(切甘)騎士は囚われ姫に愛を乞う
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「あの時、確かにお前をお姫様扱いしたな。それが嫌だったなら謝る。」
「…………………」
「だが、俺はただのお姫様扱いをしたわけじゃない。お前は自分の力で戦う。俺はそんなお前と一緒に戦える騎士になりたいと思った。一緒に戦って、時には俺がお前に守られることもあるだろうが、お前の中の1人の女の子の部分は俺だけが守りたい。そこは俺が守らせてくれないか。お前を大事にさせてほしい。」
「…朔くん…。」
「誰かを守るお前を、俺は守りたい。飾り物にするつもりなんかねえよ。俺は誰より勇ましく強く戦っているリイナが好きなんだ。だが、戦う側が時に誰かにとっては守られる存在になったっていいだろ。で、戦う俺の事はお前が守ってくれ。そうやって一緒に生きていきたい。ダメか?」
「…………………」
「悪い。どうしたって俺は、女の子の部分のリイナのことは俺だけのお姫様にしたくなる。飾り物って意味じゃなくてさ。戦うときは騎士、だがプライベートは俺だけのお姫様として俺に大事にされてくれ。お前の事は俺が全部肯定するから。」
そのまま目線を落として俯いたリイナに、俺ははやる気持ちを抑えて声をかけた。
「返事、聞かせてくれないか。俺はそろそろお前の隣に立ちたい。輪だからとか、今はそんな余裕はないとかは無しで。逃げずに俺とのことを考えてくれ。」
「…私、は…………」
もつれるように震える唇に、触れたくてたまらない。
お姫様と結ばれる運命なのは王子様だけかもしれない。
けど、騎士と結ばれる物語があったっていいだろう。
そんなものは存在しないのなら、俺が作ってやる。
新しい物語の最初の1人になってやる。
リイナの心を揺さぶれるなら、どんなことだってする。
「いつも、誰かに告白されてもすぐ断るじゃねえか。そんなに迷うほど、俺はお前の心の中に入れたのか?」
「……っ」
リイナは少し眉を寄せて、頬を赤らめた。
いつも澄ました顔で笑うリイナが、こんな表情を見せたのは初めてだ。
……あと一歩近づけば、リイナに手が届く。
俺の歩幅なら充分だ…充分に、お前を抱きしめることができる。
お前の普通の女の子の部分は、俺だけにくれないか。
俺の普通の男の部分は、お前だけのものだから。
女の子の騎士は騎士にだけしかなれなくてお姫様にはなれないとか、そんなことはない。
騎士だって誰かにとっては大事なお姫様、そんな物語でもいいだろう。
騎士のお前もお姫様のお前も、両方愛したい。
お前がわがままなら俺はよくばりだからな。
リイナの全部の部分が欲しいんだよ。
「俺じゃダメか?どうしても男として好きにはなれないか。」
「……私は、決して朔くんを好ましく思っていないわけではありません。ですが…………。」
「……なんだ?」
「私は、あなたのお姫様には、ふさわしくないと思うので…。」
「なんでそう思う?」
「私はかなりのひねくれ者で、自分の想いも素直に言えないほど、可愛げがありません。対してあなたはいつも素直で、私にはとても眩しかった…から。」
「いつも本気で口説けなくて、軽い言葉でしか誘えなかったのにか?」
「それでも、毎日あなたのお誘いはとても嬉しかったです。だから……いつもうっかり乗ってしまいそうで……でもいつか誘われなくなったらと思うと毎日不安で…軽く流すしかできませんでしたのに。」
言いながらリイナはまた俯いて、自分の足元を見た。
「…いつになったら、あなたは私に軽口ではなく、他の方々のように本気で好きだと言ってくださるのかと……なかなか言ってもらえないので、やはり可愛げのない私はあなたには本気で好きになってはもらえないのかと…軽く声をかけられる程度の存在でしかないのかと………。」
「っ!!」
………………どれだけの方にどれだけ好かれても、たった1人の特別な方に好きになってもらえないのなら、それはとても悲しいことです…。
かつてそう呟いたリイナの声が、耳に蘇る。
あれからずっとあの言葉が気になっていた。
沢山の男に言い寄られても全く喜ぶ素振りはなく、たった1人だけから想いを寄せられることを望んでいた言葉。
あの時リイナにもしもそんな特別な相手がいたとして、その特別は男はリイナから想われても一向に靡かずリイナを悲しませていたのか。
そんな男がいるのなら、ずっと羨ましくて羨ましくてたまらなかった。
誰からも相手にされることを望まれていたリイナが、たった1人恋した男。
その特別な男になりたかった。
数多の想いは向けられるリイナが、ただひとつ望んだ心は手に入らないなんて酷すぎる。
そんなリイナの想いを一身に受けることができたら、どんなに嬉しいだろうって。
俺だってずっと、どんな女の子に何人に想いを寄せられるより、ただ1人、リイナからの想いだけが欲しかったんだから。
あれは俺のことで、いつも軽い誘いはしても、本気の告白をしない俺にリイナはずっと傷ついていたとしたら?
「お前は、ずっと俺に好きだって言って欲しかったのか?」
「…………」
沈黙が、肯定だとはっきりわかった。
俯いていて顔は見えないが、リイナはいま確かに恋をしているんだって、わかった。
……いつから俺に、恋に落ちてくれたんだ?
すごく知りたい。いつから俺たちは両思いだったのか。
もっと早く俺が素直になっていれば、もっと早く結ばれていたんだろうか。
そしたらもしかして恋人同士として学園生活を送ることができたかもしれないのに。
考えても仕方のないことだ。だが。
ようやく俺は、自分の想いが叶ったんだな。
……………実感、させてくれ。
俺は、俯いたまま俺を見ようとしないリイナとの距離を一気に詰めると、リイナの肩を掴んだ。
「…っ?」
弾みでようやく顔を上げたリイナの視界に入るように真っ直ぐ見つめると…ゆっくりと顔を近づけた。
俺の意図を察して目を見開いたリイナは、だけど逃げようとはせずすぐに目を閉じて…ずっと触れたくてたまらなかった唇に、自分の唇を押し当ててキスをした。
リイナとの初めてのキスですぐに離れるのは惜しくて、時間が止まってしまったかのように、どれだけの間触れ合わせていたかわからなくなった。
これで俺はリイナの恋人になれる。
ずっとリイナの傍にいて、リイナの隣に立てる。
そう思うととにかく心臓が高鳴る。
ずっと頑張ってきた先に、リイナとの未来が待っていたと。
ようやく名残惜しく離れると、鼻先で見つめ合った。
少しとろけているリイナの瞳は、ああ俺に恋してるんだなと実感するくらいに甘くて。
リイナは恋をしたら、こんな表情をするのか…めちゃくちゃ可愛くて綺麗だ。
そこに確かにリイナの俺への想いを感じる。
たまらず抱きしめたら、小さな体はとても温かく、柔らかかった。
ふわりと甘い香りが鼻をくすぐる。
「…っ…めちゃくちゃ嬉しい…こんな幸せなことがあるかよ。」
「朔くん…………。」
「もう今から俺がお前の恋人だからな。俺だけがお前を独占するからな。いいよな?」
「…仕方ないですね。独占させてあげます。」
「ああ!お前も俺を存分に独占しろよ。」
「…はい。私もあなたを独り占めですね。」
「次からは、誰かに言い寄られたら恋人がいるって言えよ?」
「あなたに嫉妬が向いてしまいますよ。」
「そんなもの、いくらでも受けてやる。…一斉捜査が終わったら、そのあとは一晩うちの客室に泊まるんだろ?今夜はずっと一緒にいようぜ。」
「…え…?」
「そんな心配そうな声を出すなよ。大丈夫だ、お前が嫌だと思うことはなにもしない。ただ一緒にいたいだけだ。次はいつ会えるかわからないからな。」
ただお前を抱きしめていたいだけ。
それだけでいい。
これからずっと一緒にいるんだ、関係を深めるのは焦らなくてもいいだろう。
恋はゆっくり育んでいけばいい。大事に大事にな。
「本当に妙なことはしませんか?」
「絶対に約束する。抱き締めてキスはするけどな。」
「…ふふ…では。今夜はずっと一緒にいましょう。」
確かに抱きしめ返された腕の感触に、リイナの気持ちを感じて俺は確かに胸が震えるほど幸せだった。
一斉捜査が終わったら、その日一晩、兎に隠れてずっと、一晩中でも想いを語り合おう。
お前がいつから俺を好きだったのかも聞かないとな。
聞きたいことはたくさんあるんだ、俺のどこが好きかとかさ。
早く聞きたいが、楽しみはあとにとっておかないとな。
一晩中でもずっとキスをしていたい気分だ。
まだ夢の中みたいな気分だが、全身で感じるリイナのぬくもりが真実だ。
その一斉捜査のあと
………リイナが殉死したと聞かされたのは、一斉捜査から少し経った頃だった。
あの日の夜にリイナは一時的に行方不明になり、腕輪信号をもとに捜索した結果、街の外れの山の中で、重傷を負って倒れているところを発見された。
企業の一斉捜査だったにもかかわらず、隠れていた強力な能力者との戦いになったのか………そこで重症を負ったがなんとか自力で脱出したのか。
地面には身体を引きずった血の跡があり、途中で力尽きたらしい。
リイナの状態で、通信機器も破壊されるほどの激しい戦闘だったことは明らかだった。
誰にも助けを求められずに、たった1人で戦って、見つかるまでずっと暗闇の山で瀕死で倒れていた。
一体どんな思いでいたのか…痛くて苦しくて、自分がどうなるのかがわからず心細かっただろう…なぜ俺はそこへすぐに駆けつけられなかったんだ…想像すると身を切られる思いだったが、無事に見つかって研案塔に搬送されたなら、もう大丈夫だと思っていた。
燭ちゃんが絶対に助けてくれると信じていたから。
元気になったらまた会えると疑わなかった。
リイナが落ち着いたら絶対に一番に見舞いに行こうと決めて。
なのに。
………上司から、貳組の闘員が亡くなったと知らされて、俺は何も考えられなくなった。
その名前を聞いても、違う誰かなんじゃないかと。
けど、貳組で同じリイナという名前の特化S闘員が、他にいるわけはなかった。
輪の闘員に戸籍はない。
だから還る家族もいない。
リイナの死は世間には公表されず、リイナの本当の家族や一般の友人にも知らされず。
だから身内で葬儀を行うこともなく……ただ、輪の中だけで、しめやかに弔いの場は設けられた。
でも俺は、リイナが死んだなんて信じられなかった。
だって、遺体を見ることもなかったからな。
研案塔にいたはずのリイナは、その最期の姿を仲間の誰に見送られることもなく、政府に密かに葬られた。
輪ってのは、そういう存在だっていうのは、学園にいたころからとっくにわかっていたのにな。
俺だってヘマをすればそうやって葬られる身だ。
リイナの死に顔を見なかったのは、俺にとって良いことだったのか、悪いことだったのか…それすらもわからない。
だからリイナがもうこの世にいない実感は一向に湧かなくて、あの日一度だけ抱きしめたリイナのぬくもりが、交わした唇の感触が…もう俺からずっと離れなかった。
本当は死んだなんて嘘で、今もどこかで元気に生きているんじゃないか…そのうち物陰からひょっこり出てきて、あの可愛い声で俺を呼んで、驚いている俺を笑ってくるんじゃないか………そうであってくれと、何度も心の底から願った。
…いい加減に出て来いよ。
お前のいない世界がどれだけ悲しいか、充分思い知ったからさ。
直後からしばらく憔悴しきっていた俺に、平門とリシアナはかける言葉が見つからなかったと、後から聞いた。
結局、俺はリイナとの約束を一度も守れなかった。
リイナの騎士になってお前の背中を守る、お前のピンチには絶対に助けに行くって誓ったのに。
俺は、お前を1人で戦わせてしまった。そして1人きりで命を終えさせてしまった。
一緒に戦うどころか、お姫様扱いすら、一度もできなかった。
強くこみ上げる謝罪と後悔と悲しみ、絶望…それでも変わらぬ愛しさ……だけどもう、どんなに悔やんでも本人に謝ることも叶わない。
二度と面と向かって好きだと言えない……行き場のない想いで心に落ちた重石は、いつまでも無くなることはなかった。
…ずっと、無くならなくていい。
苦しければ苦しいほど、自分の中でリイナの存在を感じることができるから。
見ることも触れることもできなくなってしまった毎日の中で、もうリイナが生きた証を実感できるのは、強い胸の痛みしかなかった。
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