年下の彼
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「トッキーが最近、なんだか元気がないんだよねぇ。だから励ましてあげたくてさ?あの通り、本音は言わない子だから。かなちゃんはなにか知ってる?」
「え?…さあ、わっかりませんねぇ~?」
一瞬、私のせいかなとドキッとした。
私があまりに一ノ瀬くんを避けるから。
一ノ瀬くんが元気ない?あまりそういうのは人に見せないように気をつけていそうだけど、思わず顔に出てしまうくらいの何か悩みがあるのだとしたら。
それに嶺ちゃんが気づいたのだとしたら原因は?
こう見えて意外と勘が鋭い嶺ちゃんが言うのだから、本当のことなのだとは思う。
………でも、それでわざわざ私の家に来てデビュー祝いに私を巻き込もうとするのは……それで一十木くんがいない隙を狙ったとしたら。
デビュー祝いなんてただの口実で、本当は…………?って。
やっぱり私が原因なのかもしれない。
一ノ瀬くんの想いを受けることを避ける私に、一ノ瀬くんは私が思うよりずっと傷ついているのかも。
「よぉし送信バキュン!!」
「……ちなみに…誰になにを?」
「んん?トッキーにね。いまかなちゃんの部屋にいるんだけどぉ、早く来ないと僕ちんがいただいちゃうぉ?って。」
「はいぃい!?」
「そうしないとトッキー来ないかな?って。」
てへ☆と笑うこの人は本当に私より年上ですか?
大体なんだその文章は!!??
「そんな分かりやすい誘い文句で来るわけないでしょ!なんの冗談だって笑われて終わるだけだし、明らかに罠だって流石にわかるよ!!大体、嶺ちゃんにいただかれてたまるか!下手な誤解を生んだらどうするの!!」
「あれー?僕フラれちゃったぁ、しょぼん。」
「もう本っ当に暇なら他をあたるか実家の手伝いをしてきてよーー!!」
「えー!?かなちゃんてば僕に冷たいー!!可愛い後輩からこんな扱い、複雑なこの気持ち!!」
「はぁ…一ノ瀬くんはこんなことでは動じな…」
ピンポーン!!
「はっや!!!」
え、うそでしょ?
まさかの一ノ瀬くん?なわけないよね?
「はいはぁい!」
「ちょ、嶺ちゃん勝手に!」
私の部屋で嶺ちゃんが出るなんて、一ノ瀬くんじゃなかったら色々まずい!!…のに、さっさと扉を開けられてしまって。
少し開けたら、バンッと勢いよく開いてビックリした。
「こ、寿さん!!いまの、メールは!どういう…こと、ですか!!」
扉の向こうには…珍しく息を切らした一ノ瀬くんがいまして…。
ムッカつくくらいの超ドヤ顔の嶺ちゃんが、私を見ましたよ。
「ほらね?トッキー釣れた!!」
そうして、なし崩しにうちで祝賀会が始まりました…。
「私の祝賀会…ですか…」
メールの件もあり、一ノ瀬くんが若干不機嫌なのが、ひっしひし伝わってくる。
まぁ、あんな呼び出しかたをされたら誰でも怒るわけで…。
そもそもが、嶺ちゃんの私をいただいちゃうぞ発言に飛んできた一ノ瀬くんにも驚いたというか。
あんなん嶺ちゃんが本気で私をいただこうとするわけがないのに……そんな冷静さも欠くくらい動揺したのか一ノ瀬くん……………。
……………なんて。嬉しく思っちゃだめ、私。だめだよ。
「わああい、女の子!って感じの部屋ー!」
「そこ!!物色とかしないでくださいよ!?」
「しませぇん!」
「…本当にあれが、私を祝うムードですか?」
「うーん………」
とりあえず嶺ちゃんからいただいたビニール袋の中身を開いてみたのだけど、パッと見で入っていたのはギッチリ缶ビールとチューハイ類。
「お酒しかないじゃん嶺ちゃん〜!」
「ちゃんとソフトドリンクも入ってますよー!トッキーは未成年だもん、飲ませたら年長者の僕ちんの責任だもんね。」
「…食べ物…は」
「なにか作って~?女の子の手料理に飢えてるのっ」
いきなり来たあげくに食事の仕度!?
「さっきから言ってるんだけど…私、今日は疲労困憊なんだよぉ……」
「いいですよ。私がやりますので、キッチンをお借りしてもいいですか?」
「……あ、いいよいいよ、私がやるから。嶺ちゃん先輩は私をご指名みたいだし。一ノ瀬くんの祝賀会だしね…。」
「しかし…」
「だーいじょうぶ。お姉さんそんなにヤワじゃないから。ちゃっちゃと簡単なもの作っちゃうから!」
さすがに京都と奈良を日帰りで、ご当地グルメを食べ回ってきたとは言えなかったけどね。
ちょうど京都で買ったお土産もあるし、なんとかなるでしょう。
それよりいかんいかん、長年の付き合いの嶺ちゃん相手だからつい本来いじられキャラの私がツッコミに回る素が出ちゃったけど、一ノ瀬くんかなり気を遣っちゃってる。
一ノ瀬くんだっていきなり騙されて呼び出されたわけだし、一応仮にも先輩2人の前じゃ対応に困るよね。
ここはお姉さんが気遣ってあげなきゃね。
「んー…嶺ちゃんはコレとコレでアレにして…ああ、最近買い物していなかったなぁ…京都のお漬物があるから……あとは……」
キッチンに入り冷蔵庫を物色してみたけど、簡単なおつまみしかできそうにない。
まぁ、時間的に考えてあまり食べないほうがいいでしょう、みんな。
やっぱり手伝ってくれる気なのか、同じく一ノ瀬くんもキッチンに入ってきた。
「あの、すみません、言いにくいのですが私は…」
「…うん、わかってるよ。カロリー控えめだよね?まあ一ノ瀬くんはドリンクだし、無理に食べなくていいからね?確かお茶もあったし。」
さすがにアルコールで空腹はまずいけど。
一ノ瀬くんは驚いた顔をした。
「何故それを?」
「ん?見ていればわかるよ。一ノ瀬くん、すっごく意識も高いし自己管理しっかりしてるっぽいし。食事制限もかなり厳しいんだろうなって。私もまあわかるから。」
「そうですか…」
チラッと目線を向けると、顔を赤らめてそらされてしまった。
いくら大人っぽくても、中身は年相応の男の子なんだな……アイドルとしての自意識の高さ、褒められて嬉しそう。
そういうところ、可愛い。すごく10代の男の子って感じ。
…可愛いなんて、思っちゃいけないけど…。
思っちゃったとしても、あまりね。