(狂愛)壊れた鏡がうつすものは
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「…大好きだよ。」
思いきってした告白に、かなえちゃんは表情を強張らせた。
どうして?今、俺すごく頑張ったのになぁ…びっくりはしても、その反応はちょっと違うんじゃないかなぁ?
彼女がいま腰かけている…否、かけさせているベッドに俺も座ると、彼女は足でシーツを蹴って後ずさった。
だけど後ろは壁、手の自由がきかないかなえちゃんはそのまま固まった。
あれから、俺はしばらく二人で部屋でお茶をしながら他愛のない話をした。
一番は、慰めたかったから。
任務は成功したけど、潜入捜査でヴァルガに遭遇して戦闘になったのはまずかった。
輪が捜査に関与したことを相手に知らせた形になったから。
ただ平門さんも言っていたとおり、事前調査じゃあそこにヴァルガの出入りはないはずだった…から、遭遇は本当にイレギュラーで仕方のないことだった。
戦わずに襲われるなんてできないし、見た以上は殲滅しなければ他に被害が出るから。
今回のことはかなえちゃんに非はない。
輪の関与が明らかになった以上、顔がバレた可能性もある彼女を外したのは賢明な判断だった。
左遷でもなんでもない。なのに落ち込んでいるのは、少しでも平門さんの役に立ちたかったからなんだよね?
そうしてまた、君は心に傷を負った。
もう、平門さんによって傷つくのを見ていられなかった。
あの切なげな表情を目の当たりにさせられて、どう足掻いても俺には勝ち目はないと思い知らされて……もう、このままじゃ、なにかが壊れてしまうと思った。
だから決めたんだ。
今度こそ、俺が守ってあげる。
君がこれ以上、怪我をしないように。
お茶に少しづつ、度数高めのお酒を混ぜた。
案の定、アルコールに慣れていないかなえちゃんはすぐに朦朧として、俺はさりげなくベッドを勧めたら、なんの警戒もなく横たわる姿にはなんだか悲しくなったよ。
ねぇ、俺も男なんだってば。
そうこうしているうちに腕輪を外して、申し訳ないけど両腕を拘束させてもらった。
これも、君のためなんだよ。
度数は高くても少量だったから意識はすぐに戻って、自分に起きた事態にかなえちゃんは驚愕した。
拘束されている上に、服が少しはだけていたから。
「な、なに…?」
「大丈夫、まだなんにもしてない。まだ、ね。」
だって朦朧としているうちに…なんてもったいないでしょ?
ちゃんと覚えていてもらいたいし。
ただ、騒いで平門さんあたりの耳に入ったら恥ずかしいことになるよー?って、それだけのこと。
「與儀…?」
「…大好きだよ。俺は、ずっとかなえちゃんが好きだった。」
当初描いていたシチュエーションとはだいぶ違っちゃった…けど、仕方ないよね。
「だから、君を傷つけるものすべてから守りたい。わかってくれるよね…?」
「わ、わかるわけないじゃない…っ…どうしてこんな…ねぇ、離して…?艇でこんなことしたら、與儀がどうなるか…」
「全部終わったら、離してあげる。」
「全部……?」
こんなときでも、俺を気にしてくれるんだね。
けど君が好きなのは俺じゃないんでしょ?その優しさって、すごく…凶器だよ。
今や、俺の君を守りたいっていうこの気持ちも、君にとっては凶器かもしれないけど。
「その前に、ねぇ。告白の返事…聞かせて…?」
「わ、私…は…」
「知ってる。平門さんが好きなんでしょ。」
「!!なっ…んで…」
「わかるよ、好きな人のことだもん。だから、俺…平門さんのことは尊敬しているけど、嫌い。君を簡単に傷つけるから。」
「そんな、こと…」
「今までいっぱい傷ついてきたんでしょ。気づいてもらえなくて、振り向いてもらえなくて、ツクモちゃんには特別っぽいし。気遣う素振りは見せるのにそれ以上の優しさはくれない。それでも笑って見せて、けど本当はつらいの気づいて欲しくて…そんなときに限ってふいに優しくされてまた離れられなくなる。そういうのが一番痛いってわかってない、あの人。」
「…っ…やめて…」
図星だよね。
そりゃそうだよね。
だって俺もおんなじだもん。
おんなじ気持ちいっぱい抱えてきたから、痛いくらいわかっちゃうんだもん。
「俺ならかなえちゃんの気持ちも全部わかってて包んであげられるよ。俺の特別も優しさも全部君だけにあげる。」
「…っなら…こんなことしなくても…」
「言ったじゃない?俺に好きな人がいるなら協力してくれるって。だから協力してもらおうかと思って。」
おそるおそる…俺の真意を探る瞳が俺を見つめてくる。
怯えを含んだ色に涙が浮かんでいた。
じりじり近づくと、また逃げられる。
それを、肩を掴んで引き寄せると小さな悲鳴が上がった。
痛くはないはずだよ。
「俺がしたいことは、ただ君を守りたいってことだけ。もう傷つくところも見たくないし、怪我もしてほしくないの。だけど、輪にいるうちはそんなの無理だし……けど、輪を抜けるのも現実無理なんだよね。逃げたって絶対に追い詰められるし。そうなったら捕まって国家反逆とかで酷い目に遭うかも。なら合法的にいくしかないよね。それに協力してほしいんだ。」
「合…法…?なに、させるつもり…?」
「ずっと考えて考えて考えて……そしたら、この前、かなえちゃんがいいヒントをくれたのを思い出したよ。」
「え……?」
「俺たち輪が結婚できないのって戸籍上の問題なだけでさ、愛があればそんな紙一枚の政府が管理するデータに左右される必要はないんだよね。気持ちさえ結婚していればもう夫婦なんだよ。仕事だってして収入もあるんだから。…だから、俺と結婚しよう?絶対に幸せにするし、良い夫婦になれるよ。」
「な…待って…なにを言ってるのか…わからない…よ…」
「簡単に言うとね。この前、かなえちゃんが言ってくれたんだよね。俺みたいな子供なら欲しいって。なら、俺となら、俺みたいな子供ができるんじゃないかなって。」
「………っ!?」
「俺は、かなえちゃんみたいな子供のほうが可愛がれそうだけど。でも、どっちにしろ俺とかなえちゃんの子供だもんね…なんか、いいね。すごく欲しい。…ね?」
強張っていた表情が、みるみる恐怖の色に変わっていく。
…怖がらないでよ、なんにも怖いことなんかないんだよ。
俺たちは結ばれて、かなえちゃんのお腹に俺たちの赤ちゃんができる。
………すっごく良い。平門さんどんな顔をするかな。
「べつに輪は恋愛禁止じゃないし、だとしたら自然とそうなっちゃっても仕方ないし…それで芽生えた命をフイにさせるなんて、さすがに政府がそこまでさせるとは思えないんだよね。闘員にだって人権はあるんだから。」
「待っ…與儀、待って…どうした、の?そんな…」
「大好きなかなえちゃんに俺たちの赤ちゃんができれば、これ以上に嬉しいことはないよ。これでかなえちゃんはお母さんになるから闘いにでて怪我をすることはなくなるし、俺はお父さんになってずっと俺が二人を守ってあげられる。いい考えでしょ?協力してくれるよね?」
「や…待って…嫌…っ…おかしいよ、こんなの…っ」
おかしくなんてないよ。
もう平門さんには渡さない。
ていうか、平門さんがかなえちゃんに振り向くかはわからないけど、振り向かせたくなんかないし、振り向かなかったらまたそれで傷つくんでしょ。
それも防ぎたい。本当は振り向かれずに失恋してくれたら、俺にチャンスが来たかもしれないけど…万が一、くっつかれたら困るし。
今までもこれからも、一番近くで一緒にいるのは俺だけだよ。
「大丈夫、協力っていっても、かなえちゃんはただ俺に身を任せてくれればいいだけだから。ただ…」
「やっ…!!!」
壁際に背中をつけてなお逃げようとする身体を、そっとベッドに横たえた。
ごめん、腕の傷にちょっと響いたかも…でも、これ以上酷いことはしないから。
大事に…大事にするから。
「初めて身体を結ぶ時と…それが実って赤ちゃんを産んでもらうときだけは、怖い思いとか不安にとかさせちゃうかもだけど、ずっと傍にいて支えるから。」
そっと触れてみた身体はカタカタと震えて、ついに目から涙が溢れ落ちた。
泣かせるつもりはなかったんだけど……でも、かなえちゃんは泣き顔すら可愛いね。
その涙もすごくキレイ。さすがにこれは誰にも
見せたことのない姿だよね?…嬉しいなぁ…俺だけが知っているかなえちゃんとか。
これからもっと見せてくれるよね。それがもう楽しみでしかたがない。
俺はうっとりとその雫を舐めとってそのまま目元にキスをした。
「っ!!やっ…どうしたの?與儀…お願い、落ち着いて…っ…っ!!こ、こんなの、私、望んでない…っ」
「…じゃあ…俺が普通に告白していたら、応えてくれた?」
「え…?」
「かなえちゃんに怪我をしてほしくない…かなえちゃんを守りたいって気持ち…かなえちゃんは過保護だって笑っていたけど、本当に本気の気持ちだったんだよ。」
「…っ……」
「俺、今から、君からたくさんいろんなものを奪うと思う。輪、仲間、好きな人、今までの日々…と、かなえちゃん自身を色々。けど、そのぶんこれから一生をかけて絶対に絶対に大事にするから。俺といっぱい幸せになろう?」
「だ…め……お願い…もう、離して…。」
ごめん…俺、いますごく嬉しいんだ。
だって、いま君は俺のことでいっぱいでしょ?俺のことしか見えていなくて、俺のことしか考えられなくなっているでしょ。
これからもっとそうなっちゃえばいい。
俺はかなえちゃんしかいらないから。
だって、平門さんはズルいよ。
艇長って地位にいてそれに恥じない実力もあって、仕事はできるしかっこよくて頭はいいし、人望もある。
先生とはちょっと仲は悪いけど仕事上はうまくいっているよね。
研案塔でも看護師さんたちにモテモテで朔さんっていう親友もいる。
俺はそんな平門さんに憧れて、ずっと平門さんみたいになりたかった。
けど、それだけいろんなものをもっているのに、俺が何より欲しいかなえちゃんの心まで持っているなんて、本当にズルいよね。
その気がないなら、さっさとかなえちゃんを解放してよ。
俺はかなえちゃんしかいらないんだから。
俺がこれからどんなに頑張って、例えどんなに平門さんみたいになれたとしても、平門さんみたいな俺をかなえちゃんは選ばない。
俺は俺でしかないから、どうしたってかなえちゃんは平門さん本人をずっと見つめ続ける。
仕事は完璧にできるようになりたいけど、艇長の座なんて高望みはしない。
幸い仲間には恵まれているし、他の女の子には一切モテなくたっていいよ。かなえちゃんさえ、俺のそばにいてくれたら。
俺が欲しいのはかなえちゃんただ1人だけだから。
平門さんには絶対に渡さない。
だから、ねぇ?これ以上かなえちゃんが平門さんのせいで傷つく前に……早く俺だけのものにしなくちゃ。
身も心も、頭の中もその瞳の中も俺だけでいっぱいにして、誰もかなえちゃんに触れることもできない世界に閉じ込めなきゃ。
だってかなえちゃんは本当に素敵な女の子だから、いつ誰が不埒な思いを抱いて俺から奪いにくるかわからないからね。
平門さん以外にも、どんな男の目にも入れたくないし、かなえちゃんの目に映る男も俺以外は絶対に許さない。
かなえちゃんには一生俺だけいればいいでしょ?
すっごく幸せにしてあげるんだから。
「…大好き…大好きだよ…。いっぱい愛してるから…かなえちゃんもいつか、俺だけを愛してくれるよね…?いっぱいかなえちゃんを俺に愛させて?」
ずっと俺だけを見てくれるよね。
今のこの瞬間は、そのための一歩目。
泣かせるのも今が最後だから……。
これからの未知のことにすっかり怯えてしまっているかなえちゃんを、早く落ち着かせてあげなきゃ。
好きな人と永遠に結ばれるって、最高に幸せなことなんだよ。
かなえちゃんはこれから俺と結ばれて俺と幸せになるんだ。
これも未来の夫の務めだよね。
未来の可愛い花嫁さんを悲しませるなんて、絶対にだめ。
…まあ、すぐに未来じゃなくなるけど。
この可愛い女の子を、どう愛そうか。
思案しながら、ゆっくり手を伸ばした。
「い…や…っ…やっ、やめっ…っ…!!」
壊れてしまったものは、もう直らない。
それでもまだ動くなら、壊れたまま動き続けるしかないんだよ。
俺はこれから、ただ君を愛し守り抜くためだけに生きるよ…
たとえ、どんなに壊れていると言われてもね。
君を傷つける出来事は、もうこれでおしまい。
かなえちゃんはもう永遠に、俺だけのもの。
おわり
2015.02.20
こんにちは、お久しぶりです。
「與儀狂愛」とのリクエストで、少しづつ壊れていく様子を書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
切ない恋が狂おしい気持ちに変わっていく…寂しがりな與儀は、信じていたものと事実が異なっていると気づいたときにジワジワ壊れていくんじゃないかな?と思いました。
大切な物が離れていくのが許せない依存型かなー?と勝手に想像してみたり。
結果的にヒロインも自分に依存しないと生きていけなくなるようにしていくわけですね。
それでは、リクエストありがとうございました!