(甘)リトルレディの憂鬱
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壱組に行ったとき、キイチちゃんが靴をくれた。
ヒールが高めで、レースで出来た花のコサージュとスパンコールがあしらわれた、とても可愛い靴。
「いいの?本当に。」
「別にいいですよ。可愛くて買ったんですけど、よくよく考えたらキイチの持っている服では合わせづらいデザインなんですぅ。リイナさんならキイチとサイズが同じくらいですし、履いてあげないと靴が可哀想です。」
……それは、年齢のわりに15歳のキイチちゃんとたいして変わらない小柄体型だからであって、あまり喜ばしいことではないのだけど…。
確かに可愛い靴なのでこれは喜んでおこうと思う。
試しにそっと履いてみたら、やっぱりサイズはピッタリだった。
歩いたり跳ねたりしてみてもズレや痛みはない。
ヒールの分、背が伸びて足首が細く脚が長く見えるのも魅力的だ。
一気に大人っぽくなった足元にニヤニヤしていると、フフン、と言わんばかりな笑みを浮かべたキイチちゃんが頬杖をついて私を見た。
「ま、そういう大人っぽいデザインは、キイチはこれからいっくらでも試せますからぁ☆」
「ははははぁ、それは成長期の真っ只中だという年齢の余裕かなぁ?このおませさんが☆」
「成長期の終わってしまった人には可哀想ですけどぉ。どこかにはいまだにキイチと同じサイズが着られる残念な体型の大人もいるらしいですしぃ?体型と年齢のバランス合わせが大変ですねぇ。」
「……さーて、それってどこの世界の誰の話しかなぁ?お姉さんにいってごらん三秒で沈めてヤるから。」
―…一瞬バチバチと火花を飛ばしつつ…
ここは大人として余裕あるところを見せてやらねば、と思った。
そばでちょうど通りかかった朔さんが、お前ら相変わらず仲良いんだか悪いんだかわかんねぇなぁ…と呟きながら去っていった。
仲は良いですよ?靴をもらうくらいには。
だって靴には罪はないですから。それが共通の認識。
イヴァはこのやりとりも小動物のじゃれあいみたいで可愛い、とウットリだけど解せない。
これでもツクモより年上なのに下手をすればツクモのほうがお姉さんに見られてしまうのだから。
「ま、せっかくだからもらっておくわ、もったいないし。」
「お好きにどうぞぉ。」
……素直にありがとうと言うべきだったかな。
本当は嬉しかったんだよね、こういうの好きだし。
あれでも、キイチちゃんだってこの大人っぽい靴を私ならちゃんと履きこなせると思ったから譲ってくれたわけで…体格は似ていても私のほうが化粧や服装は歳相応なのを理解している。
仕方ない、今度お礼に新作のリップグロスかなんかを買ってあげるか。
キイチちゃんに似合うやつ。
素直じゃないのはお互い様なんだけどね。
キイチちゃんも可愛い子なのはよく知っているよ。
だからキイチちゃんがくれた物というのもあり、すっかり気に入ってしまったので、もらった靴のままで貳組に戻ってきた。
新しいものってワクワクする。
ルンルンと浮かれた気分でみんなが集まっているかもしれないからとリビングルームへ向かった。
踵の高い靴はそれなりに持ってはいるけど、任務を考えたら動きやすい靴ばかりになってしまう。
10センチ背をのばしただけで、すごく世界が違って見えるの。
天井がちょっとだけ近いなとか、羊がいつもより小さく見えるなぁ、とか思いながら歩いていて、ふと思ったんだ。
これで與儀と並んで歩いたら、どうなるだろう?って。
た…例えば、滅多にないけど…腕を組んで歩いたりした時とか…。
いつもの私なら、多分背の高い與儀の腕にしがみついて少しぶらさがるような体勢になっちゃうけど…
今なら、組んで歩けるかもしれない。
肩に頭をもたげたりできるかも。
私だって、彼氏と優雅に腕を組んで歩くことへの憧れくらいある。
恋人なんだから、ちょっとくらいイチャついたっていいじゃない?
「よ…よし…っ」
今日は頑張って大人の恋人同士な時間を過ごしてみようと思う。
両手のこぶしをグッと握りしめ一人でそう意気込み、勇んでリビングルームに向かった。
そしてたどり着いてみると、リビングルームには與儀とイヴァという珍しい組み合わせが向かい合って座っていた。
イヴァは書類を読んで、與儀はノートパソコンに向かっていたけど。
現れた私に一番に気づいたのは、スラリと長い脚を組んで座っていたイヴァだった。
「あらリイナ、おかえりなさい。壱組はどうだった?」
イヴァの声を受けて、與儀も勢いよく顔を上げて私を見た。
全面に喜びを表現した笑顔で頬が少し紅潮してる。
すごく嬉しそうなのがわかる。…可愛いな。
「おかえり、リイナちゃんっ」
声もいくらか弾んでいたので本当に喜んでいるんだなぁとすぐにわかったけど、その理由を考えたらなんか恥ずかしくて、サッと與儀から視線を外してイヴァのほうを向いてしまった。
「あ、うんただいま。キイチちゃんもみんな元気だったよ。調査も順調みたい。」
「ならよかったわ。……あら?」
「うん?」
イヴァが何かに気づいた様子で、立ち上がって私の側に歩いてきた。
向かい合って立ったとき、少し屈んで私の足元を見てる。
…10センチ高いヒールを履いても、私の身長はイヴァには届かない。
イヴァは170センチを越えたモデルさんのようなスタイルでさらにヒールを履いているから…当たり前なんだけど。
それでも私の靴よりは低いのになぁ。
大人の女性らしいピンヒールを履いて、スラッとしたラインのくびれた足首と、そこから伸びる形の綺麗な長い脚が、いつも羨ましかった。
メリハリのある豊満なスタイルも。
小柄な私だとどうしても仮装パーティーかピアノの発表会になってしまうような、大人っぽい服装も。
「可愛い靴ねー、珍しいじゃない?リイナがこういうデザインの靴を履くの。すごく似合うじゃない。」
「うん…キイチちゃんにもらったから。」
さすが女性、足元の靴がいつもと違うことに目敏く気づくなんて。
それに似合うと褒められたのも嬉しい。
すると、與儀も寄ってきて同じように私の足元を見た。
「本当だ、すごく可愛いね~。」
「…………うん。」
イヴァに褒められたより嬉しく思ってドキドキしたけど、上手くありがとうとは言えなかった。
でも……と與儀にチラリと目を向けて見ると、目が合ってにっこり微笑まれた。
(…ぅ…)
やっぱり、少し目線が高くなった分…本当にほんの少しだけど、與儀の顔が近くなった。
いつもよりは首が上向かないし與儀も下を向かない。
腕も…これならうまく組めるかも。
組みたいって言ったなら、與儀はきっと良いよって言ってくれる…よね。
組んで歩いてみたい。
ドキドキしながら思わず與儀の腕を凝視する私。
半袖のシャツから伸びている素肌の腕はとても男らしく、適度な筋肉が付いていて骨張ってもいる。
その腕がスッと私に向かってきたので…へ??と思っていたら、大きな手がすっぽりと私の頭を包んで撫でてきた。
よ…與儀の手が、私の頭を…っ!!!
「えへへ、ちっちゃくて可愛いリイナちゃんの頭がいつもより近くにあるの、変な感じだね~。」
「――――………っ」
ちっちゃい、だと…?
変な感じだと…!?
與儀はご満悦~といった顔で猫を愛でるようにわしゃわしゃと頭や髪をなで回してくる、それは悪くない、悪くないけど。
「ち…っ…ちっちゃくて悪かったな!!気安く触るなバカっ!!髪が乱れるでしょーがっ!!」
「えええっ!?ごめんっ。」
カチンときたのと照れから思いきりパシッ…とその手を払いのけてしまった。
可愛いと言われるのは悪い気はしないけど、時々无くんと扱いが同じなんじゃないかと思ってしまうときがある。
私は小動物か。子供か。
恋人じゃないの?あなたの。
「そーよ與儀、アンタ私のリイナに馴れ馴れしいのよっ!!触るな!!」
「ええっ!?馴れ馴れしいって!!俺たちが付き合ってるの姐さん知ってるよね!?」
「そもそもアンタなんかがリイナの恋人を名乗るのが図々しい!!私は認めてないからねっ!!」
「なんでっ!?」
くわっ!!と応戦してくれたイヴァに思いきり抱き締められ、豊満でふかふかの柔らかい胸が顔に押し付けられた。
これは…なんと見事たわわに実った果実……そして男ならなんとも羨ましいであろう展開。
いやむしろ女の私でも思わずドッキリしてしまう感触です、大変結構なやわらかさで。
……ヒールを履いているのに、同じ女性のイヴァにすらすっぽりと包まれてしまう私って……。
いやいやモデル体型のイヴァと比べちゃあいかんだろうと自分を慰めようとするが虚しくなる。
一方、私に冷たくあしらわれたにもかかわらず、そしてグラマーな女性に埋もれているというヨダレものな光景を目の当たりにしても意に介さないらしい與儀は、私の腕を掴んでイヴァから奪還すべく引っ張ってくる。
「だっ…だって俺たち、もうちゃんと付き合ってるよ!!姐さんずるいよ、俺だってリイナちゃんを抱っこしたいのにっ!!」
「渡すか変態!!」
…抱っこって
だから私は小動物か。
せっかく大人っぽい靴を履いて身長が近づいたのに…私は"可愛い"から抜け出せないの。
181センチの與儀と並ぶとバランスが取れているイヴァみたいにはなれないのか…。
私が腕を組んだって、どうせ大木にしがみつく動物にしかならない。
ケンカをしている二人の顔は、両方とも私の頭の上。
「大体リイナは、なんだってこのヘタレと付き合ってんの?どこが良いんだか理解できないわ。」
「え……。」
「…ひどい…っ!リイナちゃん、姐さんに言ってやってよ!お、俺もちょっと聞きたい…し…。」
「……………………」
與儀の好きなところ。
私だって、好きだから恋人になったわけで…適当に付き合っているわけじゃない。
姐さんの言うヘタレは、つまり優しいってことで…。
優しいから涙もろくて、だけどかっこよくて…
それから、ええと……。