(切甘)I'm Home
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「ルアちゃん。俺になにかできることがあったら、なんでも言ってね?」
「え?」
「検査が不安だったり怖かったら、羊に隠れて一晩中ゲームをして遊んだっていいんだよ。」
「わ、私そんな臆病じゃないよ!!!」
ほらね、こうやってからかうとムキになるところ。
小さな体で怒りを表現する仕草。
俺の、大切なたからもの。それを見ていたら、俺も自然に笑みがこぼれた。
「…………」
瞬間、ルアちゃんの顔が赤くなった…気がした。
すぐにそらされたけど、そう見えたのは見間違い…?
「……與儀…あのね。お願いが、あるの。」
「なに?なんでも言って!!」
早速俺にできること!?ってわくわくしたら、思いの外真剣な顔で見つめられた。
「抱き締めて…キスを、してくれない…?」
「………え!!?」
「…お願い。」
「や、それはさすがに…。」
俺は嬉しい…けど、ルアちゃんにとっては好きでもない相手とのキスになるんじゃ…。
なんでいきなりこんなことを言い出したのかわからないけど、さすがに二つ返事は難しいよ!!!
「わかってる。そこに私の気持ちはないし、與儀にとって酷なのはわかっているんだけど。思い出すためにも、ちゃんと、恋人らしいことをしたいの。」
「いいの?…本当に…。」
「うん。別に、與儀が恋人なのは嫌なわけじゃないんだよ。気持ちが追い付かないだけ。」
「……わかった。じゃあ、少しでも抵抗を感じたら教えて。」
「うん、ありがとう。」
本当にこんなことをしていいのかわからない。
ただ、本音を言えば素直にルアちゃんに触れたくて仕方なかった。
拒絶されるのも内心覚悟しながら、緊張が伝わってくる強ばった肩に手を置いて、ゆっくり体を寄せた。
それから静かに背中に両腕を回して抱き締める。
ルアちゃんは俺の胸に顔を埋める形になり、俺はルアちゃんの髪に顔を埋めた。
少し離れていただけなのに、ひどく懐かしく感じる匂い。
ただ抱き締めるだけなのに、伝わってくるぬくもりと感触で心臓が高鳴った。
「なんだか、抱き締められるって安心するものだね。」
「そう?」
「與儀がおっきいからかな。温かくて心地いい…。私、この腕が好きだったのかな。」
「た…多分…ね。」
うう…俺のどこが好きだったかなんて…恥ずかしすぎる。
でもしょっちゅう抱っこをせがまれていたから、やっぱり…そうだったのかな。
……まずい…今、ものすごくキスがしたい気分になった。
いや、してってお願いはされたけど、今気分に任せてしたら感情のままにがっついちゃう気がする。
お試しのキスなのに、さすがにそこまでしちゃうのはまずいよね。
拒絶される覚悟はしているとはいえ、実際にされたらやっぱりショックは受ける。
いきなりがっつかれたら嫌に決まってるよ…。
だから感情を抑えて平常心に保つように、ゆっくり深呼吸。
落ち着いて。ただちょっと触れるだけ。
唇と唇を、ちょっとくっつけるだけだよ。
「與儀?」
「……する、ね。」
少しだけ体を離して、柔らかい頬に手を添えてみた。
キスします宣言でやっぱりちょっと強張った表情にひどく罪悪感はこみ上げるけど、目の前にあるぷっくりした可愛いピンク色の唇を見たら…もう…ダメだった。
思えばこうして触るの自体が、研案塔に搬送されたあの日以来だったから。
あの日俺がもっとしっかりしていれば、今ごろこんなふうになんかなっていなかったんだ。
思っても仕方のないことだけど…思わずにいられない。
嫌だったら、抵抗を感じたら、本当にすぐに逃げて。
そう思いながら近づくと、ふさふさのまつげは伏せられてまぶたが閉じた。
それと同時に唇を触れあわせると、苦しくなるくらいに胸が締め付けられた。
軟らかくて温かい感触に、こぼれ落ちた吐息が重なる。
だけど少し力が入っていて固まっている、ぴたりと閉じられたままの唇。
付き合ってから何度もキスし合った今だからわかる、記憶がない今のルアちゃんの、キスへの緊張と不慣れ感。
いつもなら触れるとすぐに力が抜けて、深く重なり合えるのに。
中に侵入しやすいようにうっすら開いてくれるはずなのに。
それでも逃げる素振りも抵抗を感じている素振りも全く見られず、じっと受けてくれている。
恋人に戻れたような気さえして、少し離してからまたさっきより深めに押し付けた。
それでも逃げない。
いいの?もっとしても。
…ダメ、これ以上したら…きっと嫌がられちゃう。
また怖がらせるかもしれない。
ふつふつと沸き上がる欲を押さえつけて唇を離すと、なんとルアちゃんは自分から体を押しつけて俺に抱きついて、キスをしてきた。
「…っ…!?」
ビックリして固まっちゃったけど、グッと密着した体と唇に俺もどうしようもなく焦がれた。
表情を覗き見たけど、無理をしているようには見えない。
もしかして、思い出した…?
そうも期待したけど、そのあとすぐに唇を離したルアちゃん自身も、驚いた顔をして自分の腕を見ている。
「今、私…なんで…?」
もしかして…今のは、無意識の行動だった?
記憶の底にいる本人が動いたのかもしれない。
そう思えるほど、愛しくなるキスだった。
「どうしたの?」
「わからない…なんだか今、與儀が離れていくのが寂しかったの。」
「え?それって」
「わからない、本当にわからないんだけど…ごめん、うまく言えない。」
記憶が戻りかけているなら…
お願い、戻って。
もう一度ちゃんと恋人として抱き締めたいから。
あの毎日が、どんなに幸せだったかを思い知って…もっともっと、大切にしたくなったんだ。
だけど結局、それ以上の進展は見られなかった。
すっかり意識と無意識の不一致で混乱してしまったらしく、もう一度だけキスをしようと言ったらさりげなく逃げられてしまった。
失ってから気付くなんて遅いって、きっといつもの君なら怒るよね。
今、俺もそう思う。
一緒にいるのが、いつも隣が温かいのが当たり前だったのに…ね。
無事に戻ってきてくれたのに、それだけじゃ足りないなんてワガママすぎるのに。
ただそこにいるだけなんて嫌だよ…。
早く、早く記憶を戻してもらわなきゃ。
何が影響しているかもわからないから、これ以上ひどくなる可能性もあるんだから。
「あ…えっと…じゃあ、そろそろ行こう、か?」
「え?もう?」
「うん、先生には話してあるし、何かしら他に支障が出たら大変だからね。早いほうがいいよ。」
「…そっか…うん…。」
せっかくさっき戻ってきたばかりなのに、また研案塔にとんぼ帰り。
それがなんだか寂しいのか、ルアちゃんは名残惜しそうに自分の部屋を振り返った。
ここが好きだから、輪に誇りをもっているから、きっと早く復帰したくて入院中ももどかしかったんだろうな…やっと戻れて嬉しかったんだろうな、ってなんとなく思ったけど…。
ねぇ、なんで俺がわかると思う?恋人だからだよ?
だから気持ちはわかるけど、俺はなるべく笑顔を心掛けた。
「大丈夫だよ、ちょっと検査をするだけだから、今までみたいに長期の入院にはならないよ!」
「…うん、だといいな。」
もっとも、異常が見つからなければ…の話なんだけど…。
けどそれは今はあまり言わないほうがいい。
気をとりなおすようにルアちゃんは息を吐いて、俺を見上げて笑った。
「行こっか。」
「…うん。」
できればきちんと原因が見つかってほしい…そう内心願いながら、俺はルアちゃんを促してクッピーに向かった。
通路に出て歩いていたら、なんだか羊の様子が妙に慌ただしかった。
なんだろうね?って二人で顔を見合わせながら進むと、後ろのほうからパタパタという駆け足音が聞こえてくる。
だけど羊は注意をしようとしない。
緊急時以外は通路を走ったり飛んだりしたら注意をされる。…ということは。
振り向いた先から、ツクモちゃんが表情を固くしたままこちらに向かってきていたのが見えた。
「ツクモちゃん、どうしたのー?」
ツクモちゃんは俺たちを見て一度足を止め、血相を変えた。
「大量の能力軀が出たらしいの。緊急出動で私もイヴァも、壱號艇からキイチちゃんと喰くんも出るらしいわ。」
「え?俺はそんなの聞いていないよ!?」
「與儀はルアの護衛みたいなものだから。緊急とは言っても、きっと私たちだけで大丈夫っていう平門の判断よ。」
「え…で、でも…壱組からも出るんでしょ?わざわざ集結するなら、それなりに大きな事件なんじゃないの!?」
ルアちゃんも固くした表情でツクモちゃんに向かった。
それもそのはずで、ただの能力軀やヴァルガの殲滅だけなら、ツクモちゃんとイヴァ姐さんの二人がいれば充分なはず。
なのに壱組を要請するなんて、二人だけでは戦力が足りないことを示している。
それが、俺たちの穴埋めならまだいい。
だけどそうじゃないなら?
総動員しなければならないほどの規模だったら?
「わ…私も行く!!平門さんにお願いしてみる!!」
「ちょっ、なに言ってるの!?ルアちゃんはこれから検査でしょ!?」
「そうね、だから平門も二人には出動指令を出さなかったんじゃないかしら。」
「そんなの、別に急を要することではないでしょ?こっちのほうが大事だよ!」
「―っダメだよ!!!」
気がつくと、俺はルアちゃんの肩を掴んで彼女をまっすぐ睨み…つけられていたかはわからないけど、とにかく強く見つめた。
「まだ何も異常がないって決まったわけじゃないんだよ。もしも無理に闘いに出て悪化したらどうするの!?それに、まだ復帰したばかりなのに!」
ルアちゃんは俺に圧されたからか一瞬黙ったけど、またすぐに決意の表情を取り戻してまっすぐに見つめてきた。
「本調子じゃなくて即戦力にはならないかもしれないけど、足手まといにはならない!!リハビリだってしたんだから!!」
「ダメ!!絶対にダメ!!」
また同じことになったらと思うと怖い。
俺だってルアちゃんが足手まといになるなんて思っていない。
彼女はいくら長期間のブランクがあっても、優秀な闘員なことに変わりはなくて、きっと前線で全力で闘える。
だからこそ、本調子じゃない中で全力を使いきってしまうのが怖い。
それでもし悪化してしまったら。
今、彼女に起きているものの正体がわからない以上、それがどんな作用をもたらすのかがわからなくて怖い。
二度と闘えなくなるくらいに体を壊してしまったら。
記憶を全部なくしてしまったら。
そう思うと怖くて、肩を掴んだままの手が震える。
だけど…そんな俺の恐怖心だけじゃ、彼女の気持ちを揺るがすことはできなかった。
「いま、目の前の命を少しでも救えるなら、そのあと私はどうなったっていいよ!!輪として本望だよ!!」
「――っ!!!」
「ルア…っ、気持ちはわかるけれど…」
「ツクモちゃんもごめん。私はいま、救える命のほうが大切なの。大丈夫、任務や戦闘に差し障るような記憶障害はない…はずだから。」
言っていることはすごくルアちゃんらしいし、的を得てる。
今、火不火に対抗して命を救えるのは俺たちだけ。
俺だって目の前に救える命があるなら、迷わず飛び込むよ。
だけど…っ…頭ではわかっていても割りきれないものがある。
それを君は、こんなに簡単に割りきっちゃうの?
自分の命や、助かったとしても記憶障害が酷くなるかもしれないのに。
それよりも任務を選ぶ君を、俺は尊敬もするけど寂しさも覚える。
ルアちゃんがそうなってしまったら、俺は…っ!!
「ツクモちゃんごめん、行って!ルアちゃんは俺が連れていくから!」
「ちょっと、與儀!?どこに行くの!?」
俺はルアちゃんの手首を強く掴むと、強引に引いて歩いた。
引っ張られて遅れて歩き出したルアちゃんは、少しよろけながら抵抗を見せる。
「クッピーだよ。研案塔に行くんだ。」
「行かないってば!!私は闘いに出る!!」
「君になにかあったらすごく悲しむ人間がいるっていうのもわかってよ!!!」
「…っ…」
やば、泣きそう。
だけど止めたりなんかできない。
君は覚えていなくても、俺にとっては大切な恋人なんだから。
俺だけじゃなく、みんなも悲しむ。
恋人が無茶をしようとしているのを、止めようとしたってしかたないでしょ!?
「…みんなには悪いと思ってる。もちろん與儀にも…だけど…ごめん……今の私は、與儀の恋人じゃない。」
「っ!!」
「ごめん…っ…今の私にとって與儀は恋人じゃないの……っ。だから…個人的な感情で私を抑えようとしないで…っ!!私には私の闘いたい意志があるの。輪を目指したときから命をかける覚悟はしているの!!」
「…ルアちゃん…っ」
「ひどいことを言っているよね。でもね、與儀やみんなになにかあったら悲しいのは私も同じ。だけど、輪の仲間である以上はそんなのはいつだって隣り合わせだって覚悟もしてる。與儀も輪なら私を失う覚悟をしてっ!!」
いつでも
君やみんなを失う覚悟をしておけ…ってこと…?
仕事への意識と、個人的な感情は切り離せ、って。
そんなの…っ
仲間の誰一人なにかあっても嫌なのに。
特にルアちゃんへの感情だけは切り離せないよ…っ。