(甘夢)してあげないよ。
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「與儀ごめん!本当にごめん!!」
ヒロコちゃんはまるで土下座みたいにリビングルームのテーブルに突っ伏して、ひたすらごめんを繰り返した。
袋の中のクッキーは無事なものも多かったけど、割れたり砕けたりしているものもあって、たぶんさっきぶつかった時にそうなっちゃったんだろうと思う。
「私がぶつかったからだよね?ごめんなさい!」
「大丈夫だよ。割れただけで食べられるし。」
「でもプレゼントみたいだし、大事なクッキーじゃないの?」
「あー…うん、まぁ。可愛い女の子に貰って…。」
可愛い女の子
わざと言ったその言葉に、ヒロコちゃんは予想通りにピクリと反応した。
「…女の、子…可愛い…?」
「うん、大好きだって言われちゃった。嬉しいよね。」
「そ…そうなん、だ…。」
告白だって勘違いしちゃったかな。
複雑そうで、そして不安げな顔で視線が泳ぎ始めた。
ね、だから気づいちゃうって…その表情。
素直なのが可愛いよね、態度で告白しているようなものだよ。
これをきっかけに告白してくれたならなぁとか……。
ねえ、早く俺に告白しに来てよ。
可愛く好きなんて言われたら、もう思いきりギュッ!!て抱き締めて離せなくなるかも。
そうなるのを待っているのになぁ。
でも…あれ?
思っていたより、だんだんヒロコちゃんは下を向いて顔色が暗くなっていく。
どうしたんだろう?
「花礫、なんでヒロコちゃん悲しいの?」
「與儀が泣かせたから。」
「悲し…ええっ!?ていうかヒロコちゃん別に泣いてはいないよ!!ねえヒロコちゃ…」
「……………………」
あれぇ…顔色や表情に生気を感じない。
どうしよ…こんなこと初めてだよ!!
「ヒロコちゃ~ん…?」
「そんな…大事な気持ちのこもったクッキーを私…たぶんその子、與儀がす…好き、なんだね……しかも可愛いんだ…。」
「おーい?」
「…ていうかそんなクッキーをみんなに分けたらダメだよ!ちゃんと與儀が食べなよっ!」
「ええ!?」
なんだかいきなりキレた!!?
いやまぁ、そうなんだけどー…って、別にそういうアレじゃなくて…
子供たちが一生懸命に作ってくれたものだから、みんなで分け合いたかっただけというか…。
ああやりすぎたかも…これ。
誤解を解いたほうがいいよね?
「與儀にはわからないかもしれないけどっ!そのクッキーには與儀に食べてもらいたいって一生懸命で必死な気持ちがこもっているんだから!!ちゃんと食べてあげて!!…ちょっと複雑だけど…。」
「ごめん、あのね?」
「ああもう怒ればいいのか悲しめばいいのかわからないっ!!とにかく與儀のバカッ!!!」
「あっ!!ヒロコちゃんっ!!??」
ヒロコちゃんはそう叫びながら猛スピードで走り去って…あとに残された俺は茫然とした。
花礫くんはさすが意味が理解できたみたいで、背中から、ふん、って鼻笑いが聴こえて…
「哀れ。つぅかバカ。」
ガンッ!!!
「俺…バカ?」
「知らねぇ。」
花礫くんは頬杖をついて、また鼻で笑った。
まずい、さすがにやりすぎた。
「ヒロコちゃん、悲しくて痛いってなっているよ?」
ガガンッ
无ちゃんのセリフでトドメの一撃。
「弄ぶからだ。俺には関係ねぇけど。」
「もてあそぶ?」
「人聞き悪いよ花礫くん!!ちょっと俺、追いかけてくる。」
「え、與儀?」
「クッキー食べていいからね?」
クッキーはさっき、割れているのとなるべく割れていないのを分けていたから、俺は割れていないほうを二人の所に置いて、そのままヒロコちゃんを追いかけた。
他の人に告白されたなんて、やっぱり聞きたくないよね…。
実際には告白じゃないんだけど、そう勘違いさせたのは俺だし。
とりあえず一番可能性の高そうなヒロコちゃんの部屋に行ってみよう。
あんなに落ち込むとは思わなかったけど、嫌な思いをさせたなら謝って誤解を解いて、改めて誘おう。
急がなきゃと気持ちが急いたから、なるべく早足で通路を歩いて部屋のほうに向かう。
先を歩いているはずの姿が見えないから、よっぽど早いスピードを出したのかな。
また羊に怒られていそう…。
誰かにぶつかっていないといいんだけど。
「さて…。」
部屋の前まで来て、ノックをしようとドアに手を伸ばしたら、中から何か声が聴こえた。
やっぱり戻ってきていたんだ。
話し声みたいだけど、誰か一緒にいるのかな。
それじゃ聞こえるのは悪いし、少し待ったほうがいいかな…って思った時…
「ツクモちゃん…私、もうダメだよ…與儀のこと。」
(…え?)
「與儀のこと、諦めるよ…。」
「ヒロコ…。」
―――諦めるっ!?
なんでそうなるの!?
諦めるって、多分好きでいることをやめるってことだよね。
わからない…理解がうまくできなくて、扉の前に立ち尽くした。
声が震えてるのがわかる。
「與儀はきっと、私の気持ちに気づいてる。なのに時々からかわれるし…。それって、私は恋愛対象じゃないってことだよね…?」
(ちが…)
違うよ、逆だよ!!
好きだからふざけちゃって…女の子にはわからないのかな。
それとも、伝わってない?本当にいじめられていると思ってる?
反応が面白くてついやっちゃうし、俺の気持ちがバレるんじゃないかと思うと、好きとは逆の態度をしちゃう俺って…花礫くんが言う通りバカなのかもしれないね。
どうしよ…本気で傷つけたかも。
「ヒロコ、與儀は本気で人に意地悪をする人じゃないっていうのは、ヒロコもよくわかっているでしょう?」
「そうだけど…でも…私は、ぐずぐずしていつまでも好きなんて言えないし。ちゃんと告白してクッキーまで渡すような子には勝てないよ…。しかも、可愛いって…與儀がわざわざ言うくらい、どれだけ可愛いの…。」
「…でも、そんな女の子はいたかどうか私も思い当たらないし。それに與儀は…。」
「…なに……?」
な、なに?ツクモちゃん?
俺は……なに!?
「気になるなら直接聞いた方がいいと思う。」
「え?」
(…………え?なに?)
今までドアを挟んでかすかに話し声が聞こえる程度のレベルだったのに、コツ…コツ…と一定の音が段々近づいてきて、ガチャリとドアが開いた。
部屋の中からツクモちゃんが顔を覗かせる。
いつから、俺がいることに気づいていたんだろう。
ツクモちゃんは表情を変えないままでジッと俺を見つめて、そっと俺の腕を掴んで引いてきた。
ツクモちゃんの後ろに、茫然と立ち尽くしているヒロコちゃんがいる。