(切甘)同じ空を泳ぐ
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…あんなこと、言わなければ良かった。
そう後悔したのはそれからすぐ後で。
言ってしまったものはもう戻せない。
だけど今からでも、電話をかけ直して…距離をとる話をなかったことにしてほしくて、携帯を握り直したけど…。
リイナちゃんにあんなことを言わせたのは俺だから…傷つけたのは、俺だから。
これじゃあ今後を考え直したいって思われてもしかたないなあ…って、泣きながら自虐的になって。
ごめん……いくらでも謝るから、考え直そうなんて思わないで…別れるなんて言わないで……何度も何度も頭の中でぐるぐる考えて。
だけどそれを電話で言う勇気はなくて。
リイナちゃんをこのまま失うかもしれない…その瀬戸際まで立たされてから、ようやく気づくなんて。
失うくらいなら、いくら会えなくて寂しくても、心が繋がっているならそれで良かったのに。
心が繋がったあの時の嬉しい気持ちを、寂しさのせいで忘れていたなんて。
「なんで俺は…こんなにバカなんだろ…。」
自分の寂しさのために、大切な人を見失っていた。
失くすかもしれないときになって気づいても遅いのに。
今頃、リイナちゃんも泣いているかもしれない。
泣かないで…俺のせいでごめん…今すぐ抱き締めに行きたいのに。
やっぱり離れている距離がもどかしくて、つらい。
いっそ、なにもかも投げ出して、自分勝手に飛び出して壱組まで飛んでいきたい。
後の事なんて考えずに、ただリイナちゃんを抱き締めに行けたら…。
もう、リイナちゃんは俺に愛想を尽かしたかもしれないのに。
俺の顔も見たくないかもしれないのに。
だから、離れるって言ったのかもしれない………って。
考えれば考えるほどに怖い。
泣いているなら今すぐ落ち着かせに……俺とのことを考え直そうと思っているなら、その考えを考え直してもらいに……やっぱり抱き締めに行きたくて。
俺の腕をまだ必要としていてほしくて。
抱き締めたことなんて、まだ数えられるほどしかしたことないのに。
それでも、もう忘れることなんてできないくらいに、あの柔らかさとぬくもりはこの腕に残っているのに。
…会いたい……リイナちゃんに、会いたい。
一目でいいから。
できれば声が聴きたい。話したい。他愛のない話を。
くだらない話とかして、でもそんな話も俺たちにとってはすごく大切で。
笑い合って、その笑顔に触れていたくて。
ずっと見つめていたくて。
その瞳に少しでも俺を映してほしくて。
俺の目にも映っていてほしくて。
見つめ合いたくて。そのまま時間が止まってほしくて。
できれば少しでも、その感触に触れたくて。
この時間を、俺と過ごしている時間を、幸せだと思ってほしくて。
俺ももっとこの幸せを味わっていたくて。
……まだ短いけど、そんな付き合いを重ねてきたのに。
これからも、重ねていきたいと思っていたのに。
そして少しづつ恋人として関係を深めていけたらと思ってきたのに。
……連絡を、とらなくなったら。
毎日毎日、恋しくて……想いは募るばかり。
会いたいのに、会いたいって言えない。
考え直すどころか、これからもずっと一緒にいたい…なかなか会えなくても、離れていてどんなに寂しくてもいいから…心はずっとそばにいたい、だからそばにいて?…って答えは出ているのに、俺からは連絡できなくて。
時間が経つにつれて、毎日の忙しさに忙殺されて、リイナちゃんがどんどん俺を忘れていくかもしれない…心が離れていくかもしれない…それがすごく怖いのに。
いざ連絡して、決定的なことを言われるのが、すごく怖い。
やっぱり俺といるのをやめることにした、もう会わないなんて言われたら…立ち直れない。
でも、関係をやめても、今までだって会えることは少なかったから、会わなくなってもただ壱組と貳組の仕事仲間に戻るだけ。
ただ遠くから見つめるだけの、俺の片思いに戻る。
臆病だね、本当に…このまま忘れられて、完全に失うのが怖いのに、連絡をする勇気もないなんて。
どうにもできなくて、悔しい。
ただ俺は、離れても忘れるどころか、もっともっと恋しくなっていくだけ。
…リイナちゃんも…そうだったらいいのに。
今頃、俺が恋しくて、今まで俺と過ごした少ない日々を思い出して、会いたくて会いたくてたまらない…そうなってくれていたらいいのに。なんて、希望を持っちゃって。
期待して……今日も、連絡がない、って落ち込んで。でも、連絡がきても、決別の連絡だったらと思うと、やっぱり怖い。
自分から連絡すればいいのにね。
連絡して、会いたい、やっぱりこれからもずっと一緒にいたいって、言えばいいのに…。
拒絶されるのが怖い。
こんな思いをするなら、いっそ始まらなければ良かったのに…って、今まで一緒に過ごした時間すら否定したくなって…その考えを、また否定して。
「…今日は、キレイな青空だな~…。」
任務の帰り道、見上げた空がキレイで……君も見ていたらいいな、見せてあげたいな…きっとキレイだって喜ぶ…どんな顔をするだろう。…見たいなあ、その笑顔。
だって君と繋がっている空だから。
今頃本当に見ているかもしれない……って思ったら、少し繋がれた気がした。
「…会いたいなぁ……。」
また、リイナちゃんに会いたくなった。
毎秒毎秒、君に会いたい…。
そんな毎日を繰り返した。
……それから少しして、合同一斉捜査の日が来た。
俺たち貳組は壱組と合流することになっていたから、壱組の艇に乗り込むとゲートまで迎えに来たのはリイナちゃんだった。
あの打ち合わせの日から、実はそんなに長くは経っていないのに…連絡をとらなくなってもう何年も会っていないような気持ちで。
ドキドキと、緊張と…怖さもありながら、その気持ちをなんとか押し殺して、リイナちゃんに向き合った。
「お疲れさまです、今日はよろしくお願いいたします。」
リイナちゃんはそう挨拶をすると、目の前に立った俺たち一人一人にぐるりと視線を向けた。
やっぱり…今日も可愛い。
久しぶりに会ったけど、気持ちは変わらない…ううん、前よりずっと強くなってるのがわかる。
最後の電話では鼻声だった声が、すっかり元どおり…うん、今日は風邪を引いていないのかな。良かった…元気そうで。
……好きだなあ……やっぱり。
久しぶりに顔を見られた……それだけで嬉しい。
すっかり片思いの頃みたいな気分だけど……あの頃は、こうして遠くからこっそり見つめて、顔を見られるだけでも嬉しかった。
ずっと忘れてたな……こんな気持ち。
どんどん欲張りになっていったから。
ふと、リイナちゃんの視線が俺のほうを向いて、バッチリ目が合った。
これは、なにか話さなきゃ。じゃないと不自然だし…それに…話したい。
「あ……」
久しぶり。
あの時の風邪はもう大丈夫?なんて……。
言えたら良かったけど……。
「久しぶり、リイナ。」
「久しぶり!ツクモちゃん。今日はよろしくね。」
俺が言うより先に言葉を紡いだツクモちゃんにリイナちゃんは目を向けて、本当に嬉しそうに笑った。
本当に…久しぶりだ。
ほんの少しの間なのに、連絡を取らなくなっただけでこんなに長い時間離れていたように感じるなんて。
こんなに、距離が遠くなったように感じるなんて。
だから、うまく話しかけられなくて…
二人の間に入れなくてまごつく俺を、リイナちゃんはちらりと見た。
瞬間、心臓がドキッと跳ねる。
「…與儀も、久しぶり。」
「あ……うん。久しぶり…。」
ぎこちない俺とは反対に、ごく自然に微笑んだリイナちゃん。
まるで俺たちの間には、なんにもなかったかのようで……。
「…俺、先に行って朔さんに挨拶してくるっ!」
「あ…與儀?」
耐えられなくなって、ツクモちゃんの声も振り切って早足で歩いた。
リイナちゃんとすれ違った瞬間少し彼女を見たけど、やっぱり表情は変わらなかった。
「……っ」
泣きそうになって袖で拭う。
風邪は良くなったようでよかった。
けど、せっかく久しぶりに会えたけど、俺たちは…なんて。
大丈夫、まだ別れたわけじゃない。
ちょっと距離を置いて冷静になるだけ。
だけど、どのくらいの間?
さっきのリイナちゃんの様子を見ると、このまま俺たちの関係を無かったことにされそうで、それが怖い。
どのくらい距離を置くのか聞いてみて、やっぱりダメみたいだから別れようって言われるのも怖い。
あんなこと、言わなければ良かった。
繋がっていられるなら、ほんの少し離れている寂しさくらい我慢すれば良かったのに。
どれだけ後悔しても、もう遅いのかもしれないけど…。
いつまでこんな状態なんだろう、って
本当に、泣きたいよ……。
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