(切甘)片恋のparadox
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ある日の捜査で降りた街で、人目を気にしないでイチャイチャしてるカップルがいた。
目のやり場に困る…って思いながらふと目をやったとき、二人は幸せそうに笑いながら体を寄せ合って、何度もキスを繰り返してた。
「―――……………」
手を繋いで指と指を絡めて、ぴったりと肩を寄せあって何か話をして笑ったり、からかわれたのか彼女が怒りながら彼を叩いていたり。
そんな彼女を、彼はまた笑いながらからかってる。
そして時々交わすキス。
そこまではいかなくても、他にも手を繋いで歩いているカップルが何組もいる。
幸せそうに想い合っているのがわかる恋人同士。
みんなどうやって、お互いの気持ちを確認して恋人になったんだろう。
ちゃんと好きって言うのかな。
それとも自然に?
(いいなぁ…。)
―って…俺、何を考えて…。
「…そっか。」
どう仲良くなりたいか。
その答えは今になってわかった。
リイナちゃんと…恋人同士になりたい。
こっそり想うだけじゃ足りなくて、リイナちゃんの特別になりたい。
俺はけっこう最初のほうから、あの子のことを気にしていたんだね。
今のこの俺の気持ちと同じ気持ちを、彼女も俺に感じて向けてくれたなら…。
「ダメだよ…。」
わかった瞬間から、俺の中の何かが崩れた。
嬉しいフワフワが、裂かれそうな痛みに変わる。
「ダメだよ…だって…。」
叶いっこない。
ううん、叶ってもダメなんだ。
輪なのに恋をするなんて。
恋人同士を望むなんて…。ただ好きでいられたら、それでよかったのに。
人を好きになるって、こんなにつらいんだ…ね。
恋は嬉しいだけじゃないなんて、知りたくなかった。
嬉しいままでいたかった。
気づかれないようにしないと。
絶対に気づかれたらダメだよ。
伝えるのもダメだよ。
気まずくなる…絶対にダメだ。
好きだなんて言えない。
「輪は恋愛しちゃいけないって、平門サンは言っていたかな…。」
言わなくたって、当たり前だよ。
輪が、輪に恋なんて。
それも恋人を望むなんて。
恋人になってどうするの?
人には言えない。
艇の中で恋人同士なんて。
ああしてデートもなかなかできないし、結婚だってできないし。
命がけの日々の中で大切な人ができるなんて、きっと不安ばかりが大きくなる。
今まで、大切な人を亡くして悲痛な叫びをあげる人たちを何度も見てきたよ。
だからなおさら、そんな人たちに報いるために、増やさないために火不火を早く倒すことだけを考えなきゃ。
今まで、堂々と恋愛ができないことを悲観したことなんてなかったのに。
意識したことがなくて、いつか恋をするなんて考えもしなかった。
「まぁ、大丈夫だよね…。だってリイナちゃんは、きっと…恋なんて…しないから。輪だから…。真面目だから…だから…俺たちは、始まらない…。」
だから考えたらダメなんだ。
どうしたら俺を好きになってくれるかなんて。
そんなことはきっとないし、もしも好きになってくれたって、お互いに幸せになんてなれないよ…。
あんなふうに、普通の恋人同士になんてなれない。
大丈夫…すぐに、すぐに忘れるから。
伝わらなければいいなんて言っていられない。
好かれても幸せになんてなれないし、好かれなくてもつらいから。
好きでい続ける限り、振り向いてもらえないつらさはつきまとうから。
「忘れる…から。」
大丈夫、きっと忘れられる。
忘れないといけないんだ。
(――忘れる。)
胸の痛みを吹き飛ばしたくて、何度も何度も深呼吸をして、ゆっくり艇に戻った。
「…ただいま。」
「あ!!與儀おかえりっ!」
「え…?」
戻ってきて通路を歩いていると、向こうからリイナちゃんが笑いながら小走りに走り寄ってきた。
確かリイナちゃんは今日、俺が降りた街より少し遠い村に行ったはず。
だからてっきり、帰りは遅いと思ってた。
「リイナちゃん、もう帰ってきたの?」
「うん、早く終わったから。それでね、與儀が好きそうなものがあったから、お土産に買ってきちゃった。」
「え!?お土産!?」
「はい、これ。」
「待って!あの…お土産って、そんな悪いよ!」
「もう買ってきちゃったし、無駄になっちゃうから貰って?イヴァ姐さんとツクモちゃんにも買ってきたし。渡したくて待ってたの。」
「待ってた…。」
リイナちゃんは無邪気に、明るくニコニコ笑いながら可愛く包まれた小さな箱を俺に差し出した。
確かに、買ってきてくれたのに受け取らないのは…でも…いいのかな…。
ちょっと迷ったけど…やっぱり断るなんてできなくて、俺はそっとその箱を受け取った。
それに対してまた笑ってくれた、可愛い笑顔…でも…。
「ありがと…。」
「じゃあ、私は部屋に戻るね。」
「あ、待って!!」
「え?なに?」
戻りかけていたのを呼び止められて、リイナちゃんはまた俺を見た。
今朝、会ったときと変わらない…一見は。
だけど…。
「リイナちゃん、なにかあった?」
「え…?なにが?」
「元気ないなって…。」
「えー?私は元気だよ?」
リイナちゃんは確かに、元気に笑ってる。
でもそれは、無理して笑っているようにしか見えない。
皮肉にも、ずっと見てきたから感じた違和感なのかもしれない。
確証はないけど、そう思った。
「…なにか、あった?」
「…え…」
いつもの可愛い笑顔が、固まった。
かわりに瞳が小さく揺れて、まるで泣いているようにすら見えて心がざわついた。
リイナちゃんが、悲しんでる?
なにがあったんだろう。
ごまかされたらこれ以上しつこくはできないけど…固まっていた笑顔が苦笑いに変わって、寂しげな笑い声が小さく聴こえた。