(切甘)この感情の名は。
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「…聖川さん。なんですか?先程から…私に何か用でも?」
後日、バラエティの収録に来た俺は、得意のダンス披露のコーナーのリハーサルをしている一十木と来栖を横目に、一ノ瀬と並んで台本に目を通していた。
バラエティにも一応、進行などが書かれた台本が存在する。
俺自身も気づかぬうちに、隣の一ノ瀬を何度か盗み見てしまっていたらしい。
いい加減痺れを切らした一ノ瀬が、怪訝そうに眉をひそめて俺を見た。
「いや、用というわけではないのだが。」
「では、なんなのです。男性から熱い視線をいただく趣味はないのですが。」
「……違う。」
先程から、涼しげな横顔をして台本に目を通していた一ノ瀬を、つい見てしまっていたのは事実だ。
そして、なぜかその一ノ瀬を見るたびに、胸の中がモヤモヤと、表現しきれない感情が絡み渦巻いてしまうのも…否定はできない。
それを、どう言葉にしたらいいのかが、わからないのだ。
「一ノ瀬は…一ノ瀬なのだな。」
ポツリと呟いた俺の横で、大きなため息が聞こえた。
「貴方らしくありませんね。全く意図が掴めないのですが。」
「すまん…」
「いいえ。なにか気にかかることでもあるのですか?私が私であることに?」
あえて語尾を強調する言い方に理由を考えながら、盛り上がっている一十木たちに目を向けた。
実に楽しそうで生き生きとしている。
俺は、あんなふうにはなれない。
わかっていたことなのだが…。
「HAYATOはもういない。わかっているはずなのだが…。」
またしても突拍子もない言い方にハッとしたが、一ノ瀬は顔色ひとつ変えずに俺を見た。
HAYATOのことを言われては、一ノ瀬も心穏やかではいられないだろうに…。
しかし、そのまままた台本に目を落とし、何やら書き込んでいる。
「なるほど。そういうことですか。」
なにがわかったのだろうか。
俺自身が自分を理解できずにいるというに。
「……嫉妬ですか?」
「なっ…なんだと?」
「確か、綾瀬さんはHAYATOのファンでしたね。」
ぐっ……と、反論が見つからず息が詰まった。
嫉妬?俺がか。
ただHAYATOのグッズを見てしまっただけだ。
そして、それを慌てて片付けるかなを見てしまっただけ。
嫉妬
その二文字を突き付けられた瞬間、俺の中のモヤモヤが大きくなっていく。
動揺もしている。
否定したい。しかし…。
「何があったのかはわかりませんが、HAYATOはもう存在しません。貴方が気を揉む必要はないでしょう。」
「………」
「それとも、やはりHAYATOが好きだからと言われフラれたのですか?」
「それは違う」
「では、気にすることはないでしょう。」
「そう…だな。ああ、そうだとも…。」
自分自身に言い聞かせるように、何度も反芻する。
そうだ、HAYATOはもういない。
HAYATOは、一ノ瀬なのだから。
しかし、そう思った瞬間、また新たな闇が現れ俺を飲み込もうとしている。
HAYATOは…一ノ瀬。
それがわかり、引退をしたとき、ファンであるかなも少なからず心を痛めたのではないだろうか。
一ノ瀬を少しでも気にしたことは?
…いかん、そのような…疑うようなことは考えるべきではない。
黙りこむ俺に、一ノ瀬は再び向き直った。
「…聖川さん。」
ゆっくり顔を向けると、一ノ瀬は真面目な表情で俺を見ている。
「実はお話したいことがあります。」
「なんだろうか?」
「私は…綾瀬さんを心から愛しています。貴方には申し訳ないのですが…この想いは止められません。」
「なっ…」