(切甘)それでも愛を離せない
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☆☆☆
看護師さんに押してもらって車イスで病室に入ると、ベッド脇のイスにツクモちゃんが座っていた。
ツクモちゃんは私の姿を確認すると立ち上がって、笑顔を見せてくれた。
「ツクモちゃん、いつ来たの?待たせちゃった?」
「ううん、さっき来たから。検査?」
「うん、まだ油断できないから頭の写真を撮って、骨折した処に医療ライトを当ててきたの。」
まだ自力で動けないから、ゆっくりゆっくりと立ってベッドに戻るのを、看護師さんとツクモちゃんが手伝ってくれた。
特殊な医療ライトを当てると、骨折が早く治りやすくなるんだって。
「みんな忙しいのにごめんね。」
「こっちは大丈夫だから、気にしないで。…ねぇ、ちとせ。」
「うん?」
「與儀が、すごく心配して落ち込んでいるの。」
「…………」
ツクモちゃんは長いまつ毛をふせて、小さく呟いた。
きっとイヴァ姐さんから聞いているだろうから、気遣うような表情に申し訳なくなる。
ツクモちゃんもイヴァ姐さんも、私と與儀の間に挟まれてつらいだろうな。
ケンカをした、というわけではないんだけど…。
私が勝手に気まずいだけ。
それで與儀を傷つけたなら、私が全部悪い。
ワガママで自分勝手な私が、悪い。
「…與儀に、伝えて?私は大丈夫だし、與儀は悪くないから自分を責めないでね、って。」
「與儀が直接、会いにくるのはダメなの?きっとすごく会いたいと思う。」
「…会えないよ…」
「どうして?」
私だって会いたいよ。
與儀の、笑顔が見たい。
だから余計にダメなの。
與儀はきっと泣くから。
自分のせいだって、責めて泣くから。
與儀は悪くない。
なのに自分を責める與儀を見てしまったら私がつらい。
そして…
やっぱり、思い出しちゃう。
きつく握っていた私の腕を、バッと離した與儀の手の感触。
すごくつらそうな顔をしながら、子供を抱いて離れて行った與儀の姿。
そのあと、泣きながらしていた葬送。
うっすら覚えてる、私を抱いてこぼした涙。
救援が来るまで何度も何度も、私に呼び掛けてくれた声。
與儀が来てから離れて、下敷きになるまで、ほんの一瞬の出来事のはずなのに…スロー再生みたいにゆっくりに見えた。
離れて行った與儀に悲しさを感じた自分勝手な自分の心。
こんな私のために、與儀が自分を責めて泣くところなんて見られないし。
口走ってしまいそうで怖いよ。
"どうして助けてくれなかったの"
一瞬でも思ってしまった自分は最低。
與儀だって必死に戦っていて、別に遊んでいたわけじゃないのに。
ギリギリまで私も助けようとしてくれたのに。
「…與儀に、会わせる顔がないから。」
「どういうこと?」
「私がドジしたせいだもん。與儀だって危ない目に遭わせちゃって…。」
「誰も悪くない。ちとせも與儀も、気にする必要はないわ。」
でもねツクモちゃん。
私はイイコじゃない。
自分の中のドロドロしたものを、ツクモちゃんにすら打ち明けずに黙っているんだから。
與儀に会うのが怖いよ。
私がこんな気持ちでいるのに、会ったらきっと一番に私を心配してくれる與儀に、私はどんな顔をして会えばいいのか。
「ごめん…会えない…。」
「ちとせ……。」
私は涙を流して、頭を抱えて俯いた。
ぼろぼろこぼれる涙の粒が布団にシミを作って、視界がぼやける。
「…ちとせ?大丈夫?ちとせ?」
それでもね、與儀。
私もあなたに会いたいよ。
泣き顔じゃなくて
笑顔が見たい………の。與儀の笑顔、大好きだから。
でも…私も…今は笑えないから。
なのに與儀は笑ってなんて言えない…から…
それ、に…やっ、ぱり私…は…與儀の笑顔を…見たら…余計に自分が許せ…な、い…
「ちとせ?」
「気持ち悪い…」
涙とは別に、目の前がグラグラと揺れた。
私…罰が、当たるのかな…。
「ちとせ!?ちとせ!!!」
與儀…
会いたい
冷や汗がどんどん出て
すぐそばにいるはずのツクモちゃんの声が、すごく遠くに聞こえるよ…。
與儀……。
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