(甘)時を、刻む、夜に
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「近いうちに日にちを合わせて会いましょう。」
朝、帰り際にそう言ってくれたトキヤくんに、私はいつものように夜に時間を合わせて部屋で会うのだと思って頷いたんだけど………。
後日、休みを合わせてゆっくり会いたいと言われて少し驚いた。
まぁでも、たまには1日ゆっくり一緒にいるのも良いかもしれない、そんなふうに過ごすのは本当にいつぶりかわからないくらい久しぶりなことだから。
1日一緒なら、ご飯を食べてお茶をしながら、時間を気にせず色んな事ができる。
映画やドラマを観ながら感想を語り合ったり、議論するのも良い。
動画や音楽を流しながらのんびり過ごしたり。
私のほうがまだ融通がきくので、トキヤくんの珍しい1日オフに合わせてお休みにした。
今回も久しぶりにそうなると思っていたんだけど、約束した前夜に服を選んでいる時に連絡が来て、私はよくわからないまま明日ここに来て欲しいと指定された街に降り立つことになった。
まさか、外で会うのかな………?
目撃されるかもしれないのに。
外で会うならなるべく目立たない地味めの服装にしないと。
私が変に目立ったら隣のトキヤくんまで余計に目立ってしまうから。
それにしても、いきなり久々の外デート……………。
(……急にどうして??)
疑問に思いながらメッセージと共に送られてきたマップを確認しながら約束の時間前にそのビルに着いた。
色んなお店やレストランが入る大きな複合施設は、テレビの情報番組で何度も紹介されているほど有名で、私も上京してから一度は行ってみたいとは思っていたけどなかなか叶わなかった。
仕事が忙しかったし、行き慣れていないから対処に困ることも多いから。
そんな有名な場所は当たり前に人がたくさんいる。
……大丈夫、だよね?
時間になったらきっとトキヤくんも来る。
多分なにか考えてのことだろうから大丈夫だとは思うけど。
そうして約束の時間ぴったりになった時にスマホが震えた。
(この場所に来て欲しい………?)
そこには何故か手書きの地図の写真が添付されていて、ビル内の一角らしいことはわかるけどどんな場所かはわからなかった。
(…トキヤくんのことだから、何か色々あるんだろうな。)
無意味なことはしないと思うから、何か意味があるのかもしれない。
まずは行ってみようと足を踏み出しかけたところで、後ろから女性に声をかけられた。
「すみません、あの〜…これ、落としませんでした?」
「え?」
なにか落としたかな?と思いながら女性に差し出された手を見ると、小さな可愛らしい封筒に小さなメモが貼ってあり
"指定の場所に着いたら開けてください"
と書いてあった。
な、なんだろう??と思って見上げたけど、女性は穏やかに笑っていて。
一瞬何かの勧誘かと思ったけど、それからまた目を落としたそのメモの字は、よくよく見ればトキヤくんの達筆と似ていることに気づいた。
右下の方によく知っている靴下を履いたようなデザインのペンギンの絵が描いてあるのが決め手だった。
指定の場所とも書いてあるし、これももしかしてトキヤくんが関わってるのかな?と思いつつ、そっとお礼を言って受け取ったら
「いっぱい楽しんで。」
と私にしか聞こえないような小さな声で女性は囁いて去って行った。
ビル内に入って地図の通りに進み、指定の場所へ着くと。
「……プラネタリウム……?」
そこはプラネタリウムになっていて、全体的に落ち着いてお洒落な入口と看板がすごく素敵だった。
びっくりしてしばらく止まってしまったけど、着いたら開けるように言われていた封筒の存在を思い出して中を見ると、そのプラネタリウムのチケットが入っていた。
……観ろってことかな。
でも1人で?となんとなく周囲を見回してみたけど、他にゲートを出入りする人の姿は見当たらない。
同封されていたメモに上映予定らしい時間が書いてあり、確認するとそろそろ始まるので中へ入った。
まだあまり人がいないシアター内の通路を通り、時間の下に書いてあった場所のシートに着くと…そこはカップルシートだった。
2人でゆったり横になれる広さの、丸い形のフカフカそうな素材のシートに、丸い枕が2つ並んでいる。
ここで間違いない、よね?
カップルシートに、1人で寝るのはさすがに躊躇する。
トキヤくんの意図がわからなくて戸惑っていたら、上映開始を告げるアナウンスが鳴ったので慌てて座った。
シートの端に横になったところで照明が落とされて真っ暗になった。
まさか1人でプラネタリウムを観ることになるとは思わなかった。
でもこういう場所にゆっくり来るのは本当に久しぶりのことだし、ましてやプラネタリウムなんて小さい頃に親に連れて行ってもらって以来だから、せっかくだから楽しもう。
そこで、横に誰かが来る気配を感じた。
そのまま私の隣で横になった人物にびっくりして一瞬身構えたけど、微かに鼻をくすぐった香りは慣れ親しんだ恋人の香水の匂いだった。
隣に視線を移した私の耳元で、顔を近づけてきた人物がそっと囁いた。
「遅くなってすみません。」
「……トキヤくん。今日は急にどうしたの?」
「話はまた後にして、今は楽しみましょう。」
ぴたりと体が触れ合う。
……そうだね、こんなデートも何年ぶりだろう…。
もうずっとお部屋デートばかりだったし、せっかくトキヤくんが用意してくれたんだから、楽しまないとね。
静かに頷いてまた上を見上げると、満面の星空が浮かび上がった。
寮のベランダから見る空よりずっと、大きな小さな星がいっぱい散りばめられてキラキラと輝いている。
あまりに綺麗で見惚れてしまう。
昔の記憶だとここで星座とかの解説が始まるんだっけ……と思っていたら、ドンッという音と共に色とりどりの花火が広がった。
(わっ………)
映像とは思えないほどリアルで、思わず声が出そうになり慌てて息を潜めた。
星空に次々と上がる大輪の花たち。
こんな大きな花火を、こんなにゆっくりと観ることも、もうずっと無かった。
(…綺麗……)
なんだか嬉しくなり、わくわくした気持ちを共有したくてトキヤくんのほうを見ると、光の中でチラつくトキヤくんの顔は上じゃなく私のほうを向いていた。
『なに?』
見えているかはわからないけど、口をパクパクさせてそう言ってみたら、トキヤくんが微かに笑っているのがわかった。
そこに赤や緑や白の光が浮かんでは消える。
私の顔も同じように見えているのかな。
一緒に花火デートをしたら、実際の花火の時もトキヤくんの顔はこんなふうに見えるのかもしれない。
そう思うと楽しくなってくる。
しばし見つめ合ったあとトキヤくんが人差し指で上を指さしたから、そうだせっかくの花火なんだから花火を観なきゃ…!とまた顔を上に向けた。
それから少しして花火が終わると、また一面が星空の海になり、夏の星座の物語が始まった。
織姫のベガがいる、こと座にまつわる悲しい恋の話。
美しい音楽を奏でる琴の名手の夫は、ある日愛する妻を亡くし、妻に会うために冥界まで迎えにいったけれど連れ戻すことは叶わなかった。
現世に戻るまで決して後ろを歩く妻を振り向いてはいけないと言われたのにも関わらず、もうすぐ出口というところで嬉しさから振り向いてしまい、妻は冥界に戻されてしまった。
約束を違えたために、どれだけ懇願しても、もう一度のチャンスは与えられず。
悲しみに沈んだ夫は得意だった琴すら奏でることができなくなり、そのことから命を落とすことになる。
彼の死を悲しんだ人々や女神は、彼の琴を空に上げて星座にした。
音楽も夫にとって大事なものだっただろうに、それほどに大切な人を失った悲しみは深かったんだろうな…。
きっと、愛する妻との日々も音楽で溢れていて、彼の琴の音色を妻も楽しんでいたんだろう。
こんなに綺麗な星空なのに、紡がれる物語は悲しい。
吹けば消えてしまいそうな儚い光の粒が、とても寂しく思えた。
神話に想いを馳せているうちに上映は終わり、室内に明かりが戻るとようやくちゃんとトキヤくんの顔が見えるようになった。
感嘆のため息を溢す私にトキヤくんが微笑みかけてくれる。
「どうでしたか?」
「すごく良かった……!!星空も素敵だったし、まさかプラネタリウムで花火が見られるなんて思わなかったよ。」
「夏だけの特別イベントらしいです。せっかくですからこちらも楽しめたほうが良いと思いまして。」
「ありがとう、すごく綺麗だった。でもどうして突然?」
トキヤくんはフッと笑って、片手で私の頭を持ち上げてもう片方の腕を差し入れた。
腕枕で至近距離で見つめ合う。
「いつも部屋のベランダでささやかな星空を眺めている君に、ゆっくりと満天の星空を眺めさせてあげたいと思ったのですよ。」
「…そっか。本当に、ありがとう。」
「本当は本物の星空を見せてあげたかったのですが。」
「ううん!!プラネタリウムも大好きだから嬉しい!それに、花火も星空もいっぺんに楽しめてかなりの贅沢をさせてもらったよ。」
「…良かったです。ですが、いつか本物の満天の星空を一緒に見に行きましょう。必ず連れて行きます。」
「………うん。」
満天の星空が見られるような自然豊かな場所に行くには、今の私たちには時間が無さすぎて……だから、いつ叶うかわからない約束だけど、でも私とそんな約束を自然としてくれるトキヤくんの気持ちが嬉しかった。
当たり前に未来の約束をしてくれたことが。
これからも一緒にいると思ってくれている。
それに…時間が無いからこそ、こうして少しでも空いた時間で私を楽しませたくてプラネタリウムデートを計画してくれたんだろう。
暇さえあれば空を眺めて星を探している私を、喜ばせようとしてくれた。
本物の星空じゃないからどうだとかなんて、思うはずがない。
花火も一緒に見られたことで夏のデートの気分も味わえたんだから。
「トキヤくんは、気になる星座はあった?」
「……かなでがあまりに良い表情をするので、私はついかなでばかりを見てしまいましたね。」
「え?あ…っ…だからこっちばかり向いていたの?」
やだな恥ずかしい…っ…と俯いた私をトキヤくんが笑う。
絶対に間抜けな顔をしていたのに……長年の付き合いのトキヤくんといるとつい素が出てしまう。
本当はいつだって一番可愛く見せたい相手に一番見せるのが恥ずかしい表情をしてしまうのを、トキヤくんはからかうように楽しそうな顔をした。
トキヤくんはカメラの前ではすごくカッコいいキメ顔をして、女の子たちにクール系イケメンだとキャーキャー言われているのに、実は時々いじわるな男の人だ。
つい拗ねたい気分になり恨めしげに見つめると、腕枕をしていない方の腕でポンポンと頭を軽く撫でられた。
「まだまだ君と語り合いたい気分ですが、時間は有限です。そろそろ次に行きましょうか。」
「そうだね。………あ。」
2人で横になっていたからつい部屋でくつろいでいる気分になっていたけど、よく考えたらココはプラネタリウム内のカップルシートだった。
すっかり中は照明で明るいし、このままだと他のお客さんの目に触れてしまう。
慌てて起き上がって周囲を見回すと、他の席には誰もおらず、通路を歩く人もいなかった。
今、私たちはガラリと空っぽのシアター内に二人きりだ。
「あれ?他のお客さんは?」
のんびりしているうちにみんな出て行っちゃったのかな?
姿を見られていたらまずい…けど、騒がれた感じもなかったから気づかれなかったのかな。
ただのカップルとしか認識されていないなら、わざわざジロジロと見られることはないだろうけど…。
隣でトキヤくんも起き上がり、帽子をかぶって伊達メガネを整えた。
「では行きましょうか。」
「あ、うん……。」
手を引かれるまま立ち上がって外に出る。
外で手を繋ぐなんて…と思ったけど、ロビーを抜けても周りには誰もいなかった。
そのまま連れられて歩いた先はプラネタリウムに併設されたショップで、星に関するグッズが色々と売っているオシャレな内装の店内を二人でゆっくり回る。
ショーケースに飾られた星のネックレスに目を留めて見つめていたら、気づいたトキヤくんが店員さんに言って出してもらってくれて、私の首に飾ってくれた。
「よく似合っていますよ。」
目立たないようにおとなしめな格好のいま褒められても少し複雑な気持ちになるけど……それでも、お店で2人でこんなやりとりができるのも本当に久しぶりのことだったから、店員さんの目は気になりながらも嬉しい。
その星のネックレスを、今日の記念にと買ってくれたからお礼を言ってそのまま付けていくことにした。