年上の彼女
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「でも嶺ちゃん、すごくいい人だから。私も長いことお世話になっているしね。」
「そうですね、人がいいのは認めます。」
「人がいい、か。そうかも!」
あはは…と笑う綾瀬さんはとても明るく、素敵な笑顔だと思った。
人を惹き付ける、笑顔。
私にはないもの。
「私がいま担当している後輩ちゃんもね、すっごく可愛くてイイコなんだ。だから頑張ってほしいなって思うの。」
「綾瀬さんもマスターコースの指導を?」
「そうだよ?ガラじゃないんだけど。」
…そう言われれば、ここはマスターコースの寮でしたね。
ここにいるということは、やはり彼女は指導する側ということで。
どのような指導をしているのか…。
「そういえば沖縄には結局、行ったんですか?」
「行ったよ!もう死ぬかと思ったよ!!でも、めちゃくちゃ食べてきたけどね、キムチ。」
「ふふ、オンエアが楽しみですね。」
「……………」
拳を握りしめていた綾瀬さんが、突然びっくりした顔で私を凝視した。
なんでしょう?と思っていたら、少しばかり頬が赤くなっている。
「一ノ瀬くんが笑った!」
「はい?」
「うん。今ちょっとドキッとしたよ。やっぱり、一ノ瀬くんの笑顔カッコいいよ。いっぱい笑えばいいのに!…あ、でもたまに笑うほうが貴重っぽくて、それも売りかなぁ…」
「はぁ……」
この人は…
私のことだというのに、どうしてこんなに真剣なのだろう。
腕を組んで、うーん…と本気で考えている。
(…あ、眉間にシワが…)
私は無意識のうちに、失礼ながら彼女の眉間の直前に人差し指をさしていた。
綾瀬さんはまたびっくりして私を見て、私はハッとして手を下ろした。
「すみません、眉間にシワが寄っていたもので…。」
「あ……うん」
自分でも、何故こんなことをしたのかわからない。
先輩にたいして指をさすなど…。
綾瀬さんはそのまま黙ってしまい、気まずい空気が流れた。
怒らせてしまっただろうか。
「あの、ごめんね?なんか、余計なお世話だったよね。」
「え…?」
「多分、一ノ瀬くんなら、自分の売り方くらい、わかってるよね?つい先輩ぶっちゃった。」
「いえ…ご教授いただけてありがたいです。」
不思議な人、だ。
たしかに、今までの私ならば、自分の売り方くらいわかっていると反発もしたと…思うのに。
笑ってみたり、真面目に考え込んでみたり、急に謝ってみたり。
色んな部分を持っている人。
ただ明るいキャラクターなだけじゃない。
「あはは、一ノ瀬くんはイイコだねぇ?お姉さんドキドキしちゃう。」
「その、寿さんみたいなしゃべり方はやめてください……。」
「え?そんなに嶺ちゃんっぽかった?」
「…はい」
「ええー!?」
そんな貴女にドキッとしたなど。
きっと貴女は気づかないのでしょうね。
きっと、こんなふうに指導をしているのだろう…。
それを羨ましいと思ったことも。
「音也、先ほどの雑誌を貸してください。」
「へ?雑誌って綾瀬かなでちゃんのグラビア?」
「…そうです。」
ですから敬称で呼びなさいと…と言いかけ、自分の中だけで押さえ込んだ。
言うだけムダです。少し面白くありませんが。
「なんだ、トキヤも結局見るんじゃーん。」
「いいから早く貸しなさいっ」
「ああっ」
無理矢理にもぎ取ると、後ろから…大事にあつかってよ!?との抗議が聞こえましたが、無視しました。
巻頭グラビア5ページにもわたる水着写真。
『女子が憧れる理想のボディ』
『清純派アイドル、初出し水着グラビアで魅せたオトナの顔』
どのページにも、無邪気だったり色っぽかったりなど、様々な顔の綾瀬さんがいて…やりたくなかったというふうには見えない。
(プロですね……)
きっと沖縄の番組のほうも、おもしろおかしく見えて、内実真剣だったのでしょうね。
「…なんだ。トキヤもなんだかんだ言って好きなんじゃん。」
「…は?なにがですか?」
「水着~♪そんな食い入るように見ちゃってさ。」
「な!ち、ちがいます!あなたと一緒にしないでください!!」
「別にいいじゃーん、男なら好きでおかしくなんてないんだからさ!」
「音也!人の話を聞きなさい!!」
よくよく考えて、ずっと彼女の水着を凝視していたのだと思うと、ガラにもなく急に羞恥心でいっぱいになった。
投げつけるように雑誌を返すと音也から再び抗議を受けました…が。
何故だか、ずっとその水着姿が頭から離れなかった。
ドキドキ、している。
別に、特別に水着が好きなわけではない。
じゃあ、なぜ?
悶々とした気持ちがとれない。
「たーだいまぁーっ!!」
「あ、嶺ちゃんおかえりー!」
勢いよく扉が開き、寿さんの声が響いても、いつもより遠く感じた。
「んん?おとやん、それなーに?」
「え?雑誌だよ?」
「おお!それ、かなちゃんの初脱ぎ写真じゃない!」
「水着です!!初脱ぎなんて語弊ある言い方はやめてください!!」
「…ん?トッキーがムキになるなんて珍しいね?」
「ムキになっていません。」
…落ち着こう。
何故、私がムキになる必要がある。
ただ、なんとなく…この二人が雑誌を見るかと思うと…非常におもしろくない。
だから、何故?
「かなちゃんも、すーっかりオトナっぽくなっちゃったねぇ。お兄さん感慨深いよ。」
「れいちゃんは、昔から知ってるの?」
「モチのロンだよ。セーラー服で来ていた時から知ってるさ!これがまた可愛かったんだよねぇ!さすがアイドルって感じでさ!」
「へえ!!」
「……」
私は自身のコーヒーを入れにいきがてら、二人の話を黙って聞いた。
少し、昔の彼女に興味があったからです。
「あの頃に手を出していたら、恋愛禁止のまえに僕ちん犯罪者だったねぇ」
「あはは!!犯罪者!!」
…ピキッ
本当に、何故でしょう。
とてつもなく頭にくるのは……。
カップを持つ手が、勝手にブルブルと震えています。
「本来入る予定だった事務所の社長がお金持って逃げちゃってね?やっぱり苦労はつきものだよねぇ。それでうちのシャイニーさんがスカウトしたんだけど。頑張ってたよ。ほんと。今でも頑張ってるけどさ。たぶんこれだって、やりたくなかったんじゃないかな。」
「これって、水着?」
「そ。でも来た仕事は選べないからねぇ。」
「………………」
寿さんは一瞬、妹を見る兄のような目をして雑誌を見つめた。
この人は、綾瀬さんをよくわかっている。
それは昔から同じ事務所の先輩後輩だから…。
それがなんだか悔しく思ってしまった。
「いやぁ、しかし…ほんと大人になったね…。もう…あちらこちらが…」
「寿さんっ!!!」
「うわっ!!トキヤ!!コーヒー!!あっつ!!」
「だから、なんでトッキーがムキになるのさぁ!!??あっつ!!熱い!!やめてぇ!僕ちんアイドルだから!!火傷は!!」
…なぜ自分がこんなにムキになるのか。
その理由に、私はもう内心気づいていた。
それは、自分とはまったく無縁の感情だと、ずっと思ってきたのに………。
でも、気づいてしまったらもう止めることなどできなかった。
..