(切甘)もう一度だけ…
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「すみません……。」
「いや、いいんだ。本当はずっとお前に聞いて欲しかったんだよ。」
「どうして……ですか……。」
「お前には、いつでも笑っていて欲しかったんだよ。」
「え……?」
「俺といると、お前はいつも何でも俺に合わせてくれただろ。俺は楽しかったけど、お前はどうなんだろって思ってさ…無理して合わせてくれてるんじゃないかって思ってた。好きな女の子一人楽しませられねぇなんて嫌だろ。」
「そんな……っ」
「言ったろ、よくお前を遠くから見ていたって。友達といる時みたいに、俺といる時も心から楽しんで笑って欲しかった。ペコの可愛い笑顔がずっと好きで見ていたから。もっと傍で見られたらなって、ずっと思ってた。まぁ俺も、変な意地を張って若かったんだろうな…」
それは、朔先輩が悪いんじゃなく私が悪いのに……
流されやすい性格で、いつも先輩に合わせて先輩からなにかしてくれるのを待っていた。
自分から動かなかったのが悪いのに。
その結果が別れなら私の自業自得なのに、何故か朔先輩は申し訳なさそうな表情をした。
それでも、私は無理して合わせていたわけじゃなかった……
先輩からデートに誘ってくれたのも、先輩から色んな提案をしてもらえるのも本当に心から楽しくて一緒にいたのに、どうして無理してるなんて思っちゃったんですか……。
「俺たちも一度、友達から始めてみたら変わるかもと思ったんだが……別れたら友達に戻るのは難しいって思い知ったな。好きなまま友達でいても、絶対に気持ちを一方的にぶつけたくなるから。…それで、近くにすらいられなかった。……本当に悪かった。」
「……」
恋人でいられないのならせめて友達で…とはいうけれど。
別れた相手と友達になるのは、難しいことなのかもしれない…。
先輩のことが本当に好きだったから、好きだからこそ友達として傍にいるのはつらいということもある。
だから嫌いで別れたわけじゃないけど、それから連絡ひとつ取ることも躊躇われて距離を空けてしまった。
だけど実は、大学の合格や高校卒業の時におめでとうと言いたくて、何度か連絡を試みようとしたことがあった。
けれど結局迷ってメールひとつ出来ないまま、疎遠になってしまった。
私は、別れを切り出された理由はずっと私が悪いからだと思ってた。
いつまでも緊張してぎこちなくて、ちっとも彼女っぽくできなかったのが悪かったからだと。
なのに……。
「先輩は、私といるのが嫌になったんじゃないんですか…?」
「それは絶対にない。勝手だとは思うが…別れてからも、ずっとお前が好きだったよ。本当は何度も連絡しようと思ったが、それこそどの面下げてって思って出来なかった。」
それじゃあ……
楽しかった頃の思い出だけで満たされていた訳でもなく、友達でいることもつらくて離れたのだとしたら……先輩も、私と同じだったんだ。
よかった……私は、先輩に嫌われたわけでも、呆れられたわけでもなかったんだ……。
「よかった……。」
「つらい思いをさせて本当に悪い…。新しく入って来るのがお前だって知って、こんなことあるのかと思った。けど、これもまたチャンスにしたいって思ったんだよ。少しづつでも開いた距離をまた縮めていきたいってな。……やっぱり、今更か?」
恐る恐る訪ねてくる先輩に、私はゆっくり首を横に振った。
同じことの繰り返しになってしまうかもしれない……まだダメになったらどうしよう……私はこれが怖かった。
今もその思いがなくなったわけではないけど……
もう一度、その手を握ることが出来たならと、別れてから何度も何度も願った。
「昨日はすみませんでした……。私はいつも先輩に色々してもらってばかりで、別れたのもそれが原因だとずっと思っていて…でも、なかなか表に出せなかったけど、私は先輩といて無理していたことなんてひとつもありません。いつだって先輩といるのは嬉しくて楽しかったです。」
「……そうか。俺たちはもっと腹を割って話をすべきだったわけか。」
性急に判断を下してしまう前に、もっと話をすればよかった。
私も、もっと素直になればよかったんだ。
すぐには無理かもしれない。
けど、その手が離れていくくらいなら、またあの悲しみを味わうくらいなら、足掻こう……。
自分の中だけで勝手に完結してしまう前に、きちんと相手に想いを伝える。
それが、私たちには足りなかったんだ。
それなら……今度は、私から先輩に向き合わなきゃ。
私も、これをチャンスにしてもいいかな……?
素直に気持ちを伝えて、もう一度先輩と向き合うチャンスに。
「聞いてもいいか。…その、お前は…今は、付き合っている男は…恋人は、いるのか…?」
恐る恐る探るような朔先輩の視線に、私ははっきりと首を横に振った。
「いません…いません、そんな人は……。」
「…そうか………。」
ホッとしたような先輩の表情に、先輩の気持ちを感じて胸が切なくなった。
いつも一緒にいるときでも余裕を見せていた先輩が、実は私にそんな気持ちを持っていたなんて。
…先輩と別れてから今まで、全く出会いがなかったわけじゃなかった。
いいなと思う人もいたし、告白されたことだって何度かある。
だけど、しっくりくる人はいなかった。
朔先輩以上に、ずっと傍にいたいと思える人はいなかった。
この人だって思う、それだけの強い気持ちを持てる恋は、ずっとできなかった。
それだけ、朔先輩は私にとってずっと特別だったの。
「私、今でも朔先輩のことが好きです……あの頃からもっと、自分の気持ちとかたくさん言えばよかった…一緒にいて楽しいし、もっと傍にいたい、離れたくないって、いっぱい言えばよかった…今更ですよね…。」
「ペコ……。」
こうして失って苦しい思いをするくらいなら、いっそ足掻けばよかった。
なにもせずに後々後悔するくらいなら、どんなに見苦しくても。
それで結果がどうなろうと、ああすればよかった、こうすればよかったと悔いるよりずっと良い。
隣でいつでも明るく笑って優しくしてくれた先輩に、もっと好きだと言って甘えればよかった。
本当はずっとそうしたかったの。
別れを切り出された時だって、本当は嫌だって言いたかったのに言えなかった。
今になって気持ちが溢れだして、思わず泣きそうになる。
それを見て先輩は困ったような表情を浮かべ笑った。
「そんな顔するなよ……って言っても、させたのは俺か。」
「すみません……。」
「いや、お前の気持ちが伝わってきて、こう…そんな顔はさせたくないんだが、嬉しいような複雑な気分だ。……なぁ、ペコ。」
「……はい。」
「俺もあの時よりは大人になったと思う。今なら、前とはまた違う付き合いができると思うんだけどな、どうだろう。」
恐る恐る、壊れ物を扱うような慎重さで先輩の腕が伸びてきて、ぽんっと頭に大きな手のひらが乗った。
子供をあやすみたいに数回撫でられた後、その手が今度は背中に回されて気づけば朔先輩の胸の中。
しっかり抱き締められた腕はとても強くて暖かい。
「……ていうか、例え嫌だと言われても離してやらねぇけどな。……もしももう一度会えたら、絶対に捕まえて離さないって決めていたし。例え今は恋人がいたとしても、絶対にそいつより俺のほうがお前を幸せにするから。そいつからなんとしても奪い取って、俺しか見えないようにしてみせるってな。」
「…っ…先輩…離し……ここ、会議室……」
「いいだろ、もう少しだけ。そう簡単には離してやるもんか。」
誰か来たら……と思ったけど、反対に私の腕は離さないでとばかりに先輩の背中に回って、しがみつくように力を入れる。
……少しづつ、こうやって素直になっていきたい。
社内なことは重々承知だけど、今はまだこうして触れていたいの……。
広い胸と力強い腕のぬくもりが伝わって、心地よいドキドキに包まれる。
緊張はするけどそれが嫌じゃないなんて初めてかもしれない。
こんなドキドキなら、いくらでも。
「ペコ、改めて言うぞ。もう一度、俺と付き合ってくれないか?」
「…はい…私のほうこそ……私と付き合ってくれますか…?」
「当たり前だ。ペコとしか付き合わない。これから、離れていた間の時間を埋めていこうな。」
「はい……。」
「……平門は、俺の知らないお前の大学時代を知ってるんだよなぁ……。」
「そうですね、1年の頃からの付き合いですからね。」
「ふーん……じゃあ少なくとも2~3年来か。」
「はい。」
耳元で囁かれてくすぐったいなぁ…と思っていると、届いたのは朔先輩の悔しそうな声。
そっか、そうなると先に出会ったのは朔先輩だけど、関わりは平門先輩のほうが長いんだ。
「……妬いてます?」
「当たり前だろーが。あいつとは何もないんだろうな?」
少しづつ、思っていることを素直に口にしてみよう……その一歩めとして試しに言ってみたら、これまた予想外の答えが帰ってきて顔が熱くなった。
朔先輩が妬くなんて思いもしなかったから、否定されるとばかり思っていたのに。
知らなかった先輩の一面を早速ひとつ見つけた。
妬く先輩なんて……どうしよう、すごくくすぐったい。
平門先輩は、とても素敵な男性だと思う。
大学でもすごく人気があってモテモテだった。
だけど、私はやっぱり…朔先輩以上には惹かれることができなかった。
平門先輩も、私のことは後輩としては可愛がってはくれたけど、それ以上はなかった。
「どうでしょうねー?」
「お前……言うようになったじゃねーか。」
「素直になるって決めたので、……んっ」
「じゃあ、こっちもたっぷり素直になってやる。本当はお前にしたくてたまらなかったことがたっくさんあるんだからなー?覚悟しろよ、高校の時とは違う、オトナな付き合いを色々と経験させてやるからな。」
そう朔先輩は勝ち気に笑って……試しにからかった仕返しに、いきなり噛みつくようなキスをされた。
昔交わした触れ合わせるだけのキスと全然違う、唇で唇を食む隙間のないキス。
「……っ、んっ……」
それは反則だ、と抗議する暇もなく、再び塞がれた唇を舌でなぞられる。
ぬるりと侵入してきたそれに口内をねぶるように隅々まで探られ、経験のない激しい攻めの連続にあっという間にへろへろにされた。
ど、どんな付き合いを経験させられるんだろう…なんだか怖くなってきた…。
「待っ、は、本当に、場所、わきまえて……っ……」
「だーめだ。早く空白を埋めたくて仕方ないんだからな。というわけで今夜…空いてるよな?その気になるまでじっくり口説くからな。」
「う…っ……ゆっくり、距離を縮めていただければと………。」
「さて、まずは何からするかなー…?」
誰が来るともわからない会議室。
しかも今は昼休みで、午後からも仕事なのに……
本当に離れていた時間を早急に埋めるように、何度も唇を求められて腰を抜かされてしまった。
……先輩てけっこう恋人には激しいんだなぁ……なんて
恥ずかしいと思う間なく繰り出される攻めに翻弄されながら、また新たに見つけた先輩の一面を、愛しく思うのだった。
……大好きです、先輩。
これから、少しづつでも自分を出せるように頑張りますから、どうかお側にいさせてくださいね。
私だって、先輩を離すつもりなんてありませんから……覚悟していてください。
おわり
2016.01.15
こんにちはのお久し振りです!!
今回はリクエストで朔切甘現パロ、オフィスラブということで書かせていただきました。
回想を中心に進んだのであまりオフィスでラブな部分はなかったわけですが……現パロということでオフィスだけでなく学生時代も出してみました。
いわゆるオトナの恋で切甘なので、いきなり元カレと再会してしまったら……をテーマにしました。
学生時代の若さ故の不器用さから起こったすれ違いによる別れ、ということで。
未練のまま別れた恋人と再会してしまったらどうなるやら。
二度と同じ過ちを繰り返さない、と誓った二人がこれから幸せに生きていってくれたらいいですね。
それではリクエストありがとうございました!