(切甘)I'm Home
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それからすぐに応援がやってきて、張り詰めていた糸が切れたかのようにルアちゃんは倒れた。
運ばれたときには意識が全くなく、だけど体の傷が深いだけでヴァルガ細胞の侵入などの大事には至らなかった。
処置のあと研案塔のベッドに横になり、自力での呼吸が難しくなっているため酸素マスクをつけられて寝ている。
目を開けてもしばらく意識が混濁していて受け答えがはっきりしなかったけど、能力軀の濃い臭気を間近で大量に吸ったからだろうと先生は言った。
脳にも異常は見当たらなく、意識さえはっきりすれば問題はない。
なにもなくてよかった…。怪我はしたけど、大事には至らなかった。
それが俺を一番安堵させてくれた。
ルアちゃんが運ばれてから目を覚ますまで、ずっと気が気じゃなかった俺は……そうして、ようやく息ができる心地になった。
これで、怪我が治って艇に戻ってきてくれたら、また同じ生活に戻れる……当たり前に、そう思っていた。
「あー!やっぱり我が家はいいなぁ!ただいま!」
「おかえりメェ」
「おかえりメェ」
しばらくの休養を得て無事に意識も回復したルアちゃんは、今日艇に戻ってこられた。
迎えには行けなかったから、到着するのを待ちかねてみんなでゲートまで行くと、ルアちゃんは以前と変わらない元気な笑顔で帰ってきてくれた。
「おかえりなさい、ルア。もう大丈夫なの?」
「うん!大丈夫だよ。ありがとうツクモちゃーん!!」
ガバッとツクモちゃんに抱きつくその姿も、いつも通りの光景で…ようやくホッとできた。
いつもの抱きつきグセ。
それをイヴァ姐さんにもやっているのを傍目に見て…まだかな、まだかな…ってソワソワしていたのを見かねたみんなが、一歩引いてくれた。
「與儀も、ただいま。心配かけてごめんね。」
「ううん!本当によかった。おかえりルアちゃんー!!!」
「わっ」
いよいよ俺の番、待ちきれずに俺から抱きついて包み込むと、とても温かかった。
久し振りの感触だ。ここでいつも、ルアちゃんも両腕を回して甘えてくれる…はず、なんだけど。
「ちょっ…與儀!恥ずかしいよ…っ!」
ルアちゃんはじたばたと暴れて、俺の腕から逃げようとした。
顔が真っ赤になっている。
「大丈夫、與儀の気持ちもよくわかったから、ね?離れて…」
「え…嬉しくない?いつものギュウだよ?」
「え?いつもの?何?」
「……え…?」
ルアちゃんは…冗談じゃなく本気で困惑した表情で俺を見て…その場にいたみんなも違和感に気づいたのか静まった。
いつも一番俺にくっつきたがりの彼女が、誰より俺を拒んだから。
帰ってきたら、また一番に俺にくっついてなかなか離れてくれないと思っていたのに。
「異常は…見当たらないと診断されたのよね…?」
「そのはず、だけど…ねぇルア、その男が誰かはわかる?」
「え?與儀でしょ?何を言っているのイヴァ?」
「意識の混濁も混乱もない……以前と変わらないわ。私たちには抱きつくもの。」
ここにいるのは、確かに間違いなくルアちゃんだけど。
だけど…なにかが、違う気がする。
ずっと一緒にいた恋人の勘かもしれない。
なにかが……違う…。
でもそのなにかがなんなのかがわからなくて、言葉では表現できない引っかかりを頭の中でただ感じるしかできない。
なんだろう?この違和感……この子は間違いなくルアちゃん、なのに。
俺の中の誰かが、"なにかが違う"って言ってる。
そんな自分の感情がわからなくて、混乱する。
そんな俺を見かねて、イヴァ姐さんが気遣うように明るい声を出した。
「疲れたのかもしれないわね。今日はもうゆっくり休みましょう!」
「うん、そうしよっかな。久しぶりの自分のベッドが楽しみ!」
姐さんの気遣いに気づいていないのか、ルアちゃんはその言葉を素直に受け止めて頷いた。
その様子にまた不安が募る。
「ね、ねえルアちゃん。あの…。」
「うん?なに?」
なにか、ないの?俺に。
会いたかったとか、抱き締めて、とか。
寂しかったとか…逆に、俺に寂しくなかったか聞くとか。
だけど、そんな言葉は全く出てくる様子がない、曇りのない笑顔。
俺はますます焦った。
このまま本当に自分の部屋に戻って終わりにされちゃいそうで。
だって……久しぶりに二人きりになれるのに。
病み上がりだけど、一緒にいるだけでいい。
…今日帰ってきたら、そのまま一緒になるのが当然自然な流れだと思って楽しみにしていたのに。
…ヴァルガに襲われて怪我をして倒れた……あの時から、早くルアちゃんの無事を確認したかった。
抱き締めて、大丈夫なことを実感したかったのに。
「あとで…部屋に行っても、いい…?」
「今から?うーん…ちょっとだけなら、いいよ。なにか用事?」
…とても、会いに来る恋人への言葉には思えなかった。
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