(切甘)同じ空を泳ぐ
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壱組の一斉捜査に俺も参加することになったと平門サンから正式に聞いて、俺は正直にかなり浮かれていた。
打ち合わせのために壱組に行く途中もずっとドキドキして、何度も深呼吸を繰り返して服や髪を直したりした。
もちろん捜査のためだっていうのは肝に命じているよ。
その上で、リイナちゃんに会えることが嬉しくて、会えたらいつも以上に頑張れる気がする……だから、このくらいは許して欲しい。
できれば、リイナちゃんも浮かれたりしてくれていたら、もっと嬉しいな……。
会ったら何を話そう。
個人的に二人きりになることはないだろうけど、二言三言プライベートな話をするくらいはできるよね……?
うう……緊張する……。
それから動悸をなんとか抑えながら壱組に着いた。
兎さんに案内されて打ち合わせ場所の朔さんの執務室に入ったけど、いたのは喰くんとキイチちゃんだけで、そこにリイナちゃんはいなかった。
「あれ……リイナちゃんは?」
聞いてみてもいいよね?
不自然じゃないよね?と思いながら口に出してみると、喰くんが教えてくれた。
「ああ、風邪をこじらせて寝てるよ。」
「えっ!?風邪!?」
「彼女、しょっちゅう風邪を引くんだよねぇ。意外と弱いっていうか。いい加減に慣れたよ。」
「まったく、この忙しい時に輪としての自覚が欠けていますぅ。」
こじらせているっていうのに二人はすごく冷静に見える。
それだけよく引くってこと?
でも……ここにいないなんて、それって任務に出られるかも難しいくらい悪いってことだよね!?
「そんなに引きやすいの!?だ、大丈夫かな……。」
「貳組の人間にあまり言いたくはありませんが、リイナさんは結構抜けてますぅ。寝不足からよく寝坊もして慌てて起きてきますし、だからって髪型が乱れたままなんて同じ女子として情けないです。」
「あれは傑作だよね、この前の寝癖も笑っちゃったよ。與儀くんにも見せたかったね。」
「もっとエリートの壱組としての自覚を持って欲しいです。」
「……そう、なんだ……。」
キイチちゃんは心底呆れ気味に、喰くんは楽しそうに思い出し笑いをしているけど、俺はその状況を知らないから加われなくて寂しさがつのった。
俺は、いつもしっかりしていて明るいリイナちゃんしか知らない。
でも二人の言うとおり少し抜けている部分もあるなら……壱組のみんなは、普段のそんな姿も知っているんだ、同じ艇だから。
そう思ったら胸が少し痛んだ。
寝坊して慌てる姿、寝癖……そんなところも見られるなら見てみたい。
それに、今日俺が来ることは知っているはずなのに、どうして風邪を引いたって教えてくれなかったの?
しかも打ち合わせにも出られないほどこじらせたなんて、相当具合が悪いんじゃないのかな……。
そんなふうに悪い方に考えて立ち尽くす俺を、二人が見た。
「與儀さん?顔がすごいですがどうしましたぁ?」
「あれ?與儀くん、もしかしてリイナちゃんが心配とか?」
「えっ……あ、うん……そりゃ、心配だよ……。」
一応秘密だから、恋人だから、とは言えない。
だけど心配で、そして何より悔しい。
恋人の俺が知らないことを二人がたくさん知っていること、本人からなにも知らされなかったことが。
最低かな、恋人の体調よりも悔しさが上なんて。
そんな自分にも呆れて、胸の奥がズンと重く嫌な気持ちになった。
知らないなんて当たり前なんだけどね、まだ付き合って日が浅いんだから。
彼女は俺と付き合う前からずっと壱組所属なんだから、二人とは期間が違いすぎる、それはわかっているはずなのに。
「ま、さっき僕の薬を飲んでもらったから平気だよ。今頃のんびり寝てるんじゃない。」
「無理矢理飲ませた、の間違いじゃないですかねぇ?余計に死んでいましたけどぉ。」
「そりゃあ天然ものの薬草を練り込んだものだから、ちょっとは苦いと思うけど体にはいいよ。」
「ちょっとどころじゃないんですよ、喰くんの薬のダメージは。」
「…………」
あくまでものんびりとしている二人の会話についていけなくて、ただじっと黙ってその様子を聞いて唇を噛んだ。
壱組と貳組っていう見えない大きな壁をそこに感じたから。
壱組のこの空気は、俺には入れない世界。
そこにリイナちゃんはいる。
ここがリイナちゃんの世界なんだと思ったら、すごく淋しかった。
俺が貳組やどこかでなにかをしている時、当たり前だけどリイナちゃんも、ここでちゃんと生活をしているんだね。
ここに彼女の普段がある。
その普段を俺は知らない。
そんなのは最初からわかっていたことで今更すぎるくらい今更なのにね、割り切れない自分がいる。