(切)愛苦しい
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……――パタッ
と、つい一秒前まで俺にすがっていた手がシーツの上に落ちた時、ああ、今夜も終わってしまったのかと思った。
止まっていたかのように感じていた時間が、動き出す。
いや、最初から俺たちの時間は止まっちゃいなかった…深夜すぎ。
情事の余韻に浸ることすら自分に禁ずるように、切り替えて俺の体を押し離し、身を起こして背を向けたリイナに、俺は今日も無意味な問いをする。
「…部屋に戻るのか。」
「泊まるわけにはいかないでしょう?」
床に散らばっている服を拾い上げながら、背中で答えるその声ははにかんでいるように聞こえる。
お前のクセだ。だが、その態度は先ほどまでひとつになっていたとは思えないくらいにそっけない。
別に、泊まればいいのにな。
リイナの中にあるその確固たる線引きに、また胸が痛んだ。
体は気だるいのに、満足感がない。
もう一度押し倒そうか考えて、留まった。
そうすることは簡単だ。だが、そんなことをすれば、お前はもう二度とこの部屋には来ないだろう。
…今夜が最後かもしれない。
それを毎夜思い焦れる。
「なあ、明日も来いよ。」
「……どうしようかな。」
相変わらず背中を向けたまま、乱れた髪を手ぐしで直すリイナの背中を抱きしめ体を引き寄せた。
「いいだろ?」
首筋に唇を落とすと、リイナは切なげに吐息を溢した。
それから俺に向き直り、はにかんで笑った。
「元気ですね。」
「そんなの、とっくにわかっているだろ。」
「んー…じゃあ、考えておきます。」
約束を作りたがる俺をごまかしながらのその笑い顔に、俺はあの日を重ねて…必死に口の端を上げた。
俺たちは今、笑っているが決してじゃれているわけでも、本気でふざけ合っているわけでもない。
こうでもしないと今にも切れそうに張り詰めている糸を、切れないように必死に保っているだけだ。
「…リイナ。」
顔を近づける俺に、リイナは少し迷うような表情をしたあと、覚悟したように目蓋を閉じた。
俺はそれに気づかなかったふりをして唇を重ねる。
(……愛している。)
そんな想いを込めて。
だが、それは絶対に言ってはいけない言葉。
俺たちの間には必要のない感情。
それを口にした途端に糸は切れ、切れた糸は戻らない。
もっとじっくりキスを味わいたいのを我慢して、ゆっくり離れた。
「じゃあ、また明日な。」
「…考えておきますってば。」
リイナはキスの余韻をごまかすように憎まれ口を叩いて、あっさりと俺から離れてドアの向こうへ消えた。
そしてお前は、今日も一人自分のベッドで、今夜のことを悔いて泣くんだろう。
それを俺はどうしてやることもできないのに、お前を離してやることはできない。
「ごめんな…。」
"えっと……平門さんが……"
たとえあの日に戻れたとしても、俺はただ純粋に笑っていたお前を、また引き寄せるだろう。
その結果、お前が純粋に笑えなくなることを知っていたとしても。