第4話 責任の取り方
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二人は犬猿の仲のようだが、戦闘している最中は実に息があっているようだ。
そう澪が思ったのは、戦闘開始早々に他ならぬ潮江と食満の動きを見たからだ。
互いに接近攻撃タイプの武器だが、取れる距離は鉄双節棍よりも槍の方が広い。
互いの攻撃範囲に合わせてか。
何も言わずとも食満が前に出てきて、少し後方で潮江が槍を構えていた。食満の攻撃を避ければ、その隙を突いて潮江が来るというわけだ。
「てりゃー!!」
空気を震わせて、食満の腕が振り下ろされた。鉄双節棍は、その名の通り鉄でできているため、単純に鉄パイプで殴られるのと似た効果がある。
だが、こういう特殊な武器というのは扱いが難しいのだ。そして、鉄の棒を鎖で繋いであるということは、単純な一本の鉄の棒より強度にも攻撃の威力にも欠けるということ。例え、補強のために分銅がついていようが澪には、大した意味はない。
澪は振り回されたそれを躊躇うこたなく、素手で掴んだ。止めてしまえば、どうということはない。潮江が槍を繰り出して来ようとしたが、掴んだ鉄双節棍で食満を引き寄せて、盾にしたことで槍の軌道が逸れた。
「食満さんは、この武器の弱点にもっと目を向けないと、こんな風にやらるわよ!」
忠告した上で、食満の背中を押して解放するついでに潮江へ向けて突き飛ばした。すべしゃあ!と勢い良く食満の身体が原っぱに転がるが、流石は忍者ーー受け身をすかさず取っていた。
食満を避けた潮江が、槍を突き出して来たのを避けてお返しとばかりに、軽めに潮江の脇腹に膝を入れた。
とはいえ、澪の軽くは常人からすれば立派な攻撃だ。潮江の顔が痛みに歪む。
基本的に、柄の長い武器の習得は難しい。槍自体は剣より間合いが広く、物に出来るなら優秀な武器になり得るが、柄の素材の強度が悪いとぼっきり折られて攻撃力が一気に下がってしまう。
ちなみに、澪の場合は鉄でもかなりの厚みがないなら曲げられるので、例え柄を鋼鉄に変えても無意味である。
我ながら酷い怪力だ。美少女が鉄の棒を曲げたり、折ったりする映像なんてCGの世界であろう。
「潮江さんは、早く突き過ぎ。ここぞって時に踏み込まないと隙ができる。何のために槍を持ってんのよ!」
澪のキツイ叱責に、食満と潮江の顔が不快そうに歪む。
やがて、食満が怒りも露わにまた攻撃してきた。その顔は原っぱに転げたせいか、草の汁に塗れて擦過傷がある。
「うるせぇー!出鱈目な怪力してる奴に偉そうに言われたかねーよっ!」
食満の顔は、怒りで歪んでいる。それを見て、澪は仮面の下でニヤリと笑った。半助から指示を受けた時、厳しい指導は何のためかと思っていたのだが、今、理解した。
これは、彼等のガス抜きのためだ。わざと怒らせて、澪に向かわせる事で憂さ晴らしをさせようと言うのだろう。
「全くその通りだっ。何なんだ、あんたはー!この非常識の塊めぇええ!」
うおおお!と言いながら二人ともやけくそなのは丸わかりだ。
「二人とも武器を過信し過ぎるなっ。この脳筋っ!!」
なので澪の言葉遣いもお返しとばかりにキツくなる。二人は澪のパンチをそれぞれくらって地面に転がっていった。
「おおー、なんか楽しくなってきたな!」
「もそ……留三郎達、態度が悪過ぎないか」
「まぁ、気持ちはわたしも分かる。本人達が後から謝るのではないか」
「ぼくは澪さんが怒るとは思わないけど。でも留三郎も文次郎も、あれは甘えてるよね。同い年なのに」
潮江達と同学年の小平太達は、呑気に会話をしている。彼等の目の前で二人が空中に凄い音と共に打ち上げられたが、風景のような扱いである。
「ーーぐっは、お、女じゃない。お前のことをオレは女とは認めないぞ」
「あら、奇遇ね。わたしも貴方の事は男なんて認めないわーー青二歳の坊や」
食満がボロボロになりながら悪態をつくので、仕返しに言ってやるとツボに入ったのか、野村と半助が吹き出して笑っていた。
「神様はなんで、あんたにそんな怪力なんて授けたんだ。何者なんだよ!」
「見ての通り。か弱い女」
「嘘つけぇっ!こんなゴリラみたいな女がいてたまるかぁーー!」
潮江が怒鳴りながら、槍を振り回す。そろそろいいか、と澪は槍を粉砕した。ぼっきりと、木で出来た柄をまるで小枝のように折っておく。
ついでに、ここぞとばかりに飛び込んできた食満の鉄双節棍の繋ぎ目も、えいっと引きちぎった。
「「ば、化け物……」」
「心外だわ。ちょっと人より力が強いだけなのに。あー、悲しいわー、うえーん、うえーん」
「「嘘くさっ!!」」
酷い話だ。割と真剣に芝居をしているのに。ちょっとくらい、澪に悪いなという顔をすればいいのに。
あと、潮江はゴリラなんてよく知っているなと感心する澪である。
忍術学園にゴリラの事を書いた本があるのかもしれない。今度、図書委員なのだしきり丸にでも聞いてみよう。
「ほらほら、武器に頼れないならどうするの?尻尾巻いて逃げてもいいよ。わたしから逃げられるものならね」
ボキボキ腕を鳴らして二人へ迫る。
途端に青い顔になる少年二人に優しい声で言った。
「わたしの悪口を言ったんだから、お仕置きされる覚悟、できてるんでしょう。幾らでもいいから、かかってきなさいよ。ズタボロになるまで、遊んであげるわ」
「えっ、あ、いや。オレ達も言ったかもしれないが、澪さんもオレの事、青二歳とかなんとか」
「先に言った方が悪いから」
「何だそれ、理不尽だ!」
文句を垂れる食満をポイっと投げて地面に転がす。それを見て、首をブンブン振る潮江も容赦なく打ち上げる澪。
ぴゅーんと、空高くに舞い上がる潮江少年。
「何て事なんだっ。あの潮江先輩が、まるで熊に遊ばれる玩具のようだ。流石、澪さん。やばい、さいっこうに痺れる。いいぞー、もっと潮江先輩をやっちゃってー!」
潮江が長をしている会計委員会で、日頃から意味不明な謎の鍛錬に付き合わされている恨みを晴らすかのように、一年は組の生徒ーー団蔵が潮江に聞こえないのをいい事に好き勝手応援していた。
団蔵の恨みに満ちた声援を止める者は誰もいない。
それどころか。
「澪さーん、もうちょっと力を抜くのよ。すぐ倒れちゃうから」
「澪さん、二年い組の方に見えるように技を決めてもらえませんか?」
「一年は組にもよろしく頼むよ」
「わたしも、澪ちゃんの活躍が見たいわ」
教師陣や食堂のおばちゃんに至っては、この際だからと遠慮のえの字もない。品のあるお婆さんの姿をしているシナですら、物騒な発言をかましている。
最早、潮江と食満はいい教材扱いである。
「そーれ!」
「「ぎゃああーーー!!」」
長閑な浦山に、犬猿コンビの大絶叫が木霊したのだった。
それから、事が終わる頃には二人は雑巾に仕立てるのも厳しい使い古しの褌または手拭いよろしく、仲良く折り重なって倒れていた。白目をむいており、口から魂を今にも飛ばしそうな有様だ。
ーーちょっと、楽しかったせいではしゃいでしまった。
なんやかんや、澪自身が戦いを好むせいだ。戦闘狂でこそないが、戦うとなると血が騒いでテンションが上がるのである。
澪は反省していた。相手は忍者の卵とはいえ、少年である。それなのに、つい調子に乗って遊んでしまった。
なので、二人の様子を確認するためにも、枕がないのでそれぞれの頭を自分の膝に乗せて膝枕でもしようと、彼等の近くでしゃがんだ時である。
「澪さん、二人にこれをどうぞ」
と言って、半助が笑顔で布を巻いて枕にした物を出してきた。しかも二個ある。用意がよ過ぎる気がしないでもないが、二人にとってはこちらの方がよいだろう。
受け取って、二人を寝かせてやった。
これで本当によかったのだろうか。
風呂場で裸を見られた時に、二人にビンタの一撃でもしていればよかったのだろうかーー否、澪のビンタは下手をしたら勢い余って、歯が折れる可能性もある。やはりデコピンがよい。
今度、誰かに制裁をする時はデコピンにしよう。痕が残るかもしれないが、ビンタよりマシな筈だ。
とにかく、どっちみち戦うにしても澪の裸を見た報復ができていれば、少年二人のプライドはもう少し守られた可能性がある。
「何だか、わたしの方が得をした気分です。これでよかったんでしょうか土井先生」
「いいと思うよ。それに、この二人にとっても勉強になっただろう。山田先生も出張がなければ来たがっていた。わたしは、澪さんの活躍を報告しておくとしよう」
半助が明るく笑っている。見れば、シナや野村に食堂のおばちゃんも笑っていた。
大丈夫かと心配しているのは、澪だけらしい。
「澪さん、格好良かったです!」
「本当に素敵でした。今度、わたし達にも技を教えてください」
くのたまのユキとトモミがキラキラしたら眼差さを向けて近付いて来た。男装を披露してからというもの、くのたま達からの好意が凄い。女同士だからこそなのか、遠慮なく澪の手を握ったりひっついたりしてくる事が増えた。
可愛い女の子だから、澪は別に構わないのだが。
「澪さん、とても素晴らしかったですよ。また今度、二年い組の実技の補佐をお願いしますね」
眼鏡が似合う野村が、インテリチックな魅力を兼ね備えた眼差しで澪を見つめて来た。彼の背後にはうんうん、と頷く二年生達の姿がある。
「ーーそしたらわたしは、一年は組の補佐をお願いしようかな。教科の方を」
すると、流れに乗っかってか半助からそんな言葉があった。
「構わないですが、わたしに務まるかどうか。今はくのたま教室でシナ先生の教科の授業を聞いたり、本を読んで自主勉強したり、何ならくのたまの子達に忍術を教わってるくらいですし」
「大丈夫だ。一年生は忍術の授業だけじゃなく、算数や国語の授業も多い。うちは、あれだ……皆んないい子なんだが」
半助が胃の辺りをさすりながら苦笑いした。皆まで言わずとも察しろ、という事らしく当然、すぐにわかった。
野村やシナも、否定をしないのが言ってて悲しくなってきたのか、半助の顔がしょんぼりしているように見える。
「分かりました。予定は後ほど、調整をしましょう」
「ありがとう!」
ぱあっと明るくなる半助の笑顔。顔は男前なのに仕草が可愛いとはこれいかに。精神年齢が歳上のせいで、半助がだんだん可愛く見えてくる澪である。
まぁ、もっと可愛いのは半助と澪の会話を聞いてお祭り騒ぎになっている一年は組の良い子達である。例え、担任の半助や伝蔵からため息をつかれることが多過ぎるせいで、一年は組は「はぁ」のは組等と密かに言われていたりしても。
「澪さん、土井先生の授業の時は是非ぼくの隣に来てください」
「あっ、庄左ヱ門ちゃっかりし過ぎ。それならぼくの横にも来てよー。なめくじさん達も、澪さんに会いたがってるし」
庄左ヱ門が早速、澪の席を用意しようとする傍ら、喜三太からもお誘いがある。なめくじに記憶力があるかは別として、彼の大事なペットを見せてくれようとする好意を素直に喜んでおく事にした。
「ありがとう、二人とも。わたしは補佐だから、多分皆んなの席をまんべんなく回ると思うの。隣に行ったら仲良くしてね」
角を立てないように断ると、二人は納得したらしく笑顔で頷いた。素直な良い子達だ。半助が妙に可愛らしいのは、ひょっとして一年は組の子達に影響されての事かもしれなかった。
「澪さん、そこの二人は僕らが医務室へ運んでおきます」
「そしたら、わたしもついて行きたいです。流石に放置はできないので、目が覚めるまでは側にいちゃダメですか?」
六年生達が気絶した潮江と食満を運びにやって来た。保健委員の伊作が状態を確認しつつ、軽くら応急処置をしている。
「澪さん、俺と長次も文次郎達みたいに今度投げてくれ。飛んでみたい!」
わくわくした顔の小平太が、澪に近付いてきた。後ろにいる長次も、真顔で頷いている。まるでジェットコースター待ちの客である。
「ーー近いから少し離れなさい」
先ほどまでより、低い半助の声。
それがしたと思ったら、小平太の肩がぐっと引かれて、澪からあっという間に離れた。
「そうですよ、七松くん。澪さんは年頃の娘さんなんだから」
シナも同意し、やんわりと注意している。小平太は無邪気なため、イヤらしさは皆無なのだが学園のため節度は必須だ。
くのたまと忍たまの宿舎が別々で、原則互いに無許可の立ち入りが禁止なのも、忍者の三禁の一つである色に溺れてはならないという教えのためだけでなく、単純に年頃の男女が学生の身分で間違いを起こさないようにという配慮からの物だろう。
小平太は一瞬だけ、きょとんとした顔になったが半助を軽く一瞥すると、すぐに苦笑いした。
「すまない、澪さん。つい興奮してしまった」
「いいえ、気にしてませんので。まぁ、怪我をするかもしれない覚悟があるのならいいですよ」
「大丈夫だ。というか、わたしも長次も澪さんと鍛錬がしたいっ!」
「別にいいですけど、予定があったりするので予約でお願いします。あと、先生に止められたら中止すること。それを飲むならいいですよ」
六年生では既に仙蔵と伊作を見ている。二人とも、体格が華奢な部類になるため、避けるのと相手の力を利用する武術特化の訓練中だ。
最初は仙蔵、次に伊作が澪直々の訓練メニューを今や日課としている。
小平太は足腰がしっかりしているし、長次は肩ががっしりしている。仙蔵達とは違った訓練ができそうな感じだ。
「良かったな、二人とも。澪さんの訓練メニューは中々しんどいが、こなしてみると成果があるぞ。わたしは少しずつだが、前より身体が柔らかくなってきた」
仙蔵がフフンと、得意そうに笑っている。彼の場合は避け特化のため、柔軟をかなり入れている成果が出て来たらしい。
「ほぅ、澪さんの訓練メニューはそんなに成果があるんですか。よかったら、わたし達にもお願いします。生徒達に負けてられませんからな」
「ふふ、わたしはくのたま達と一緒に拳法をやっていますが、なかなか楽しいですよ。準備運動として太極拳というのを習ったんですけど、あれをすると血の巡りがよくなるんです」
「太極拳というと明の物ですか。身体にいいなら、是非わたしも教えてもらおうかな」
「あら、そうなの。難しくないならわたしもやってみたいわ」
教師達や食堂のおばちゃんが、なんやかんや盛り上がっている。大人組は自分達で良し悪しを決めるだろうし、別に澪に否はない。ただ、最近は澪の能力を買ってくれているのか、予定が埋まって来ているため、やって欲しい事があるなら早めに相談してくれると助かる次第だ。
とはいえ、とりあえずは気絶してしまった潮江と食満を医務室へ運ぶのが優先だろう。
ーー目覚めた二人が澪を見て、また気絶したりしないといいのだが。
やらかしておいて何だが、トラウマになっていない事をこっそり祈る澪だった。
そう澪が思ったのは、戦闘開始早々に他ならぬ潮江と食満の動きを見たからだ。
互いに接近攻撃タイプの武器だが、取れる距離は鉄双節棍よりも槍の方が広い。
互いの攻撃範囲に合わせてか。
何も言わずとも食満が前に出てきて、少し後方で潮江が槍を構えていた。食満の攻撃を避ければ、その隙を突いて潮江が来るというわけだ。
「てりゃー!!」
空気を震わせて、食満の腕が振り下ろされた。鉄双節棍は、その名の通り鉄でできているため、単純に鉄パイプで殴られるのと似た効果がある。
だが、こういう特殊な武器というのは扱いが難しいのだ。そして、鉄の棒を鎖で繋いであるということは、単純な一本の鉄の棒より強度にも攻撃の威力にも欠けるということ。例え、補強のために分銅がついていようが澪には、大した意味はない。
澪は振り回されたそれを躊躇うこたなく、素手で掴んだ。止めてしまえば、どうということはない。潮江が槍を繰り出して来ようとしたが、掴んだ鉄双節棍で食満を引き寄せて、盾にしたことで槍の軌道が逸れた。
「食満さんは、この武器の弱点にもっと目を向けないと、こんな風にやらるわよ!」
忠告した上で、食満の背中を押して解放するついでに潮江へ向けて突き飛ばした。すべしゃあ!と勢い良く食満の身体が原っぱに転がるが、流石は忍者ーー受け身をすかさず取っていた。
食満を避けた潮江が、槍を突き出して来たのを避けてお返しとばかりに、軽めに潮江の脇腹に膝を入れた。
とはいえ、澪の軽くは常人からすれば立派な攻撃だ。潮江の顔が痛みに歪む。
基本的に、柄の長い武器の習得は難しい。槍自体は剣より間合いが広く、物に出来るなら優秀な武器になり得るが、柄の素材の強度が悪いとぼっきり折られて攻撃力が一気に下がってしまう。
ちなみに、澪の場合は鉄でもかなりの厚みがないなら曲げられるので、例え柄を鋼鉄に変えても無意味である。
我ながら酷い怪力だ。美少女が鉄の棒を曲げたり、折ったりする映像なんてCGの世界であろう。
「潮江さんは、早く突き過ぎ。ここぞって時に踏み込まないと隙ができる。何のために槍を持ってんのよ!」
澪のキツイ叱責に、食満と潮江の顔が不快そうに歪む。
やがて、食満が怒りも露わにまた攻撃してきた。その顔は原っぱに転げたせいか、草の汁に塗れて擦過傷がある。
「うるせぇー!出鱈目な怪力してる奴に偉そうに言われたかねーよっ!」
食満の顔は、怒りで歪んでいる。それを見て、澪は仮面の下でニヤリと笑った。半助から指示を受けた時、厳しい指導は何のためかと思っていたのだが、今、理解した。
これは、彼等のガス抜きのためだ。わざと怒らせて、澪に向かわせる事で憂さ晴らしをさせようと言うのだろう。
「全くその通りだっ。何なんだ、あんたはー!この非常識の塊めぇええ!」
うおおお!と言いながら二人ともやけくそなのは丸わかりだ。
「二人とも武器を過信し過ぎるなっ。この脳筋っ!!」
なので澪の言葉遣いもお返しとばかりにキツくなる。二人は澪のパンチをそれぞれくらって地面に転がっていった。
「おおー、なんか楽しくなってきたな!」
「もそ……留三郎達、態度が悪過ぎないか」
「まぁ、気持ちはわたしも分かる。本人達が後から謝るのではないか」
「ぼくは澪さんが怒るとは思わないけど。でも留三郎も文次郎も、あれは甘えてるよね。同い年なのに」
潮江達と同学年の小平太達は、呑気に会話をしている。彼等の目の前で二人が空中に凄い音と共に打ち上げられたが、風景のような扱いである。
「ーーぐっは、お、女じゃない。お前のことをオレは女とは認めないぞ」
「あら、奇遇ね。わたしも貴方の事は男なんて認めないわーー青二歳の坊や」
食満がボロボロになりながら悪態をつくので、仕返しに言ってやるとツボに入ったのか、野村と半助が吹き出して笑っていた。
「神様はなんで、あんたにそんな怪力なんて授けたんだ。何者なんだよ!」
「見ての通り。か弱い女」
「嘘つけぇっ!こんなゴリラみたいな女がいてたまるかぁーー!」
潮江が怒鳴りながら、槍を振り回す。そろそろいいか、と澪は槍を粉砕した。ぼっきりと、木で出来た柄をまるで小枝のように折っておく。
ついでに、ここぞとばかりに飛び込んできた食満の鉄双節棍の繋ぎ目も、えいっと引きちぎった。
「「ば、化け物……」」
「心外だわ。ちょっと人より力が強いだけなのに。あー、悲しいわー、うえーん、うえーん」
「「嘘くさっ!!」」
酷い話だ。割と真剣に芝居をしているのに。ちょっとくらい、澪に悪いなという顔をすればいいのに。
あと、潮江はゴリラなんてよく知っているなと感心する澪である。
忍術学園にゴリラの事を書いた本があるのかもしれない。今度、図書委員なのだしきり丸にでも聞いてみよう。
「ほらほら、武器に頼れないならどうするの?尻尾巻いて逃げてもいいよ。わたしから逃げられるものならね」
ボキボキ腕を鳴らして二人へ迫る。
途端に青い顔になる少年二人に優しい声で言った。
「わたしの悪口を言ったんだから、お仕置きされる覚悟、できてるんでしょう。幾らでもいいから、かかってきなさいよ。ズタボロになるまで、遊んであげるわ」
「えっ、あ、いや。オレ達も言ったかもしれないが、澪さんもオレの事、青二歳とかなんとか」
「先に言った方が悪いから」
「何だそれ、理不尽だ!」
文句を垂れる食満をポイっと投げて地面に転がす。それを見て、首をブンブン振る潮江も容赦なく打ち上げる澪。
ぴゅーんと、空高くに舞い上がる潮江少年。
「何て事なんだっ。あの潮江先輩が、まるで熊に遊ばれる玩具のようだ。流石、澪さん。やばい、さいっこうに痺れる。いいぞー、もっと潮江先輩をやっちゃってー!」
潮江が長をしている会計委員会で、日頃から意味不明な謎の鍛錬に付き合わされている恨みを晴らすかのように、一年は組の生徒ーー団蔵が潮江に聞こえないのをいい事に好き勝手応援していた。
団蔵の恨みに満ちた声援を止める者は誰もいない。
それどころか。
「澪さーん、もうちょっと力を抜くのよ。すぐ倒れちゃうから」
「澪さん、二年い組の方に見えるように技を決めてもらえませんか?」
「一年は組にもよろしく頼むよ」
「わたしも、澪ちゃんの活躍が見たいわ」
教師陣や食堂のおばちゃんに至っては、この際だからと遠慮のえの字もない。品のあるお婆さんの姿をしているシナですら、物騒な発言をかましている。
最早、潮江と食満はいい教材扱いである。
「そーれ!」
「「ぎゃああーーー!!」」
長閑な浦山に、犬猿コンビの大絶叫が木霊したのだった。
それから、事が終わる頃には二人は雑巾に仕立てるのも厳しい使い古しの褌または手拭いよろしく、仲良く折り重なって倒れていた。白目をむいており、口から魂を今にも飛ばしそうな有様だ。
ーーちょっと、楽しかったせいではしゃいでしまった。
なんやかんや、澪自身が戦いを好むせいだ。戦闘狂でこそないが、戦うとなると血が騒いでテンションが上がるのである。
澪は反省していた。相手は忍者の卵とはいえ、少年である。それなのに、つい調子に乗って遊んでしまった。
なので、二人の様子を確認するためにも、枕がないのでそれぞれの頭を自分の膝に乗せて膝枕でもしようと、彼等の近くでしゃがんだ時である。
「澪さん、二人にこれをどうぞ」
と言って、半助が笑顔で布を巻いて枕にした物を出してきた。しかも二個ある。用意がよ過ぎる気がしないでもないが、二人にとってはこちらの方がよいだろう。
受け取って、二人を寝かせてやった。
これで本当によかったのだろうか。
風呂場で裸を見られた時に、二人にビンタの一撃でもしていればよかったのだろうかーー否、澪のビンタは下手をしたら勢い余って、歯が折れる可能性もある。やはりデコピンがよい。
今度、誰かに制裁をする時はデコピンにしよう。痕が残るかもしれないが、ビンタよりマシな筈だ。
とにかく、どっちみち戦うにしても澪の裸を見た報復ができていれば、少年二人のプライドはもう少し守られた可能性がある。
「何だか、わたしの方が得をした気分です。これでよかったんでしょうか土井先生」
「いいと思うよ。それに、この二人にとっても勉強になっただろう。山田先生も出張がなければ来たがっていた。わたしは、澪さんの活躍を報告しておくとしよう」
半助が明るく笑っている。見れば、シナや野村に食堂のおばちゃんも笑っていた。
大丈夫かと心配しているのは、澪だけらしい。
「澪さん、格好良かったです!」
「本当に素敵でした。今度、わたし達にも技を教えてください」
くのたまのユキとトモミがキラキラしたら眼差さを向けて近付いて来た。男装を披露してからというもの、くのたま達からの好意が凄い。女同士だからこそなのか、遠慮なく澪の手を握ったりひっついたりしてくる事が増えた。
可愛い女の子だから、澪は別に構わないのだが。
「澪さん、とても素晴らしかったですよ。また今度、二年い組の実技の補佐をお願いしますね」
眼鏡が似合う野村が、インテリチックな魅力を兼ね備えた眼差しで澪を見つめて来た。彼の背後にはうんうん、と頷く二年生達の姿がある。
「ーーそしたらわたしは、一年は組の補佐をお願いしようかな。教科の方を」
すると、流れに乗っかってか半助からそんな言葉があった。
「構わないですが、わたしに務まるかどうか。今はくのたま教室でシナ先生の教科の授業を聞いたり、本を読んで自主勉強したり、何ならくのたまの子達に忍術を教わってるくらいですし」
「大丈夫だ。一年生は忍術の授業だけじゃなく、算数や国語の授業も多い。うちは、あれだ……皆んないい子なんだが」
半助が胃の辺りをさすりながら苦笑いした。皆まで言わずとも察しろ、という事らしく当然、すぐにわかった。
野村やシナも、否定をしないのが言ってて悲しくなってきたのか、半助の顔がしょんぼりしているように見える。
「分かりました。予定は後ほど、調整をしましょう」
「ありがとう!」
ぱあっと明るくなる半助の笑顔。顔は男前なのに仕草が可愛いとはこれいかに。精神年齢が歳上のせいで、半助がだんだん可愛く見えてくる澪である。
まぁ、もっと可愛いのは半助と澪の会話を聞いてお祭り騒ぎになっている一年は組の良い子達である。例え、担任の半助や伝蔵からため息をつかれることが多過ぎるせいで、一年は組は「はぁ」のは組等と密かに言われていたりしても。
「澪さん、土井先生の授業の時は是非ぼくの隣に来てください」
「あっ、庄左ヱ門ちゃっかりし過ぎ。それならぼくの横にも来てよー。なめくじさん達も、澪さんに会いたがってるし」
庄左ヱ門が早速、澪の席を用意しようとする傍ら、喜三太からもお誘いがある。なめくじに記憶力があるかは別として、彼の大事なペットを見せてくれようとする好意を素直に喜んでおく事にした。
「ありがとう、二人とも。わたしは補佐だから、多分皆んなの席をまんべんなく回ると思うの。隣に行ったら仲良くしてね」
角を立てないように断ると、二人は納得したらしく笑顔で頷いた。素直な良い子達だ。半助が妙に可愛らしいのは、ひょっとして一年は組の子達に影響されての事かもしれなかった。
「澪さん、そこの二人は僕らが医務室へ運んでおきます」
「そしたら、わたしもついて行きたいです。流石に放置はできないので、目が覚めるまでは側にいちゃダメですか?」
六年生達が気絶した潮江と食満を運びにやって来た。保健委員の伊作が状態を確認しつつ、軽くら応急処置をしている。
「澪さん、俺と長次も文次郎達みたいに今度投げてくれ。飛んでみたい!」
わくわくした顔の小平太が、澪に近付いてきた。後ろにいる長次も、真顔で頷いている。まるでジェットコースター待ちの客である。
「ーー近いから少し離れなさい」
先ほどまでより、低い半助の声。
それがしたと思ったら、小平太の肩がぐっと引かれて、澪からあっという間に離れた。
「そうですよ、七松くん。澪さんは年頃の娘さんなんだから」
シナも同意し、やんわりと注意している。小平太は無邪気なため、イヤらしさは皆無なのだが学園のため節度は必須だ。
くのたまと忍たまの宿舎が別々で、原則互いに無許可の立ち入りが禁止なのも、忍者の三禁の一つである色に溺れてはならないという教えのためだけでなく、単純に年頃の男女が学生の身分で間違いを起こさないようにという配慮からの物だろう。
小平太は一瞬だけ、きょとんとした顔になったが半助を軽く一瞥すると、すぐに苦笑いした。
「すまない、澪さん。つい興奮してしまった」
「いいえ、気にしてませんので。まぁ、怪我をするかもしれない覚悟があるのならいいですよ」
「大丈夫だ。というか、わたしも長次も澪さんと鍛錬がしたいっ!」
「別にいいですけど、予定があったりするので予約でお願いします。あと、先生に止められたら中止すること。それを飲むならいいですよ」
六年生では既に仙蔵と伊作を見ている。二人とも、体格が華奢な部類になるため、避けるのと相手の力を利用する武術特化の訓練中だ。
最初は仙蔵、次に伊作が澪直々の訓練メニューを今や日課としている。
小平太は足腰がしっかりしているし、長次は肩ががっしりしている。仙蔵達とは違った訓練ができそうな感じだ。
「良かったな、二人とも。澪さんの訓練メニューは中々しんどいが、こなしてみると成果があるぞ。わたしは少しずつだが、前より身体が柔らかくなってきた」
仙蔵がフフンと、得意そうに笑っている。彼の場合は避け特化のため、柔軟をかなり入れている成果が出て来たらしい。
「ほぅ、澪さんの訓練メニューはそんなに成果があるんですか。よかったら、わたし達にもお願いします。生徒達に負けてられませんからな」
「ふふ、わたしはくのたま達と一緒に拳法をやっていますが、なかなか楽しいですよ。準備運動として太極拳というのを習ったんですけど、あれをすると血の巡りがよくなるんです」
「太極拳というと明の物ですか。身体にいいなら、是非わたしも教えてもらおうかな」
「あら、そうなの。難しくないならわたしもやってみたいわ」
教師達や食堂のおばちゃんが、なんやかんや盛り上がっている。大人組は自分達で良し悪しを決めるだろうし、別に澪に否はない。ただ、最近は澪の能力を買ってくれているのか、予定が埋まって来ているため、やって欲しい事があるなら早めに相談してくれると助かる次第だ。
とはいえ、とりあえずは気絶してしまった潮江と食満を医務室へ運ぶのが優先だろう。
ーー目覚めた二人が澪を見て、また気絶したりしないといいのだが。
やらかしておいて何だが、トラウマになっていない事をこっそり祈る澪だった。
