(切甘)騎士は囚われ姫に愛を乞う
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…………たまにはさ?
俺たちの物語の話をしてみても、いいんじゃないか?
お前の話ができる人間は
もうあまり、いないんだからさ。
「………では、本日の授業はここまでとする。ついて来られなかった者はどんどん置いていくので、己で勝手に始末をつけるように。」
鐘が鳴り、教壇の燭ちゃんは授業終了を告げた。
燭ちゃんの授業スピードに追いつけなかったクラスメイトが数人、真っ青な顔色で慌ててパソコンのキーボードを叩いている。
それを視界にも入れない燭ちゃんがさっさと教室を出たあと、俺は一息ついて思い切り背伸びをした。
噛み潰していたあくびをようやく解放する。燭ちゃんの前でやったら、どやされるからな。
さて、昼メシは何を食うかな。
メニューは食堂に向かいながら決めるとして、とりあえず平門に声をかけるか。
…………と、ふと平門の席に目を向けると、平門はリシアナとなにかを話し込んでいた。
あの二人、ケンカばっかしてるがなかなか仲が良いよな〜。
根が真面目同士で話が合うんだろうな。
(リシアナがあそこにいる、ってことは…………。)
と、反対側に目を向けると、いつもリシアナと一緒にいるやつの姿がいつの間にかなくなっていた。
なんとなく思い立って窓側まで歩いて外を覗いてみたら…………やっぱりな、庭園の木の下でリイナが男子生徒と話をしていた。
いや、多分あれはまた一方的に呼び出されたんだろうな。
まあ、いつものことだ。
(…あいつ、確か…医術生命コースの奴じゃねえ?)
リイナと話しているのは、たまに燭ちゃんと古代生物の話で盛り上がっていた生徒だ。
珍しくあの燭ちゃんと対等に話が合うっていうんで、ちょっとした有名人だから顔は知っていた。
他コースの男子にまで目をつけられるとか……リイナ、あいつもどんだけ有名なんだよ。
今月に入って何人目だ?
同じ有名人同士だしまさかとは思うが………と一応観察をしていたが、リイナは男子生徒に丁寧に頭を下げて、それでもなんとか食い下がろうとする相手に手を小さく振ってさっさとその場を離れた。
後に残された男子生徒は茫然としている。
(…あれは振られたな。)
その姿を見て明らかにホッとしている自分がいる。
いずれは医師か研究者の卵、燭ちゃんと対等に渡り合えるだけの知識があり、そこそこのイケメンの有名人。
だがリイナのお眼鏡にはかなわなかったわけだ。
まあ今のところ、リイナに挑んだ奴は誰もかなっていないんだが。……俺も含めて、な。
「朔、なにを見ているの?」
「ん?ああ……。」
平門のところから戻ってきたらしいリシアナが、今度は俺に話しかけてきた。
「さっきあそこの木の下で、リイナがまーた告られていたぜ。」
「ああ、医術生命コースの…昼休みに呼び出されているからどう断ろうかって、さっきリイナが言っていたから。」
やっぱりリシアナには話していたか。
………って、呼び出しの段階でもう断る前提で会うのかよ。
いちいち丁寧なことだが、相手にとってはかなり酷じゃねえ?
お眼鏡どころかもとから眼中にないってことだろ。
…と、ライバルながらつい自分の立場にも立って考えちまって同情の念が湧くな。
「…あなた覗いていたの?」
「だってなあ…気になるからな。」
一応俺の気持ちを知っているリシアナは、そのまま何も言わず息を吐いた。
…………同じクラスの女子生徒であるリイナは、他クラスどころか他コースの生徒にまで声をかけられるくらいには、モテる。
いつも一緒にいるリシアナもなかなかだから、二人で並んでクロノメイの二輪華だと言われているくらいだ。
だが、特にリイナは誰に声をかけられてもさりげなくかわし、本気で告白してきた奴にはしっかりと断る。
いつからか誰にも手に入れられない華……クロノメイの高嶺の華と、密かに呼ばれていた。
俺も何度か声をかけてみたが、やはりサクッとかわされ続けて全く相手にされなかった。
本気で告白することも考えたが………やはり、相手にされないだろうなってわかっちまうからなかなか踏み出せない。
それでも諦めることはできずに、こうやってリイナへの告白を見かけては失敗したのを見て安堵する始末の悪さだ。
あの高嶺の華を落とすのは、一体どんな男なんだろうな。
「なあリシアナ。リイナと恋バナとかをすることはあるのか?」
「は?なによいきなり。」
「いや、あいつが好きな男の話をするのっていまいち想像がつかなくてさ。」
女の子同士ならそういう話で盛り上がることもあるんじゃないかと思ったが、残念ながらリシアナは首を横に振った。
「何を期待しているのかはなんとなく察するけど、そんな話をしたことはないわね。」
「全く?好みのタイプの話すらしねえの?クラスの誰がカッコいい、とか。お前ら年頃の女子なんだから恋くらいしろよなー。」
「ここが普通の学園だったら、それもあったかもしれないけどね。」
「……………まあな。」
俺だってな、輪を目指して入ったこの学園で、まさか1人の女の子を好きになるとは、思いもしなかったんだよ。
入学してこの教室のこの席に座った時…少しばかり集中力が途切れてふと窓側に目を向けた時にさ。
真剣に教師の話を聞いているリイナの横顔を初めて見た。
窓から差し込んだ光がリイナの艷やかな黒髪に溶けて、それがあまりにも綺麗で……まるでリイナそのものが光の源みたいに見えた。
その時に、すっごく可愛い子がいたもんだな……と、一目で心を奪われた。
最初は正直、その可愛い見た目に惹かれた。だけど一緒に学園生活をしているうちに、どんどん好きになっていった。
輪を目指す者としての意識や適性の高さとか、話をしたときのおだやかな雰囲気とか。
一見は守ってやりたくなるようなふわふわした女の子なのに、戦闘訓練の時は他の誰よりも勇ましく、機敏で軽やかな動きが鮮やかで。
リシアナや他の女子と話しているときの自然な笑顔とかも。
いつか共に卒業したら、輪に入團して一緒に戦う頼もしい仲間になるのを、楽しみにもしていた。
そしてできれば………リイナと恋人になって、ちゃんと付き合えたらな、とかさ。
輪だって恋愛したっていいだろ。
いつかリイナの横に立てたら、その瞳に映って心まで独り占めにできたら、どんなに幸せだろうなって、ずっと思っていた。
さりげなくリイナの親友のリシアナにリイナのことを探りを入れてあっさり俺の気持ちがバレてから、リシアナは俺に呆れながらも否定もせずに話はたびたび聞いてくれていた。
「朔の気持ちは確かに朔のものだから、それを大事にするのは良いわ。でもね、リイナの気持ちも、リイナだけのものなのよ。」
「それはわかっているよ。だから気持ちを押しつけはしねぇよ。伝えるだけなら自由だけどな。」
「…本当に、わかっているの?」
……わかっているっての。
一方的な気持ちの押しつけは、エゴでしかない。
リイナにその気がないなら、俺はそれ以上を押しつけることはできない。
だけどな…………知りたいんだよ。
お前はどんな男になら、その心を許すのか。
お前が本気の恋をしたら、一体どんな表情をするんだろうな。
その恋する表情を俺だけに向けてはくれないか⋯⋯どんなに願っても、それを伝えるまではできなくて。
「……さて、そろそろ飯にいくか。じゃあまたなリシアナ。おい平門ー!飯行くぞ!」
「ちょっ、朔!?」
俺はリシアナとの話をここまでにして、机で書き物をしている平門に声をかけた。
平門が顔を上げたのと同じタイミングで、戻ってきたらしいリイナが教室に入ってくる。
俺はすかさず声をかけた。
「リイナ、ちょうど良かった。今から平門と昼飯なんだけどさ、一緒に行かねえ?」
思い切って誘ってみたが、リイナはニコッと軽く笑顔を作った。
「とても魅力的なお話ですけど、今日はリシアナさんと二人でのお話があるので、遠慮しておきます。お誘いのお気持ちはありがたく受け取りますね。」
「なんだ、また振られたな。じゃあいつだったら俺と食事をしてくれるんだよ?」
「朔くんとのお食事が、とても有意義な時間になると思えたら、ですね。」
「それなら、ものすごく期待に応える自信あるけどな?」
「大した自信ですね。その調子でお勉強も頑張ってください。」
「はいはい、わかったよ。ほら、リシアナが待ってるぞ。」
「…では、失礼しますね。リシアナさん、お待たせしました。行きましょうか。」
それから、リシアナを連れ立って去っていくリイナの背中を、黙って見送った。
こんなやりとりも、日常茶飯事だ。
一見毒舌にも聞こえるが、あれは本当に親しい人間にしかやらない言葉遣いだってわかっているから、むしろそのくらいは心を許されているって俺は喜んでいる。
うわべだけの奴らには、当たり障りないやり取りしかしないからな。
最初の頃は俺にも当たり障りなかったが、少しづつ、そうやって距離を縮めてきた。
リイナを見送って改めて平門に顔を向けると、平門は若干呆れ気味な顔をしていた。
「ん?どうした?」
「いや…毎日毎日、めげもせずによくやるものだと。」
「そりゃ、本気で惚れてるからな。」
「本気で惚れているのに、本気ではいかないんだな。軽く声をかけるから軽くあしらわれるんだろう。」
「本気で声をかけたら、きっぱり断られるからなぁ。俺はまだ失恋はしたくないんでね。」
「むしろ毎日失恋しているだろう。」
「ひっでぇなー。親友の恋路は応援するもんだろ。」
「…誰が親友だ。」
平門の冷たい視線に思い切り口角を上げた笑顔で返してやると、俺は心の中で平門の言葉を反芻した。
……毎日失恋。そうだな。毎日誘って毎日かわされている。
一向に俺のほうを見ないリイナに、俺は毎日失恋しているんだろう。
でも、毎日改めて恋をし直しているんだよ。