(甘)望みはただあなたのぬくもり
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『ごめん、今日は中止にしてもらえないかな?』
震える指先でやっとメールを打って、送信。
すぐさま『どうしたの?』と返事が来たけれど、いい言い訳も浮かばず、考える力も返信する気力も残っていなかった…。
ピピピ…
「37度…」
ソファに横たわった体はなんだか寒気で肌がザワザワして、頭がくらくらする。
…せっかく、新曲の打ち合わせだったのに…
私の不注意で、すっかり風邪をひいてしまった…。
微熱だしラフを聞いてもらうだけ…
たぶんピアノも弾ける。
でも…音也くんにうつすわけにはいかないっ。
本当のことを言ってしまったら、きっと心配もかけてしまう…
せっかく…せっかく、会える時間ができたのに…。
悲観的な思いに苛まれ、とにかくダルい体が動かない。
…ダメ、ちゃんと休まなきゃ…。
「とにかく薬…あと、食べ物…なにか…」
ふらふらとキッチンに向かったけど、あいにく食材は調理しないといけないものばかり。
風邪なんてしばらくひいていなかったから、薬も常備していなかった。
ああ、もっと気を付けていれば…。
このままこじらせて倒れて誰にも発見されず…
考えただけでも恐ろしい!!
荒く呼吸をしながらなんとか服を着替え、コンビニに行くべくふらふらと玄関に向かった。
今なら、まだなんとか…。
熱が上がる前なら間に合うかも。
薬を少しづつ取り扱い始めたコンビニ、ナイス。
あとはゼリーでもインスタント粥でも、なんでもいいので買おう…。
「ハァ…ハァ…」
靴を履き、歩いたところで、足がもつれてドアにぶつかった。
いたた…でも、大丈夫…
鍵を開けてノブを動かした、そのとき…
体重をかけたままだったのを忘れていて、ドアが開くと同時に私も床に倒れ込んだ。
「わっ…」
ガターンッ
「かなで!?」
あれ…幻聴?
音也くんの声が…する…。
「大丈夫!?」
抱き起こされたけれど、私はもう体に力が入らず、くったりと身を預けるしかなかった。
瞳が、心配そうに見つめている…音也…くん?
ほんもの?
ひんやりした手が私の頬や額に触れていく。
「すごい熱!!なんで言わないの!!」
そのまま私は抱き上げられ、ふわりと体が浮いた。
音也くんは乱暴に中に入り、寝室がある2階の階段を登っていく。
ベッドにおろされ、布団をかけられた。
結局、バレちゃった…。
「返信がないからどうしたのかと思ったら…俺が通りかからなかったらどうなっていたか…」
「ごめ…なさ…」
苦しい呼吸をする私に音也くんは、怒るどころじゃなくなり、また私の額に手を添えた。
…気持ちいい。
「熱は測ったの?」
「37…だったかな」
「…たぶん、今はさらに上がってるね…これは。飯は?薬は飲んだ?」
いま…まさに買いにいくところで…。
そう言ったら、怒られちゃうかな…。
「切らして…しまって…あはは…」
「え!?…わかった、俺に任せて。」
「あ、の…音也くん」
部屋を出ていこうとした彼を呼び止め、私は精一杯笑って見せた。
「大丈夫、寝ていれば治るから…部屋に帰って…」
「そうはいかないよ。大丈夫。もともと今日は、かなでのために空けておいたんだから。ね?」
「でも…」
「彼女が病気で苦しんでいるのを、平気でいられるほど冷たくないよ。」
真剣な顔でそう言ったあと、フッと表情を緩めて、汗で貼り付いた私の前髪を横に流してくれた。
「俺を心配してくれたんだね…。でもね、一人で苦しまないで。いつでも駆けつけるってわけにはいかないけど…なるべく頑張るから。でも、無理をするわけじゃないよ。俺がそうしたいから、そうするの。もっと俺を頼って。」
「…はい」
頼もしい…とても。
心細さからか、ますますそう見える。
「待ってて。もう少しの辛抱だからね。」
バタン…と扉が閉まり、階段を降りていく音が聞こえる。
行き倒れはまぬがれたけれど…迷惑をかけちゃう。
今日の練習をそのまま中止にしていれば、音也くんはオフでゆっくり休めたのに…。
風邪だと言ってしまったら、音也くんは絶対に看病をしてくれるとわかっていたから…。
情けなさで涙が出るよ…。