(切甘)I'm Home
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「……できないよ。」
「與儀っ!!」
「俺だって輪だよ。でもルアちゃんのことを好きな気持ちだけはどうしても切り離せない…。だから失う覚悟なんかできるわけない…。」
「だから…っ」
「だから!!もしも辛くなったら無理をしないで俺を頼って。俺に守らせて。ルアちゃんにとって今の俺はただの仲間でも、俺にとってルアちゃんは大事な人なことに変わりはないから…。絶対に無理をしないって約束して。」
「…っ…わかった…約束する。今、できる範囲のことをするから。」
「…うん。じゃあ、平門さんのところに行こう。たくさんの命を守りたいのは俺も同じだし、その中にはルアちゃんもいるんだって忘れないで。」
「……ありがとう…。」
俺は…
いつだって前を向いて闘う君が、好きだから。
君から輪を、命を守る闘いを取り上げるなんてことを、勝手に俺ができるはずはないんだ。
なら、俺が守る。俺がルアちゃんを守ればいい。
助け合うのも仲間、なんだから。
それから俺たちは急いで平門さんのところへ行って、出動させてほしいと頼んだ。
艇はまだ現場に向かって飛んでいる最中で、平門さんは各闘員に指示を出しながら腕を組んで俺たちを見た。
「研案塔はすでに、お前の検査のために待機している。今、無理をして悪化させることは得策じゃない。体力も戻っていないだろう?」
「わかっています。ですが、足手まといにはならないように全力を尽くします。お願いします…っ!!」
必死に頭を下げるルアちゃんを見てから、平門さんはチラリと俺に視線を移した。
研案塔に送るという命令に背いたことへの咎め…というよりは、まるでお前はいいのか?と問いかけられているように思えた。
足手まといになる心配よりも、部下が危篤になる危険性のほうを平門さんだって避けたいはずだ。
できることなら止めてほしい。
上司の命令ならきかないわけにはいかない…だけど、みんなが闘いに向かうのを見送ってただ待機させられるルアちゃんの気持ちは。
仲間が負傷するかもしれないのに、自分は原因のよくわからない検査を受ける…その時のつらさを考えると…
俺はもう、彼女の背中を押すことしかできない。
「俺からもお願いします…。研案塔や燭先生が待機しているのなら、闘員が負傷したときに搬送してすぐ治療できるように備えられるようにしてください。」
「それが先決だと…私も思います。私の検査のためにクッピーを出すのは効率的ではありません。今もこうして現場に向かっているわけですし。」
「……なるほど。お前たちも頭が回るようになったな。ああ、これは別に嫌味ではないぞ。」
「平門さん…。」
「言う通り、今は少しでも闘員の負傷時に研案塔もクッピーも備えるべきで、言い方は悪いがルアの検査は優先順位を考えれば後回しになる。お前の体調その他に関してはすでに燭さんの許しを得たから、お前はここに戻ってきたわけだからな。」
「はい。」
「……闘えるのか。」
平門さんは俺たち二人を交互に見据えた。
個人的な感情を遮断し、一般人を率先して救出できるか。
そんな意味をこめて。
「「はい!!!」」
今度こそ、声を揃えた俺たちに、平門さんは笑った。
「体力が多少戻っていなくても、ちゃんと貴重な戦力だと思っている。ただ、"足手まといにならないようには"全力は尽くすな。無事に勝利し艇に帰還する余力は残せ。決して戦場で潰れるな。」
「はいっ!!」
いざとなったら命も投げ出す覚悟だということを、平門さんは見越して制したのかもしれない。
この人は部下を潰すような指示は出さない。
「與儀は、万が一ルアに変調が表れた時に備え常に気を配れ。ツクモはイヴァと組む。」
「はい!!」
それでももし、ルアちゃんが潰れそうになったら、俺が守るんだ。
狙われた辺境の村は、要請を受けてすぐに艇が到着したのもあって被害はまだそんなに酷くはなかった。
ただ、逃げまどい身を隠す人々や家を黒々とした集団が取り囲んでいるのを、上空からしっかり捉えることが出来て思わず眉根を寄せた。
「全員止まれ!!我々は国家防衛機関・輪だ!!」
壱組・貳組揃って降下しそう叫んだ声に能力軀は一瞬ぴたりと止まった。
だけどすぐに異様な鳴き声をあげながら、標的を俺たちに変えて迫ってくる。
戦闘に入る者、その隙をついて逃げ遅れた一般人の救出に向かう者に分かれて、村はあっという間に戦場に変わった。
怒号や悲鳴が上がる中、ルアちゃんは襲ってくる奴等を攻撃して蹴散らしながら村民の誘導に入る。
俺は主に、救出に専念している彼女やその周囲にいる一般人を狙ってくる敵を攻撃する係。
上のほうでは他の皆が飛びながら闘っている。
ルアちゃんも…
長期間戦闘から離れていたとは思えないほど動きは鈍っていなくて、武器も技もうまく体力を使い分けて闘っている。
目の前の敵だけでなく、周囲へ気を配るのも怠らない。
時折無線で入る他の闘員の報告や平門さんの指示もきちんと聞きながら動いてる。
本当に…俺とのことを忘れている以外は、もとのルアちゃんそのまんま…なんだ。
記憶障害なんて嘘みたいに。
まるで最初から、俺と恋人だということのほうがただの俺だけの夢の中みたいに…。
そう思ってしまうくらい、闘員としての彼女は何も変わりはなかった。
「……っ」
悲しみを敵に八つ当たりでぶつけるなんて、最低かな。
だけど動いていないと、不安で不安でどうしようもなかった。
ずっとこのままだったら。
輪として生きていくなら、なんにも支障はない。
ただ俺と恋人ではなくなるだけ。
そんなの…嫌なのに。
思い出して欲しいのは俺だけなのかもしれないと思ったら…つらい。
「ハアァッ!!!」
怒りと、悲しみと、不安と。
ごちゃ混ぜになった感情を、ただ剣に込めた。
ダメだ。
今はただ、目の前の命を救う、それだけを考えるんだ…っ!!!
「キャアアアッ!!!」
皆がそれぞれ敵と対峙しているとき、少し離れた場所から悲鳴が上がった。
聞こえてきたほうへ目を向けると、逃げ遅れた女性が壁際まで能力軀に追い込まれているのが視界に入った。
やられる…っ!!
その時、ルアちゃんは向き合っていた敵に強い蹴りの一撃を食らわせると、怯んだその隙に女性の元へ飛んだ。
まさに襲われそうになった瞬間、女性を抱えると横とびに飛んで地面に倒れ込む。
蹴られた敵と女性を襲おうとした敵が揃って二人に向かっていき、ルアちゃんは素早く起き上がって倒れたままの女性をかばって技を出した。
一瞬だったから技は掠めて致命傷は与えられず、再び襲いかかろうとした時…
「ルアちゃん!!」
俺も自分が向き合っていた敵に一撃を食らわせてから、彼女のもとに飛んだ。
俺が…
今度こそ、俺が守る。
せめてこれ以上酷いことが、彼女の身に起こらないように。
今の俺はルアちゃんにとって恋人じゃない。
だけど…だけど好きだから。
ルアちゃんが守ろうとした女性の命ごと、彼女を守る!!!
―ガンッッ
「―っぐっ…っ!!!」
「與儀っ!!??」
後になってから聞いた話だけど、このときルアちゃんは、敵が自分を襲ってくるのと、その間に俺が飛び込んできて俺が攻撃を受けるのを、まるで動画をスローモーションで見ているように見えた、と言った。
正直、やっぱり久しぶりの戦闘がこれだけ大がかりなもので、間を置く暇はなく技も連発していたから体力もかなりヤバイ状態だったらしく…
一撃や二撃はまともに食らう覚悟はしていたみたい。
そこに飛んできた俺が敵の一撃を受けて吹き飛ぶのを見たとき、一瞬頭が真っ白になった……って。
「あ…っ…與、儀…っ…與儀っ!?」
「ルア!!與儀!?」
「痛…っ…だいじょぶ、大丈夫だよ、これくらい!…あたた…」
なんとか上空から駆けつけたイヴァ姐さんがシールドを張ってくれたから、俺たちも女性も…なんとか事なきを得たんだ。
俺も、体を少し強く打つだけで済んだ。
ただ…
「…っ…あ………っ」
気を失っている女性より、何故かルアちゃんはその場で固まって、カタカタと震え出した。
「ちょっと、ルア大丈夫!?顔が真っ青よ!?まるでアンタのほうが負傷者みたいじゃない!!」
「…っ……っ」
「ルアちゃん!?大丈夫!?」
ルアちゃんはそのまま俯いて、まるで過呼吸を起こしたみたいにはかはかと肩で浅い呼吸をし始めた。
その顔色は真っ青で、うっすらと額に汗を浮かべてる。
戦闘で流した汗とは別のものだとすぐにわかった。
まさか、変調が、起きた…!?
「與儀、ここは私がもつから、アンタはルアを連れて一旦戻りなさい。」
「で、でも…」
「こんな状態でいさせられないでしょ!私はあらかた片付いたから、こっち引き継いで大丈夫だから。早く!!」
「う、うん…姐さんありがとう!!」
俺はそのままルアちゃんを抱えあげて、合図と共に姐さんが敵を散らした隙をみて一気に飛んだ。
さすがに艇近くの上空までくると追ってくる奴はいない。
ひとまず安心して速度を落とすと、胸の中のルアちゃんはまだ震えながら、俺の服を弱々しく掴んだ。
「與儀です、外傷はないんですけどルアちゃんが体調を崩したようなので一旦連れて引き上げます。」
無線で報告をしたあと、ルアちゃんはかすかに震えた声でそっと呟いた。
「ご…め…ケガしたの…與儀のほうなのに…。」
「え~?大丈夫だよ、ちょっとぶつけただけだから。ほら、ケガなんかないでしょ?」
実際、本当にぶつけただけで外傷はない。
たぶん打ち身くらいにはなっているかもしれないけど、初めてじゃないしこんなのへっちゃらだ。
なのに、ルアちゃんはただ震えるばかり。
「具合、悪い?もうすぐ着くからね。」
「ちが…違うの…っ…私……っ……」
「もう大丈夫だからね。艇でゆっくり横になろう。」
「イヤッ…ッ!!!」
「え…?」
マントを被った予備闘員が艇から迎えに来るのを見て、ルアちゃんはガシッと俺にしがみついた。
「ケガをしたのは與儀なの!私のせいなの。だから與儀も艇に戻るの…っ!!」
「ちょっ、ルアちゃん!?」
ケガ人を救助したら、本来は艇に控えている闘員に引き渡して俺はまた戦闘に戻らないといけない。
だからか、ルアちゃんは引き渡されまいと必死に力を入れて俺にしがみついてる。
「俺は大丈夫だから。ね?」
「やだっ…っ…だって…だって…っ…私…っ與儀を傷つけたもん…っ…酷いことを言ったのに…守ってくれてケガしたの與儀だもん…っ!!」
「傷って、べつに俺はもうどこも痛くないよ?」
「ごめん…ごめんね…っ…私、思い出したから…全部思い出したから…っ!!」
「え…っ!?」
「與儀の心…いっぱい傷つけた…っ…ごめんね…っ」
俺の胸に顔を埋めているから表情は見えなかったけど、声が震えてだんだん涙色になっていくのが聞いていてわかった。
俺も茫然としてしまう。
「俺とのこと…思い出した…?」
「うん…うん…ごめんね…っ!!!」
「…っ…」
ルアちゃんはしゃくりあげて泣きながら、俺を見上げてきた。
さっきまでと俺を見る目の色まで違っているように感じるのは、俺の気のせいかな。
仲間とは違う愛情のこもった瞳。
それで…その瞳で見つめられて、よくわかったよ。
俺の恋人は今やっと、俺のところに戻ってきてくれたんだって。
「…おかえり…っルアちゃん…待ってた、ずっと待ってたよ…っ」
「うん…っ…ただいま…與儀…っ」
そのまま空中でキスをする俺たちを、周りの闘員は気まずそうに避けた。
このぶんなら自分たちの出る幕はないだろうと、さりげなく距離をとっていく。
見かねた平門さんが入ってくるまで、俺たちはずっと泣きながら喜んだ。