(切甘)同じ空を泳ぐ
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「――……でね、ヴァントナームで无ちゃんにお友達ができたんだよ!八莉くんっていうんだけど、俺も花礫くんもツクモちゃんも友達!!」
『へぇ~、いいな、楽しそう。』
「すごくしっかりしていて強い子だよ。リイナちゃんにも紹介したいな、みんなで友達になろうよ。」
『うん、私も八莉くんに会ってみたいな。私とも友達になってくれるかな?』
「なってくれるよ、絶対!」
『だといいな~』
携帯の向こうから、楽しそうな笑い声が聞こえた。
ここにはいないのに、目を閉じるとその可愛い笑顔がまぶたに浮かんでくるから不思議だね。
こうして会話をしていると、まるですぐ傍にいるような気持ちになれる。
普段壱組と貳組で離れている俺たちには、夜こうやって少しの間電話で色々な話をするのが貴重な二人の時間。
……けど、目を開ければ一人きりの部屋の中に戻っちゃう。
まぶたの中じゃ触れることもできない。
それがすごく寂しくて、行き場のない手が切ない。
そんな時はどうしても思っちゃう……やっぱり電話じゃなくてたまには、さ……。
「会いたいな……。」
『え?八莉くんに?』
「違うよ、リイナちゃんにだよ。」
リイナちゃんに会いたい。
今は遠く、壱組にいる可愛い大切な恋人。
デートどころか、任務の時に時々しか会えない……同じ輪なのに、所属が違うだけでこんなに距離があると気づいたのは皮肉にも付き合ってからだった。
小さな電話ひとつが俺たちの繋がり。
腰をかけているベッドで一人足をブラブラさせると、軋む音が静かな部屋に響いた。
……会いたい。すごく。
ふと口にした俺のその言葉を受けて、リイナちゃんが小さく息を吐いたのが耳元で聞こえた。
『……うん、私も與儀に会いたいな……。』
潜めた小さな声が、彼女の本音であるということを伝えてくれた。
ただ会いたい。隣で顔を見て話すだけで、それだけでいいのに。
同じ気持ちでいてくれたことは嬉しいけど、同時に苦しくもなった。
――……元々離れて仕事をしていたのに、リイナちゃんのことが好きなんだと気づいてからは、何度も何度も悩んだ。
たまにしか会わないのに好きなんておかしいとか、伝えてもきっと届くわけがない……って、グルグル考えた。
任務の時に姿が見られるだけでも嬉しかったし、それだけで満足だって自分に言い聞かせてた。
だから、同じ気持ちだってわかって付き合えた時は、こんなに幸せなことってあるのかなって思ったよ。
なのに……付き合えて幸せなはずなのに、今度は恋人なのになかなか会えない距離が余計に辛くなった。
片思いよりつらいことがあるなんて知らなかったんだ。
けど、リイナちゃんだって言わないだけで我慢しているのかもしれないから、俺が寂しいって言ったらダメな気がして……言葉を飲み込んで笑顔を作った。
『私、この前の合同一斉捜査は根回しとか裏方だったから……本当に怪我とかしていない?』
「大丈夫だよ、健診も異常は無かったし~。」
『與儀やみんなと一緒に戦いたかったよ。』
「ありがとう。でも、俺はリイナちゃんが戦いに出なくて良かったって思ってるよ。やっぱり怪我とかして欲しくないし。大掛かりな捜査だったからね。」
『……うん……その気持ちは嬉しいけど……。』
わかってるよ、リイナちゃんも俺を気にしてくれているってこと。
みんなが戦っているのに自分は出られなかった悔しさも。
ちゃあんと伝わってる。
ゴロンと後ろに倒れてベッドに仰向けになれば、カーテンを閉め忘れた窓の向こうに星空が見える。
同じものを一緒に見たり感じたりして共有できたらいいのにな。
なんでもいいよ、綺麗な花の色とか、美味しそうな食べ物の匂いとか。
二人で綺麗だね、美味しそうだねって言い合えたら、それでいい。
「今日さ、星が綺麗だね。」
『え?……あー、こっちは見えないなぁ。』
「…………そっか。」
共有したくて試しに言ってみたけど大失敗。
星空ひとつくらい、繋がれたっていいのになぁ……俺たち、同じ空を飛んでいるはずなのに。
離れていたって空は繋がっているはずなのにね。
……でも、いいんだ。
居場所は違っても、心は繋がっているから。
一生会えないわけじゃない、時々は任務で会えるんだから。
でも……でもさ、どうしても思っちゃうよね。
「同じ艇だったらよかったな……。」
『え?ごめん聞こえなかったよ。』
「ううん、ただの独り言だよ~。」
『そう?』
朝から晩まで、同じ艇で過ごせたらいいのにね。
リイナちゃんにおかえりって言われてみたいし、俺も言ってみたいよ。
けど、どうしたってそれは叶わないことだから……言わない。
会いたいなぁ……。
いま会えたら、きっと悩みとか不安とかなにもかも全部を吹き飛ばすことができるのに。
あの笑顔に触れたら、きっと明日も頑張ろうって思える。
……あの、風が強かった日みたいに。