(切甘)この感情の名は。
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「近々、この気持ちを彼女に伝えたいと思っています。」
突然の告白に息をのんだ。愛していると言ったことも、それを伝えると言ったことも…。
…一ノ瀬がかなを好きだと……?
いつから、いつの間にそんな感情を抱いていたのだ。
俺の恋人に……。
「私が貴方の恋人にこのような気持ちを抱いてしまったことを、どう思いますか…?」
「…個人の、自然な感情を、俺がとやかく言う権利はないだろう。」
「では、伝えてもよいと?」
「…そうだな…」
そう言ったものの、脳裏にどうしても一ノ瀬がかなに想いを伝える様子が浮かんでしまう。
払拭したくともできない。
こんなにも苦しく、つらい感情はなんなのだ。
やはり嫉妬…なのか?
かなはきっと受け入れない。何故なら俺と交際をしているからだ。
そう信じているというのに。
一ノ瀬の想いが本気ならば…俺は、一ノ瀬と戦わねばならんのか。
一ノ瀬といえども渡したくなどない。
無意識のうちに、台本を持つ手にギリッ…と力が入る。
かなは可愛らしい。
他の男が心寄せても、不思議はない…だが……。
「……ふっ…」
横で、一ノ瀬が吹き出した。
先程までの真剣な表情が、口角を上げた笑みに変わる。
「すみません…少々意地が悪かったですね…。安心してください、そんなことはありません。」
なに…?
返す言葉がなく茫然とする俺に、一ノ瀬はなおも続けた。
「確かに彼女は魅力的ですよ。ですが貴方の恋人です。自信を持ってはいかがです。」
「自信など…。」
「しかし、貴方は私の告白に心乱された。それこそ嫉妬です。自然な感情です、否定する必要はありません。それだけ彼女を愛してるのでしょう?」
「無論…愛している」
その気持ちに偽りはない。
しかし、このように黒い感情を、認めてもいいのだろうか?
「仮に、もしも私が彼女に告白をしても、彼女は首を縦には振らないでしょうね。他の人たちでもそうでしょう。」
そうだろう、とは思う。
かなも俺を愛してくれていることは、一緒にいて実感できる。
だが…。
苦しい。あの時ですら、自分のこの感情を、かなにぶつけてしまいそうで怖かった。
HAYATOみたいな男が好きならば、なぜ俺と一緒にいてくれる。
素の一ノ瀬はとても真面目でクールだが、HAYATOになると人が変わる。
双子だと本気で信じてしまったくらいだ。
俺も芝居が好きで映画やドラマの経験はあるが、あそこまで変われるだろうか。
雑誌のグラビアでも、あんなに明るくは笑えん。
「はぁ…まだ何か気にかかるのですか。貴方にしては珍しいこともあるものですね…。それほどに、恋とは人を変えるのでしょうか。私にはわかりません。」
「一ノ瀬にもわからないことがあるのか?」
「それはそうです。私は恋の経験はありませんからね。こればかりは努力ではどうにもなりません。」
「俺も、これまではわからなかったな。ずっと。」
恋を、人を愛するということを教えてくれたのはかなだ。
夢を与え、恋を与えてくれた。
何にも替えがたい宝。
「もしHAYATOが実在し、彼女に迫ったとしても、きっとかなさんは貴方を選びます。今、自分の意思で貴方と一緒にいるのですからね。」
「……そうだな」
少しだが、霧が薄れた気がする。
そしてそれを完全に晴らせるのは、やはりかなだけだ。
会いたい。
仕事が終わったらすぐに会いに行き、抱き締めたい。
そして、どれだけ俺を愛しているかを聞きたい。
きっと真っ赤になって困るのだろうな…。
理由を話したらきっと、
『私は真斗くんだから一緒にいるんです!』
と、怒るのだろう。
スタッフの声が聞え、一ノ瀬はパタンと台本を閉じた。
「いずれは私にも、恋愛ドラマなどの仕事が来るのでしょうね。その時には、その恋心をどうかご教授願いたいものです。」
「一ノ瀬…」
「かなさんが好きだったHAYATOは私ではありません。逆も然り、ですよ。それに、ファンと恋心は違います。」
そう言って、一ノ瀬はリハーサルに向かった。
これが嫉妬……か。
かつて学園時代にも、神宮寺に対してこのようになったことがある。
あの時は認めたくなかったが。
「一ノ瀬」
先を行く一ノ瀬の背中に声をかけると、一ノ瀬は振り向いて俺を向いた。
「恋心はわからないと言っていたが、先程の演技は見事だった。思わず騙されてしまったぞ。」
「…当然でしょう?」
一ノ瀬は余裕の笑みを浮かべた。
「しかし、まだまだです。本物の恋心を表現するには、難しいことがまだたくさんありますからね。」
それだけ言うと、一ノ瀬は再び現場へ向かった。
これが恋心の裏返しならば…。
やはり、すぐにでも会いたい。
この心が、愛しい心で溢れるように。
これから先、どのような男が現れても、揺るがないように。
強く抱き締め、お前が欲しい。
おわり
2013.07.20
突然の告白に息をのんだ。愛していると言ったことも、それを伝えると言ったことも…。
…一ノ瀬がかなを好きだと……?
いつから、いつの間にそんな感情を抱いていたのだ。
俺の恋人に……。
「私が貴方の恋人にこのような気持ちを抱いてしまったことを、どう思いますか…?」
「…個人の、自然な感情を、俺がとやかく言う権利はないだろう。」
「では、伝えてもよいと?」
「…そうだな…」
そう言ったものの、脳裏にどうしても一ノ瀬がかなに想いを伝える様子が浮かんでしまう。
払拭したくともできない。
こんなにも苦しく、つらい感情はなんなのだ。
やはり嫉妬…なのか?
かなはきっと受け入れない。何故なら俺と交際をしているからだ。
そう信じているというのに。
一ノ瀬の想いが本気ならば…俺は、一ノ瀬と戦わねばならんのか。
一ノ瀬といえども渡したくなどない。
無意識のうちに、台本を持つ手にギリッ…と力が入る。
かなは可愛らしい。
他の男が心寄せても、不思議はない…だが……。
「……ふっ…」
横で、一ノ瀬が吹き出した。
先程までの真剣な表情が、口角を上げた笑みに変わる。
「すみません…少々意地が悪かったですね…。安心してください、そんなことはありません。」
なに…?
返す言葉がなく茫然とする俺に、一ノ瀬はなおも続けた。
「確かに彼女は魅力的ですよ。ですが貴方の恋人です。自信を持ってはいかがです。」
「自信など…。」
「しかし、貴方は私の告白に心乱された。それこそ嫉妬です。自然な感情です、否定する必要はありません。それだけ彼女を愛してるのでしょう?」
「無論…愛している」
その気持ちに偽りはない。
しかし、このように黒い感情を、認めてもいいのだろうか?
「仮に、もしも私が彼女に告白をしても、彼女は首を縦には振らないでしょうね。他の人たちでもそうでしょう。」
そうだろう、とは思う。
かなも俺を愛してくれていることは、一緒にいて実感できる。
だが…。
苦しい。あの時ですら、自分のこの感情を、かなにぶつけてしまいそうで怖かった。
HAYATOみたいな男が好きならば、なぜ俺と一緒にいてくれる。
素の一ノ瀬はとても真面目でクールだが、HAYATOになると人が変わる。
双子だと本気で信じてしまったくらいだ。
俺も芝居が好きで映画やドラマの経験はあるが、あそこまで変われるだろうか。
雑誌のグラビアでも、あんなに明るくは笑えん。
「はぁ…まだ何か気にかかるのですか。貴方にしては珍しいこともあるものですね…。それほどに、恋とは人を変えるのでしょうか。私にはわかりません。」
「一ノ瀬にもわからないことがあるのか?」
「それはそうです。私は恋の経験はありませんからね。こればかりは努力ではどうにもなりません。」
「俺も、これまではわからなかったな。ずっと。」
恋を、人を愛するということを教えてくれたのはかなだ。
夢を与え、恋を与えてくれた。
何にも替えがたい宝。
「もしHAYATOが実在し、彼女に迫ったとしても、きっとかなさんは貴方を選びます。今、自分の意思で貴方と一緒にいるのですからね。」
「……そうだな」
少しだが、霧が薄れた気がする。
そしてそれを完全に晴らせるのは、やはりかなだけだ。
会いたい。
仕事が終わったらすぐに会いに行き、抱き締めたい。
そして、どれだけ俺を愛しているかを聞きたい。
きっと真っ赤になって困るのだろうな…。
理由を話したらきっと、
『私は真斗くんだから一緒にいるんです!』
と、怒るのだろう。
スタッフの声が聞え、一ノ瀬はパタンと台本を閉じた。
「いずれは私にも、恋愛ドラマなどの仕事が来るのでしょうね。その時には、その恋心をどうかご教授願いたいものです。」
「一ノ瀬…」
「かなさんが好きだったHAYATOは私ではありません。逆も然り、ですよ。それに、ファンと恋心は違います。」
そう言って、一ノ瀬はリハーサルに向かった。
これが嫉妬……か。
かつて学園時代にも、神宮寺に対してこのようになったことがある。
あの時は認めたくなかったが。
「一ノ瀬」
先を行く一ノ瀬の背中に声をかけると、一ノ瀬は振り向いて俺を向いた。
「恋心はわからないと言っていたが、先程の演技は見事だった。思わず騙されてしまったぞ。」
「…当然でしょう?」
一ノ瀬は余裕の笑みを浮かべた。
「しかし、まだまだです。本物の恋心を表現するには、難しいことがまだたくさんありますからね。」
それだけ言うと、一ノ瀬は再び現場へ向かった。
これが恋心の裏返しならば…。
やはり、すぐにでも会いたい。
この心が、愛しい心で溢れるように。
これから先、どのような男が現れても、揺るがないように。
強く抱き締め、お前が欲しい。
おわり
2013.07.20
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