊作くん」
なんで、こんな急に澪が世話を焼かれるのだ。なんで、朝食を食べるだけの澪の姿を伊作や伏木蔵がじーっと見てくるのだ。魚の小骨が喉に引っかかりそうである。二人とも、澪の食べている様を見てないで自分達の朝食を食べるべきなのに。
そんな伊作と伏木蔵の顔を見たシナが、味噌汁を上品に啜りながら二人に話しかけた。
「二人とも。もし、よかったら澪さんの事でくのいち教室の子達と話してみるといいわ。きっと盛り上がると思うし」
「くのいち教室の子達とですか?」
シナの話に、伊作も伏木蔵も顔を見合せている。澪も、何故そうなるのか分からず、ご飯をもぐもぐ食べながらシナの話に耳を傾けた。
「だって、澪さんのファン倶楽部がありますから」
「ぶふっ?!」
澪はご飯をちょっと吹き出してしまった。全て茶碗の中で米粒が弾けたので、被害は殆ど無かったが器官に米粒が入りかけて苦しい。慌てて味噌汁を飲んだ。
「な、何ですかシナ先生、それっ、ふぁ、ファン倶楽部?!」
「ちょっと前に発足したのよ。会員は殆どくのたま達だけどね。害も少なさそうだし、澪さんの邪魔をしないなら別にいいかと思って。あと面白そうだし、実はわたしも入ったの」
「な、何と……」
おほほ、とお淑やかに笑う品のいい老女のシナに、澪は脱力した。
「ファン倶楽部……そんな物が既に発足してるなんて」
「伊作先輩っ」
何やら伊作の顔が更に輝き、伏木蔵が伊作の名を呼ぶと二人して何かを決意するように頷きあっていた。
澪はもう遠い目になっていた。
シナまで参加しているという己のファン倶楽部とやらを、解散しろなんて言えるわけもない。
「「ぼくらも、入会します!!」」
「御新規二名様ね。あとでユキちゃん達に言っておくわ。厳しくはないけど、会則もあるから気をつけてね」
ーーもう何もツッコムまい。まぁ、シナが入ることで事実上、監督をしているような物だ。それならば変な事はしないだろうと、澪はスルーする事に決めたのだった。
それから、落ち着かない朝食を終えた澪は一年は組の教科の授業の準備を手伝う傍ら、例の知識共有の話をしに半助の元へ向かった。午前のは組の授業は実技の伝蔵が担当するため、午後からの半助の授業に備える必要があっての事である。
ついでに準備中に雑談を兼ねて、澪の知識を半助に少しずつ話す予定だ。と言っても、話す内容の分野は多岐に渡る。
現代日本の知識もあれば、この世界の澪が得た情報もあったりと、体系的に纏まってはいないので、半助の理解力の高さが自然と要求される内容だったりした。
半助は澪と二人きりになるとあって、朝から準備万端で茶菓子にボーロを準備していたりしたのだが、やって来た澪が何やら複雑そうな顔をしているのを見て首を傾げた。
「どうしたんだい、澪さん。何か、困った事でもあったのかい?」
優しい声と優しい顔。
流石は一年生の担任だけあって、半助には何でも話しやすい空気がある。
「はぁ……実は」
そんなわけで、澪は今朝判明したファン倶楽部について半助に説明する事になった。全て聞いた半助はと言うと、腕を組み何とも言えない表情になっていた。あえて言うなら、苦笑いが近いかもしれない。
「なるほどね。まぁ、澪さんに対して好意的な面々が増えた結果、同じ人間が集まるのは自然な流れだ。それに、山本シナ先生もいるなら滅多な事にはならないだろうから、様子見だろうね」
「わたしに好意を示してくれる事の現れだと思うと、無理に解散させる気も起きないのよね。とはいえ、そんな上等な物でもないのにキラキラした目で見られると、こそばゆいというか落ち着かないというか。まぁ、慣れるしかないか」
半助が淹れてくれたお茶をゆっくり飲む。半助も湯呑みに口をつけており、熱い茶を味わっていた。
「それにしても、二日連続だな。破落戸に山賊といい、大丈夫かい澪さん」
ファン倶楽部の話の際、昨日の山賊退治の一件もついでに話したせいか半助が心配そうな顔で澪を見ていた。澪の怪力や何やら目にしても、普通の女性に対するように見つめられると、ムズムズとくすぐったい気持ちになる。
「山賊はばっちりボコボコにしといたので、問題ないわ」
なので、照れ隠しも兼ねて返事を返す。それから、少し思った事も言っておく。
「とはいえ、学園から歩いて行ける場所にその手の輩が増えているなら、何か手を打ってもいいのかもね。積極的に山賊狩りするとか?」
単なる偶然なのか、それとも元々良くない治安がどこぞで起こった戦の影響で更に悪化しているのかは分からないが、少々気になった。忍術学園の忍たまが巻き込まれて大変な事態になる前に、治安維持と警備を兼ねて見回りをしてもいいのかもしれないと思ったり。
「山賊狩り……それだ!」
「へ?」
澪の話を聞いた半助がポン!と、手を叩いた。急な半助の動きに目を瞬く澪。
「綾部喜八郎だよ。あいつの穴掘りを、外でやらせるんだ。忍術学園に落とし穴は、これ以上は要らないからな。何だってあんなに落とし穴が増えているかは知らないが、掘り足りないなら外で防犯用の穴を掘らせまくればいい。沢山掘れば、少しは綾部も落ち着くだろ。忍術学園から近い村の周囲なんかに落とし穴を掘れば防犯になる。乙名達に申し出れば、向こうも喜んで穴掘りの場所を指定してくれるだろうしね。トラップの場所を示す忍者の印を残すか、穴の位置を情報共有しておけば、もし村の近くに行っても忍たま達は引っかかる心配は少ない」
「なるほど。いけるかもしれないわね」
半助の案に澪は頷いた。
「そうと決まれば、学園長に許可を貰った上で喜八郎に声をかけるとしよう」
「なら、わたしもついてくわ。穴掘り小僧の顔を拝みたいしね」
一体、穴蜂に負けない大量の穴を作り出すのはどんな顔の少年なのか。
最近増えていた落とし穴騒動の犯人を、何としても見てやろうという気持ちになる澪であった。
