(甘夢)してあげないよ。
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「與儀もそろそろ潮時でしょう?」
「え…っ?」
そのままヒロコちゃんの前まで出されると、俺たちは微妙な距離をとって向かい合った。
なに、この状況……。
「え、っと…」
「……………」
ヒロコちゃんは身動きしないまま、少しの涙目で助けを求めるようにツクモちゃんを見た。
俺からは見えないけど、多分ツクモちゃんは無言で頷いてる。
それで諦めたような表情で何か考えて、俺を見た。
「あの…與儀、さっきは、いきなりごめん…。」
「ううん、俺もごめん。」
「なんで謝るの?クッキーを割ったのは私だし…。」
「あれ、あのさ。確かに可愛い女の子からもらったんだけど…ニャンペローナの慰問で会った子供たちだからね?」
「…え…?」
「誤解させちゃったみたいでごめん。クッキーは割れちゃったけど食べられるし、あの子たちの笑顔と気持ちもいっぱいもらったから大丈夫だよ。それをみんなにも分けたくて。」
「え、待って。可愛い女の子って…子供…たち?」
「そうだよ?すごく可愛い子たちだったよ、みんな。」
「ぇえっ!?」
正直に事実を話してみたら、それを聞いた途端にヒロコちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。
させたのは俺だけど、勘違いして飛び出した自分が恥ずかしくなったんだと思う。
それから下を向いて小さくため息をこぼして、どこかホッとしたように気を抜いた表情をした。
「そっか、子供か…。」
う……。
ダメだ、可愛すぎる。
告白じゃなくてそんなに安心した?
ダメだよ…そんな顔をされたら…抱き締めたくなるよ。
でも、やっぱりそんなことはできなくて。
素直になれないのは俺も同じで、しかも俺の場合はついやりたいことと反対のことをする。
本当は抱き締めたいくせに…その代わりに、腰を少しかがめてヒロコちゃんと同じ高さにした目でジッと見つめてみた。
「どうしたの?子供だったのがそんなに安心した?」
「えっ…あの…」
ほら、また慌て出した。
本当…ほんっっとうに可愛い。
態度で好きって言っちゃってるよ。
だから、そんな感じで可愛く告白なんかされちゃったら…そんな日を、実はこっそりと待っていたけど…。
「ちが…違うよ、安心じゃなくて、えっと…だから…あの、ごめん…大事なクッキーには変わりないよね、うん……。」
「本当に?安心しているように見えるけどぉ…。」
「しっ!してないよっ!?そんな、するわけないよ!割っちゃったのに…っ!!なんで安心するの!!」
本当は安心してるくせに、ね。
告白されて貰ったクッキーだとしても、きっとさっきみたいにヒロコちゃんは割ったことに落ち込むよね。
だけど、告白じゃなかったことについ安心した自分に、さらに落ち込んでるよね…今。
気持ちがこもっているのは同じだから。
ヒロコちゃんはずっと俺から視線を外して、居心地悪そうにモジモジしてる。
だから…ねぇ、また言いたくなった。
「もし告白だったらどうする?」
「え…?」
「俺が、誰かに告白されて付き合ってって言われたらどうする?」
「言われたの?」
「もしもの話。」
「…。えっと…與儀が、その子を好きなら…いいと、思う…。」
「…そう。」
さすがに可哀想かなぁ。
でも、素直になってほしいんだよ。
早く、俺のことが好きだって言って?
そうしたら、俺だって素直になれるよ。
からかわずに、俺も好きだよ?って。
だから少し待ったけど、やっぱりヒロコちゃんは視線を泳がせたまま何も言わない。
すると、後ろから小さなため息と声がした。
「……與儀。」
その声に振り向くと、さっきからずっと静かに聞いていたツクモちゃんが物言いたげに俺を見た。
なにも言われなくても、その大きな目から何が言いたいのかがなんとなく伝わってくる。
さっき言っていた、
"そろそろ潮時でしょう?"
いい加減に素直になれってことだよね。
それからツクモちゃんは、ヒロコちゃんにも視線を移した。
やっぱり何か感じとったのか、ヒロコちゃんの顔が気まずそうに下を向いていく。
「じゃあ、私は无くんたちのところへ行くから。」
「えっ!?ツクモちゃん!?」
「ツクモちゃん!?」
ほぼ同時の訴えも却下したように、ツクモちゃんは踵を返して颯爽と部屋を出ていった。
残された俺たちの間に流れる、微妙な空気。
えーと…どうしよう、これ。
「…與儀。」
「………え?」
焦ったけど、そんな空気を意外にもヒロコちゃんから壊して、小さな声が耳に届いた。
ヒロコちゃんは目線を下にしたまま。
「與儀だって、告白されても誰でもいいわけじゃないでしょ?」
「…うん。好きって言ってもらえるのは嬉しいけど。」
「……そう……。」
好意をもってもらえるのは悪い気はしないけど、飛び上がるくらい嬉しくなれるのは、たった一人だけ。
ねえ、ヒロコちゃんは俺が好きって言ったら嬉しい?
やっぱり俺から言ったほうがいいのかな。
待っていたらいつ付き合えるのかわからないし…。
ヒロコちゃんの気持ちを知っていながら、言ってくれるのを待つってやっぱりズルいよね。
よし、言う。言うしかない。
本当は、早く抱き締めたくて仕方ないから。
「俺は、ヒロコちゃんに好きって言われたら嬉しいよ。」
「……。…え?」
「ヒロコちゃんは、俺に好きって言われたら嬉しい?」
「えっ…。」
君から言わないなら、俺から言うしかないよね…。