(切甘)同じ空を泳ぐ
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朔さんに挨拶をしたあと、全員集合して最終打ち合わせ。
気をとりなおして、俺たちは任務に入った。
…今回一斉捜査をするのは、ある大手の企業。
系列会社がたくさんあって、そっちも一斉に検挙をするために人数が必要だから、壱・貳組合同でやることになった。
俺は割り当てられたビルに入ると、他の闘員たちと一緒に一斉捜査を開始した。
中にいた社員の人たちを一人残らず連れ出して、社内を調べる。
(えっと…あと見るところは…)
緊迫した空気の中、社内を見回す。
ここはもう大丈夫だろうかと最終確認をしていた時、何か気配を感じて神経を研ぎ澄ませた。
なんだろう、この感じ……。
と探っていたら、後ろから声をかけられた。
「………與儀。」
「え…?」
誰もいないはずなのに……名前を呼ばれて振り向くと、出入口にリイナちゃんが立っていた。
リイナちゃんは別の場所で任務中のはずなのに……遠慮がちにいる彼女を思わず見つめると、気まずそうな表情を浮かべた。
「あ…どうしたの?」
俺も、さっき避けたこともあって気まずい。
だけど、久しぶりにやっと向き合えて、任務中とはいえ二人きりで……リイナちゃんから話しかけてくれたことに、内心少し喜んでいる、自分の気持ちもあって。
複雑に思いながら、彼女を見つめた。
リイナちゃんは、気まずそうな表情を変えないまま、ゆっくり口を開いた。
さっき、みんなの前では普通だったのに……その表情に、俺への感情が入っていることを、どうしても期待してしまう。
そして少し、怖い。なにを言われるんだろうって。
「…あの……確保した社員が、リストより少ないみたいで…用心して?って…言いに…。」
「そ、そっか。」
無線で済むことなのに、わざわざ伝えに来てくれるなんて…。
まさか任務中に別れる話はされないだろう…とは思っていたけど、やっぱり違ったみたいでほっとした。
…さっきの艇での様子と違うこともあって、どうしても期待してしまう。
まだ俺たちは………って……。想い合ってる……よね……?
それを確かめたくて仕方ない。
怖いけど……まだ任務中だけど……次にいつ二人きりで顔を合わせるチャンスがあるかわからないし……話すなら、やっぱり顔を見て話したい…いつまでもこのままじゃいられない、いつかははっきりさせる日がくる。
なら……よし、いま話そう。少しだけでも。
俺の気持ち…怖いけど、伝えるだけ伝えなきゃ。
そう決めて、リイナちゃんを見つめて口を開こう…とした。
そこに、
背後からガタンッと大きな音がした。
「…っ?」
「…っ!…與儀!!!」
びっくりして後ろを振り向くと、
激しい音と共に背中のロッカーが倒れるのと、そこから男がナイフを持って飛び出してきたところ
そして、そこにリイナちゃんが飛び込んできたのが同時に見えた。
スローモーションのように感じた目の前のその映像に、俺はとっさに身体を動かして手を出そうとしたけど…
「――――っ!!!」
一瞬、俺の前に出たリイナちゃんの脇腹にナイフが食い込んだように見えて、息が止まった。
リイナちゃんを失う……!!
と、俺が一番怖かった展開が瞬時に脳裏に浮かんで、心臓が跳ね上がった。
だけど、リイナちゃんはすぐに体勢を整えて男に当て身を食らわせて倒した。
「リイナちゃん!!!」
ヒヤッと冷たいものが走る。
慌ててリイナちゃんの両肩を掴んで俺のほうを向かせて、全身に素早く視線を走らせたけど、ギリギリ避けたのかナイフはどこにも刺さっていなかった。
すぐ顔を確認すると、恐怖と安堵が混ざったような苦笑いをした彼女を見て、ようやく安心したあと遅れて恐怖がやってきて、周りも構わず抱き締めた。
「ちょっ…與儀…」
「こ、こわか…怖かった…!!!」
さっき感じた妙な気配は、あの男だった…なんでもっと早く気づかなかったんだ自分…!!
もっと早く気づいていれば、俺のほうが早く動いていれば、リイナちゃんにあんな危ないことをさせなくて済んだのに。
俺のせいでリイナちゃんに何かあったらどうしようって、すごく怖かった。
さっきの、脇腹にナイフが刺さっていく映像が繰り返し頭の中を回って
もしあれが本当に刺さっていたら、下手したら永遠に失う……そう思ったら情けなくも震えだす体を、リイナちゃんは俺の背中に腕を回して抱き返してくれた。
大丈夫だよ、と伝えるように優しく撫でてくれて…ようやく、嫌に跳ねっぱなしの心臓が落ち着いていく。
そして、とっさにとはいえ久しぶりに抱き締めてしまった身体の柔らかい感触とぬくもりを全身に感じて…心から溢れだす愛しさに、別の意味で心臓がまた跳ねた。
ドキドキと鼓動が高まっていく……やっぱり俺は…リイナちゃんが好きなんだ……って、改めて身に染みる。
こんなに好きで、すごく大切で、絶対に手放せない……失うことがすごく怖い……なのに、今までずっと自分が怖いからって、なんの行動もしないでグジグジしていたのが、酷く滑稽で。
もっと早く、やっぱりそばにいたいって…恋人でいたいって、自分の気持ちを一生懸命に伝えれば良かったのに。
いつ任務で命を落とすかわからない仕事なのに…永遠に失ってからじゃ遅いのに。
連絡をとらない間にとっくにこのぬくもりを失っていたかもしれないと思うと…気づくのが遅すぎて……。
「與儀が無事で、良かった…。」
「もう…っ!なんであんな無茶をするの!?」
「無茶をしなかったら、與儀が刺されていたよ。私はそのほうが怖い。」
「俺だって…!!!」
思わず身体を離して見つめると、すぐに目が合う。
リイナちゃんもやっぱり怖かったのか…少し潤んだ瞳に、ちゃんと俺が映っているのが見えた。
ああ…やっぱり俺はリイナちゃんが好きだ…本当に、本当に大好きなんだ。
距離を置いてみてよくわかった。
離れていたって、なかなか会えなくたって、心さえ繋がっていればそれでよかった。
逆に言えば、そんな中で心を繋げられた俺たちのこの気持ちは奇跡だね。
早くこの気持ちを伝えなきゃ。
一刻も惜しくて口を開こう…としたら、先にリイナちゃんが口を開いた。
「……あの……あのね、與儀…。」
「うん?」
リイナちゃんは恐る恐る俺を見上げた。
恐々と、そして真剣に。
…真剣な話をしようとしてるってわかった。
だから、若干の怖さもありながら、でもそれがリイナちゃんの気持ちなら……ちゃんと、受け止めて聞こうと覚悟を決めた。
それから、きちんと丁寧に俺の気持ちも伝えよう、って。
それから、これからのことを考えよう。
「……あの……私……、こう見えてけっこうドジなの。」
「…うん。」
俺は、これからどう転ぶかわからないリイナちゃんの話を、真剣に聞いた。
彼女を抱き寄せながら、ちゃんと目を見つめて。
少しでも話しやすいように、大丈夫、ちゃんと聞くよって気持ちを込めて。
「よく寝坊もするし、風邪も引くし、平気で寝癖がついたまま艇内もウロウロするの。」
「うん。」
リイナちゃんが語りだすのを、俺はきちんと聞いた。
きっとこれを俺に話すのは、彼女にとってすごく勇気のいることだと思ったから。
「…與儀には、そんなカッコ悪いところを知られたくなかったの。」
「カッコ悪くなんてないよ。むしろ、そういうところもいっぱい知りたいよ。」
本当だよ。
だから、そんなに不安そうな顔をしないで。
それで俺が嫌いになるなんて、絶対にありえないから。
俺を見て、リイナちゃんは切なげに笑みを浮かべた。
「…本当はね、この前お見舞いにきてくれてすごく嬉しかった。でも、顔色は悪いし髪はボサボサだし、パジャマだし、そんな姿を見られるのが恥ずかしくて…風邪もうつしたくなかったし…でも間違ってたね。これからは、そういうところも見せていかなきゃなんだね。付き合ってるんだから。」
「リイナちゃん…。」
今もまだ、付き合ってると言ってくれたことに、これからのことを言ってくれたことに、俺は泣きそうになった。
彼女の心も、ちゃんとここにあるって実感しちゃって…ああやばい、泣きそう。
だめだよ、泣いたらリイナちゃんが困っちゃう。
自分が泣かせたって思っちゃうかも。
それはだめだよ、だってこれは、リイナちゃんを想う涙だけど、リイナちゃんのせいじゃないから。
リイナちゃんは少し俺から身体を離すと、深々と頭を下げた。
「ちょっ…!頭を上げてよ!」
「…この前は本当にごめんなさい…與儀につらいって言われて、ああ私といるのつらいんだ、って思ってつい意地を張ったの……でも、つらくて当たり前なんだよね………それくらい、與儀がちゃんと私を想ってくれてるってことなんだよね……あれから連絡できなくて、すごく寂しかった……早く連絡すれば良かったのに、また與儀につらいって言われるのが怖くて……私と付き合っていくことを、考え直されちゃったらどうしようって……。」
「…それ、おんなじことを俺も考えていたよ。」
「…え…?」
リイナちゃんの頭を上げさせてから…俺は、できる限り優しく笑うように意識して笑顔を浮かべた。
無理してるんじゃないよ。安心させてあげたいから。
心の底から、好きな女の子を安心させてあげたいから…自然とそんな笑顔が浮かぶんだ。
リイナちゃんの気持ち…俺への想いを知れて、本当に嬉しいんだ。
「リイナちゃんに嫌われたらどうしようって思ったらしつこく連絡できなかったし、もし連絡してもやっぱりつき合えない、別れようって言われたらって怖くて……でも、一人で勝手に先を想像して閉じ籠らないで、ちゃんと向き合って自分の気持ちを伝えてみれば良かったね……俺こそ、本当にごめん……ちっとも男らしくなくて……なかなか会えなくても、想ってくれているだけでこんなに幸せなのにね。」
「與儀………」
「ああ、泣かないでー!俺も泣きたくなるっ!」
うっすら目に涙を浮かべたリイナちゃんを見て、俺もまた泣きそうになった。
涙をぬぐってあげて……また抱き寄せた。
連絡を絶って寂しかった分、いっぱいいっぱい埋めるように全身でリイナちゃんのぬくもりを感じとる。
好きな女の子を抱き締められるなんて、幸せすぎる……リイナちゃんを抱き締める権利を持っているのは、俺だけ。
そう思ったら…うん、両思いって、やっぱりすごく幸せ。
「與儀……。」
「ん?」
「これからもなかなか会えなくて寂しいこといっぱいあると思うけど…それでも、また私と付き合ってくれますか…?」
「もちろん!!!よろしくお願いいたします!!!」
俺はバッと頭を下げた。
初めて告白されたあと返事をした時と同じように。
あの頃の気持ちで、でもあの頃よりずっと深くなっている想いを持って、それをまたここから育てようって、そんな誓いを込めて。
俺が頭を下げたために、俺から少し身体を離された形になったリイナちゃんは、少し横によろけた。
「え?リイナちゃん?」
「…早速、ドジしちゃった。」
「え?」
「さっき、足を痛めたみたい。…立てない。」
「ええええ!?」
いまいち決まらないなあ……と再び苦笑いをするリイナちゃんを、俺は慌てて抱き抱えた。
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