ショートショート・ストーリー集
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王宮勤めのお父さまに連れられて今日も王宮へ上がると、金色の髪をなびかせた小さな王子様が満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「リイナちゃん!今日も来てくれたんだね!」
「金の王子、ご機嫌よう。こんにちは。」
しっかりと挨拶をしてみせると、金の王子はニコニコ笑って私の手を取った。
「リイナちゃんに見せたいものがあるんだ。行こう?こっちだよ!」
「あっ…!」
そのまま手を引かれて慌ててついていくと、王宮内の一角にある花壇まで連れてこられた。
丹精込めて育てられた花々が、水に濡れてキラキラと輝いている。
花びらの形も良くツヤツヤとしていて、色とりどりでバランスも良く全体の調和がとれている。
見事な光景に息を飲んでいると、金の王子はもじもじとした。
「あとね、これ。リイナちゃんに…あげる…。」
「…え?」
金の王子はどこからか花を1輪出すと、頬を赤らめながらそれを私の髪に飾った。
そして私の姿を見てにっこりと笑った。
「うん、やっぱりよく似合うね。一番綺麗な花を選んだんだよ!」
「あ、ありがとうございます…。」
私が来る前に選んだんだろう…と思うと、嬉しくなった。
それからまた金の王子は下を向いてなにやらもごもごとした。
「…えっと、あのね、リイナちゃん…。」
「はい?」
「リイナちゃんは、その、将来…は………っ」
小さな声に首を傾げて、ちゃんと聞くために耳を澄ませた……すると、木々の向こうからガサッと物音がした。
思わずそちらを振り向くと、今度は銀色の髪を揺らした小さな王子が飛び出してきた。
銀色の王子は私たちの姿を確認してあからさまに不機嫌そうな顔でずんずんと近づいてくる。
「あー!こんなところにいた!!」
「銀の王子、こんにちは。ご機嫌よう。」
「まーたお前が1人でリイナを連れ出したの?独り占めすんなって言っただろ!」
話を中断されて詰め寄られた金の王子も不機嫌そうにすねた顔をした。
このお二人は本当にそっくりだ…とつい不敬ながら見てしまう。
「ひ、独り占めもなにも!リイナちゃんは俺の…っ」
「俺の?なんだって?リイナはまだお前だけのものじゃないんだけど?俺のでもあるよね?」
「うっ…っ…!」
でもいずれは…と反論しかけた金の王子を睨みつける銀の王子。
お二人がケンカをし始める雰囲気をなんとかしようと、私は口を開いた。
「あ、あの、銀の王子は、茂みの中で何をされていたのですか…?」
言われて、ああ…と気を取り直した銀の王子は、後ろに隠していた右手を私の前に差し出した。
大きくて綺麗なアゲハ蝶が、翅を掴まれている。
いきなり目の前に出された蝶のどアップに思わず肩を跳ねさせた私の前に、金の王子が立つ。
「リイナちゃんがびっくりしてるでしょ!?」
「虫くらいで怯むタイプじゃないでしょ?」
また睨み合ってしまったお二人。
でも私は、私を庇おうとしてくださった金の王子のお背中も、蝶を見せてきた銀の王子の本心も嬉しかった。
対極にあるけど、お二人はもともとお優しい本質をお持ちだ。
銀の王子は私を驚かせたかったわけじゃない、その無邪気さと直球さからよく誤解されてしまうけれど。
……それを、金の王子にだけはわかっていただきたくて、そっと金の王子に声をかけた。
「金の王子、庇っていただいてありがとうございます。」
私の言葉を受けて金の王子は私を見て、銀の王子は面白くなさそうな顔をしたので、私は笑って見せた。
「銀の王子も、ありがとうございます。見事なアゲハ蝶ですね。綺麗だから私にも見せたいと思ってくださったのですよね。」
お二人は目をまんまるにして、誤解が解けたのか金の王子は改めて銀の王子の方を見て、銀の王子はバツが悪そうに顔を背けた。
私はもともと虫は苦手じゃない、銀の王子はきちんとそれをわかっていらっしゃった。
いくら綺麗でも、もし虫が苦手だったら見せようとはしなかったはず。
だから単純に、見せたいと思って捕まえただけ。
それで二人の険悪な空気はなくなったので、私は銀の王子に両手を差し出した。
「よく見せていただけますか?」
すると金の王子はゆっくり私の前から退いた。
銀の王子は少し躊躇いながらも、蝶を私の手に掴まらせて指を離した。
解放された蝶は大きな翅を数度、ひらひらとはためかせ、ふわりと飛んだ。
「あっ」
せっかく私のために捕まえた蝶が逃げたことに銀の王子は残念そうな声を出したけれど。
元気な姿を見られるほうが嬉しい。
それに、せっかく捕まえてくださったのに、逃がしてあげて欲しいとお願いしたら、銀の王子のお心遣いを無下にして傷つけてしまうから。
「やっぱり、蝶は飛んでいる姿も綺麗ですね。」
私の声を受けて、お二人は少し満足そうに笑った。
それから風が吹いて一瞬だけ目を閉じてまた開くと、お二人は私の方を見て笑ったので、私は首を傾げた。
なんだろう?私の顔に何か?と思っていると、金の王子がそっと教えてくださった。
「いまね、リイナちゃんの髪のお花に、さっきの蝶々が止まっているよ。」
「……え?」
私からは見えない、けれどお二人とも笑っていらっしゃるから、なら、いいかと思った。
金の王子は一生懸命に綺麗な花を探して、銀の王子は蝶を捕まえようと頑張ってくださった。
お二人のお気持ちが嬉しくて私も自然と笑顔になる。
するとお二人はまた頬を赤らめた。
「リイナ。…綺麗だよ。」
「え?」
「うん、すごく可愛いよ。」
「……っ」
お二人からの賛辞に恥ずかしくなって俯いた。
………王宮に上がるようになってから、お父さまとお母さまに、繰り返し言い聞かされていることを思い出した。
……私はいずれ、大きくなったらこのお二人の王子、どちらかお1人と婚約をすることになる。
今はまだ3人とも幼いから、お二人の王族としての資質や、私との相性を見極めている段階。
だけど段々と決めていき、いつかは。
……どちらかと婚姻し、正式な妻になる。
顔は同じなのに、性格も性質も違うお二人は、突然婚約者候補となってしまった私を、意外とお二人とも好意的に受け入れてくださった。
最初は仲良くなれるか不安だったけど、今は王宮に行儀見習いに上がるたび、3人で楽しく過ごさせていただいている。
どちらかとは、いつかは道を同じくし、もう一方とは道を違える。
どちらと共に過ごしたいかを問われるたび、私は選べる立場ではないのに迷って、選べず困ってしまう。
お二人ともとてもお優しいから、まだ恋というものを知らない私は、ただお二人に対して好ましいという気持ちしかない。
でもいつか、恋をするお相手はどちらかお一人…お二人ともは選べない。
でも、だから
今はただ、少しでも3人で楽しい思い出ばかりを作りたい。
いずれ大人になってどちらと結婚することになっても、思い出すのは楽しいことばかりで溢れていたい。
いつかは3人でいられなくなるから。
そんなことを考える私は、わがままなのかな。
ずっと3人仲良くはいられない…いつかはどちらかとだけ結ばれどちらかとは離れる。
それが私に定められた運命でも、きちんと受け入れて生きていきたいから。
「…ねえリイナ、美味しいお菓子があるんだけど、一緒に食べない?」
「あ、それ俺も言おうと思ってたのに…まあいいや。3人でお話しながら食べよう?」
「はい、お菓子楽しみです。」
それからふと見ると、銀の王子の手が蝶の鱗粉で汚れていることに気づいた。
「銀の王子、そのままではお菓子を食べられませんね。」
「え?……あ。」
私はハンカチを取り出して、銀の王子の手を拭いた。
銀の王子は顔を赤らめながら、おとなしく私に手を拭かせた。
それから綺麗になって満足した私に、素直にお礼を言った。
「…ありがと。あの……」
「今度はリイナちゃんのハンカチが汚れちゃったね。それ貸して?新しく綺麗なものをあげるよ。」
「え、でも…」
「…っ…なんでお前が言うんだよ!?拭いてもらったのは俺なんだけど!?俺がやるからいいよ!1人で王子様気取りするな!」
「なっ!気取るもなにも本当に王子だし!!」
「俺だって本物の王子だよ!!そうじゃなくてリイナの王子様は俺!!」
「違うよ!リイナちゃんの王子様は俺だよ!!」
「お二人とも、どうか落ち着いて……」
しどろもどろになる私に、ふたつの顔が迫った。
「リイナは将来、俺と結婚するお姫様なんだからね!?」
「えっ」
「リイナちゃんと結婚するのは俺だよ!だからリイナちゃんは俺のお姫様なの!」
「あ、あの…っ」
またバチバチと火花を散らすお二人を、どうなだめようか……私は毎日のように悩む。
二人の王子が二人とも私を求めて取り合いをすることになるなんて、きっと大人たちは予想もしなかったに違いない。
性格が違うお二人だから、お二人ともと親しくはなっても、いずれどちらかお一人と絆を深めてくれればと思っていたのだろう。
将来の伴侶候補として与えられた1人の少女が、どちらの王子と恋に落ちることになるのか…固唾を飲んで見守る周囲と当の王子たちに翻弄される日々はまだまだ続く。
「…っ…リイナちゃん、俺を選んで?」
「違う、選ぶのは俺だよね?リイナ?」
「あ、あの…私は……ぁ………」
乞われて惑う私の頬に、小さな王子はそれぞれ口づけをした。
また風が吹いて、恥ずかしくて下を向くと、髪から花が落ちて、蝶々が目の前をひらひらと飛んでいった。
……10年後、大人の青年となった金と銀の王子は、この時に約束したハンカチをそれぞれ選んで、同じく大人の女性となった1人の姫君に熱烈な求婚をする。
10年分の思い出と共に、姫君がどちらへ恋心を向けることになったのかは、まだこの幼い3人には知る由もなかった。
あなたはどちらの王子さまと恋に落ちますか……?
おわり
2025.04.14