一万打ヒット記念短編集
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燭
『苦手だったのに』
私は燭先生があまり好きじゃない。
苦手…?そんな感じ。
高飛車で高慢。
たしかにそのぶん実力はある
でも、他の人に自分と同じレベルを要求するのは無理があるんじゃないの?
それは看護師の私にも同じで。
看護師はほとんどが先生を嫌ってる。
「君はこんな基本的なこともわからないのか!」
…ああ、今日も誰かが怒られてる。
お気の毒に…と、その場の全員が思う。
ちらりと視線を向けると、研案塔職員が真っ青な顔で下を向いてる。
なんというか…
…………頑張れ!!
としか、言えない。
精神がぽっきり折れないといいんだけどね。
ここで働くなら、図太さは必須スキルだ。
今日は夜から夜勤で、少し憂鬱だった。
何事も起こらなければいいんだけど。
そう思っているときに限って、緊急の患者が搬送されてきた。
この人…たしか輪の闘員だ。
「君!!」
「は、はい!?」
いきなり指名されて、ビクッと飛び上がった。
燭先生は珍しく少し乱れた髪で、険しい顔で私を見た。
「今日の夜勤だろう。私についてくれ。」
「は、はい?私がですか?」
「出来るのか、出来ないのか!」
「や…やります」
燭先生に睨まれたら、問答無用だ。
やっぱり苦手…この先生。
緊急の処置室に入ると、燭先生はテキパキと他の医師たちに指示を出していく。
一刻を争うことに変わりはない。
私もなるべく早急に、精一杯に動いた。
ようやく落ち着いたときには、すっかり朝方になっていて。
燭先生は椅子に深く腰かけてため息をついた。
他の医師が頭をさげる。
「お休み中に申し訳ありません」
え…あ、そっか
休んでいるときに呼び出されたんだ。
だから髪が少し乱れていたんだね。
「かまわない。患者を救うのに時間は関係ない。」
(あ…)
この人は…人に厳しいけど、自分にはもっと厳しいんだ。
そしてそれを、当たり前だと思ってるんだ。
医師としての誇り、意識の高さ…。
それが、少し見えた気がした。
人の命がかかっているんだもんね…。
「お疲れ様でした。何か飲み物でも用意しましょうか。」
ほかにも夜勤看護師が数人待機しているから、大丈夫だと思う。
いや、でも…早く仕事に戻れって怒られるかな。
そう思ったらすごくヒヤヒヤしたけど。
燭先生は私をちらりと見たあと、下を向いて眉間のあたりを指でこすった。
「…では、コーヒーを頼む。」
「はい!」
なんだか嬉しくなり、私はいそいそとコーヒーの準備をする。
豆を入れて砕いて。
熱いのをカップに注いで持っていき、ゆっくりと机に置いた。
「どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」
さすがに疲れたのかな。
普段滅多に見せない、疲労を現した表情でコーヒーを口にして、息をついてる。
「少し、お休みになられては?また何かあったら呼ばれてしまいますし。」
「そうだな…。しかし、まだ容体が安定していない。」
そうだけど。
いくら苦手な人でも、やっぱり体調は気になる。
看護師として…。
「そんなときのために、私たち看護師がいるんですよ?先生にはいざというときに頑張っていただかないといけないんですから。」
「………」
カチャ…
カップがソーサーに置かれ、またこちらを向いた燭先生と目が合った。
顔は、いいのにな…なんて。
「君はたしか、リイナ、だったか。」
「あ…はい。」
名前、覚えられていたんだ。
私みたいないち看護師を。
ビックリしてつい背筋を伸ばしてしまう。
「…動きが悪い。あんなスピードでは、緊急時の対応に追いつけないぞ。一分一秒を争う患者の命にかかわる。」
「す…すみません…」
いきなりのお説教か…。
たしかに動きが遅いのは認めるよ。
緊急とか苦手だよ…。
バタバタと緊迫したあの感じ。
しょぼん…としたけど、そのあと燭先生の声が柔らかくなった。
「だが、判断力はいい。先回りして、指示を出す前にこちらの望むものを既に用意しているところは感心した。」
「え…」
あれ
いま、褒められた?
いや、嘘でしょ?あの燭先生が褒めることってあるの?
「どうした?」
「いえ!ありがとうございます。」
つい固まって見つめちゃった。
まさか褒められるなんて、思っていなかったから。
「看護師としては当然できて当たり前だ。」
「………………」
なんかもう
やっぱり苦手だ…。
褒めたいの?突き放したいの?
どっちなの…。
「では、そろそろ戻ります…。」
「ん?ああ…そうか。」
ペコッと頭を下げて、踵を返してドアに向かった。
なるべく近づかない方が身のためだ、うん。
そう思っていたんだけど…。
「リイナ」
「……はい?」
声をかけられて、また先生のほうを向いた。
でも先生は頬杖をついて、私のほうは見ずに視線をそらしてる。
「…コーヒー、ちょうどいい熱さだった。ありがとう。また頼む。」
「え……」
不覚にも
ちょっとドキッとしてしまった。
お礼を言いながら私に視線を戻した燭先生は…ほんの少しだけど、口角をあげて、笑っていたから。
「はい…いつでも。」
「…そうか。」
つい口にした言葉に、先生はまた笑った。
「…なんてことも、ありましたね。」
「君は…いつの話を持ち出すんだ。」
「だって…。」
何度思い出しても、胸があたたかくなる。
たぶん、あのときから私は、燭さんに恋をしたから。
そして私はいま、燭さんの腕の中。
燭さんの部屋で、腰に腕を回されてる。
「燭さんだって、あのときにはもう、私を好きだったんじゃないですか?」
「…ふ。うぬぼれだな。」
そう言っているけど、燭さん…私を見ない。
褒めておきながら突き放したのは、そんな自分に照れたからでしょ?
そして、後悔したから去り際に話しかけてきたんでしょ?
「君の入れたコーヒーが本当にちょうど良かったからだ。」
「…あのときも思いましたけど…。」
「なんだ?」
「いつものピシッと決めた髪型もいいですけど、少しくずした髪型も素敵ですよ。」
「そうか?しかし仕事では邪魔になるからな。」
「じゃあ今だけ。」
手を伸ばして、燭さんの髪に触れる。
でも燭さんは止めもせず私のしたいようにさせてくれて。
やっぱり、前髪があると少し幼く見えるんだね。
「うん、やっぱり素敵。」
「しかし仕事ではしないからな。リイナの前でだけだ。」
「それは…嬉しいかも。」
いつも高飛車、傲慢、厳しい。
そう評判の燭先生が、恋人には甘いって誰が思うかな。
みんなが知ったら驚くね。
「最近、燭先生が柔らかくなったって、看護師たちの間でも評判ですよ?」
「そんなつもりはないんだが。仕事が甘いのは変わらない。しかし、皆努力をしているのもわかっている。」
うん。
だから、そう思うようになったのが、柔らかくなったってことだと思うの。
「でも、あまり看護師には評判上がってほしくないな…」
「これ以上、上がりようがないだろう。」
「…そうですね。」
まさか、大半に嫌われているとは思っていないんだろうな…。
私も、苦手だったんだけど。
好意を持たれるなんて思わなかったし。
…やっぱり、看護師の評判が高いほうが嬉しいのかな…。
「ねえ燭さん。」
「なんだ?」
「私も、嗜まれてるの?」
燭さんが目をぱちくりとさせた。
なんのことだ?と、そんな顔で。
「前に言っていたじゃない。女性は嗜む程度にって。」
「そんなこと言ったか?」
「言った!!」
ああそうなんだ
そういう人なんだ、って思ったもの。
さぞおモテになるから選び放題なのね、とか。
とっかえひっかえしていると思ってた。
実際には嫌われているわけだけど。
全員が全員、燭さんを嫌いなわけじゃないし。
燭さん自身より、地位が高いとかのブランド力で近づいてくる女の人だって…いるから。
「嗜んでいるつもりはない。ちゃんと…。」
「ちゃんと?」
「…君との将来は考えている。」
「………え?」
今度は、私がぱちくりとする番。
その私の顔を見て、燭さんは笑った。
「なんていう顔をしているんだ。真面目に話したというのに。嫌なのか?」
「と!ととととんでもない!!!」
嬉しすぎて死んでしまいそう。
こういうことも率直とか…。
どれだけ私をドキドキさせるの。
「君は考えていないのか。」
「考えたことはあります…けど。」
そりゃ、妄想くらいします。
そうなったらいいな…とか。
だから嬉しいのに。
「それならよかった。」
普段はつんとした目が、私にだけは甘くなる。
優しい腕とキスが私を包み込んだ。
「今夜は呼ばれないといいのだが。」
「そうですね…。」
呼ばれないということは、命にかかわる人がいないということで。
一緒にいられるということでもある。
「でも、呼ばれても、燭さんの下で働けますから。」
「そうだな。頼む。」
だけど、いまは。
恋人の時間を楽しもう。
シュッ…
と燭さんはネクタイを外して…
私を誘った。
苦手だったのに
恋って、いつどう落ちるかわからない。
こればかりはきっと…
さすがの燭さんにもわからないでしょう?
おわり
燭さんはやはり恋人には甘いのか…完璧を求めるのか…。
『苦手だったのに』
私は燭先生があまり好きじゃない。
苦手…?そんな感じ。
高飛車で高慢。
たしかにそのぶん実力はある
でも、他の人に自分と同じレベルを要求するのは無理があるんじゃないの?
それは看護師の私にも同じで。
看護師はほとんどが先生を嫌ってる。
「君はこんな基本的なこともわからないのか!」
…ああ、今日も誰かが怒られてる。
お気の毒に…と、その場の全員が思う。
ちらりと視線を向けると、研案塔職員が真っ青な顔で下を向いてる。
なんというか…
…………頑張れ!!
としか、言えない。
精神がぽっきり折れないといいんだけどね。
ここで働くなら、図太さは必須スキルだ。
今日は夜から夜勤で、少し憂鬱だった。
何事も起こらなければいいんだけど。
そう思っているときに限って、緊急の患者が搬送されてきた。
この人…たしか輪の闘員だ。
「君!!」
「は、はい!?」
いきなり指名されて、ビクッと飛び上がった。
燭先生は珍しく少し乱れた髪で、険しい顔で私を見た。
「今日の夜勤だろう。私についてくれ。」
「は、はい?私がですか?」
「出来るのか、出来ないのか!」
「や…やります」
燭先生に睨まれたら、問答無用だ。
やっぱり苦手…この先生。
緊急の処置室に入ると、燭先生はテキパキと他の医師たちに指示を出していく。
一刻を争うことに変わりはない。
私もなるべく早急に、精一杯に動いた。
ようやく落ち着いたときには、すっかり朝方になっていて。
燭先生は椅子に深く腰かけてため息をついた。
他の医師が頭をさげる。
「お休み中に申し訳ありません」
え…あ、そっか
休んでいるときに呼び出されたんだ。
だから髪が少し乱れていたんだね。
「かまわない。患者を救うのに時間は関係ない。」
(あ…)
この人は…人に厳しいけど、自分にはもっと厳しいんだ。
そしてそれを、当たり前だと思ってるんだ。
医師としての誇り、意識の高さ…。
それが、少し見えた気がした。
人の命がかかっているんだもんね…。
「お疲れ様でした。何か飲み物でも用意しましょうか。」
ほかにも夜勤看護師が数人待機しているから、大丈夫だと思う。
いや、でも…早く仕事に戻れって怒られるかな。
そう思ったらすごくヒヤヒヤしたけど。
燭先生は私をちらりと見たあと、下を向いて眉間のあたりを指でこすった。
「…では、コーヒーを頼む。」
「はい!」
なんだか嬉しくなり、私はいそいそとコーヒーの準備をする。
豆を入れて砕いて。
熱いのをカップに注いで持っていき、ゆっくりと机に置いた。
「どうぞ。」
「ああ、ありがとう。」
さすがに疲れたのかな。
普段滅多に見せない、疲労を現した表情でコーヒーを口にして、息をついてる。
「少し、お休みになられては?また何かあったら呼ばれてしまいますし。」
「そうだな…。しかし、まだ容体が安定していない。」
そうだけど。
いくら苦手な人でも、やっぱり体調は気になる。
看護師として…。
「そんなときのために、私たち看護師がいるんですよ?先生にはいざというときに頑張っていただかないといけないんですから。」
「………」
カチャ…
カップがソーサーに置かれ、またこちらを向いた燭先生と目が合った。
顔は、いいのにな…なんて。
「君はたしか、リイナ、だったか。」
「あ…はい。」
名前、覚えられていたんだ。
私みたいないち看護師を。
ビックリしてつい背筋を伸ばしてしまう。
「…動きが悪い。あんなスピードでは、緊急時の対応に追いつけないぞ。一分一秒を争う患者の命にかかわる。」
「す…すみません…」
いきなりのお説教か…。
たしかに動きが遅いのは認めるよ。
緊急とか苦手だよ…。
バタバタと緊迫したあの感じ。
しょぼん…としたけど、そのあと燭先生の声が柔らかくなった。
「だが、判断力はいい。先回りして、指示を出す前にこちらの望むものを既に用意しているところは感心した。」
「え…」
あれ
いま、褒められた?
いや、嘘でしょ?あの燭先生が褒めることってあるの?
「どうした?」
「いえ!ありがとうございます。」
つい固まって見つめちゃった。
まさか褒められるなんて、思っていなかったから。
「看護師としては当然できて当たり前だ。」
「………………」
なんかもう
やっぱり苦手だ…。
褒めたいの?突き放したいの?
どっちなの…。
「では、そろそろ戻ります…。」
「ん?ああ…そうか。」
ペコッと頭を下げて、踵を返してドアに向かった。
なるべく近づかない方が身のためだ、うん。
そう思っていたんだけど…。
「リイナ」
「……はい?」
声をかけられて、また先生のほうを向いた。
でも先生は頬杖をついて、私のほうは見ずに視線をそらしてる。
「…コーヒー、ちょうどいい熱さだった。ありがとう。また頼む。」
「え……」
不覚にも
ちょっとドキッとしてしまった。
お礼を言いながら私に視線を戻した燭先生は…ほんの少しだけど、口角をあげて、笑っていたから。
「はい…いつでも。」
「…そうか。」
つい口にした言葉に、先生はまた笑った。
「…なんてことも、ありましたね。」
「君は…いつの話を持ち出すんだ。」
「だって…。」
何度思い出しても、胸があたたかくなる。
たぶん、あのときから私は、燭さんに恋をしたから。
そして私はいま、燭さんの腕の中。
燭さんの部屋で、腰に腕を回されてる。
「燭さんだって、あのときにはもう、私を好きだったんじゃないですか?」
「…ふ。うぬぼれだな。」
そう言っているけど、燭さん…私を見ない。
褒めておきながら突き放したのは、そんな自分に照れたからでしょ?
そして、後悔したから去り際に話しかけてきたんでしょ?
「君の入れたコーヒーが本当にちょうど良かったからだ。」
「…あのときも思いましたけど…。」
「なんだ?」
「いつものピシッと決めた髪型もいいですけど、少しくずした髪型も素敵ですよ。」
「そうか?しかし仕事では邪魔になるからな。」
「じゃあ今だけ。」
手を伸ばして、燭さんの髪に触れる。
でも燭さんは止めもせず私のしたいようにさせてくれて。
やっぱり、前髪があると少し幼く見えるんだね。
「うん、やっぱり素敵。」
「しかし仕事ではしないからな。リイナの前でだけだ。」
「それは…嬉しいかも。」
いつも高飛車、傲慢、厳しい。
そう評判の燭先生が、恋人には甘いって誰が思うかな。
みんなが知ったら驚くね。
「最近、燭先生が柔らかくなったって、看護師たちの間でも評判ですよ?」
「そんなつもりはないんだが。仕事が甘いのは変わらない。しかし、皆努力をしているのもわかっている。」
うん。
だから、そう思うようになったのが、柔らかくなったってことだと思うの。
「でも、あまり看護師には評判上がってほしくないな…」
「これ以上、上がりようがないだろう。」
「…そうですね。」
まさか、大半に嫌われているとは思っていないんだろうな…。
私も、苦手だったんだけど。
好意を持たれるなんて思わなかったし。
…やっぱり、看護師の評判が高いほうが嬉しいのかな…。
「ねえ燭さん。」
「なんだ?」
「私も、嗜まれてるの?」
燭さんが目をぱちくりとさせた。
なんのことだ?と、そんな顔で。
「前に言っていたじゃない。女性は嗜む程度にって。」
「そんなこと言ったか?」
「言った!!」
ああそうなんだ
そういう人なんだ、って思ったもの。
さぞおモテになるから選び放題なのね、とか。
とっかえひっかえしていると思ってた。
実際には嫌われているわけだけど。
全員が全員、燭さんを嫌いなわけじゃないし。
燭さん自身より、地位が高いとかのブランド力で近づいてくる女の人だって…いるから。
「嗜んでいるつもりはない。ちゃんと…。」
「ちゃんと?」
「…君との将来は考えている。」
「………え?」
今度は、私がぱちくりとする番。
その私の顔を見て、燭さんは笑った。
「なんていう顔をしているんだ。真面目に話したというのに。嫌なのか?」
「と!ととととんでもない!!!」
嬉しすぎて死んでしまいそう。
こういうことも率直とか…。
どれだけ私をドキドキさせるの。
「君は考えていないのか。」
「考えたことはあります…けど。」
そりゃ、妄想くらいします。
そうなったらいいな…とか。
だから嬉しいのに。
「それならよかった。」
普段はつんとした目が、私にだけは甘くなる。
優しい腕とキスが私を包み込んだ。
「今夜は呼ばれないといいのだが。」
「そうですね…。」
呼ばれないということは、命にかかわる人がいないということで。
一緒にいられるということでもある。
「でも、呼ばれても、燭さんの下で働けますから。」
「そうだな。頼む。」
だけど、いまは。
恋人の時間を楽しもう。
シュッ…
と燭さんはネクタイを外して…
私を誘った。
苦手だったのに
恋って、いつどう落ちるかわからない。
こればかりはきっと…
さすがの燭さんにもわからないでしょう?
おわり
燭さんはやはり恋人には甘いのか…完璧を求めるのか…。