(甘)時を、刻む、夜に
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「さて………。」
腕時計を見てスマホを開いたトキヤくんを黙って見守る。
急な仕事や交友関係、先輩からの連絡が来ることは珍しくないので、逐一スマホを確認するのは大事なこと。
私も日頃からいつでも着信やメッセージに気づけるように常に気を配っている。
平日だからかあまり人の見当たらない店内に視線を巡らせてトキヤくんに目を戻すと、ちょうど確認し終わったらしいトキヤくんが私に顔を向けた。
「そろそろ行きましょうか、お腹は空いていますか?」
「少しだけ………。」
食事も外でするのかな。
もうずっと外デートなんてしていなかったのに、今日はプラネタリウムにショッピングにと至れり尽くせりすぎて嬉しいけど戸惑う。
このデートが目撃されてバレたらお互いに致命的なのに。
ここまでは人通りがあまりなくて問題なかったけど、さすがに食事はどうなんだろう?私はトキヤくんとご飯が食べられるのは嬉しいけど……トキヤくんはどう考えているのか。
私のそんな考えが伝わったのか、トキヤくんは少し神妙な顔つきになった。
「今日は何も言わずにいきなり連れ出してしまってすみません、とても不安でしょうが…もう少しだけ、私に付き合ってはもらえませんか?」
「不安だなんてそんな…!」
あまりに改まった様子で言われたから、びっくりして慌てて首を横に振った。
誰かにバレたら…というヒヤヒヤする気持ちは正直あるけど、トキヤくんは絶対に何か考えがあって行動している、色んなことへの対策も講じていると信じているから、不安な気持ちは一切ない。
長年で築いてきた信頼があるから大丈夫。
それに、おかげですごく楽しいことばかりだったから心は満たされているし、ここからもいっぱい楽しいことが用意されている気がしてわくわくもしている。
私がそう感じていることをなんとか伝えたくて、安心して欲しくて笑顔を心がけて表情を作った。
「連れ出してくれてありがとう。喜んでついて行くね。」
私の笑顔にトキヤくんの表情も少し和らいだので、私も安心した。
「では、行きましょうか。かなでを必ず楽しませてみせますよ。」
さすがにもう手を繋いで歩くことは難しいから、手を差し出されることはなかったけど……その、私を楽しませたいという気持ちがとても嬉しかった。
くっつきすぎないように気をつけて歩く。
どこかの個室のレストランにでも行くのかと思ったけど、トキヤくんはそのまま隣接されている系列のホテルに入った。
時間も夕方だったのでそろそろ宿泊らしいお客さんたちがちらほらといる中、ロビーで待っているように言ってトキヤくんはフロントへ向かった。
あまりキョロキョロしないようにしないと…と思いながらも、豪奢ながら派手すぎない、上品な雰囲気に圧倒されそうになる。
仕事関係で使ったことはあるから、ホテル自体は珍しいわけじゃない。
けど、プライベートのしかもデートで来たことはあまりなかった。
もしこのホテル内のレストランに入るのなら、それなりのTPOの服装じゃないとまずかったりしないかな……?
さすがにドレスとまではいかなくても、こんな地味カジュアルな格好で大丈夫なのかな。
戻ってきたトキヤくんに、恐る恐る聞いてみる。
「こんな綺麗なホテル、入っていいの?」
「ああ、それなら問題ありません。なにも心配しなくていいですよ。」
「え?」
「さ、行きましょう。」
頭に疑問符はいっぱい浮かんだけど…トキヤくんを信じる気持ちに変わりはないから、促されるままついて行く。
エレベーターホールからエレベーターに乗り、着いたフロアで降りると、そこはレストランではなく客室のフロアだった。
……え?客室…?
と思いながらも、疑問を挟む余地もなくドアのひとつまで連れて行かれる。
「あの………?」
「どうぞ。」
ドアを開けられ、背中をそっと押されて中へ入ると、ビジネスホテルのようにすぐバス・トイレと部屋があるタイプではなく、少しの通路の奥に広々とした空間が広がっていた。
壁に大きなテレビがあり、その前には数人がゆったりくつろげそうな大きなソファーとテーブル。
大きな窓際にもテーブルに椅子が向い合わせに置いてある。
ちょっとしたお宅のリビングルームのようなインテリアに驚いてトキヤくんのほうを見ると、トキヤくんは至っていつも通りの涼しい顔をしていた。
「ここ、ホテルだよね…?」
「ええ、奥にちゃんとベッドルームもありますよ。お風呂とトイレはこちらです。」
よくよく見たら、テレビがある壁は仕切りの役割をしているのか、奥にはさらに広めの部屋があり大きなツインのベッドが置いてあった。
こちらも脇にオシャレな椅子とテーブルがあり、身だしなみを整えるのに良さそうな大きな鏡もある。
トキヤくんが指したドアの向こうがバス・トイレなんだろうけど……。
「気に入りませんか?」
私がぼう然としたリアクションなので、顔を覗き込まれたから慌てて首を横に振った。
「ううん!!すっごく素敵なお部屋!!…だけど…ここ、もしかしてスイートルーム、だよね…?」
「正解です。」
…やっぱり!!!
ロビーの雰囲気からただのビジネスホテルじゃないことはうすうす感じていたけど、この間取りや内装もただのツインルームとかじゃない。
私もある程度は名前の売れた作曲家ではあるけど、さすがにスイートルームに泊まった経験はない……けど、その敷居の高さはなんとなくわかる。
明らかにデートのついでにサクッと入るような部屋ではない。
ますます目立たないことに徹した自分の地味な格好が不釣り合いすぎて気後れする。
「今日、もしかしてここに泊まるの?」
「ええ、明日は午後から一緒に打ち合わせでしょう?」
「着替えも何も準備してきてないよ?」
「それは心配しなくて良いと先ほども言ったでしょう?明日の仕事の荷物なら午前中に早めに出て取りに戻りましょう。」
でも…とオロオロする私にトキヤくんは少し眉を下げた。
「久々の外でのデートでかなでに喜んでいただきたかったのですが、困らせただけでしたか。ここなら人目を気にせずゆっくりできると思ったのですが…。」
「…あ…………。」
………そっか。
もうずっと家デートだけだったから…トキヤくんなりに気遣ってくれたんだ。
さっきのプラネタリウムだって見られたらまずいのはトキヤくんの方なのに…最大限に注意を払って、一緒には入らず上映が始まった頃を見計らったり。
家じゃない場所で泊まるのもまた気分が変わる。
出入りにさえ気をつければ……。
これも、ずっと家デートで落ち着いてしまっている私との関係に対する、トキヤくんの精一杯の気持ちなんだ。
私と長く付き合っても決してマンネリとか、手を抜いた付き合いにはしない、って。
トキヤくんの特別扱い。そう思うと胸がじんわり温かくなる。
「あ、あの…困っているとかではなくて、ちょっとびっくりしているだけって言うか。すごく嬉しいんだけど、でも……。」
「なんでしょうか?」
「…私、今日お誕生日とかだった?今日ってクリスマスじゃないよね?夏だし。」
たまの特別扱いとはいえ特別な日でもないただ普通の日のデートでスイートルーム………すごく贅沢で、一体いくらするの?とまでは思っても口にまでは出さなかったけど、突然の贅沢に凝縮しきりでオドオドする私に、トキヤくんは口元を抑えてクスクスと笑った。
「な、なんで笑うの?」
「君は本当に…想像通りの反応を見せてくれますね。」
「なっ…だって……っ」
なにがおかしいの!?と睨むように見上げれば、本当に楽しそうにニコニコと笑っているから戸惑って毒気を抜かれそうになる。
…なんでもない日に突然スイートに連れてこられたら、誰だってそれはびっくりするでしょう?
それとも、いつまで経っても子供みたいな反応をして大人な空気に慣れない私がおかしいのかな。
もっと普通の大人の女性だったら、こういうことに不慣れな感じを出さずに素直に喜んだ態度をしたりして、うまく立ち回った対応ができるのだろうか。
世の中の大人はもっとこういう贅沢なデートを普通に楽しんでいるものなの?
私が年齢相応の恋愛価値観にアップデートできていないだけなのか。
……だって。業界に身を置いてはいても芸能人ではない私が、トップアイドルとただ2人で街を歩くだけでも、今の私にとってはかなり贅沢な恋愛なんだよ。
つい恨みがましくなってしまいそうになったけど、また楽しそうに…というか面白そうにトキヤくんが笑うから、なにも言えなくなる。
……やっぱりいじわるだ。クール系イケメンなんて嘘すぎる。
「良くも悪くもこの業界に浸って長いのに、少しも染まることなくいつまでも純粋な反応をしてくれるかなでが、私はとても可愛らしくて好ましいですよ。」
「…っ………」
「少しでも贅沢を覚えれば、どんどん欲張りになっていく人間もいるというのに。むしろ、かなでは少しは贅沢に慣れた方がいいのではないですか?業界人なのですから良いお店に連れて行かれる事もあるでしょう。」
「…………それはそうだけど……。」
「……ですが。今日はかなでを驚かせることが目的のひとつですから、その反応で良いんですよ。思い切りびっくりしてください。」
「…充分びっくりした。」
「それは良かった。では、ここからはもうひとつの目的を果たすとしましょうか。」
「え??」
まだなにかあるの…?と思わず身構えると、ふいにドアがノックされた。
「ああ、いいタイミングですね。」
「え?ちょっ……。」
アイドルが女性と籠もるホテルの部屋に、誰かが来るなんて……まずいんじゃ、と思ったけど、トキヤくんは構わずドアの方に向かってしまった。
開けられたドアの向こうから賑やかな声がしてくる。
「一ノ瀬くん、久しぶり〜!」
「ええ、お久しぶりです。」
「待った?ちょっと遅くなっちゃった。」
「きちんと時間通りですよ。今日はよろしくお願いいたします。」
(……誰?)
トキヤくんに案内されて入ってきたのは大きな荷物を抱えた年配の女性と若い女性の2人組で、
2人は私を見ると満面の笑顔で頭を下げた。
「かなで、こちらは私が普段仕事でお世話になっている方々です。」
「はじめまして!わあ、可愛い〜!!」
「はじめまして。本当に、さすがトキヤくんですね。可愛い子を捕まえちゃって。」
「は、はじめまして…。」
挨拶をしてくれた2人に条件反射で頭を下げて挨拶を返してしまう。
はしゃぐような明るい声が室内に響いて、状況についていけず困ってしまう。
このお二人は…私とトキヤくんのことを知っているの?
仕事でお世話にといっても見た覚えはないから多分芸能人ではなくスタッフかなにか…だとは思うけど。
知らないお顔だから音楽関係でもなさそう………?
「事前にお写真は見せていただいたけど、やっぱり実物は違いますね。先ほどはどうも。覚えていらっしゃいます?」
「え?さっきって……あ!」
頭を上げて見ると年配の女性のほうは、さっき待ち合わせ場所で私にトキヤくんの手紙を渡してくれた人だった。
"いっぱい楽しんで"と言われた言葉の意味がわからなかったけど……あの時から、何かが始まっていたってこと?
思い出してハッとした私に、女性はにこやかに笑ってくれたので、私はまた慌てて頭を下げた。
「先ほどはありがとうございました、ろくにお礼も言えずすみませんでした。」
「いえいえ、お礼はきちんとしていただきましたよ。突然知らない人に声をかけられたら誰だって戸惑いますよね。こちらこそいきなりごめんなさい。トキヤくんにどうしてもと頼まれたものだから。」
「そうそう、一ノ瀬くんに相談された時はまさかとは思ったけど、本当に可愛い恋人がいるものだから私もびっくりした〜!一ノ瀬くんもなかなかやるね〜。」
「長く業界にいるのに誰とも噂話ひとつ聞かないわけですね。堅実な恋愛をするタイプですか。」
「……からかわないでください。私はお二人には頭が上がらないのですから。」
トキヤくんが相談ってなんだろう……お二人が私とトキヤくんのことを知っている口振りに驚いてトキヤくんを見ると、トキヤくんは苦笑いを浮かべていた。
本当に頭が上がっていない感じだ……珍しい表情にさらにびっくりする。
お世話になっているというのは本当のことみたい。
だけどどう対応したらいいのがわからなくて困ってしまう。
そんな私の様子を察したお二人がニコニコしながら声をかけてくれた。
「大丈夫ですよ。私たち、業界で仕事をしていますから口は硬い方です。だからトキヤくんも相談してくれたわけですし、その信頼を壊すことはありませんからね。」
「一ノ瀬くんからはなにも聞いていないんだよね?それはびっくりするよね〜。」
「あ、あの…………はい…。トキヤくん、これってどういうこと?」
私が知らない間に裏で色々とやっていたらしいトキヤくんは、戸惑う私の反応すら想定内だったらしく…涼しい顔をして笑った。
「このお二人は、私がHAYATO時代に良くお世話になっていたヘアメイクアーティストとスタイリストなんです。今日はかなでを変身させてほしいとお願いをしました。」
「え!?」
「せっかく外でデートをしても、私に遠慮した服装のままではかなでも思い切り楽しめないと思いまして。今日くらいは、と。」
「…トキヤくん…。」
確かに…ここ数年は部屋着でくつろぐデートが主流になっていたし、今日だってせっかく外で会ってもおとなしめの地味な格好だった。
それでも精一杯のおしゃれではあったけど、やっぱり好きな人と会う時は1番可愛い格好でいたかったのも本音だったから、お部屋の中ではなるべく手を抜きすぎないように可愛い部屋着にしたりと意識はしてきたけど…。
それでこんな綺麗なホテルに来たのも気後れしていたけど、トキヤくんはちゃんと考えてくれていたんだ。
ずっとお部屋デートばかりでもいけないと思って動いてくれただけでも、充分に嬉しいのに。
HAYATO時代からならそれなりに長いお付き合いのはず。
信頼しているお二人に私のことを打ち明けて相談してくれたことが嬉しい。
スキャンダルにならないためには誰にも秘密にしていないといけない交際だったのに…ようやく、知人に紹介してもらえたような気がして。
悪い関係ではないのにコソコソしないといけないのは内心寂しかったから、今日のトキヤくんの徹底した特別扱いに泣きたくなる。
行き先を事前に言わなかったのも私を驚かせるためだし、プラネタリウムで現地集合だったのはあくまで目撃されて騒ぎになったら熱愛発覚を防ぐためもあるけど、それでデートが台無しにならないための配慮だ。
泣くのはあとにして、私は改めてお二人に頭を下げた。
「今日はありがとうございます。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。思い切り可愛く変身してトキヤくんをびっくりさせましょう。」
「まかせて!思いっ切り腕を振るうからね。」
それから私はトキヤくんに促されて、お二人と一緒に隣のバス・トイレルームに入った。
そこはさすがスイートルームで、中はきちんとお風呂とトイレが左右に分かれて独立しており、脱衣場にもなっている洗面スペースは3人でもゆとりがあるくらいに広々としていた。
お二人は早速、それぞれ持ってきていた荷物を開いた。
さっき、「一ノ瀬くんはこっちね」と荷物をひとつ渡していたけど、あれはなんだったのかな。
年配の女性の大きなスーツケースはたくさんの衣装やアクセサリー類が綺麗に畳まれて入っていて、若い女性の大きなカバンにはたくさんの化粧品類が。
ゆっくり時間をかけていいと言われたので、それぞれ私の肌やスタイルを見ながらコーディネートを合わせていく。
「事前に写真でお顔立ちの確認はしていましたし、トキヤくんから体格やサイズなどを聞いていたので、かなでさんに合いそうなお衣装は揃えてきましたけど…どれもよく似合いそうで迷いますねぇ。スタイルが本当に綺麗。」
「映えそうなヘアメイクも考えてきたから、お衣装と合わせてうんと綺麗にしちゃおうね〜。」
「よろしくお願いします。…あの、トキヤくんから私の事も全部聞いたんですよね…?」
聞いているとは思うけど、念の為もう一度確認してみると、お二人は顔を見合わせてからニコニコした。
「もちろん、学園時代からの交際だと伺っています。長くお付き合いをされているんですね。」
「あ、はい…。お二人も長いお付き合いなんですよね?」
「そうそう、HAYATOくんがまだデビューしたての新人の頃からね。いっぱい担当したよね。」
「ねぇ〜。だからHAYATOくんが一度辞めると聞いた時は驚いたけど、しっかり戻ってきてまた人気になっているんですからね。彼の才能なら納得ですけど。」
……それなら、本当にたくさんお世話になったんだろうな。
トキヤくんが信頼している人たちなら、大丈夫だ。
話しながらゆっくり吟味した衣装を決めて、スタイリストさんが着替えも手伝ってくれた。
失礼しますね、と星のネックレスを外そうとしてくれたから………やんわりと、これだけは自分で外したいと言ったら、察してくれたのか微笑んでくれた。
今日のデートでプレゼントしてくれて、トキヤくんがつけてくれたネックレス。
これだけは人の手を借りずに自分で。…また、宝物が増えた。
促されて椅子に腰をかけると、メイクさんがまず私の今のメイクを丁寧に落とし始めた。
隣でスタイリストさんが一枚一枚、出した衣装を綺麗に畳みながらアクセサリー類を選ぶ。
トキヤくんの過去の時代を知っている人からの話はとても貴重だ。私は学園時代からしか知らないから。
「当時から女の子との噂を全く聞かなかったので、硬派なんだな〜と思っていましたけど。こっそりと通った学園でこんな可愛い彼女を見つけちゃうんだから、わからないものですよね。」
「ね〜!かなでさんはずっと作曲家志望だったの?全然イケそうなのになんでアイドルは目指さなかったの〜?今からデビューしちゃえば?シャイニング事務所が難しいなら別の事務所の社長とか紹介しよっか?」
「えっ!?無理です無理!!」
業界ならではのサービストークなんだろうけど、思わず反応して動かしてしまった私の顔を、メイクさんが笑いながらそっと元の位置に戻した。
「あはは!速攻〜!でも本当に可愛いのにもったいないなあ。一ノ瀬くんのカノジョなんてどんな子だろう?想像できない〜って思っていたけどね。写真見せてもらったら可愛くてびっくり!って感じ〜。一ノ瀬くんも一人の男の子だったんだねぇ。」
「だからこそトキヤくんは隠しておきたいんじゃないですか?アイドルデビューなんてしたら言い寄る男性もいるでしょうし。」
「あ、なんかわかる。一ノ瀬くんてクールなふりして独占欲とか強そうだし。ね、でしょ?」
「あ…はははは……………。」
ハイともイイエとも言えず、でもクールなふりして……の部分についてはまあ、否定しきれないところがあるので黙って笑ってごまかしておく。
そうしているうちにまっさらになった肌をしっかり整えてから、新たに色が乗せられていくのを、鏡越しに見つめてみる。
……さすが、慣れた手の動きでの仕事ぶりに息を飲む。
丁寧にファンデーションを塗られた肌ひとつとっても、私がやった時と全く違う。
ただ塗るだけじゃなく、短所をうまく隠して長所を生かしていく、まさに何人ものアイドルの魅力を引き出すプロの技だ。
話をしていても飽きないし、トキヤくんが信頼するのもわかる。
そこで、ふと先ほどから話題の端々に出ていたものについて聞いてみた。
「……あの。トキヤくんに私のことを相談されたの、突然で驚かれましたよね。それでこのために写真も見せられたんですか?」
私を変身させてほしいと頼んだというのはさっき聞いたけど、そのために私の写真まで見せるなんて本当に徹底していて私も驚く。
たしかに事前に私の顔を見ないと似合う服装やメイクの雰囲気はわからないだろうから、お二人もそこから色々と準備をしてくれたんだよね。
服のサイズまで教えていたのもびっくりだけど。
久々の外デートのためにそこまでしてくれたトキヤくんに恐縮していたら、お二人がまた顔を合わせた。