(切甘)初恋は甘く切なく
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ぼんやりしたまま艇に戻り、軽く診察を受けて平門さんに報告したあと、そのまま部屋に閉じこもってベッドに突っ伏した。
モヤモヤが抜けない。
私は輪。
輪になると決めたとき、1にも2にも輪になると決意した。
なのに…水着をとられた、そのときに、゛女゛に戻ってしまった。
辱しめられても拷問されても、輪である誇りは捨てないと…決めていたのに。
―コンコンッ
「リイナちゃん?入っていい…?」
遠慮がちに開かれたドアから、與儀が顔を出す。
返事をしない私をしばらく黙って見守ったあと、ゆっくり中に入ってきた。
「入るね…」
與儀は私にゆっくり近づいて、すぐ隣に腰を下ろした。
「あのね、みんなで夕飯食べよう?って。どうかな…?」
私は、首を横に振った。
合わせる顔がない。
「疲れてるなら、俺、ここに持ってくるからさ。一緒に食べようよ!ね?」
與儀が一生懸命に私を元気付けようとしてくれているのは、わかるの。
でも、ずっと同じ考えばかりで頭が他に回らない。
だからその提案も、首を横に振った。
ふ…っと、與儀の指が髪に触れた。
「怖かったね…?」
優しい、どこまでも優しい、與儀。
だけど、私はその手を払って拒絶した。
「ごめ…嫌だった?」
「怖かったなんて…思っちゃいけなかった…」
「え?」
「私は輪なのに…何されたって怖がっちゃいけなかった…水着とられそうになったくらいで油断した…」
「でもそれは…」
「腕輪さえあれば…油断して手放していた自分が嫌…っ!」
「だってそれはシャワー中でしょ?外していても仕方ないよ…ね?」
目に涙を溜めながら與儀のほうを向くと、與儀は私の涙を見て悲しそうにした。
「ごめん…私のせいで與儀に迷惑をかけた…」
「迷惑だなんて思っていないよ。お互いピンチの時には守り合う約束でしょ?」
次は俺を守ってね?
って、與儀は笑った。
その笑顔が…痛い。
「ごめん…」
「ん?だから謝ることないって!」
「初恋は実らないって、本当になっちゃうかも…」
「え??」
「別れよ…?與儀」
「………え…え、なんで?どういうこと…?」
私の言葉が理解できないらしく、與儀は戸惑ってオロオロしてる。
「私…輪、失格。でも輪なの。なのに、恋愛にかまけてる場合じゃないし…もうそれで迷惑をかけたくない。」
「待って、それはおかしいよ!!別れる理由にならないよ!!」
「完全に気を抜いていたのが悪かったの…!怖かった…そんな場合じゃなかった…」
「俺だって、いまだに戦うのは怖いよ!?」
「でも與儀は輪であることを忘れず、ちゃんと戦うじゃない…!!私は戦えなかった…」
「そんなことない…アイツらはああしていたけど、リイナちゃんから受けた攻撃、けっこう効いていたみたいだよ?」
「………」
なおも突っ伏したままの私の肩を掴み與儀のほうを向かされた。
苦しげに歪んだ顔が悲しくて、見られない。
「俺だってさっき、リイナちゃんが怖い目に遭っているのを見て、怒りでいっぱいになったし。攻撃も戸惑ったし…俺だって失格だよ…?」
「なら、なおさらあのとき、私がいなければ…」
「そんなことないよ!!」
「…………」
「好きになったことは後悔してない。絶対にこのことが足かせになるなんて思っていないよ。だからさ…お願い、別れるなんて言わないで…。」
「でも…」
「もう俺が嫌い…?」
嫌いなんて
そんなわけ、ない。
迷惑をかけたくない。それだけ。
「俺に恋を教えてくれたのはリイナちゃんだよ。いっぱいの大好きって気持ち…今更、別れたって絶対に消えないよ…また片想いになるだけ…。俺が嫌いじゃないなら、悲しいこと言わないで?」
「………」
私は與儀と一緒にいていいのかな。
私に恋を教えてくれた人。
ひたすら輪を目指し、輪として生きていた私を、年頃の女の子にしたのは與儀だ。
泣き虫弱虫、でも幸せで。切なくて悲しい気持ち。