(切甘)それでも愛を離せない
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
☆☆☆
ツクモちゃんから電話をもらってから、本当は身も心もズタズタに裂かれたような痛みでいっぱいだった。
だけど任務は投げ出せない…。
そんなことをしたら、一生ちとせちゃんと顔を合わせられない。
無事で…無事だと祈るしかない。
俺はまた、ちとせちゃんより任務を選んだ。
「葬送…っ」
何度目かの葬送を終えて、息切れがするほど体力値が落ちてる。
処理闘員の浄化を見届けたあと、体がボロボロなのも構わず飛んだ。
ツクモちゃんの電話から、2時間以上が経ってる。
あれからツクモちゃんからの連絡がない。
任務中だから気を使っているのか…なんとか持ち直して落ち着いたのか。
それでも、どちらにせよツクモちゃんはちゃんと連絡をくれる子だから。
もしかしたら、まだ今ごろ…。
後者で…どうか後者でいて。
君を失うなんて考えられない。
考えたくもない。
お願いだから頑張って…っ!!!
こんなことなら、早く会いに行けばよかった。
来ないでって言われたって、無理矢理にでも会いに行けば…っ!!!
急ぎ艇に戻って、クッピーに駆け乗って出発した。
研案塔まで数10分。
航空経路、問題なし。
乱気流や強風もなし。
視界は良好。
飛ばせば半分の時間で済む。
間に合え…間に合えっ!!
「ちとせちゃん…っ」
嫌に心臓が跳ねて縮むを繰り返す。
操縦しながら、何度も手のひらをきつく握りしめた。
「ツクモちゃんっ!!」
クッピーを停めて、どこに行ったらいいかわからないけど、とにかくちとせちゃんの病室に向かった。
病室の前の廊下にツクモちゃんは立っていて、俺の姿を見るとこっちを向いた。
「はぁ…っはぁっ…ちとせちゃんは!?」
「中に…與儀、大丈夫?」
「だ…だいじょうぶ…っ入っていいの!?」
「ええ……」
疲労も息切れも気にしないで、病室のドアを開けた。
奥のベッドで、ちとせちゃんは横になって目を閉じてる。
少し、痩せた。
手足が固定されて足は吊るされ、あちこちに包帯が巻かれてガーゼもテープで止められている。
青白い肌に、ザワッ…と嫌な感覚が走った。
最悪を予想してしまって。
「ちとせちゃん!?」
ベッド脇に寄って、折れていない右手を握った。
温かくて、呼吸で胸が上下するのを見たら…ホッとして涙が出た。
ちゃんと生きてる……無事なの?…良かった……っ!!
「ちとせちゃん…っ」
もう一度名前を呼ぶと、ちとせちゃんはゆっくりと目を開けた。
焦点を合わせるように瞳を揺らして、俺と目が合う。
そのとたん、ビックリしたみたいで一気に目が開いた。
「與儀…どうして……」
「なんでって、危篤だって聞いたから…っ!大丈夫なの!?気持ち悪い?痛い?調子はどうなの!?」
「……危篤??なんのこと…?」
「え……?だって容態が悪化して意識不明って…」
「確かにちょっと意識はふらついたけど…ただの貧血だよ…?」
「え……だってツクモちゃんが…」
バッと後ろを向くと、さっきまでいたはずのツクモちゃんが、いない。
ま、さ、か…
(ツクモちゃーーんっ!!??)
騙された…。
これ、絶対にイヴァ姐さんの入れ知恵が入ってるよ…。
ツクモちゃん一人でこんなこと出来るか疑問だし…。
だけど…
握ったままの右手が、温かくて…。
ホッとしたら物凄い脱力感に襲われて、ペタリと床にへたりこんだ。
「ちょっ…大丈夫?」
「はぁ…よかった…俺…ちとせちゃんに何かあったらどうしようって…万が一…何かあったのかと…」
「え…勝手に殺さないでよ…。」
「だってツクモちゃんが…っ!!!」
ガバッと顔を上げた先に、ずっと会いたかったちとせちゃんがいる。
ちとせちゃんが身体を起こして、俺を見てくれている。
胸が苦しくて…叶うなら今すぐ抱き締めたい。
そのぬくもりを感じたい……ちゃんと生きているって実感させて…。
「ごめん…来ないでって言われていたのに……でも、会いたかった…っ!」
「あ…………ごめん…嫌な思いをさせたね…。」
「そんなことない…っ!俺こそ…っ俺がちゃんとしていれば…ずっと謝りたくて…っ」
涙目になっていく俺を、ちとせちゃんが困ったような表情で見てる。
泣き虫だって呆れられるかな。
だけど…止められない。
「その…来ないでって言ったのは…謝ってほしくなかったし、泣いてほしくなかったから…。だって與儀は悪くないから…。」
「でも、俺が手を離したから…」
「だから…與儀は悪くないから…。ね?もうやめよう?謝るのは私だもん…。」
「なんでちとせちゃんが謝るの?」
袖でゴシゴシと涙を拭いていると、ちとせちゃんは小さくため息をついて目を伏せた。
「與儀を遠ざけたのは、こんな私を見て泣いてほしくなかったから。私…最低だもん…嫌われると思って言えなかった…。」
「最低?なんで?嫌ったりなんかしないよ…?」
「……。"なんで助けてくれなかったの?"」
「え……?」
「一瞬でも、そう思った自分が嫌いなの…。だから與儀に会えなかった…。」
最低でしょ?
……って、ちとせちゃんは苦笑いをした。
すごく俺に気を使っているんだって感じた。
一瞬でも思ったその思いをずっと一人で抱えて苦しんでいたんだ…。
「與儀が私から手を離して、離れて行ったのを覚えてる。あの時はあれが最善だった。あんな小さな女の子が下敷きになったら、こんな私の怪我のレベルじゃ済まなかったもの…。助からなかったと思う。」
「ごめん…俺…。」
「責めてない。お願いだから謝らないで…與儀は正しかったよ。…ありがとう、あの子を助けてくれて…與儀も無事で本当に良かった…。」
「ちとせちゃん…。」
「責められるべきなのは私のほうだから…。與儀も巻き込むところだった…ごめんなさい…。その上こんな…最低な気持ち…。」
泣きそうに顔を歪めたちとせちゃんに、俺は首を横に振った。
ただお互いに、苦しんでいたんだ。
自分の責任だと……。
「輪の闘員だって生身の人間なんだから…生身の気持ちを抱いてもちっともおかしくないよ…うまく言えないけど。思いきり、俺には感情をぶつけていいんだよ…?」
「…………」
「普段、輪として頑張っているぶん…プライベートは、人間になっていいんだよ……その為に、俺たち一緒にいるんでしょ?…本当に…助けてあげられなくてごめん…。」
「…あの、時は…與儀は輪…だったんだもん…輪として行動したんだもん…」
ちとせちゃんは、いままで抑えていたものが溢れたように、涙を流した。
途切れ途切れに声を震わせながら、俺を見た。
「闘員だもん、いつ死んでもおかしくない。それは輪に入った時からずっと覚悟してきた……でも…実際にそうなったら……痛かった、苦しかった、辛かった、私どうなっちゃうんだろうって怖かった……あの子を助けて死ぬなら、輪として生きた意味はあったかもしれない…でも…っ…なんで…なんで助けてくれなかったの…っ!?與儀が離れていったの、すごく悲しかったよ…っ!!!」
「ごめん…ごめんね…っ」
どんどんぶつけられるありのままの感情を、全部全部受け止める。
これが人としてのちとせちゃんの素直な気持ちなら。
ただ黙って遠ざけられるより、ずっといい。
「…っ…でも私、もし私が與儀の立場なら。與儀とあの子、どちらかしか助けられないなら…きっと與儀と同じ事をする…與儀を離して逃げると思う…っ!なのに…っ私は…自分がこんな目にあった事を與儀のせいにしてる…っ」
「…うん。いいんだよ、いいんだよ、それで…。」
「でも與儀は、それでも私を責めないでしょ?私とあの子が無事でよかったって笑うでしょ!?」
「わからないよ。俺だって、そうなったら同じ事を思っちゃうかもしれないよ?」
「そんなことないよ…っ!與儀は…絶対に私を責めない…っ」
泣き叫んでいるちとせちゃんの涙を拭って、落ち着かせるように髪を撫でた。
怪我がなかったら、思いきり抱き締めるのに。
「俺だって生身の人間なんだから、そうなったらちとせちゃんを責めちゃうかもしれないよ。でも今は、ちとせちゃんが助かってくれて本当によかった。そうやって感情を素直にぶつけてくれて、すごく申し訳ないんだけど嬉しい。ちとせちゃん、いつも優しく笑ってるから。優しいから、俺を責めないように遠ざけてくれたんだよね?」
「………………」
「…あ、でも。いつも優しいわけじゃないか…本当で怒ると怖いし……。俺、泣いちゃうし。」
「…なによ、それ…。」
「だから嬉しいんだってば。怒られるのは怖いけど~…そうやって、本気で感情をぶつけてくれるの、俺にだけでしょ?」
それって、恋人同士だけの特権じゃない?
……憧れていたんだよね。
ちとせちゃんとめちゃくちゃイチャついたり、ケンカをして仲直りしてまたラブラブしたり。
そういう、恋人同士らしいこと。
ケンカは…なるべくならしたくないけど。
それって、本気で感情をぶつけあっているってことだし。
なんだかニヤニヤする。
「……與儀って、ドM?」
「違うよっ!!!」
なんでそうなるかなぁ…。
でも、やっと泣き止んでくれて、右手でキュッと俺の手を握ってくれた。
この手で、体を張ってあの子を守ったんだね。
柔らかくて温かい、大好きな手。
「與儀、服が汚れているね?」
「あ…ごめん。汚いよね。」
「ううん。もしかして、任務のあとすぐに来てくれたの?」
「う、ん…慌てていたから。結局危篤だって騙されたわけだけど~…。」
でもこうしないと、俺たちいつまでも擦れ違ったまま会わずにいたんだろうな…。
心臓が止まるかと思ったけど、感謝しないとね。
「その焦っているところ、ちょっと見たかったかも。あとでツクモちゃんに聞いてみようかな。」
「……ドS……?」
「だって、それだけ心配してくれたんだよね…?」
「う~…でも、もう勘弁して…」
ほんっっと……寿命が縮みます…………。
闘員同士だし、これからもこんなことは起こるかもしれない。
俺がちとせちゃんを悲しませる時も、あるかもしれない。
でも、やっぱり一緒にいたいのはちとせちゃんだけなんだ。
闘員だから出会えたわけだし…。