第6話 女装軍団の妖怪退治
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「これは、クモの子城の忍び宇奈月殿から提供された、鵺捜索のために我々が動いていい区域の詳細な地図だ。罠の位置等をはじめ必要な情報を漏れなく記してある。そして、赤い丸の記しをつけた場所がわたしが聞き込みをした鵺の目撃情報があった場所。バツの印は鵺と城の討伐隊が戦った場所になる」
澪が着替えを終え、全員が小屋に入り利吉からの説明に耳を傾けていた。
宛てがわれた小屋に全員が集まると、多少手狭ではあったが囲炉裏もあり、過ごすのには問題ない設備が整っていた。
先程まで言い合いをしていた犬猿コンビはすっかり真面目な顔で静かになっており、流石最上級生という様子である。
鵺退治のため、今日の澪は篭手と念のため小刀を装備している。澪の腕力で本気を出すと、長い刀は枝のように折れるせいだ。小刀も折れる要素がないとは言わないが、太刀等よりはマシであると判断した結果、篭手だけよりはと身につけてある。
本当は金棒がよかったのだが、そんな物はその辺に転がってはいないし、忍術学園の物を下手に借りて壊したら弁償のため、安易に借りられない。
泥棒退治の時に使っていた強盗の物を放り投げたりせずに貰っておくんだったーーと、どっちが強盗か分からない事を考えてしまったり。
利吉の見せる地図を見ながら、大まかな場所を把握する。とはいえ、罠が多すぎないか。
「この地図の写しも用意してある。地図は渡すが、仕事が終われば燃やすこと。他国の忍びの動きもある。奪われるようならその前に真っ先に処分するように。また、鵺退治については領民の不安を煽らぬように行動をしてほしいそうだ。鵺が出ても、人の住んでいる村の方へ決して行かない事。追いかけられて連れ込むような真似だけは厳禁だ」
注意事項にふむふむと頷く。
「利吉さん。他国の忍びと言いますが、どこの手の者なのかについて調べはどうなっているので?」
仙蔵が問いかける。
どこの城も大抵忍びがついているが、鵺退治で遭遇した場合、忍術学園と敵対的な城だと厄介だ。分かるものなら教えてほしい。
「それについては、宇奈月殿が調査中との事だが……どうやら、ドクタケ忍者の可能性があるらしいとは聞いている」
食べたらお腹がどうにかなりそうな名前の忍者だなーーと感想を抱く澪である。
食あたりを起こしそうなドクタケなんて名前だが、学園長からレクチャーされたおかげもあって勿論知っている。
戦好きの城らしく、忍術学園とも一悶着あったりもするそうなのだが、一方では交流もあったりして時として敵になったり味方になったりする中々に因縁のある間柄らしい。
ドクタケ、と聞いて六年生全員が微妙そうな顔をしたのは多分そのせいだ。半助も眉根を寄せて険しい顔をしている。半子の姿は中々可愛いのに、そんな顔しちゃダメですよーーなんて、言いたいが女装を半助が好まないため、その台詞は心の中だけで思うようにしている。
それにしても。
澪は自分の周りにいる女装中の男達を見た。まずは忍たま六年生だが、仙蔵は普通に美人である。元々が中性的な顔立ちをしており色が白い事もあって、違和感がゼロである。出来栄えは百点満点だ。
続いて文次郎だが、澪がメイクしただけあって女に見えてはいるが、動作から男が抜けてないので減点である。遠目にはいいが、近くでよく見たらバレそうだ。
長次は顔に傷があり、強面の女子で通せばいけそうである。イカつい感じのお嬢さんだが、たまにこんな娘だっている。世の中は広いのだ。仕草は完璧のため、文次郎よりは近くでもバレなさそうだ。
小平太は、可愛らしい娘になっているものの、すね毛の未処理もあるし元気すぎる。元気娘として受けいれられたらいいが、はだけた着物から毛の付いた足や腕がこんにちはしないか心配である。
留三郎は、見た目は仙蔵に次ぐ美人と言えるが、文次郎と同じく男が抜けきってない。伝蔵のレクチャーは残念な結果に終わっているようだ。
伝子は、ダメダメ女装三人組に指導するだけあって見た目はアレでヤバいけども、後ろ姿の雰囲気は美人そのもので、仕草も女だ。顔は大分アレだけど。
人の事を女じゃないとか失礼な事を言う前に、留三郎こそ女というものを理解させる必要があるーー今度は自分が女とは何かを扱き付きで指導してやろうかと思う澪である。
ラストの伊作は、もともと優しい顔立ちのせいで柔らかな雰囲気の娘になっている。雰囲気が柔和なせいか、半助と似通った物があり系統は半子に近い。姉妹だと言われたら通りそうである。
六年生の内訳は、美人系二名、ごつい系二名、元気系一名、可愛い系一名だ。
そして、大人組二名はと言うと半助は背が高すぎる気はするものの、全体的に可愛らしい雰囲気の女性だ。髪が傷んでいるのも苦労しているように見えれば、己が養ってやろうと思う男性が口説くかもしれない。
利吉は元の顔立ちが美形のせいで、仙蔵と系統が同じだ。美人で隙がない感じがして、奥手な男子なら気後れしそうである。傷んでいる髪を持つ半助の方が、背は高いが隙があって声をかけられる可能性は高そうだ。
そんな感じで澪が、全員の女装についてあれこれ黙って評価していると、利吉が何やら懐からこよりを複数取り出した。何だろうと、思うとそれを掴んだまま六年生と半助に差し出す。
「鵺探しは効率よくいくために、班別で。このこよりの先端には、赤と黒と無地のものがあるから、それぞれ先端の色が同じ人間が行動を共にする相手ということで」
「利吉くん、こよりの数が足りないよ。七本しかない」
今いる面子は全員で九名だ。不思議に思って澪が尋ねると、爽やかな笑顔を向けられた。
「わたしと澪さんは、仕事中はずっと一緒だからね」
まるでこの世の法則でも読み上げるかのような、何の疑問すら抱かぬ清々しい断言である。澪がぽかん、とするのと半助と小平太が声を上げるのは同時だった。
「「なんでそうなる!!」」
「そもそも、わたしが持ってきた依頼だし当たり前なのでは?」
至極真っ当な事を言われ、半助と小平太の顔が渋柿でも噛んだみたいになっている。利吉はしれっとして、澪の手をぎゅっと握ってきた。
「うふふ、澪さん。わたしと一緒に仲良く鵺退治しましょうね。大丈夫、鵺が出てきても澪さんならすぐに倒せるわ!わたし、邪魔にならないよう近くで見守っているから!!」
キラキラした眼差しで見つめてくる利吉。急に女モードになっている。
澪だけじゃなく、利吉の変わりように全員が唖然としていた。
「ーーと、いうわけだからさっさとクジを引いてね。先端が赤い物がわたしと澪さんと同じ班って事で」
うふっ、と笑う利吉は完全に女である。利吉のテンションが妙に高い気がするのは気の所為ではないだろう。
ーーそして、結果がどうなったかと言うと。
「わたしが澪さん達と同じ班みたいですね」
先端が赤いこよりを見事ゲットしたのは、仙蔵であった。ちなみに、残りの組み分けとしては黒が文次郎、留三郎、長次。色無しが小平太、半助、伊作である。
班わけが決まるや否や、小屋の中を微妙な空気が支配するが、これも天の采配である。
「では、班分けが決まったところで続きの説明をするわね」
どうやら、利吉は女モード続行らしい。犬猿コンビは黙って黒い色のこよりを握りしめているが、既に睨み合っていた。
半助と小平太はと言うと睨み合ってこそいないが、何か互いに言いたい事があるような感じだ。同じ班の伊作が縮こまっている。
大丈夫か、この班分け。
「一晩中、うろつくわけにもいかないから、見回る時間は各自今から休憩を入れつつ戌ノ刻で終わらせるわ。その後はここで軽く夕餉を取り、眠った後は夜明けと共に学園へ帰還よ。翌日以降も、来られる者は日暮れまでにはこの小屋に来るように。その際、今日の班の人数に変動があれば組分けが変わるからね。最低二人一組を班の人数とし、鵺の捜索については都度時間を変更して日暮れから深夜にかけて行うものとするわ。鵺を見つけた場合は、地図に五芒星の記しがある地点まで誘導すること。この五芒星の近辺には、わたしと澪さんの班が見回るようにしてあるから。五芒星の位置まで誘導し、近くまで来たら合図はこの笛で行うこと」
ざっと説明を終え、利吉が全員へ笛を配った。
「わたし達も、鵺を発見したら笛を吹くわ。聞こえたら五芒星の位置に全員、応援へかけつけてね」
「では、もしよければ澪さん達の班にせっかくいますので、笛とあわせてわたしは隙を見て光が強めの宝烙火矢を投げましょうか。笛だけでは、聞こえぬ場合もあるでしょうし」
「用意がいいわね、流石よ。じゃあ、鵺が逃げたりしないようなら頼むわね」
「勿論ですわ。おほほ」
利吉につられてか、仙蔵も女モード突入である。ノリノリの二人である。見た目も完璧なため、美人が物騒な話をしているようにしか見えない澪である。
「説明は以上よ。今回は鵺退治とはいえ、相手は人ではないし作戦は単純よ。ただ、万が一鵺ではなく他国の忍びに接触した場合は、今日の巡回が終わり次第わたしに報告を。宇奈月殿にも報告しておく必要があるからね。じゃっ、行きましょ。澪さん!」
利吉に、仲の良い女友達がそうするように腕を組まれた。
「あら、そういう事ならわたしも。今日は仲良し三人娘で回りましょうか、澪さん」
利吉の行動に触発されてか、何故か反対側に仙蔵がやって来てこっちも腕を組まれた。澪は両手に花状態だが、女装した男のため花は花でもよく出来た造花なのかもしれなかった。
残る班の女装組も利吉の開始宣言に頷いて、女装集団と澪はいざ鵺退治へと繰り出すのであった。
ーー外は、既に日が沈み夜となっている。
この時代、当然ながら電気等はないわけで夜は暗闇が支配する。月と星灯という自然の光を頼りに行動する事になる。
提灯を下げると荷物になり動きに問題が出るため、暗闇の中での行動になる。忍者なだけあって、夜目がきくのか利吉も仙蔵も余裕の動きだ。今日は所々雲があるとはいえ、比較的空が晴れていて星と月の光が明るいため、森でなければそれなりに動けるよい夜だ。
澪はと言うと、忍術学園で日々を過ごす中で忍びと同じく暗闇に目を慣らしたり、軽業を使うようになっている。
お陰様で忍者でもないのに、その辺の技量が増している。これも一重に、くのたま達から教わったりシナから仕込まれた成果である。
もともと、怪力持ちであり身体能力の高い澪は忍者の得意とする技術を吸収し、動きだけなら教師顔負けであった。ダメダメなのは勿論演技である。結果、戦闘特化の忍者もどきとして、澪は短い間に凄まじいレベルに達していたりする。
「そっちの方向は罠が近いから、念の為こちらへ澪さん」
「ありがとうございます。仙蔵くん」
「今のわたしは仙子よ、澪さん。誰が潜んでるかも分からないのだから、気をつけて。おほほ……」
上品に笑う仙蔵もとい仙子。ばっちりな化粧は月明かりの下で見ても、美人度を下げない所かむしろ上げてくる勢いだ。
澪達が捜索を許されたエリアにも、罠が仕掛けられているため鵺探しも楽ではない。鵺が何かの罠に引っかかってくれていたらいいのだが、賢いのか運がいいのかそれらしき存在が動けなくなっている様子は皆無で、ただただ時折、叢が風で揺れて夜行性の動物達が動く気配があるだけだ。
静かな夜だ。
もう、随分と見回っているが鵺らしき気配は無い。あと半刻もすれば戌ノ刻になるだろう。今日は初日だし、空振りでも仕方ないーーそう思った時である。
すぐ近くからガサガサと音がして、何かが動く気配があった。こちらへ向かってやってくるその音に、澪達全員が警戒姿勢を取る。こんな夜に動き回るのは、余程の緊急の用事がある人間か、はたまた忍びかそれとも鵺か、あるいは他の野生の動物か。
だが音が近付いてくるにつれ、それが人の足音であると分かり、利吉も仙蔵も胸元に黙って手を近付けていた。何かあればそこから武器が飛び出す事は想像にかたくない。
「ーーあら」
ガサガサと音を立てて現れたのは。
「んまぁ、貴女達も夜のお散歩かしら?」
サングラスをかけた丸い顔の太った謎の女であった。というか、女にしては声が低過ぎるし、顎の辺りに暗がりですら分かる髭の剃り跡ーー傷がある。しかも眉毛が気の所為でなければ、眉間でうっすら繋がっているような。
澪達も怪しいがそれ以上に怪しい女というか、これは女に化けた男で間違いないと思われる謎の人物がいた。
思わず引き攣りそうになる澪。伝蔵の女装より酷いクオリティの物を見てしまった。これは罰ゲームで女装した男である。
「ええ、そうなんです。わたし達、鵺に襲われた友達の敵討ちのために鵺探しをしてるんです!ここにいる明から来た武芸者の方にお願いして、倒してもらおうって思いまして」
キャピ!と、効果音が付きそうな娘っぷりで利吉がサングラスの女装男と思しき人物に向かって声をかけた。
明の服を纏うそれらしい姿の澪の肩を叩き、謎の女装男に見せるようにする。
「あらぁ、そうなの。随分と勇ましいわねぇ。ところで、貴女、何だか初めて会った気がしないわぁ」
「あらあら、そうなんですか?でも、世の中には自分と似た人が三人は居るって言いますからきっとそのうちの一人の方と似ているんだと思いますよ」
うふふ、と笑い合う二人。
「そういう貴女こそ、こんな夜に女一人で危ないですよ。せめて、わたし達みたいに固まってないと」
「わたしは近くの村に親戚が住んでまして。その親戚が鵺が怖いというので、心配になって様子を見に来たんです。安眠してもらうためにも、それらしき物が居ないかダイエットの散歩がてら、確認をしてただけですよ」
「まぁ、そうなんですかぁ。そう言えば、あっちの方で何やら不思議な物音がしていたような……猪や鹿かしらぁ」
「あら、そうなんですか。そうそう、わたし、用事を思い出しましたのでこれで!」
利吉が指さす方向は、先程、澪が仙蔵に注意された罠のある方角だ。態とらしく用事があると言って女装男が去って数分もしない内に「ぎゃあああー!!」と言う野太い悲鳴が聞こえた。
「利吉くん、今のって……」
「あれはドクタケ忍者隊の雨鬼よ。間抜けなヤツで助かったわーーあんなヤツにわたしと澪さんの邪魔はさせないんだから。それと、わたしの事は利子って呼んでね!」
どうやら、鵺がいる可能性を匂わせて罠のある方へ雨鬼を誘導した模様である。見事に罠にかかったらしい雨鬼については、間抜け呼ばわりされても仕方がないだろう。
酷い女装を見た後のせいか、利吉が輝いて見える澪である。口直しがあるが、目も同じく酷い物を見たあとは良い物で眼球をリセットできるらしかった。
「どうやら、この辺りには他のドクタケ忍者らしき者はもう居ないようですね……」
「居たとしても、向こうは宇奈月殿の地図なんて持ってないからね。罠にかかって動けなくなっている可能性もあると思うわ」
仙子と利子のやり取りは美人だけあって、絵になる光景である。
おかげで、すっかりドクタケ忍者隊の雨鬼とやらの酷すぎる女装による眼球疲労が和らいだ。
「さて、今日は鵺じゃなくてドクタケ忍者目撃の報告で終わりそうね。そろそろ戻りますか」
やれやれと言った様子で、利吉が小屋の方角へ向かって歩き出そうとした。
その瞬間。
「いやぁーー!!」と、聞き覚えのある悲鳴が風の中に紛れるように聞こえた。
この声は。
「ーー伊作か?」
声の主に真っ先に気付いたのは仙子だ。伊作の名前を呼ぶその瞬間、本来の仙蔵が顔を覗かせるように現れる。
「何かあったんでしょうか」
伊作は不運だと言っていたし、気をつけても罠にハマってる可能性もあるとはいえ、少し心配になって澪がそう呟くと、利子が静かに頷いた。
「何かあったのか。念の為、土井先生達の所へ向かおう」
「「了解!!」」
事態を前に、利子が利吉に戻った。二人とも女装が似合っているし、違和感が無いとはいえ元の話し方の方がやはりしっくり来る。
澪は伊作の無事を祈りつつ、急いで悲鳴が聞こえた方向へ走ったのだった。
澪が着替えを終え、全員が小屋に入り利吉からの説明に耳を傾けていた。
宛てがわれた小屋に全員が集まると、多少手狭ではあったが囲炉裏もあり、過ごすのには問題ない設備が整っていた。
先程まで言い合いをしていた犬猿コンビはすっかり真面目な顔で静かになっており、流石最上級生という様子である。
鵺退治のため、今日の澪は篭手と念のため小刀を装備している。澪の腕力で本気を出すと、長い刀は枝のように折れるせいだ。小刀も折れる要素がないとは言わないが、太刀等よりはマシであると判断した結果、篭手だけよりはと身につけてある。
本当は金棒がよかったのだが、そんな物はその辺に転がってはいないし、忍術学園の物を下手に借りて壊したら弁償のため、安易に借りられない。
泥棒退治の時に使っていた強盗の物を放り投げたりせずに貰っておくんだったーーと、どっちが強盗か分からない事を考えてしまったり。
利吉の見せる地図を見ながら、大まかな場所を把握する。とはいえ、罠が多すぎないか。
「この地図の写しも用意してある。地図は渡すが、仕事が終われば燃やすこと。他国の忍びの動きもある。奪われるようならその前に真っ先に処分するように。また、鵺退治については領民の不安を煽らぬように行動をしてほしいそうだ。鵺が出ても、人の住んでいる村の方へ決して行かない事。追いかけられて連れ込むような真似だけは厳禁だ」
注意事項にふむふむと頷く。
「利吉さん。他国の忍びと言いますが、どこの手の者なのかについて調べはどうなっているので?」
仙蔵が問いかける。
どこの城も大抵忍びがついているが、鵺退治で遭遇した場合、忍術学園と敵対的な城だと厄介だ。分かるものなら教えてほしい。
「それについては、宇奈月殿が調査中との事だが……どうやら、ドクタケ忍者の可能性があるらしいとは聞いている」
食べたらお腹がどうにかなりそうな名前の忍者だなーーと感想を抱く澪である。
食あたりを起こしそうなドクタケなんて名前だが、学園長からレクチャーされたおかげもあって勿論知っている。
戦好きの城らしく、忍術学園とも一悶着あったりもするそうなのだが、一方では交流もあったりして時として敵になったり味方になったりする中々に因縁のある間柄らしい。
ドクタケ、と聞いて六年生全員が微妙そうな顔をしたのは多分そのせいだ。半助も眉根を寄せて険しい顔をしている。半子の姿は中々可愛いのに、そんな顔しちゃダメですよーーなんて、言いたいが女装を半助が好まないため、その台詞は心の中だけで思うようにしている。
それにしても。
澪は自分の周りにいる女装中の男達を見た。まずは忍たま六年生だが、仙蔵は普通に美人である。元々が中性的な顔立ちをしており色が白い事もあって、違和感がゼロである。出来栄えは百点満点だ。
続いて文次郎だが、澪がメイクしただけあって女に見えてはいるが、動作から男が抜けてないので減点である。遠目にはいいが、近くでよく見たらバレそうだ。
長次は顔に傷があり、強面の女子で通せばいけそうである。イカつい感じのお嬢さんだが、たまにこんな娘だっている。世の中は広いのだ。仕草は完璧のため、文次郎よりは近くでもバレなさそうだ。
小平太は、可愛らしい娘になっているものの、すね毛の未処理もあるし元気すぎる。元気娘として受けいれられたらいいが、はだけた着物から毛の付いた足や腕がこんにちはしないか心配である。
留三郎は、見た目は仙蔵に次ぐ美人と言えるが、文次郎と同じく男が抜けきってない。伝蔵のレクチャーは残念な結果に終わっているようだ。
伝子は、ダメダメ女装三人組に指導するだけあって見た目はアレでヤバいけども、後ろ姿の雰囲気は美人そのもので、仕草も女だ。顔は大分アレだけど。
人の事を女じゃないとか失礼な事を言う前に、留三郎こそ女というものを理解させる必要があるーー今度は自分が女とは何かを扱き付きで指導してやろうかと思う澪である。
ラストの伊作は、もともと優しい顔立ちのせいで柔らかな雰囲気の娘になっている。雰囲気が柔和なせいか、半助と似通った物があり系統は半子に近い。姉妹だと言われたら通りそうである。
六年生の内訳は、美人系二名、ごつい系二名、元気系一名、可愛い系一名だ。
そして、大人組二名はと言うと半助は背が高すぎる気はするものの、全体的に可愛らしい雰囲気の女性だ。髪が傷んでいるのも苦労しているように見えれば、己が養ってやろうと思う男性が口説くかもしれない。
利吉は元の顔立ちが美形のせいで、仙蔵と系統が同じだ。美人で隙がない感じがして、奥手な男子なら気後れしそうである。傷んでいる髪を持つ半助の方が、背は高いが隙があって声をかけられる可能性は高そうだ。
そんな感じで澪が、全員の女装についてあれこれ黙って評価していると、利吉が何やら懐からこよりを複数取り出した。何だろうと、思うとそれを掴んだまま六年生と半助に差し出す。
「鵺探しは効率よくいくために、班別で。このこよりの先端には、赤と黒と無地のものがあるから、それぞれ先端の色が同じ人間が行動を共にする相手ということで」
「利吉くん、こよりの数が足りないよ。七本しかない」
今いる面子は全員で九名だ。不思議に思って澪が尋ねると、爽やかな笑顔を向けられた。
「わたしと澪さんは、仕事中はずっと一緒だからね」
まるでこの世の法則でも読み上げるかのような、何の疑問すら抱かぬ清々しい断言である。澪がぽかん、とするのと半助と小平太が声を上げるのは同時だった。
「「なんでそうなる!!」」
「そもそも、わたしが持ってきた依頼だし当たり前なのでは?」
至極真っ当な事を言われ、半助と小平太の顔が渋柿でも噛んだみたいになっている。利吉はしれっとして、澪の手をぎゅっと握ってきた。
「うふふ、澪さん。わたしと一緒に仲良く鵺退治しましょうね。大丈夫、鵺が出てきても澪さんならすぐに倒せるわ!わたし、邪魔にならないよう近くで見守っているから!!」
キラキラした眼差しで見つめてくる利吉。急に女モードになっている。
澪だけじゃなく、利吉の変わりように全員が唖然としていた。
「ーーと、いうわけだからさっさとクジを引いてね。先端が赤い物がわたしと澪さんと同じ班って事で」
うふっ、と笑う利吉は完全に女である。利吉のテンションが妙に高い気がするのは気の所為ではないだろう。
ーーそして、結果がどうなったかと言うと。
「わたしが澪さん達と同じ班みたいですね」
先端が赤いこよりを見事ゲットしたのは、仙蔵であった。ちなみに、残りの組み分けとしては黒が文次郎、留三郎、長次。色無しが小平太、半助、伊作である。
班わけが決まるや否や、小屋の中を微妙な空気が支配するが、これも天の采配である。
「では、班分けが決まったところで続きの説明をするわね」
どうやら、利吉は女モード続行らしい。犬猿コンビは黙って黒い色のこよりを握りしめているが、既に睨み合っていた。
半助と小平太はと言うと睨み合ってこそいないが、何か互いに言いたい事があるような感じだ。同じ班の伊作が縮こまっている。
大丈夫か、この班分け。
「一晩中、うろつくわけにもいかないから、見回る時間は各自今から休憩を入れつつ戌ノ刻で終わらせるわ。その後はここで軽く夕餉を取り、眠った後は夜明けと共に学園へ帰還よ。翌日以降も、来られる者は日暮れまでにはこの小屋に来るように。その際、今日の班の人数に変動があれば組分けが変わるからね。最低二人一組を班の人数とし、鵺の捜索については都度時間を変更して日暮れから深夜にかけて行うものとするわ。鵺を見つけた場合は、地図に五芒星の記しがある地点まで誘導すること。この五芒星の近辺には、わたしと澪さんの班が見回るようにしてあるから。五芒星の位置まで誘導し、近くまで来たら合図はこの笛で行うこと」
ざっと説明を終え、利吉が全員へ笛を配った。
「わたし達も、鵺を発見したら笛を吹くわ。聞こえたら五芒星の位置に全員、応援へかけつけてね」
「では、もしよければ澪さん達の班にせっかくいますので、笛とあわせてわたしは隙を見て光が強めの宝烙火矢を投げましょうか。笛だけでは、聞こえぬ場合もあるでしょうし」
「用意がいいわね、流石よ。じゃあ、鵺が逃げたりしないようなら頼むわね」
「勿論ですわ。おほほ」
利吉につられてか、仙蔵も女モード突入である。ノリノリの二人である。見た目も完璧なため、美人が物騒な話をしているようにしか見えない澪である。
「説明は以上よ。今回は鵺退治とはいえ、相手は人ではないし作戦は単純よ。ただ、万が一鵺ではなく他国の忍びに接触した場合は、今日の巡回が終わり次第わたしに報告を。宇奈月殿にも報告しておく必要があるからね。じゃっ、行きましょ。澪さん!」
利吉に、仲の良い女友達がそうするように腕を組まれた。
「あら、そういう事ならわたしも。今日は仲良し三人娘で回りましょうか、澪さん」
利吉の行動に触発されてか、何故か反対側に仙蔵がやって来てこっちも腕を組まれた。澪は両手に花状態だが、女装した男のため花は花でもよく出来た造花なのかもしれなかった。
残る班の女装組も利吉の開始宣言に頷いて、女装集団と澪はいざ鵺退治へと繰り出すのであった。
ーー外は、既に日が沈み夜となっている。
この時代、当然ながら電気等はないわけで夜は暗闇が支配する。月と星灯という自然の光を頼りに行動する事になる。
提灯を下げると荷物になり動きに問題が出るため、暗闇の中での行動になる。忍者なだけあって、夜目がきくのか利吉も仙蔵も余裕の動きだ。今日は所々雲があるとはいえ、比較的空が晴れていて星と月の光が明るいため、森でなければそれなりに動けるよい夜だ。
澪はと言うと、忍術学園で日々を過ごす中で忍びと同じく暗闇に目を慣らしたり、軽業を使うようになっている。
お陰様で忍者でもないのに、その辺の技量が増している。これも一重に、くのたま達から教わったりシナから仕込まれた成果である。
もともと、怪力持ちであり身体能力の高い澪は忍者の得意とする技術を吸収し、動きだけなら教師顔負けであった。ダメダメなのは勿論演技である。結果、戦闘特化の忍者もどきとして、澪は短い間に凄まじいレベルに達していたりする。
「そっちの方向は罠が近いから、念の為こちらへ澪さん」
「ありがとうございます。仙蔵くん」
「今のわたしは仙子よ、澪さん。誰が潜んでるかも分からないのだから、気をつけて。おほほ……」
上品に笑う仙蔵もとい仙子。ばっちりな化粧は月明かりの下で見ても、美人度を下げない所かむしろ上げてくる勢いだ。
澪達が捜索を許されたエリアにも、罠が仕掛けられているため鵺探しも楽ではない。鵺が何かの罠に引っかかってくれていたらいいのだが、賢いのか運がいいのかそれらしき存在が動けなくなっている様子は皆無で、ただただ時折、叢が風で揺れて夜行性の動物達が動く気配があるだけだ。
静かな夜だ。
もう、随分と見回っているが鵺らしき気配は無い。あと半刻もすれば戌ノ刻になるだろう。今日は初日だし、空振りでも仕方ないーーそう思った時である。
すぐ近くからガサガサと音がして、何かが動く気配があった。こちらへ向かってやってくるその音に、澪達全員が警戒姿勢を取る。こんな夜に動き回るのは、余程の緊急の用事がある人間か、はたまた忍びかそれとも鵺か、あるいは他の野生の動物か。
だが音が近付いてくるにつれ、それが人の足音であると分かり、利吉も仙蔵も胸元に黙って手を近付けていた。何かあればそこから武器が飛び出す事は想像にかたくない。
「ーーあら」
ガサガサと音を立てて現れたのは。
「んまぁ、貴女達も夜のお散歩かしら?」
サングラスをかけた丸い顔の太った謎の女であった。というか、女にしては声が低過ぎるし、顎の辺りに暗がりですら分かる髭の剃り跡ーー傷がある。しかも眉毛が気の所為でなければ、眉間でうっすら繋がっているような。
澪達も怪しいがそれ以上に怪しい女というか、これは女に化けた男で間違いないと思われる謎の人物がいた。
思わず引き攣りそうになる澪。伝蔵の女装より酷いクオリティの物を見てしまった。これは罰ゲームで女装した男である。
「ええ、そうなんです。わたし達、鵺に襲われた友達の敵討ちのために鵺探しをしてるんです!ここにいる明から来た武芸者の方にお願いして、倒してもらおうって思いまして」
キャピ!と、効果音が付きそうな娘っぷりで利吉がサングラスの女装男と思しき人物に向かって声をかけた。
明の服を纏うそれらしい姿の澪の肩を叩き、謎の女装男に見せるようにする。
「あらぁ、そうなの。随分と勇ましいわねぇ。ところで、貴女、何だか初めて会った気がしないわぁ」
「あらあら、そうなんですか?でも、世の中には自分と似た人が三人は居るって言いますからきっとそのうちの一人の方と似ているんだと思いますよ」
うふふ、と笑い合う二人。
「そういう貴女こそ、こんな夜に女一人で危ないですよ。せめて、わたし達みたいに固まってないと」
「わたしは近くの村に親戚が住んでまして。その親戚が鵺が怖いというので、心配になって様子を見に来たんです。安眠してもらうためにも、それらしき物が居ないかダイエットの散歩がてら、確認をしてただけですよ」
「まぁ、そうなんですかぁ。そう言えば、あっちの方で何やら不思議な物音がしていたような……猪や鹿かしらぁ」
「あら、そうなんですか。そうそう、わたし、用事を思い出しましたのでこれで!」
利吉が指さす方向は、先程、澪が仙蔵に注意された罠のある方角だ。態とらしく用事があると言って女装男が去って数分もしない内に「ぎゃあああー!!」と言う野太い悲鳴が聞こえた。
「利吉くん、今のって……」
「あれはドクタケ忍者隊の雨鬼よ。間抜けなヤツで助かったわーーあんなヤツにわたしと澪さんの邪魔はさせないんだから。それと、わたしの事は利子って呼んでね!」
どうやら、鵺がいる可能性を匂わせて罠のある方へ雨鬼を誘導した模様である。見事に罠にかかったらしい雨鬼については、間抜け呼ばわりされても仕方がないだろう。
酷い女装を見た後のせいか、利吉が輝いて見える澪である。口直しがあるが、目も同じく酷い物を見たあとは良い物で眼球をリセットできるらしかった。
「どうやら、この辺りには他のドクタケ忍者らしき者はもう居ないようですね……」
「居たとしても、向こうは宇奈月殿の地図なんて持ってないからね。罠にかかって動けなくなっている可能性もあると思うわ」
仙子と利子のやり取りは美人だけあって、絵になる光景である。
おかげで、すっかりドクタケ忍者隊の雨鬼とやらの酷すぎる女装による眼球疲労が和らいだ。
「さて、今日は鵺じゃなくてドクタケ忍者目撃の報告で終わりそうね。そろそろ戻りますか」
やれやれと言った様子で、利吉が小屋の方角へ向かって歩き出そうとした。
その瞬間。
「いやぁーー!!」と、聞き覚えのある悲鳴が風の中に紛れるように聞こえた。
この声は。
「ーー伊作か?」
声の主に真っ先に気付いたのは仙子だ。伊作の名前を呼ぶその瞬間、本来の仙蔵が顔を覗かせるように現れる。
「何かあったんでしょうか」
伊作は不運だと言っていたし、気をつけても罠にハマってる可能性もあるとはいえ、少し心配になって澪がそう呟くと、利子が静かに頷いた。
「何かあったのか。念の為、土井先生達の所へ向かおう」
「「了解!!」」
事態を前に、利子が利吉に戻った。二人とも女装が似合っているし、違和感が無いとはいえ元の話し方の方がやはりしっくり来る。
澪は伊作の無事を祈りつつ、急いで悲鳴が聞こえた方向へ走ったのだった。
